どんなふうにされるか…わかってる?
叔母と元彼の策略で全財産を乗っ取られ、天涯孤独となった元令嬢の紗雪は、中学時代の同級生・嵩史と十数年ぶりに偶然再会する。身体と引き換えに復讐に協力するという彼に、紗雪は身をゆだねる覚悟をする。ヤクザの父親を持つ彼は紗雪を玩具のように扱うが、やがて二人の間に奇妙な愛情が芽生え――。熱く甘く全てを求められた紗雪は身体も心も独占されていく。
「だったら、その気持ちを態度で示してくれる?」
「態度って……」
「キスしてよ。紗雪から、俺に」
これまで何度も抱き合ってきたが、三辻は紗雪とキスをしたことはない。
考えてみると、三辻はどんな女が相手でも行為中に唇を触れ合わせたことはなかった。特に意識していたわけではないものの、基本的に女性という生き物を信頼していないため、親密さが増すキスという行為を自然と避けていたのかもしれない。
突然の提案に彼女がドキリとしたように肩を揺らし、動揺した顔でつぶやく。
「わたしが、三辻くんにするの?」
「うん」
「どうして……」
「そういえば、一度もキスをしてないなと思って。紗雪の言うとおり、二人に関する調査にはそれなりに金がかかってるし、お礼としてキスを求めても罰が当たらないんじゃないかな」
三辻がニコニコしてそう告げると、紗雪がぐっと言葉に詰まる。そして小さな声で言った。
「わたし、全部が終わったら、調査にかかった費用を三辻くんに弁済しようと思ってたんだけど……」
「そんなの必要ないよ。そもそも君が俺の〝ペット〟になることが協力するための条件だったし、今は彼女なんだから、そんな相手から金を取ろうとは思わない」
不安ならその旨をしっかり書面にしてもいいと言うと、彼女がようやく安心した顔を見せる。紗雪がワイングラスをテーブルに置き、小さく言った。
「わかった。……じゃあ、目を閉じて」
三辻が目を閉じるとしばらくの間があり、柔らかな感触がそっと唇に触れる。
瞼を開けた途端、恥ずかしげに目を伏せる紗雪の顔が目の前にあった。三辻は彼女を見つめ、胡乱な表情で問いかける。
「今、した?」
「う、うん」
「はっきり言って、された気がしないんだけど」
すると紗雪がじわりと頬を赤らめ、言い返してくる。
「ちゃんとしたんだから、文句言わないで」
「中学生じゃあるまいし、触れただけでキスなんてふざけてるの? それとも元彼とは、そういうのしかしなかった?」
急に成塚のことを聞かれた彼女が、しどろもどろに答えた。
「しなかったわけじゃないけど……もう三年も前のことだし」
「そっか。じゃあ、舌出して」
紗雪が「えっ」と目を見開き、三辻は再び告げる。
「舌だよ。突き出して……そう」
おずおずと差し出された小さな舌を、顔を寄せた三辻はすくい上げるように舐める。
そのまま大胆に絡ませると、彼女が喉奥から声を漏らした。ぬめる舌は柔らかく、表面がざらりとしていて、擦りつけながら口腔を深く犯していく。
「ぅっ……ふっ、……ん……っ」
逃げようとするのを絡め取り、側面をなぞったり喉奥まで探る動きに、紗雪がくぐもった声を漏らした。互いを取り巻く空気が次第に濃密になっていき、彼女の目が潤む。キスを続けながら胸のふくらみに触れ、先端を引っ掻いたところ、紗雪がビクッと身体を震わせた。
「ぁ……っ」
一度唇を離した三辻は、自身の口の端を舐めながらにんまり笑う。
そして呼吸を乱している彼女の口腔に指を入れ、熱を持つ舌を撫でながらささやいた。
「可愛い、そんな蕩けた顔して。紗雪は舌も感じやすいんだな」
「……っ」
「ほら、もう一回しよ」
紗雪の顔を両手でつかみ、三辻は深く口づける。
ぬるぬると舌を絡ませ、その感触を堪能しながら、頭の片隅で「悪くない」と考えていた。普段はキスなどする気になれないが、彼女の反応を引き出す手段としてはなかなかいい。こんなふうに蕩けた顔をするのなら、もっと早くすればよかったという気持ちがこみ上げる。
唇を離した三辻は息を乱す紗雪を見つめ、ニッコリ笑って告げた。
「――ベッドに行こうか」
* * *
三辻に腕を引かれた紗雪は、広々としたリビングを抜けて廊下を進む。
(どうしよう。またひどい抱き方をされるの……?)
一昨日に彼から「俺たちちゃんとつきあおうか」と言われたとき、本当は逃げたい気持ちでいっぱいだった。
しかし三辻が「もし逃げるなら、俺はとことん紗雪を追い込むよ」と発言したことで、不本意ながらも交際を受け入れざるを得ない状況に追い込まれた。翌日は彼から何の連絡もなく、紗雪はホッとするのと同時に「このまま逃げたほうがいいのではないか」という思いにかられ、葛藤していた。
(三辻くんはヤクザだし、いつどんなことで切れるかわからない。このまま仕事を辞めて姿を消して、完全に縁を切ったほうがいい気がする)
そもそも紗雪の中に、三辻に対する恋愛感情はない。むしろ毎回ひどい抱き方をする彼に反発心を抱いており、〝ペット〟ではなくちゃんと恋人として扱うと言われてもまったくうれしくなかった。
だが「もし逃げるなら、とことん追い込む」という発言が、紗雪の動きにブレーキをかける。その言葉どおり、サディスティックな面のある三辻は自分を裏切った女を絶対に許さないだろう。
地の果てまで追い回し、自分の手元に引き戻して、今まで以上にひどい扱いをされてしまうかもしれない。
(やっぱりしばらくは、三辻くんとつきあうふりをするしかないのかな。そして彼を上手く利用して、礼子叔母さんと匡平さんの情報を引き出す……)
再会して半月余りが経つものの、彼はそのあいだこちらの身体を弄びながら、二人の調査にはまったく着手していなかったらしい。
そうしたやり方を見るにつけ、三辻が本当にヤクザなのだということが身に染みて、紗雪は彼を信じていいのかどうか躊躇いをおぼえていた。
(でも……)
今日の三辻は車で紗雪を迎えに来たあと、高級寿司店に連れていってくれた。
さらにそのあとは自宅マンションに招かれ、今までにない〝彼女〟扱いにひどく困惑した。しかも彼の住まいは四階建ての高級レジデンスで、ラグジュアリーな外観やロビーもさることながら、三十畳はゆうにあるリビングと数メートルの奥行きのあるバルコニー、ハイセンスなカウンターキッチンなど、超がつく大豪邸で気後れしてしまった。
(こんなすごい物件に住んでるなんて、組関係の仕事ってそんなに儲かるのかな。もしかして、違法なことに手を染めてるのかも)
戸惑いが冷めやらぬままソファで濃密なキスをされた紗雪は、今腕を引いて寝室に連れ込まれようとしている。
廊下を進んだ先にあるドアを開けると、そこは広々とした寝室だった。ベッドはクイーンサイズで、グレーとベージュのリネンが落ち着いた印象だ。床に敷かれた毛足の長いラグや壁際に無造作に置かれたアートパネル、一人掛けのソファや個性的な形の照明など、まるでモデルルームのように洗練されたインテリアとなっている。
「あ……っ」
腕を引かれた紗雪はベッドに押し倒され、スプリングで身体が弾む。
上に乗り上げてきた三辻のネクタイを緩める仕草が男っぽく、その端整な顔にドキリとした。悔しいがこの男は本当に顔が整っていて、切れ長の目元やきれいに通った鼻筋、薄い唇に蠱惑的な色気がある。だがいつも微笑みを浮かべた穏やかな表情とは裏腹に、彼の抱き方は容赦のない激しいもので、それが紗雪を怯えさせていた。
唇に触れるだけのキスをされ、身体がビクッと震えてしまう。三辻は何度かそうして口づけ、紗雪の唇の合わせが緩んだところで口腔に舌を入れてきた。
「んっ……」
ゆるゆると絡ませられる舌は甘く、それに戸惑いをおぼえた紗雪はそっと目を開ける。
すると間近で彼と目が合って、心臓がドキリと跳ねた。薄闇の中とはいえ、カーテンが開いたままの窓からは外のビル灯りが差し込んでいて、互いの顔がよく見える。こちらの反応を探るような眼差しにかあっと頬が熱くなったのも束の間、三辻の手が胸のふくらみに触れてきた。
「……っ」
やわやわと揉まれ、ときおり敏感な先端を引っ掻かれるとじんとした感覚が湧き起こる。
彼の唇が耳朶を食み、首筋をなぞりつつブラウスのボタンを外されていった。やがてブラがあわらになり、カップをずらした三辻が先端部分に吸いついてくる。
「ぁっ……!」
少し強めに吸いつかれ、甘い疼きに紗雪は息を乱した。一体いつ噛みつかれるのかと身構えるものの、彼は舐めたり吸ったりするだけで歯を立てたりしない。
ホックを外し、緩んだブラから零れ出たふくらみをつかんでなおも先端を吸われながら、紗雪は違和感をおぼえていた。
(何だろう。今日の三辻くん、優しい……?)
普段は自分のしたいことしかせず、こちらの反応は二の次でガツガツ動くのが常なのに、今日の三辻はひどく丁寧だ。だがそれが逆に落ち着かない気持ちを駆り立て、紗雪はモゾモゾと足先を動かしつつ「あの」と口を開いた。
「ん?」
「どうしたの。今日の三辻くん、何か変」
「変って、何が?」
微笑んで問い返され、紗雪は歯切れ悪く答える。
「いつもはすぐ挿れるのに……丁寧だから」
すると彼がクスリと笑い、紗雪の太ももを撫で上げながら言った。
「せっかくつきあい始めたんだから、彼氏らしく優しくしてみようと思って。……ああ、濡れてるな」
「……っ」
下着のクロッチ部分を撫でられ、そこが熱く湿っているのに気づかれた紗雪は、羞恥をおぼえる。割れ目に沿って指を行き来させた三辻が、さらりと提案した。
「――ここ、舐めていい?」
「えっ」
そう言って身体を起こした彼が、紗雪のストッキングと下着を取り去ってしまう。
そして脚の間に身体を割り込ませ、花弁を両手で開いてきて、紗雪は慌てて腕を伸ばして声を上げた。