結婚願望はないが病気の祖母に曾孫の顔を見せたい美緒は、同じく、跡継ぎの子どもが欲しい女性不信の御曹司・芝崎の誘いに乗って子づくり込みの友情結婚をすることに。地位も金もあるイケメンだが恋愛感情はいらないという芝崎は、なぜか美緒とは理想の結婚だとやたらと甘やかしてくる。誠実で優しい彼にいつしか友達以上の気持ちを覚え悩む美緒は!?
緊張で声が出ないまま、美緒は小さく頷いた。
「分かった。怖くなったらいつでもやめる。……寝室に行こうか」
逞しい腕が、美緒をスツールから抱き上げる。まさか横抱きにされるとは思っておらず、慌てて彼の首に腕を回した。
「芝崎さん、自分で歩けます……!」
「歩かせたくない。今日から君は俺の妻だ。たくさん甘やかすから、覚悟しておいて」
「……っ」
彼は楽しそうに言いながら、迷いなく寝室へ向かった。
ちらりとこちらを見る眼差しが、やさしく甘い。ただ利害が一致して妻になっただけなのに、そんな目で見られると、それだけで胸の奥がきゅうっとする。
寝室のドアを開け、芝崎はベッドの端に美緒を座らせて、自分も隣に座った。
コーナースイートの寝室は二面が窓になっており、こちらも夜景が美しい。カーテンが開いたままの室内は、照明をつけなくてもほんのり明るかった。
「あの……子ども、今日から……?」
「本当はすぐにでもと思ってるんだけど、きちんと心の準備ができるまで少しずつ慣らすよ。いきなり痛いことはしないから、心配しないで」
「……慣らす」
「お互い少しずつ慣れていこう。まだ夫婦になって一日目だしね」
具体的に何をされるのかはよく分からなかったが、穏やかな言葉にホッとした。彼はこちらのペースに合わせてくれるつもりらしい。
それでも芝崎は跡継ぎを必要としているし、あんなに結婚を喜んでくれた祖母のことを思えば、絶対曾孫の顔も見せてあげたい。
焦りは禁物だと思うものの、望んだとおりに授かれるとは限らず、不安もあった。
――いや、まずは私が「そういうこと」をきちんとできるかどうかなんだけど。何の経験もないくせに、よく子づくり込みの友情結婚なんてするつもりになったよね……。
今まで恋人がいたことはない。性的にも淡泊なのか、それで不自由することもなかった。大して欲もないのにうまくできるものなのか。
こちらの不安が伝わったのか、彼はふっと小さく笑って、美緒の頬を撫でた。
「緊張するよね。俺も緊張してる」
「いや、そんな。絶対手慣れてますよね」
「全然慣れてないよ。こういうの本当に久しぶりだし。……キスしてもいい?」
小さく頷くと、彼の唇がゆっくり美緒の額に触れる。頬や、耳元にも。やわらかい唇で触れられると少しくすぐったいが、嫌ではない。
一瞬見つめ合ったあと、唇が重なった。やさしく触れては離れ、また重なる唇。
「美緒……大丈夫だからもう少し力抜いて」
「……っ、は、い」
キスの合間に、初めて名前で呼ばれる。その甘い囁きにきゅんとした。
――あ……キスも、好きかもしれない。
室内は空調が効いて快適だが、風呂上がりの身体は少し冷えていたようだ。あたたかい唇が触れるのが気持ちよく、何度も触れているうちに緊張が緩んでいく。
キスにも抵抗がないことが伝わったのか、やがて触れるだけのキスを繰り返していた唇に、彼の舌が触れた。濡れた感触に驚いて唇を開くと、舌先が侵入してくる。
「ふ……っ、ぁ……」
急に性的なものになった口づけに、美緒はびくりと身体を震わせた。
芝崎は無理に舌を捻じ込むようなことはせず、慣らすように舌先だけを擦り合わせてくる。
濡れた舌同士がぴちゃぴちゃと音を立て、絡まった。淫靡なキスに、美緒はされるままになっているのがやっとだ。
「ん、んっ……」
「ゆっくり息しようか」
「んぅっ……は、ぁ……っ」
うまく呼吸ができず、頭がぼんやりしてくる。
名残惜しそうに唇を離した芝崎が、吐息を乱した美緒を見て苦笑した。
「ごめん、苦しかったな。もう少し触れても大丈夫そう?」
未知の行為は怖い。でも夫を信じて頷けば、やわらかなベッドにゆっくり横たえられる。
首筋に何度も口づけられ、くすぐったいような気持ちいいような感触に悶えた。
そちらに気を取られているうちに、彼の手が美緒の胸に触れる。バスローブの上からやさしく膨らみが覆われ、ゆっくりと撫でられた。
ゴツゴツした男性的な手なのに、美緒に触れる手つきはやわらかで、絶対に痛い思いをさせまいという強い意志を感じる。
組み敷かれて一方的に与えられるのは怖いような気がしたが、気遣ってくれているのだと思うと不安がなくなる。美緒は小さな吐息を漏らした。
「あ、ん……っ」
布越しに撫でられているだけで、強い快感があるわけではない。でも男性の大きな手で触れられれば、身体の奥がじんわりと熱くなる。
懸命に声を抑えていると、口に当てていた手の甲がそっと外された。
「声、聞かせて。気持ちよかったらちゃんと教えてほしい」
普段は穏やかな芝崎が、別人のように甘い声で囁く。そのギャップに驚いている余裕もなく、美緒は必死で何度も頷いた。
どちらにしても、それほど我慢はできそうにない。
美緒は彼に言われるままに、甘い声を絶え間なく漏らす。
「あ、あ……っ、はぁっ……」
「かわいい声。もう少し触るよ」
「んんっ……あ、あっ……芝崎さん……」
膨らみがやさしく揉まれ、揺らされる。そうされているうちに、胸の先が尖ってくるのが自分でも分かった。
でも、彼はそこには触れない。たっぷりとした膨らみに、布越しのキスが落ちてくる。かすかに感じる夫の吐息が熱い。
中心に触れてもらえないもどかしさで、美緒は小さく腰を揺らした。触ってほしいと思う自分に戸惑ったが、思いやりを感じる手つきがうれしく、もっとされたいと本能的な欲が募る。
「脱ごうか。全部見せて」
艶っぽく響く低音が、少しだけ掠れている。
芝崎も興奮しているのだと知ってホッとした。女性として見られていないことは分かっているが、ここまできてその気になれないと言われたら目も当てられない。
身動ぎしているうちに、バスローブの腰紐をするりとほどかれる。固く目を閉じていると、芝崎が息をのむ気配がした。
「ああ、綺麗だな。アミュレットの下着?」
「……そう、です」
どうするべきか散々迷って、バスローブの下はふんわりとした素材のベビードールとショーツだけを身につけた。
レース地をふんだんに使った純白のベビードールには、全体に繊細な刺繍が施されている。安っぽいものにはしたくないと思い、ウエディングドレスのような華やかさを目指して開発した商品だ。優美なデザインは、狙いどおり女性のきめ細かい肌を引き立ててくれていた。
それでもやはり、扇情的な下着ではある。
肌が透けないので一見清楚に見えるものの、胸元の大きなリボンをほどけば簡単に前がはだけてしまう仕様だ。同色のショーツも、フロントとサイドにたっぷりのフリルが使われていてかわいらしいが、バックスタイルはほぼ紐状のTバックになっている。
商品として冷静に眺めていたときは上品でかわいい印象を持っていたし、一人で楽しむ分には気分が上がるデザインだった。
でもこうして夫の前で身につけると、男性を楽しませるための下着でもあると実感させられて、どうにも落ち着かない。
「あの……変ですか?」
何の反応もないことに不安になりながら、おそるおそる口にすると、「まさか」という囁きが返ってくる。その声は、不慣れな美緒にもありありと分かるほどに欲情していた。
「ごめん、ちょっと余裕ないかも」
「え? ……あ、っ、あああっ……!」
薄い布越しに、いきなり胸の先をじゅうっと吸われた。尖った先端が、彼の舌先で丁寧に舐めしゃぶられる。
甘い熱に包まれ、蕩けそうだった。
早く愛撫してほしいとは思っていたものの、こんなふうに執拗に舐められると、気持ちよすぎておかしくなりそうだ。
「あっ、ふぁ……っ、ぁん……ッ」
「気持ちいい?」
「ん、気持ちい……!」
「よかった。たくさん感じて」
素直に頷けば、芝崎はうれしそうに目を細める。
胸元のリボンがほどかれ、はらりと前が開いた。
胸の先はすでに尖り、赤く色付いている。彼がふっと息を吹きかけ、そんな小さな刺激も切ないほどの快感に変わった。
「んぅ……っ」
「こんなに尖らせて……もっとしてほしい?」
「そんなっ……あ、だめ……っ」
口先だけの拒否になど、何の意味もない。
かすかな笑みを浮かべた芝崎は、色っぽい眼差しでこちらを観察しながら、舌先でちろちろと敏感な尖りを嬲る。
これほどの美形が色気を滴らせ、自分の身体を愛撫しているのだ。
その光景は、何の経験もない美緒には強烈な刺激だった。
「あ、んんっ……や、ぁ……っ」
「こっちは触ってないのに、こんなに膨らんでる。自分でも分かる?」
「……っ、は、ぁ……ッ、あ、あっ」
舌で愛撫しているのとは反対の胸に、彼の手が伸びてきた。指先でそっと先端を擦られ、舌とはまた違う気持ちよさに翻弄される。
触れてくる指はくすぐる程度のやさしさなのに、与えられる刺激は驚くほど鋭い。
慣れない快感に背中を浮かせて喘げば、彼の指が豊かな膨らみに沈む。少しかさついた指先や尖らせた舌先でいじめられ、美緒はすがるようにシーツを握りしめた。
「んっ、あ、ああッ……や、芝崎さん……!」
「指と舌、どっちが好き?」
「わ、わかんな……っ、ああっ!」
「舌のほうがいいかな。いっぱい気持ちよくなろうか」
「え……あ、あ……っ」
彼の大きな手で、やわらかなふたつの膨らみが寄せられる。両方の胸の先も。
いつもは慎ましい先端が、舌と指先で愛撫されてぷっくりと尖っていた。濡れた尖りが淫らに思えて恥ずかしいのに、目を逸らせない。
何をされるのかという怯えと――与えられる快感への、かすかな期待。
芝崎はそれが分かっているかのように、見せつけるようにしてゆっくりと先端を口に含んだ。彼の口内で、硬くなったふたつの尖りが舌先で弾かれる。
「ああっ! や、うそっ、両方はだめ……っ」
「なんで? 一緒にかわいがりたい」
「あ、ん……っ、だめ、気持ちよすぎるからぁ……っ!」
美緒は胸に顔を埋めている芝崎の髪を、せわしなく撫でる。
両側の先端を同時に舐められるのは、強烈な快感だった。
指での愛撫も気持ちいいと思ったが、ぬるぬるとした熱い舌で嬲られるたび、悲鳴じみた声を上げてしまう。
「は……っ、ああっ、芝崎さん、それ、もう……っ!」
じわじわと溜まる熱が、勝手に腰を揺らす。
淫らに揺れる腰に気付いた芝崎が、熱っぽい笑みを浮かべた。
「美緒、自分で胸寄せて」
「え……?」
「ほら、こうやって」
両手が胸の膨らみに導かれる。美緒は戸惑いながらも、自らの手で両胸を寄せた。
「や……芝崎さん、こんなの……」
「あー、何だか悪いこと教えてるような気分になるな」
胸への愛撫を自分からねだるようなその体勢は、夫を大いに興奮させたらしい。はあっと熱い息をついた彼が、再びむしゃぶりついてくる。
「ひ、ぁ……っ! や、それ……気持ちいいから……!」
「うん、もっと感じていいよ」
「でも……っ、あ、あっ……もうだめ……っ」
ぐちゅぐちゅと音を立てて舐められ、痛いほど感じてしまう。それなのに、彼はなかなかやめてくれない。
身を捩って逃れようとすると、大きな手に腰を掴まれ引き戻された。太腿をするりと撫でた手が、そのままショーツのクロッチ部分に触れる。
そこはもう、自分でも戸惑うほど濡れそぼっていた。
「よかった、濡れてるね」
「……っ」
「恥ずかしくないよ。素直に感じてくれてうれしい」
芝崎の指が、布越しにゆっくり花弁をなぞる。やっと胸の先を解放してくれた唇が、色っぽい笑みを浮かべた。
「だって、芝崎さんがっ……や、そんなところ……っ」
「駄目、ちゃんと触らせて」
ただでさえ布地の少ない下着は、ぐっしょりと濡れた今はもう下着としての役割を果たしていなかった。
細いクロッチ部分を食い込ませるように指で辿られ、美緒はいやいやと首を振って悶える。
「すごく濡れてる。ほら」
「あっ、んんん……っ、あ、あっ」
たっぷりの蜜をたたえた花弁が、芝崎の指に触れられてくちゅくちゅと音を立てた。
下着をずらして彼の指が一本入ってくる。
でも、美緒の蜜洞はさほど抵抗なくそれを受け入れた。若干の異物感はあるものの、たっぷりと濡らしてもらえたおかげで、痛みはない。
「ん……ッ」
「痛い?」
「大丈夫、ですっ……」
「もう少し慣らすから、力抜いてて」
涙目で見上げると、彼は小さく喉を鳴らした。
指先だけでゆっくりと中を探りながら、芝崎は美緒の髪を撫でる。
彼の囁きは劣情を隠し切れていないのに、触れる手はどこまでもやさしかった。経験のない美緒を怖がらせないようにしながら、じわじわと官能を引き出してくれているのが分かる。
「あっ、や、そこっ……」
「ここ?」
「んんっ、あ、あっ……は、んん……っ」