どんなふうに君を愛するか、その目で見ていろ
男爵家令嬢・清乃は結婚を目前に亡くなった姉の代わりとして、侯爵家嫡男・有季の元へと嫁ぐ。身分と資産を交換するような政略結婚で、婚家の誰もが冷たい中、地味で大人しい清乃は健気にふるまう。実は可憐な容貌と聡明さを持つ彼女に、次第に惹かれていく有季。迎えた初めての夜、清乃は彼の甘く蕩けるような激情に包まれ、熱い手に翻弄されながら快感に震え――。
「清乃、本当のことを教えてくれないか」
「それは……」
しばらく沈黙していた彼女は、やがて両手をぐっと握り合わせ、観念したように答えた。
「有季さまの……おっしゃるとおりです。かつて姉の名前で出したお手紙は、すべてわたくしが代筆したものでした。申し訳ございません」
自分の中の疑念が真実だったのだとわかり、有季は驚きをおぼえつつ清乃を見下ろす。
知らないうちに彼女と手紙のやり取りをしていたことが、ひどく不思議に感じた。だが新たな疑問が浮かび、清乃を見下ろして言う。
「なぜ燁子嬢は、自分で返事を書かなかったんだ?」
「それは……」
言いにくそうに言葉を濁すのを見て、ピンときた有季は言葉を続ける。
「もしかして君は、燁子嬢に利用されていたのか? 煩雑なことをすべて押しつけられて」
最初に周防家から縁談を持ちかけられたとき、父の久國は燁子のことを「才色兼備の誉れ高く、書が堪能で、和歌を作らせても素晴らしい令嬢だ」と評していた。
だが書に堪能だったのが妹の清乃のほうで、彼女に書かせた文字をあたかも自分のもののように振る舞っていたのだとすれば、他の部分も疑わしくなってくる。
(そうだ。清乃と一緒に花やしきに行ったとき、鶯の声を聞いた彼女は古い漢詩を口ずさんだ。あの場でさらりと出てきた詩を聞いて、僕は清乃の知性に感銘を受けたんだ)
目まぐるしく考えるうち、さまざまなことが頭の中で繋がり始める。有季は清乃の顔を見つめて口を開いた。
「ひとつひとつ確認していきたいんだが、まず僕への手紙を書いたのは燁子嬢ではなく、君ということで間違いはないんだな」
「……はい」
「他に、彼女から押しつけられたことはなかったか?」
すると彼女が目を伏せ、小さく答える。
「……ございます。歌会始の際に発表する和歌や、女学校の課題の刺繍を頼まれたり、ご友人へのお手紙の代筆を頼まれたり。わたくしが用意したものを、姉はすべて自分のものとして使っておりました」
「君は鬱陶しいほどの前髪でずっと顔の半分を隠していたが、そうするべきだと言ったのは家族だと話していたな。もしかしてそれは、燁子嬢か」
「はい。十四歳の頃、突然姉から『あなたの顔は陰気で見る人を不快にさせるから、あまり出さないほうがいい』と言われました。それ以来、人と接することが怖くなって……屋敷に引きこもりがちになり、女学校に行くのを途中でやめてしまったのです」
自宅でさまざまな師範を呼んで勉強していたため、教養面での遅れはなかったものの、清乃は屋敷からほとんど出ない生活を送っていたのだという。それを聞いた有季は、眉をひそめてつぶやいた。
「おそらくそれは、燁子嬢の陰謀だろう。彼女は君の美貌と才覚を妬み、わざと屋敷に引きこもるように仕向けていたに違いない」
「えっ……?」
「前も言ったが、清乃の顔は陰気でも醜くもない。まるで咲き初めの薔薇のごとく、愛らしい容貌だ。それに女性らしく流麗な文字を書き、文才に優れていて、古典などにも造詣が深い。燁子嬢も美しい令嬢だったが、きっと中身は君に敵わないと踏んだんだろう。自分の邪魔になる清乃を表舞台から遠ざける一方、君の才能をあたかも自分のもののように見せかけ、才色兼備の呼び名を欲しいままにしていたんだ」
清乃が青ざめ、押し黙る。それを見つめた有季は、再度口を開いた。
「君も本当は、姉が自分を利用していることに気づいていたんじゃないか? でも表立って文句を言えず、求められるがままに自身の才能を差し出していた。違うか」
彼女がかすかに顔を歪め、目を伏せる。そして沈痛な面持ちで答えた。
「……薄々わかっておりました。姉はお手紙の返信などを頼む際、猫撫で声で『わたくしはどうしても忙しいから、清乃にお願いしてもいいかしら』『わたくしたち、仲良しの姉妹よね』と言うんです。上手く利用されているのに気づきながらも、わたくしは姉の語る話から外の世界に触れられることが楽しく、強く拒めずにおりました。姉が正妻の娘で、わたくしは妾腹ですので、そうした見えない力関係もあったように思います」
それを聞いた有季は、静かな怒りをおぼえる。
これだけ美しく教養もある清乃が、燁子の策略によって自らを卑下するようになり、何年も引きこもっていたことが痛々しくてならなかった。有季は苦々しい思いで言った。
「僕も燁子嬢の外面に騙された一人なのだから、偉そうなことは言えない。婚約に際し、父上から世間の評判を聞いて、才色兼備の令嬢ならば妻として不足はないだろうという打算があった。手紙に書かれた文字の美麗さや柔らかな言葉遣いに、『教養と品格のある、素晴らしい令嬢だ』と思っていたが、実はそれが君の書いたものだとわかって納得できた部分もある」
「えっ?」
「清乃の控えめな言動やしとやかさは、文字から伝わってくる雰囲気に重なる。燁子嬢は大輪の花のようにあでやかで、手紙の印象はだいぶ違うなと感じたが、今思えばその違和感は正しかったんだろう」
有季は手を伸ばし、彼女の頬に触れる。
清乃がビクッと肩を揺らし、緊張に息を詰めるのがわかった。それを見つめつつ、有季は告げた。
「これまで君の本質を見ず、誤解していたことを許してほしい。燁子嬢の刷り込みのせいで自己評価が低いようだが、清乃は素晴らしい女性だ。可憐で奥ゆかしく、性格も素直で気持ちが優しい」
「そ、そんな」
「帯留を失くしたことを心から詫びようとしているのが伝わってきたが、その件については僕は本当に怒っていないから、気にしなくていい。部屋から持ち出していないのになくなったのなら、誰かが持ち出したと考えるほうが自然だ」
その可能性について既に想定しながらも、あえて口に出さなかったらしい清乃が、泣きそうに顔を歪める。彼女は絞り出すような声で言った。
「でも……たとえ誰かが持ち出したのだとしても、わたくしの監督不行き届きです。もっと厳重に管理するべきだったのを怠り、有季さまがせっかく買ってくださったものを失くしてしまったのですから」
「あれくらい、いくらでも買ってやる。君が欲しいものは何でも」
失くした帯留を心から惜しんでいる清乃を見るうち、にわかに庇護欲がこみ上げて、有季は彼女を見下ろしてささやく。
「――抱きしめていいか」
「えっ? あ……っ」
目の前の身体を引き寄せ、腕の中に抱きしめる。
その身体の細さと柔らかさに、いとおしさが募った。いざ触れてみると、自分はとうに清乃に対して恋情を抱いていたことに気づく。有季は彼女のぬくもりを感じながら言った。
「君にこうして触れるのは、初めてだな。祝言を挙げたときは周防男爵への反発もあったし、周囲から『こちらの家風に慣れるまで時間もかかるだろうから、しばらくそっとしておいてあげたらどうか』と助言されたこともあって、同衾を先延ばしにしていた。そうするうちに一ヵ月以上が経過していて、触れるきっかけを失ってしまった」
「…………」
「君さえよければ、本当の夫婦になりたい。見せかけでも義務でもなく、愛情と信頼で結ばれた関係にだ。どうだろう」
すると身体を硬くしていた清乃が腕の中でわずかに身じろぎし、有季は抱きしめる力を緩める。
彼女がこちらを見上げ、ほんのりと頬を染めながら答えた。
「わたくしも……有季さまをお慕いしています。結婚する前、観桜会で言葉を交わしたときから、ずっと心の中でお慕いしておりました」
〝観桜会〟と聞いた有季の中に、ふと二年ほど前の記憶がよみがえる。
一堂家の庭園で開催された観桜会で、縁談を申し出てくる人々に辟易した有季は、普段から考え事をしたいときに訪れていた枝垂れ桜の下に避難していた。そこでぶつかった小柄な令嬢は長い前髪で顔がよく見えず、他とは違う雰囲気で印象に残っていた。
有季は驚きながらつぶやいた。
「それは、二年ほど前の観桜会か? 藍玉園にある枝垂れ桜の下で、僕は一人の令嬢とぶつかったが」
「そ、それがわたくしです。あのときは父に無理やり連れ出されて、でも誰ともお話しすることができず、時間を持て余してお庭を散策していたのです」
自分と清乃が結婚前に出会い、わずかながら言葉を交わしていた事実は、有季にとって新鮮だった。腕の中の彼女を見下ろし、有季は確認するように言った。
「君はあのときから、僕を想ってくれていたのか?」
「はい。父以外の男性と初めて間近で言葉を交わし、何て素敵な方だろうと思いました。でもあれから社交には出なかったため、直接お会いする機会がなかったのです。そうするうちに、姉と有季さまの婚約の話を聞かされて……わたくしは、自分の気持ちを心の奥底に封じ込めなければと考えました」
だが祝言を目前にして、燁子は毒を飲んで自死してしまった。
そして一堂侯爵家と縁付く機会を失いたくなかった周防男爵の思惑によって、次女の清乃が燁子の代わりに嫁ぐことになり、図らずも有季の妻となったのだという。
それほど前から彼女が一途に自分を想ってくれていたのだと知り、有季はいじらしさをおぼえた。そして清乃への愛情がはっきりとした確信に代わるのを感じながら、彼女に向かって言う。
「その想いは、封じ込めなくていい。清乃は僕の妻になったのだし、僕も君をいとおしく思っているのだから」
「有季さまが、わたくしを……?」
「ああ」
清乃の髪を撫で、白くなめらかな頬に触れる。
恥ずかしげに目を伏せる様子が可愛らしく、有季は彼女の頤を上げてその唇を塞いだ。
「……っ」
触れるだけで一旦離れると、清乃がびっくりしたように目を見開いていた。
その瞳を見つめながら再び唇を塞ぎ、表面を軽く吸う。何度か同じ動きを繰り返した有季は、やがて舌先で唇の合わせをなぞった。そして清乃の口腔に、舌を忍び込ませる。
「ん、ぅっ……」
なめらかな舌先同士を触れ合わせ、緩やかに深くまで押し入っていく。
ぬめる感触は淫靡で、彼女がくぐもった声を漏らした。小さな舌が逃げるのを追いかけ、表面を舐めたりなぞったりするうちに、水音が立つ。
角度を変えて口づけ、より深く貪りながら、有季は清乃の甘い吐息を閉じ込める。やがて唇を離すと、彼女が熱っぽい息を吐いた。
「はぁっ……」
息継ぎができなかったらしい清乃は顔を上気させ、涙目になっていて、その表情を見た有季は劣情を刺激されるのを感じる。彼女の濡れた唇を指で撫でながら、ささやいた。
「君を抱きたい。いいか?」
「は、はい……」
華奢な身体の背を支えながら、寝台に横たえる。
洋燈の灯りが点いている室内はぼんやりと明るく、真っ暗ではない。清乃がひどく緊張しているのが表情から伝わってきて、有季はそんな彼女の額に口づけながら言った。
「できるだけ優しくする。もしつらかったら途中でやめるから、言ってくれ」
「い、言いません。妻としての務めですから」
覚悟のにじんだ表情を見た有季は、小さく噴き出す。そして清乃の髪を撫で、優しい口調で言った。
「僕は〝夫の務め〟でこうしているのではない。君がいとしいから抱くんだ」
細い首筋に顔を埋めると、仄かに石鹸の香りがした。
夜着越しに胸を包み込んだ有季は、そこをやんわりと揉む。帯を解いて前を開くと、形のいい胸のふくらみが現れた。先端は桜色で、とても清楚だ。
身を屈めた有季が舌でそこに触れた瞬間、彼女が身体を震わせた。
「ん……っ」
乳暈をなぞり、舌先で押し潰す動きに、先端が芯を持って尖り出す。
舌で舐め、軽く吸い上げると、清乃が息を詰めるのがわかった。左右の胸を痛くない程度の力で揉みしだき、尖りを吸ううち、彼女は次第に息を乱し始めた。
ふくらみをつかんで頂を舐め上げながら、有季は上目遣いに清乃を見つめて問いかける。
「――痛くないか?」
「……ぁっ……何だか、ムズムズいたします……」
「そうか」
胸の先は唾液で濡れ光り、先ほどより色を濃くしている。
ピンと尖っている様が淫らで、いつまででも舐めていられる気がした。肌のあちこちに口づけを落としつつ、有季は裾よけをたくし上げながら、彼女のすんなりと細い太ももを撫でる。
そして脚の間に触れると、そこには淡い茂みがあり、花弁がわずかに潤んでいた。
「あ……っ、有季さま、そこは……っ」
花弁を開き、指で探った上部には、ささやかな花芯がある。
わずかににじみ出ている愛液を指に纏わせて花芯をなぞると、清乃の腰がビクッと跳ねた。ゆるゆると指を行き来させるうち、硬くなり始めたそこをぐっと押し潰す。すると清乃がこらえきれないように声を漏らした。