自分のカフェを持つという夢を持った映美に訪れた急な依頼。それは有名な敏腕社長である真人の専属料理人になることだった! 料理を作るだけのはずが毎日一緒に食事をすることになり、唐突に高価なプレゼントまで贈られて…。さらに元彼の前で付き合っていると宣言されるなんて!?「……逃がさない」真人の隠していた本心を明かされ、甘い愛撫と激しすぎる快感に身も心も気持ちよくされてしまい――!?
「逃がさないと言った」
暗に契約の不履行を咎めるような声で、真人さんは囁く。火照った背中を大きな手のひらで撫でられただけで、私の身体は反応してしまう。
逃げたいわけじゃない。もったいつけたいわけでも、もちろんない。ただ、こちらは一糸纏わぬ姿だというのに、真人さんはかっちりと仕事用のスーツを着込んだままなのだ。その対比がひどく恥ずかしく、私は己を隠すように縮こまった。
「……すまない」
「きゃっ!」
私の様子から心情を察したのか、短く詫びるなり真人さんは私を抱き上げた。そのまま子供のように運ばれ仰向けにベッドに下ろされる。私が目を白黒させている間に、彼はスーツの上着を脱ぐと無造作に放り投げた。
勢いそのまま襟元に手を入れ乱雑にネクタイを引き抜こうとする。……私を鋭い眼差しでベッドに縫いとめたまま。
その荒々しい手つきにはらはらしながらも、隙なく整っていた彼の装いが取り去られていく様から私は目を逸らすことができなかった。
袖から腕を抜くために身体を捻ると、綺麗な筋肉が盛り上がる。着やせするタイプなのだろう。アンダーシャツを取り払われて見えた厚い胸板に引き締まった腹は、想像していたよりもずっと逞しい。
「あ……」
思わず声を発してしまったのは、真人さんがなんの躊躇もなく下着を脱いだ途端露になった彼の分身が目に飛び込んできたからだ。
天に向かってそそり立つ狂暴なほど張り詰めたそれは、紛れもなく私を求めていることの証拠のように思えた。
ようやく身に着けているもの全てを脱ぎ捨てた真人さんにこれでいいか、とばかりに強い眼差しで問いかけられ、私は呆然と頷く。
「映美」
名を呼ばれたけれど、それに私は応えられなかった。どう返せばいいかわからなかったし、一言でも発せば……この時間が終わってしまうような、そんな恐怖に襲われていたから。
それはつまり、私が何よりも真人さんのことを欲している証でもあった。
――好き。
これまでずっと誤魔化し続けてきた気持ちが、身の内で大きく膨らんでいく。
――このままひとつになりたい。本能が求めたその要求が正しく叶えられることを察して、私はそっと目を閉じた。
ベッドを軋ませ、真人さんが私に覆いかぶさってくる。
「ふ……んんっ……!」
噛みつくような荒々しい口づけが与えられる。稲光の中のそれとはまた違う獰猛な激しさを纏ったそれは、嵐のようだった。
雨が窓に打ちつける音が聞こえる。けれどもう気にもならない。ただ部屋に満ちていく熱と淫らな空気が肌から伝わってくるだけ。
だけど、それが逆に私を安堵させた。
私が触れているもの、見たもの、聞いたもの……感じたもの。それは真実だと、信じられる。
「はふ、……んぁ……」
唇を噛まれ、強く吸われ、舌を絡められた。ともすれば痛みを伴いそうなほど強烈な口づけ。けれど一度火がついた身体はそれを刺激として受け入れてしまう。
――そうなればあとは、燃え上がるだけだ。
与えられるだけでなく、私からも求めれば、口づけはより深くなる。全てが混ざり合い絡まる淫らな水音と感触は、甘い痺れへと変わり思考を麻痺させていく。
「んっ」
執拗で激しいキスに溺れている間に、真人さんの手が私の身体をまさぐり始めた。腰からわき腹を撫で上げられる、くすぐったさの延長線上にある快感の兆しに私は身をくねらせる。
唇から離れた温かく湿った真人さんの舌が、首筋をゆったりと舐め上げる。その柔らかく濡れた感触に、肌がこの先を期待して粟立つのがわかった。
「やぁ……そこっ」
暑い吐息が耳に吹きかけられて背筋をぞくぞくっと悪寒に似た感覚が走り抜ける。その危うい感覚を逃したくなくて、私は集中するようにぎゅっとシーツを握り締めた。
私の身体を撫でる手は、先程までの激しいキスとは裏腹にひどく優しい。柔らかな手の感触に、期待からか恐れからか……全身が総毛立つ。
まるで甘い飴を味わうように、真人さんの唇と舌が私の肌を舐め進んでいく。
「まさ、と、さん……」
「映美」
泣きたくなるような胸の痛みを吐露するように呼びかけると、同じように彼も私の名を呼んでくれた。それがたまらなく、嬉しい。
これまでどこかしっくり来ていなかった呼びかけが、すとんと胸に落ちた。
ああ、好きだ。
私は、真人さんが、好きなんだ。
改めて実感する。だから今こんなにも、彼の全てが欲しくてたまらないのだ。
「あ……」
密かに感激している間に、真人さんの手が私のささやかな膨らみに辿り着く。感触を確かめるように揺すられ、私はびくりと身体を震わせた。大きな手が、何度も胸を行き来し、その尖った部分をやんわりと押しつぶす。
「やぁんっ!」
途端に電撃のような感覚が走り抜けて、思わず甲高い声を上げてしまう。
そんな私を見下ろしながら、真人さんが口の端を上げた。その笑みはぞっとするほどの色気を孕んでいて、思わず見とれてしまう。
「やああぁっ!」
指と唇の両方で胸の頂に触れられ、私は喉を反らすように大きく喘いだ。
色づいた先端を指の腹で摘んで押しつぶされると同時に、もう片方を唇で甘噛みされるともう声が溢れ出してしまう。
「あっ、やぁっ、それダメぇっ!」
先端を強く吸われ、そのあまりの快感に身体が大きく跳ねた。
私の反応を愉しむように、真人さんが胸の先端をしゃぶる。飴玉を転がすように舌で小刻みに弾かれながら膨らみを揉みしだかれると、勝手に身体がベッドの上で跳ねた。
「んあぁぁっ!」
次々に与えられる強すぎる刺激を燃料に、身体の中で快感が燃え上がり、私の思考を、熱で侵していく。
熱くて、熱くて、どうにかなってしまいそうだ。
気づけば肌はしっとりと汗に濡れている。まるで何かに追い立てられているような焦燥感から少しでも逃れようと、私はぎゅっとシーツを握り締めた。
「あぁっ」
湿り始めた下生えを撫でられ、いつの間にか私の身体を探っていた手が下肢へと辿り着いていたことに気づく。閉じた足の奥、男性を受け入れる場所が緩み始めていることが、感覚でわかる。
思わず腰を揺らめかせた私を彼が見逃すはずがない。上目遣いにこちらを見ていた欲望に燃えていた瞳が少し細められると同時に、指が最奥に伸びてくる。
「んぁ……」
案の定指先が触れただけで響いた淫らな水音で、自分が既にどれだけとろけてしまっていたのかを知る。
ただ、真人さんの性急な動きに少し戸惑いがないわけではなかった。
でも制止の言葉を発するのは、躊躇われた。――少しでも彼の興を削ぐようなことをしてしまうのが怖かったのだ。
それにこちらだって、ただ触れられただけの僅かな刺激にすら、震えてしまうくらい感じてしまっている。
早く、ひとつになりたい。
そう願う気持ちもまた、嘘じゃなかった。
「うっ……あぁぁ……!」
ぐぷりと音を立てて、ぬかるみをかき分け真人さんの指が私の中に侵入してくる。硬く長いそれはゆっくりと、けれど探るように動き出す。
「あ……ぁ」
緩やかな動きなのに、粘ついた淫らな水音がやけに耳に届く。生々しく粘膜から直接響く音は刺激と相まって私に新たな快感をもたらしていく。
「やあぁぁっ!」
不意に、私を穿つものの質量が変わる。真人さんが指を増やしたのだ。
「あっ、やっ、あぁぁ……!」
身構える間もなく増やされた指を、とろけ解けた最奥はやすやすと全て飲み込んでいく。
片方の胸の頂を吸われながら、指でもう片方を弄られる。さらにとろけた最奥を自分の指よりもずっと太く長い彼の指がかき混ぜてくる。
三か所を同時に責められ、そのあまりに強すぎる快感に私はびくりびくりと身体を震わせる。
強すぎる快感は時として自然の脅威にも似ていて、私は嵐のただ中で翻弄される小舟でしかなかった。
「あ……あぁぁっ!」
押し寄せる快感の波はすさまじく、目の前にパチパチと火花のような光が瞬く。真人さんの唇が、舌が、指が、私を快感の頂に押し上げようと激しく動いている。
けれど、足りない。
それだけでは満たされないと身体が、心が叫んでいた。
彼の全てでなければ、きっとこの空白は埋まらない。
「まさ、と……」
だから私から強請るように名を呼んだ。
「ね……もう……」
シーツを握り締めていた手を解いて、私の胸を食む真人さんの太い首に腕を回す。
「映美……」
顔を上げた彼の瞳には、先程よりもずっと獰猛な光が宿っていた。待ちくたびれていたのは、私だけではないことを察して、安堵する。
そして私の願いは正しく叶えられた。
「ああぁぁぁっ!」
ぬかるんだ場所に、真人さんの熱があてがわれたのを感じた次の瞬間、強大な質量が私を切り拓いた。既にとろけ切った内側は、驚くほどすんなりとその剛直を受け止め、悦んで飲み込んでしまう。
「ひぃっ、ああぁぁ……っ」
与えられた強烈な圧力に、私はぐうっと喉を反らし喘いだ。
私の中に入り込んだ灼熱の塊から、脈打つその血潮の感触までも、伝わってくるような気がした。それほどまでに隙間なく、私達は繋がっていた。
「ああっ!」
衝撃に慣れる間もなく、真人さんは私を揺さぶり始める。
「やあぁぁっ、ああっ!」
深々と穿たれたまま奥を突かれたかと思うと、勢いよく熱が引き抜かれる。その切なさと苦しさから無意識に逃れようとしてか、反った喉から声が出てしまう。
それでも腕を伸ばして真人さんに縋りついたのは、これから暴風のような快感の嵐がやってくることを理解しているからだった。
「あっ、やっ、ああぁっ!」
はちきれんばかりに漲った昂りに隅々まで満たされ、押し上げられ、そして失われる。潮の満ち引きのような単純な行為のはずなのに、どうしてこんなに気持ちいいのだろう。
「はうっ、ああっ、んぁっ!」
押し寄せる快感の大風に煽られて、私はもう意味のある言葉など話すことができなくなっていた。頭の中を占めるのは、快感とそれを上回る悦びだけだ。
繰り返される激しい抽送によって注がれる快感のせいで、私の内側から湧き出した甘やかな痺れが全身を覆っていく。
限界が近いのだと、本能が察する。
「映美」
真人さんが苦痛を堪えるように、私の名を呼ぶ。それだけで限界が近いのは私だけではないことを知り、また喜びが心を満たしていく。
「真人、まさ、と……っ!」
少し前まで、こんな風に名で呼ぶことになるだなんて、考えもしなかった。
美味しいと私の作ったご飯を食べてくれる、いいお客さん。ただそれだけだったはずなのに。
胸の中に溢れ出す愛しさと切なさ、そして幸福に私は素直に身を委ねる。