過去のトラウマでお菓子と男性に恐怖を覚える華乃子は、なぜか甘党である上司、高倉恭平のスイーツ巡りにリハビリ代わりに付き合うことに。彼だけは一緒にいても怖さを感じず、お菓子も美味しく食べられる。どんどん恭平に惹かれていく華乃子。「すごく綺麗だ。真っ白で、柔らかそうで」過去と向き合うと決めた彼女を恭平は甘~く溺愛してきて……!?
「~~っ! かのちゃん、これ、いい。絶品!」
「えっ、本当?」
「やっぱり菓子作りのセンスあるなあ。これ、もう売れるんじゃないか?」
控えめで落ち着きのある甘さのスポンジと、ガナッシュの奥行きのある苦みのハーモニーが堪らないのだとか。そこにマロングラッセが加わると、天国に行った気分になるとまで褒めてくれた。
「よかったあ。先生に何度も相談して作ったんだ」
続いて華乃子もケーキを口に入れ、恭兵がお世辞を言っているのではないと確信できた。
(もっとたくさん練習してもっと美味しいものを作れるようになりたいな……)
第一に恭兵、それから全世界の甘い物好きを笑顔にしたかった。
恭兵はどの料理も「美味い、美味い」と絶賛し、華乃子とともに次々と平らげていった。
シーフードピラフを頬張り、幸福そうに目を細めるのを眺めながら、華乃子は改めて「ありがとう」と礼を言った。
「いや、礼を言わなけりゃならないのは俺の方だって」
「誕生日のことじゃないの。私の恋人になってくれてありがとうって……。恭兵さんにはたくさん幸せにしてもらっているから」
男性と菓子への恐怖症を克服し、記憶を取り戻せたのは、恭兵の支えがあってのことだと思う。
「恭兵さんがいなかったら、今の私はなかったと思う。私の恋人になってくれて、本当にありがとう」
恭兵はシーフードピラフを呑み込み、微笑んで「俺こそ」と答えてくれた。
「俺こそありがとう。かのちゃんがそばにいてくれて幸せだ」
(私、こんなに幸せでいいのかな……。全部夢でそのうち目覚ましが鳴るとかないよね?)
事件以降四年間、闇の中を手探りで歩き、先が見えないような心境で暮らしていたので、初恋の人と恋人になったのが信じられない。
夢ならどうか醒めないでほしいと心から祈る。これほど幸福な夢なら一生眠っていたかった。
――夢ではなく確かに現実だと実感できたのは、食事を終え、食器洗い乾燥機に食器をセッティングしている時のことだ。
「かのちゃん、この皿で最後」
「あっ、ありがとう」
恭兵が背後に立つのを感じる。
「――かのちゃん」
再び名前を呼ばれて振り返ると、チョコレートの味のするキスが振ってきた。
「……ん」
軽く唇を合わせただけの、二度目のキスだった。
恭兵は華乃子が男性恐怖症だったのを知っているので、怖がらせてはいけないと気を遣っていたのだろう。この数ヶ月もせいぜい手を繋ぐくらいで、自分から触れようとはしなかった。
「あっ、悪い」
唇を離してすぐに謝る。
「かのちゃんが可愛くて、つい……」
華乃子は可愛いと言ってくれたのが嬉しくて、男の欲望を抑えてでも大切にしてくれるのが愛おしくて、「いいの」と笑って恭兵の頬に手を伸ばした。
「私ももっと恭兵さんとキスしたい」
キスだけではない。ともに甘いものを味わい、時を過ごすうちに、華乃子も恭兵に触れ、もっと深いところまで繋がりたいと感じるようになった。
「ね、私、恭兵さんが大好き」
逞しい胸に顔を埋め甘えて擦り付ける。
「時々ちょっと不安になるの。恭兵さんは私と同じくらい、私を好きでいてくれるのかなって……」
不安に揺れる華乃子の台詞に、意志の強そうな黒い瞳がふと和らいだ。
「そんなの、決まっているだろ」
長い腕が背に回されぐっと抱き寄せられる。低く熱の籠もった囁きが華乃子の耳を擽った。
「俺の方が百万倍かのちゃんに惚れている」
続いて軽々と横抱きにされ、思わず「ひゃっ」と声を上げる。
「恭兵さん、力持ち。私、最近五十キロ越えちゃったのに……」
恭兵と甘い日々、すなわち甘味三昧の日々を送っていたので、少々太ってしまったのだ。
「五十キロ? 俺からすれば体重ですらないな」
恭兵はくすくす笑いながら華乃子をベッドへ運んでくれた。
「それに、すぐに痩せる。これから運動するんだからな」
(い、いよいよ恭兵さんに抱かれちゃうんだ……)
シーツの上にそっと下ろされ、たちまち心臓が早鐘を打ち始める。
恋人の誕生日に部屋に泊まるのだ。こうした事態も有り得るだろうと、ブラジャーとショーツの柄は揃えてきたし、念入りに肌の手入れもしていた。とはいえ、やはり初めてなので不安が拭えない。
(私の裸、綺麗かな? そんなに胸が大きいわけでもないし……)
標準的な体型だと自覚していたのだが、今更思い込みではなかったのかと焦る。
(恭兵さん、がっかりしないかな?)
「かのちゃん」
名前を呼ばれ我に返って恭兵を見上げる。
恭兵は華乃子の頬を優しく撫でつつ、「本当に大丈夫か?」と首を傾げた。
「怖いなら止めるから。無理しなくていい」
「ち、違うの!」
やっと触れ合いたいと思える人と再会できたのだ。
「私が、そうしたいの。……恭兵さんが大好きだから」
「お願い」と蚊の鳴くような声で頼むと、恭兵が堪らないといった風に小さく首を横に振った。
「かのちゃん、やっぱり可愛すぎ。俺、手加減できないかもしれない……」
部屋着のTシャツとショートパンツを脱がされ、ブラジャーにそっと手を掛けられる。ホックを外されると、形のいいほどよい大きさの胸が、まろび出てふるりと揺れた。
(や、やっぱり恥ずかしい……)
大人になってから体を異性に見られるのは初めてなのだ。
更にショーツを右足首に引っかけるように脱がされ、生まれたままの姿になった時には、顔から火が噴き出すのではないかと思った。
恭兵の視線が体を首筋から爪先まで辿るのを感じる。羞恥心に目を合わせることなどできなかった。
「かのちゃん、すごく綺麗だ。真っ白で、柔らかそうで」
赤ん坊をあやすような優しい口調だった。
(本当に……? 私の体、綺麗?)
「あ、あはは……。白いのは引き籠もっていたからで……」
羞恥心を作り笑いで誤魔化しつつ、恐る恐る恭兵を見上げる。恭兵はそんな華乃子の前で、部屋着にしていたトレーニングウェアのパンツ、スポーツインナーを脱ぎ捨てた。
(すごい……)
その肉体の見事さに思わず目を見開く。
決して細身ではなく、どこもかしこも筋肉に覆われている。日々ストイックにスポーツとトレーニングを続けていたのだろう。肩幅は広く胸板は厚く、上腕二頭筋がぐっと盛り上がっている。腹筋は六つに割れており、並のパンチなど跳ね返してしまいそうだった。
「恭兵さんも、すごく、かっこいい……」
惚れ惚れと見つめてしまう。
晴れている日は必ず外を走っているからだろう。陽に焼けた肌が更に肉体を引き締めて見せていた。
恭兵は「よかった」と笑いながら、ワックスを落としたので、自然に落ちる前髪を掻き上げた。
「俺も最近太ったんだ。かのちゃんと一緒にいると、なんでも美味くてつい食い過ぎてさ。俺も痩せなくちゃな」
リラックスさせようとしているのだろう。冗談を口にしながら、華乃子にゆっくりと伸し掛かる。端整な顔立ちに大人の男を思わせる影が落ち、黒い瞳が暗く甘く煌めいて、華乃子の心臓が大きく跳ね上がった。
二つの膨らみに手を添えられやわやわと揉み込まれる。力を加減しているのか痛いとは感じない。むしろ、心臓の鼓動が一層早鐘を打つのと同時に、背筋から首筋に掛けてゾクゾクとした。
(な、んだか、変な気分……。息が、上がって……)
興奮に熱された息が繰り返し吐き出される。それが気持ちよさなのだと気付いた時には、ぱくりと右の胸の頂を食まれていた。
「ひゃっ」
舌先でちろちろと弄られ、頂がかたく尖るのがわかる。
(こ、こんな風になるの……?)
体の熱がより高まっていく。ぷっくりと立った頂を不意に軽く囓られると、吐息に押し出されるように、「あ、ふっ」と声を上げてしまった。
(や、やだ。恥ずかしい……)
握り締めた拳で口を押さえる。だが、その手首を恭兵が掴んで持ち上げた。
「きょ、恭兵さん……?」
「かのちゃん、ちゃんと声を聞かせてほしいんだ」
恭兵の眼差しは真剣だった。
「じゃないと、かのちゃんがどう思っているのかがわからない。かのちゃんが怖くなくて、気持ちよくないとダメなんだ。だから、ちゃんと伝えてほしい」
少しでも怖いと感じればすぐに止めると恭兵は言い切った。
「わかった?」
確認されると「わ、わかりました……」と頷くしかない。
(恭兵さん、まだ私が怖がるかもしれないと思っているんだ……)
実際怖くはあるのだが、もう男性への恐怖ではない。恭兵を満足させられず、飽きられないかという恐怖だったのだが、ここは恭兵に従おうと覚悟を決める。
口を押さえる代わりにシーツを握り締め、「だ、大丈夫」と頬を染めつつ伝える。
「き、気持ちいい……です。体が、熱くなって……」
恭兵は「そうか」と笑ったかと思うと、柔らかな谷間に顔を埋めた。
「ひゃんっ」
「嬉しいよ、かのちゃん」
次は左の頂をちゅっと音を立てて吸われ、ベッドの上で体がびくりと跳ねる。弄られているのは乳首のはずなのに、首筋にゾクゾクと震えが走った。
(な、なんだか、おかしい。私の体……)
男に抱かれると女は皆こうなるのだろうか――そんな疑問も唇で胸から腹、腹から腿を辿られ、脚を大きく開かれると、一瞬にして頭から吹き飛んでしまった。
「……っ」
自分ですらろくに目にしたことのない秘所を、恭兵の欲望の燃え上がる視線に晒され、体温が更に一気に上昇する。
だが、「いや」とは言えなかった。
(だって、止めてほしくない……)
死ぬほど恥ずかしいのに止めてほしくはない。矛盾した二つの思いが華乃子を混乱させる。
一方、恭兵はまだ誰も踏み荒らしたことのない花園を見つめていたが、やがて「もう濡れているな」と呟き指先で花心に触れた。
「あっ……」
円を描くように蜜口を撫でられ体がビクリとする。花弁を指の腹で愛撫されると、花心がぷっくりと盛り上がるのを感じた。
(恥ずかしいのに、気持ちいい……)
「んんっ」
小さく首を横に振って快感に耐える。
すでに滲み出ていた蜜と、新たに湧き出ていた蜜が、恭兵の指先で掻き混ぜられる。
思わずシーツを握り締めて瞼を閉じた。
「あ……ん。あっ……」
気持ちをちゃんと伝えろと言われていたのに、喘ぐばかりで言葉にならず、ろくに声も出せない。
それでも、長い、骨張った指が蜜口に入り込んだ時には、「やんっ」と拒絶と取られかねない声を上げてしまった。
圧迫感にはぁっと大きく息を吐き出す。十分に濡れていたからか、痛みは感じないのだが、異物が胎内に侵入したことへの衝撃がまだ取れない。
「きょ、恭兵さ……」
縋り付く何かを求め、無意識のうちに手を掲げようとしたのだが、続いて指先を中でくいと曲げられ、喉の奥から悲鳴に近い喘ぎ声が漏れ出た。
「ああんっ」
強烈な刺激に打ち上げられた魚となって体が跳ねる。
「かのちゃん、気持ちいい?」
劣情に染まった声で尋ねられたものの、快感で答えられるはずがない。
「あ、あ……私……ひゃあっ」
恭兵の指の腹が一定のリズムを刻みながら、胎内の敏感な箇所を小突く。そのたびに体の奥から蜜が滾々と湧き出した。
「かのちゃんの中、熱くて、ドロドロしてて、溶かされちまいそうだ……」
溶けそうなのはこちらだと訴えたかったが、全神経が下腹部に集中し、喉に力が入らない。目の端から涙が零れ落ちた。
「かのちゃん、すごく、エロい……。そんな顔もするんだな」
そんな顔とはどんな顔なのかと尋ねる間もなく、長い指がくちゅくちゅと淫らな音を立てて隘路を往復する。
「あ……。ま、待っ……。ゆ、指が……」
「指が、何?」
言いたいことなどわかっているだろうに、あえて尋ねる恭兵が憎らしい。
「あっ……あんっ……あ……」
「すごく気持ちよさそう……。かのちゃん、すごく、可愛い……」
不意にずるりと指が引き抜かれる。
(お、終わったの……?)
安堵するのと同時に物足りなくもあり、なんとも複雑な心境だった。
恭兵はなぜか束の間背を向けていたのだが、やがて振り返って再び華乃子に伸し掛かった。
「あっ……」
熱くかたい何かが蜜口に当たっている。
「きょ、恭兵さ……」