「愛しています――たとえ、許されない恋だとしても」
幽霊姫と呼ばれて疎まれ、愛されることを諦めていた王女リゼ。ひょんなことから、平民あがりの英雄騎士アステールを匿うことに。正体を知らない彼は、なんとリゼに惚れこんで求婚!? 王女と知られてもなお、まっすぐな求愛は加速するばかり。「必ず、あなたをもらい受けます」誰にも執着しなかった英雄が、彼女だけに注ぐ溺れるほどの一途な愛。甘い口づけに、初めての恋は熱を増していく。けれど、王女が騎士に嫁いだ前例はなく、この禁断の恋の行方は――?
「わたしは……っ、は、恥ずかしい人間なのでしょう、か」
「え?」
「そんなに……そんなに駄目なのでしょうか。わたしがわたしでいるだけで、皆さんに受け入れていただけないような……け、欠陥だらけの人間なのでしょうか」
ぼろぼろと溢れる涙をそのままに、赤いジャケットの胸に縋る。
応えて、たくましい腕に背中をぎゅっと抱き締められた。
「恥ずかしいなんて、誰が言ったのです?」
アステールはきっぱりと言う。
「殿下は完璧です。欠陥などありません」
力強い言葉が痛いほどありがたくて、ますます泣けてしまった。
「っう……うう、ごめんなさ……っ、やはり、聞かなかったことにしてください」
「何故ですか」
「お、お約束しました。もう、卑下しないと。それなのに、わたしっ……守れませんでした。それどころか……あなたなら、優しい言葉をくださるだろうって……っ」
慰めを期待して弱音を吐くなんて、どうかしている。
情けない。申し訳ない。けれど、でも、もう。
誰かに受け入れてもらえなければ、一歩も動けない気がして。
その場にへたり込みそうになると、アステールがすかさず支えてくれる。
震えながらなおも嗚咽を漏らせば、また抱えられ、ソファへと連れていかれた。座面にリゼを腰かけさせると、アステールはリゼの足もとに膝をつく。
そして、ジャケットの胸もとを大胆にはだけ――。
「リゼロンさま」
露わになった胸板に、リゼの右手を引き寄せて押し当てた。
驚いて、喉がひゅっと鳴る。
「あ、あ、アスターさま、いきなり、何を……っ」
「私は騎士です。この身は、国王陛下に捧げられたもの。ですが、だからといって王族の方にへつらう言葉しか吐けないわけではありません」
聞こえているのに、理解できない。焦ってしまって、頭が働かない。
手を引っ込めようとしたが、余計にグッと、彼の胸に押しつけられてしまった。
「偽りは申しません。あなたに伝えたのは、すべて正直な気持ちだけです」
「っ、わ、わかりました、から」
「いいえ、姫さまはまだおわかりではないでしょう。すべて、というのは初めて会ったときからです。もちろん、あなたを妻にしたいと申し上げたことも」
不意打ちの言葉に、肩が跳ねる。
見れば、アステールは正面からリゼに真剣な眼差しを注いでいた。
「この胸の高鳴りが証拠です。あなたは、とても魅力的な方です。人として、もちろん女性としても、私の心をかき乱してやまないほどに」
「……あ……」
「よろしいですか。他人を嘲ることでしか己を満たせない人間に、あなたの価値を損ねることはできません――決して」
どくん、どくんと少し速い脈が掌から伝わってくる。
するとゆっくりと、やっと追いついたように、彼の言葉が心に届いた。最初は何を言われているのか理解できなかったが、ようやくわかった気がする。
かじかんだ手足が、体温を取り戻すときに似ている。胸がじんとこそばゆく痺れるような、ありがたさが熱く、沁みてくるみたいな感覚だった。
(やはり、わたしは……この人でなければ、駄目)
涙を溜め、リゼは吸い込まれるように前方に体を傾ける。
ソファから直接、アステールの腕の中にダイブする。
「っ……好きです」
もう、黙ってはいられなかった。
「あなたが好きです、アスターさま……っ」
大きな背中に腕を回し、ぎゅっと抱きつく。アステールは一瞬、驚いた様子で動きを止めたが、すぐにリゼを抱き返した。震える背中をさすり、髪を撫でてくれる。
ひっく、と小さくしゃくり上げ、リゼはその胸に顔を擦り寄せた。
彼の優しい匂いが愛おしくて、ありがたくて、もっと欲しくて……。
「……好き……」
もう一度こぼせば「私もです」と返される。
「愛しています、リゼロンさま」
空気を含んだ淡い囁きに、ますます大粒の涙が溢れた。
いつ、またソファに腰かけさせられたのか、リゼは覚えていない。
「……っ、ん」
とろんと目を閉じて、砂糖菓子のように甘いキスを受け止める。
アステールはまだ床に膝立ちの格好で、斜め下からリゼに口づけている。
逃げようと思えば、いつでも逃げられる体勢だ。アステールは意図して、そうしてくれているのだろう。けれどリゼは自ら進んで、アステールのキスに応じていた。
「は……ぁ、っ」
湿った音がぬちゅっと、間近で響く。それだけで、頭がぼんやりしてくる。
(心臓の音、とても……とても、急いているわ。嬉しい……)
先ほどより強く、掌に感じる脈――。
唇を合わせ、高揚するのはリゼだけではない。アステールも同様に、熱のこもった衝動をここに秘めている。そう考えると、どんどん息が上がっていった。
「っは……んん……」
丁寧に捏ねられる舌が、気持ちいい。
上顎を舐められるとこそばゆくて、溺れてしまいそうになる。いや、もう、手遅れかもしれない。でも、それでいい。初めてのキスよりもっと、彼の存在を感じる。
は、と息を吐いて、喉を鳴らす。
入り交じった体温が、溶けるように体の中に落ちていく。
「……ン……」
しばし恍惚とキスに酔っていたリゼは、座面に横たえられてから気づいた。
ドレスの襟もとのリボンが解かれていたこと。襟もとが、はだけていたことも。
「あ……」
鎖骨に押し当てられる唇が、熱くて、情熱的で。
思わず身を捩れば、途端にふるりと左胸がまるごと露出してしまった。
いけない。慌てて、片腕で庇う。同時にリゼは、我に返りもしたのだ。
何をしているのだろう。こんなこと、許されるわけがない。
なにしろ彼は騎士だ。王女と通じれば、罰せられるのは彼だ。
逃げようとしたが、腕を掴まれ、体の横に退かされる。ふっくらとした膨らみを飾る、桃色の先端が露わになる。そこに躊躇なく口づけられたから、リゼは全身を竦めた。
「ん!」
「隠さないでください。あなたの肌は、透き通るようでとても美しい」
罪の意識と羞恥の狭間で、震えてしまう。
でも……彼は美しいと言った? リゼを? 幽霊のようだと蔑まれ、周囲から爪弾きにされてきた、こんな自分を? いや、信じられない。ありえない。
だが、それならどうして彼は、こんなにも欲を滲ませた目で見下ろしてくるのか。
(本気で……思ってくれているの? わたしのこと、美しいって……)
困惑しているうちに、左胸の先にかぶりつかれる。
前歯の先で敏感な場所を掠められると、明瞭な快感が走って、じっとしてはいられなかった。知らなかった。胸の先が、これほど繊細な感覚を持っているとは。
舌をゆるりと動かされ、頂に絡められれば、その感覚は余計に濃くなる。
「あっ……は、っ……」
ちゅ、と音をさせて吸われるのも、たまらない。
二度、三度、吸っては離されるたび、じわじわと下腹部が疼く。
腰を跳ねさせて感じていると「お嫌ではありませんか」と淡い声で問われる。嫌だと、嘘でも言ってしまえばよかったのだろう。だが、できなかった。
「……い、え」
「では、お好きですか?」
かあっと、リゼは頬を熱くする。
答えられるはずがない。好きだなんて、言えない……だけど。
否定することもできそうになかった。
だって、嫌いじゃない。むしろ、こんなに気持ちがよくて、しかも大好きな彼がしてくれることを、好きにならないわけがない。どう返答したらいいの。
「っ……」
「私は」
ため息をこぼして、端整な顔立ちの人は言う。
「こうして触れさせていただけるだけで幸せです。ですから、あなたが好むことだけをして差し上げたいのです……お好きですか?」
なんて狡い聞き方だろう。
甘やかされているようでもあり、甘えられているようでもあり……これでは黙っているのが忍びない。無下になどできないではないか。
ますます真っ赤になりながら、リゼは瞼をギュッと閉じる。
「あの…………わたし、その、とても、とても好き……です。大好き……」
言ってしまった。もう、引き返せない。
押し寄せる後悔に震えながら耐えていると、すぐ側で息を呑む気配がした。
大好き、とまで言ってもらえるとは、思わなかったという反応だ。
失敗した。言いすぎた。せめて頷くくらいにしておけばよかった。背徳感も恥ずかしさも限界で、リゼの呼吸は自然と浅くなってしまう。
直後、彼の唇が落ちてくる――リゼの左胸の先端に。
大きく口に含まれ、とろりと舐められてから、啜られる。たまらないと言わんばかりに、音を立ててしゃぶられる。濃く色づき、勃ち上がりかけていたそこは、たちまち、きゅうっと窄んで硬くなった。
「あ、あ」
駄目、こんなの。
もっと快くて、もっと好きになってしまう。
反射的に背中を反らせば、どうにかコルセットにとどまっていた右胸まで、大胆にこぼれ出る。ゆさりと波打つ乳房を、待っていたようにアステールの左手が撫でる。
「あ!」
「綺麗です、とても」
綺麗なのは、アステールの手のほうだ。と、リゼは思う。
不健康な白さの乳房とは違い、彼の手は日に焼けてごつごつしている。目立つ関節も、剣だこも、彼の努力の痕跡だとわかるから眩しい。
「あ……ぁ」
膨らみをふにふにと揉まれたあと、指の間に右の頂を挟まれる。
突然の刺激に、身悶えたのも束の間だ。
先ほどより急いた様子で、左の頂にしゃぶりつかれる。
「っあ……!」
高く喘ぐリゼの頭の中には、もはや喜びしかなかった。
触れられているところから、悲しみが消えていくかのような錯覚。温かい舌にぬるりと胸の先を押し込まれれば、ほつれた心を繕われている気がして、涙が滲んだ。
「ふっ、ぅ……ぁ、アスター、さま、ぁ」
気持ちよくて、気持ちよくて……。
両胸ともに、奥の方まで甘い痺れが広がって、ひたすらいい。
右胸を味わうようにしゃぶられるのも好きだが、左胸を熱心に捏ねられるのも、すでにとりこになってしまっている気がする。だって、もう、やめてほしくない。
だからこそ、焦れったくなる。
じゅっ、と音をさせて、先端から唇を離されるたびに。彼を引き寄せ、少し意地悪なその口に、自ら胸の頂を含ませたくなる。
「ぅ、ん……ンっ」
いや、でもそんなこと、恥ずかしくて実際にはできない。
焦れったくてソファの座面を引っかいたら、アステールは自分の右の掌を何故だかペロリと舐めた。その手で、右胸を撫でられる。
唾液に濡れた指で胸の先を転がされた途端「――……っ!!」リゼは仰け反っていた。
「ンぁっ、あっ、あ……っ」
にゅるにゅると逃げる先端が、不思議と熱い。
左胸も咥えられ、同時に刺激されると、じっとしてはいられなくなる。
「……ッやぁ、ンふ、これ、だめです、わ……っ」
「お嫌ですか」
「ちが……っ、す、すき、だいすきなのです……っ、あ、っあ、でも……」
「でも?」
むずむずする。気持ちいいけれど、焦れったい。
発芽間近の種が、体内にあるような――脱皮の途中で、もがいているような。
「ア、ぁ……わか、りませ……っ」
自分でも何を言いたかったのか、途中からわからなくなってしまった。はあっ、と甘い吐息だけが、続けてこぼれる。
戸惑ったままの唇は、宥めるようなキスでやんわりと塞がれた。
「ん、ぅ」
気のせいだろうか。口まで胸の先に影響されて、過敏になっている。唇を擦り合わせられるだけでゾクゾクして、舌先が触れると腰が跳ねてしまうほどに。
そして左胸には、彼の右手があてがわれた。
直前まで舐められていた頂は、やはり唾液でぬるりと逃げる。左右同時に、こんなに強い刺激を与えられるなんて。リゼは全身をくねらせ、夢中になって喘いだが、声はすべてアステールの口の中に呑まれて消えた。
「っむ……」
何度も何度も、胸の先は彼の掌に転がされ続ける。
あまりにも執拗なので、途中で息苦しくもなったが、リゼはその身をアステールに預け続けた。もっともっと、触れていてほしかった。
弄ってもらいたかった、のだ。感じるところを、飽くほどに。
やがて先端はふたつとも、ジンジンと脈を打つほどになる。
そして両胸の先を指でトンとつつかれるだけで、腰が揺れてしまうようになった。
「ふ、っ……ぁ」
ふいに唇を離され、リゼは顎を浮かせて追いかける。という反応は、もはや無意識だった。ピンと尖った乳頭もそのままに「……すき……」とキスをねだる。
「欲しがって……くださるのですね」
クスリと微笑み、舌を差し出されたから、うっとりとそれを啜った。
柔らかさも、温かさも、ほんの少しざらついた感覚も、全部好きだ。
「は……っ、すき、好きですわ……」
好きだからこそ、どうしよう。
触れ合っているのに、足りない。
もっと欲しい。もっと奥、深いところで重なりたい。
たくましい首に腕を絡め、リゼは彼を手繰り寄せようとする。
いっそ幕のように、下りてきてもらえないだろうか。覆い被さって、閉じ込めて、アステールのことしか見えないようにしてほしい。頭のてっぺんから足のつま先まで、彼でいっぱいになりたい。
だがアステールは、これには応じなかった。
伸ばした手を、たしなめるみたいに掴まれる。軽く首を左右に振られて、どうして、と尋ねようとすれば、掴まれた手を頭上に持っていかれた。
肘置きに、ぐっと手首を押しつけられる。
「これ以上、私を欲深くさせないでください」