「もう一度、君を振り向かせる」
大学時代の彼氏・真翔と別れて一年。彼がパイロットの道を諦めて実家を継いだと聞いた七海は、彼の分も自分の夢にもう一度向き合おうと決める。でも、念願のCAとして働き始めた彼女の前に、エリート副操縦士になった真翔が現れて!? 誰にもなびかないと噂らしい彼が、自分には見せてくる甘やかな触れ合いに、止まっていた恋が再び動き出し――。
「お待たせ」
シャワーを済ませて居室に戻る。
素肌に纏ったのはパジャマだ。普段、国内線で地方ステイを挟む場合には、少しでもリラックスするため、かならず着慣れたものを持参するようにしているから、今回もそうした。ミントグリーンに白いラインの縁取りが入っているツーピースで、下はショートパンツ。脚のラインが丸わかりなのが少し恥ずかしくて、視線が泳いでしまう。
「ううん」
すでにシャワーを浴び、バスローブを纏った真翔くんがベッドに腰をかけている。彼が着ているそれはこの部屋の備え付けだ。そういう意味でも、パジャマの準備があってよかったのかもしれない。
昼間かっちりとした制服を着ていた彼が、いかにもプライベートらしい寛いだ姿をしているギャップに心臓が早鐘を打つ。撓んだ胸元から覗く胸板は、衣服の上からでは予想がつかないほど逞しく、大人の男性としての魅力や色香が増している。
――私、今からこの人に抱かれるんだ。
よく知っているようでいて別の男性のそばにいるような、不思議な気分だった。
私は緊張しながら彼のもとへと歩み寄る。そうして目の前に立つと、彼が私を見上げた。
「七海、無理言ってごめん。でも今日、どうしても七海を離したくなくて」
「ううん。うれしかった。……私ももっと真翔くんと一緒にいたかったから」
フライトが重なった今日、夕食の誘いを受けるまでは、真翔くんはあくまで元カレ、期間限定の同僚だと自分に言い聞かせ続けていた。
でも、士林夜市で一緒に過ごした時間が素晴らしすぎた。結果、私自身も離れがたくなってしまったのだ。
首を横に振って微笑む。真翔くんはきちんとした感覚を持っている人なので、ひょっとすると、業務の合間に私をベッドへ誘ったことに罪悪感を覚えているのかもしれない。
謝ってもらう必要なんてない。だって、私も同じ。このまま、ふたりの時間がずっと続けばいい、と思ったから。
「……ありがとう」
真翔くんが立ち上がり、片手で私の身体をそっと抱き寄せる。上気した肌からボディソープと彼の香りが入り交じって立ち上がり、鼻をくすぐる。かつて、私の幸せの一部だった懐かしい匂い。
それから、彼がもう片方の手で私の頭を優しく撫でる。その感触に「あぁ、この手だ」と心が震えた。
もう一度、この手に触れられたらどんなにいいか、と考えていた。まさか現実になるとは想像していなかったけれど。
「七海、すごくきれいになったよ」
「えっ、そ……そう、かな」
少し身体を離した真翔くんが、目を細めて言う。
相変わらず、彼の褒め方はストレートだ。あまり自分に自信がないタイプの私は、彼のそういうはっきりした物言いに何度も勇気づけられてきた。彼が「うん」とうなずく。
「付き合っていたときもかわいいなって思ってたけど……すっかり大人っぽくなって素敵だ。悪い虫がつかないか心配になる」
「大げさだよ」
笑い飛ばしたけれど、嫉妬とも受け取れる台詞にときめいていた。自分以外の男には触れてほしくない、とでも言うような。
「ちっとも大げさじゃない。七海は、自分が思っているよりもずっと魅力的な女性だよ」
「真翔くん……んんっ――」
熱っぽい瞳で私を見つめた真翔くんの唇がゆっくりと近づいてきたので、目を閉じてそれを受け入れる。触れ合った唇の温もりと感触はあのころと同じだ。駆け抜ける甘い痺れにしばらくの間、微かに身を震わせながら感じ入った。
触れるだけでは飽き足らず、彼が舌を差し入れてくる。熱く滑った舌を絡ませているうちに、お互いの唾液が混ざり合う。どちらのものともわからないそれを飲み込みながら、舌先を擦り合わせ、ぞくぞくした快感に浸る。
「ん、ぁあっ……」
「かわいい声、久しぶりに聞けてうれしいよ」
長いキスを終えて私が小さく喘ぐと、真翔くんが吐息交じりの声でつぶやく。
それから私の身体をゆっくりとベッドに押し倒した。パジャマのボタンをひとつずつ外して前を開けさせると、ふたつの膨らみが露出する。その瞬間、彼の喉が上下に動いたのを目にして、お腹の下のほうがじわっと熱くなる。
――私の身体を見て、欲情してくれたんだろうか。
真翔くんがもう一度私にキスをする。頬を経由して左の耳朶を食み、優しく吸い上げる。
「ふぁ、んんっ……」
「我慢しないで、聞かせて。……昔みたいに」
「あっ、んんっ……はぁっ、ぁあっ――」
耳元でささやかれると、それだけで思考が悦びに塗りつぶされそうになる。それを知ってか知らずか、彼はいたずらをするように音を立てて耳朶や耳輪を吸ったあと、首筋、鎖骨と口付けの位置を下にずらしていく。乾いた肌に触れる唇の感触が官能的で、我慢するつもりが、つい鼻にかかった声がこぼれる。
「七海、すごくドキドキしてるね。キスしてると伝わってくる」
「っ……」
胸の膨らみにキスを落としながら、真翔くんが笑って言った。これだけ近ければ悟られても仕方がないのだろうけど、改めて指摘されると恥ずかしい。はっきりと打ち明けてはいないけれど、あのころから経験値が増えていないのを見透かされているみたいで。
「そうやって恥ずかしがってる顔、かわいくて好きだったな」
真翔くんが顔を上げ、こちらを見つめて言った。うれしい反面、過去形の台詞が少し悲しい。
……わかってる。あのころと同じ気持ちのままでいるわけがないのは。
「あっ、んぁ、ふぁあっ……」
ノートに染みた黒いインクのような感情を、胸の先を包み込むソフトな悦びがかき消した。ぷくっと膨れた先端を舌先で撫でつけられると、途端に意識がそちらへ傾く。
舐めたり、吸い付いたりして両方の胸の頂を愛撫したあと、真翔くんはわき腹や腰のラインにもキスを落とした。流れるような所作で、ショートパンツに手をかけ、するりと脚から抜いてしまう。
ショートパンツの下はショーツのみだ。フロントにレースの装飾がついた、薄いピンクのそれ。彼は軽く私の脚を開かせたあと、指先をクロッチに這わせた。
「っ!」
その場所はすでに潤いを帯びていて、生地に指先を沈めると艶めかしい水音が響く。
「身体中にキスされて、こんなになっちゃったんだ?」
「ぁ、やぁ……!」
指先を軽く叩くと、そのたびにくちゅ、くちゅといやらしい音が聞こえる。小さく笑いながら、真翔くんがたずねた。
ずっと忘れていた快楽を、彼に触れられたことで思い出したのだ。自分の貪欲さが恥ずかしくなって、彼の視線から逃れるように顔を背ける。
「もっと気持ちよくしてあげたい」
真翔くんは言葉通りうれしそうな口調だけど、顔を見ることができない。私が視線を彷徨わせているうちに、彼は濡れた下着をそっと取り払ってしまう。
「もう少し脚を開いて」
「は、恥ずかしいっ……」
無防備な姿を晒すことへの抵抗感で躊躇ってしまう。学生だったころとは違っていい大人になっているのだから、こんな風に初心な反応を見せるのは変かもしれない。頭ではわかっているけれど、理屈の問題じゃない。
「大丈夫。さっきも言ったけど、七海はきれいだ」
「あっ」
私の両脚をそっと割り開き、その間に自身の身体を割り込ませ、剥き出しの秘裂に真翔くんの指先が触れる。下着越しに触れられたときとは違う快感が湧き上がり、小さく喘いだ。
入り口に溢れた蜜を中指の先に塗しつけてから、彼は隘路をノックしながら奥へと押し込めていく。
「んんっ……!」
そうして、意外にも簡単に中指の根元までを呑み込んだ。時間は経っているけれど、かつては彼の侵入を許したことを身体が覚えているのだ。むしろ、入り口は涎を垂らすようにとろとろした愛蜜を吐き出し、それと連動するようにお腹の奥がさらに熱を保ち始める。
察した真翔くんが、人差し指も一緒にナカへと差し入れる。きついと感じたのは最初だけで、すぐに馴染んだ。ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながら、浅いところを掻き回す。
「ふ、ぁ――だめぇっ……」
「そう? その割りには、絡み付いてくるよ」
「っ、言わないでっ……!」
内壁を擦られてナカが収縮しているのは事実だった。肉体の反射とはいえ、彼には私がほしがっているように映るのだろう。羞恥を煽られて小さく叫ぶと、真翔くんが声を立てて笑う。
「ごめん。七海の反応がかわいくて……お詫びに、もっとよくするから、許してほしいな」
彼は二本の指を引き抜いてから、私の両脚をさらに大きく開いた。そして、剥き出しの秘所を撫でつけるように指をばらばらに動かして、秘芽を刺激する。
「真翔くん、それやぁっ……」
「いや? 本当に?」
「んぁ、だめ、だめぇっ……!」
短い間隔で悦楽が弾ける。その強烈な感覚に、抗えないなにかがせり上がってくる。
「ここはもっとしてほしそうだよ。違う?」
「あぁ、やぁ、んんっ――待ってっ……! んぁあああああっ……!」
弾かれるたびに感覚が研ぎ澄まされて、あっという間にひと際高いところへと放り出された。
びくんと大きく腰が跳ね、絶頂の悦びを享受すると、ゆっくり着地する。
「……気持ちよかった?」
「っあ……」
私が達したのを察知して、真翔くんが愉悦の余韻に戦慄く入り口をそっと撫で、こちらに視線をくれる。
まなざしはいつも通り優しいけれど、それだけではなくて――ともすれば劣情や衝動が優位になってしまいそうなのを、必死に堪えているようにも見える。
「今度は俺も一緒に気持ちよくなっていい?」
奥に生々しい欲望を灯したその瞳が、甘く私を絡め取っていく。
真翔くんが一度身体を離し、ベッドサイドに手を伸ばす気配を感じながら、居室の白い天井を眺めて考える。彼は私と別れてから、何人の女の子と付き合ったのだろう。
ひとり? ふたり? それ以上だったらどうしよう。
存在するかどうかもわからない彼女たちのシルエットが頭のなかに浮かんでは消え、妬ましく思う。
この五年、私がほかの男性と触れ合うことがなかったように、彼もそうだったらよかったのに――
「七海?」
「あ、ううん」
とか、勝手なことを考えていると、再び真翔くんが覆い被さってきた。私の顔を覗き込んで苦笑する。
「今、別のこと考えてた?」
「えっと……」
ずばり言い当てられて言葉に詰まる。
「ひどいな。こんなときに」
「ご、ごめん」
彼の言う通りだ。いよいよ抱かれようというタイミングで気を散らすなんて、失礼極まりない。
素直に謝ると、真翔くんがおかしそうに笑う。
「いいよ。……ほかのことなんて考える余裕なくなるくらい、俺に集中させればいいだけだから」
高飛車に聞こえる台詞も、真翔くんのように男性的な魅力に溢れた人が言うとちっともいやな感じがしないのだからすごい。
――そう。余計なことなんて考えられなくなるくらい、夢中にさせてほしい。今この瞬間だけは、真翔くんと結ばれるよろこびだけを感じていたい。
さきほどのように大きく脚を開かされ、腰をぐっと引き寄せられると、その中心に避妊具越しの熱いものが押し当てられる。
「ま、真翔くんっ……んんっ……」
びくびくと脈打つかたまりの先が秘裂の溝に沿い、粘着質な音を伴って前後すると、それだけで下腹部が甘く痺れる。
「……しっかり感じて」
「っ、ぁあっ……!」