両親を亡くした雛子は、上京を機に後見人として育ててくれた人気小説家の青葉へ淡い恋心を抱き始める。雛子の心が自分に向くのを待っていたように、青葉は無垢な雛子のカラダに優しく執拗に自身を刻み込んでいく。青葉の愛撫に身をゆだねるたびに、雛子の中に湧きおこる甘やかで淫らな記憶。やがて、二人の間にある千年にも及ぶ運命の絆を思い出し――。
「ひな……俺にはお前だけだ」
青葉は熱っぽい目で雛子を見つめ、距離が一気に縮まる。
「お前をひとりの女として……ずっと、愛してるんだ」
青葉の黒い目が空に浮かぶ星のようにギラギラと輝く。
そして吸い寄せられるように、お互いの唇が重なっていた。
青葉が雛子の体を抱え込み、深く口づけてくる。驚いたがこれは――青葉とこうなることは、自分にとって自然な流れだと、初めてのことのはずなのに雛子は理解していた。
「んっ……」
舌が唇を割り雛子の口の中を這い回る。雛子の舌を吸い、唾液を流し込んでくる。
「あ、はっ……」
うまく息ができなくて、一瞬唇が離れたときになんとか息を吸い込むが、またすぐに唇はふさがれて、次第に頭がぼうっとしてきた。
「ひな……」
青葉は愛おしげに名前をささやきながら、額、頬、まぶた、顎先と、ちゅ、ちゅっと音を立ててキスを落としていく。青葉の前髪がサラサラと零れ落ち、雛子の顔にふれるたび、くすぐったくて、ソワソワする。
「俺は……ずっと、ずうっと前から、お前が好きで、好きで……頭がおかしくなりそうなくらい、好きで」
青葉の切れ長の瞳が切なげにまっすぐ雛子を見つめる。青葉の告白は、甘いというよりもずっと凄みのような力があった。彼を心から愛している雛子でも、少し臆するような気迫に、雛子は息をのむ。
「お前ひとりをずっと……愛して……ずっと前から、こうしたくて……」
青葉の指が雛子の着ている前開きのワンピースの胸元のボタンを上からひとつずつ外していく。ウエスト部分までむき出しになった素肌が、キッチンの天井の明かりの下で淡く光っていた。
「あ、青ちゃん?」
口づけに身を任せていた雛子だが、服を脱がされている状況に一瞬思考がとまってしまう。
彼はいったいなにをしようとしているのだろう。
「あの、ちょっと待って……」
戸惑いながらも青葉を止めようとしたところで、気がつけば逆に自分の手首が、頭の横に押しつけられていた。
「いやか? いやならやめる。だけど俺がどれほどお前を愛しているか……今、俺の思いをここで知ってほしい。お前を抱きたい。とろとろにして……俺に沈めてしまいたい」
切れ長の黒い目が爛々と輝いている。戸惑いはしたが求められて拒めるはずがない。初めて青葉の『男の部分』を見せつけられた気がして嬉しくなった。
「青ちゃん……いやじゃないよ……ちょっと、ビックリしただけだから」
雛子は青葉の精悍な頬に指をすべらせる。
「……ひな」
雛子に受け入れられた青葉は感極まったように唇を震わせ、そのままむき出しになった雛子の首筋に顔を寄せて強く吸いつく。びりっとした痛みに、雛子は小さく悲鳴を上げた。
「あっ……!」
びくんと体を震わせると、今度はなだめるように舌が鎖骨のあたりを這い始める。青葉は時折吸ったり、舐めたりしながら、雛子の素肌を丹念に味わっていく。
「ひな……」
名前を呼ばれるたびに吐息が肌の上をすべる。
「んんっ……」
立っていられなくなって、背後の冷蔵庫に背中を押しつける。それだけで雛子の全身ははしたなく震え、声が抑えられなくなってしまう。経験もないのに、体はもっと気持ちいいことを知っているような気がして、青葉に自分のすべてを明け渡したくなる。
青葉の指がブラジャーをたくし上げて、目を細める。
「やっ……」
雛子の胸はそれほど大きくない。小さいより大きいほうがいいと思っている雛子は、無性に恥ずかしくなってとっさに手で自分の胸を隠したが、
「どうして隠すんだ。よく見せてくれ」
と微笑んで、雛子の手をつかみ、あらわになった胸の先端を唇と舌で包み込むように吸い上げた。
「あんっ……あ、あっ……」
雛子の口から甘い悲鳴が漏れる。背筋がびりびりと痺れて、淡い快感が全身に広がった。
「あおちゃ……っ……」
反射的にやめてと口にしかけたが、雛子は自然とその言葉を飲み込んでいた。唇の愛撫と同時に、もう一方の乳首は指でやわやわとこねられ、絶えず刺激が与えられているのだ。そうやってたっぷりと時間をかけてかわいがられた胸の先端はさらに赤く染まっていき、じんじんと熱を持ち始めた。
なんだか体がおかしい。ふれられてもいない下腹部の奥がキュンキュンして、じれったい。
無意識に両ひざをこすり合わせていると、乳首を甘噛みして吸いついていた青葉が顔を上げ、上から雛子の頬に手のひらを添えて、悪戯っぽく見下ろす。
「どうした?」
優しい声色だが目が笑っていない。雛子が自分の体の変調にうろたえているのを、わかっていて面白がっている気がした。
「あ、青ちゃん、あの……」
「ん?」
とろけるような甘い笑顔で、青葉はじいっと雛子の目を覗き込む。
(なんて目だろう……)
青葉の黒い目は、なにかに集中しているとき瞳孔が広がる。至近距離でないとその違いはわからないが、雛子は昔から青葉のこの目に弱かった。あまり感情を揺らさず落ち着いた青葉が少し子どもっぽくなるこの瞬間が、たまらなく愛おしい。
「今の気持ちを、素直に聞かせてほしい」
青葉は右手の指先でそっと雛子の唇をなぞる。きれいに整えられた青葉の指の感触に、雛子は唇をわななかせた。
「今、なにを感じてる?」
もう一度、後押しするようにささやく青葉に、雛子は欲望を口にしていた。
「おなかの奥が……苦しくて……変、なの……」
手のひらでへその下を撫でると、青葉は柔らかく微笑む。
「それは、ひなの体が俺を欲しがっている合図だ」
そして青葉は雛子の唇にふれるだけのキスをすると、大きな手を雛子の手の甲に重ねた。
「俺のモノが入ってくるのを、今か今かと待ってる」
俺のモノ――。
純情で経験がない雛子だって、さすがになにを言われているかわかる。
青葉を受け入れる。それが愛し合うということなのだ。
頬がカーッと熱くなるのを感じた。
「青ちゃん……ベッドに行きたい……」
思わずねだるような言葉が出る。恥ずかしいがこの場ではごまかせる気がしなかった。
名前を呼ぶと、また体がじんじんと痺れ始める。ドキドキしながら青葉の頬に手のひらを添えると、青葉は応えるようにその手のひらにちゅっと口づけた。
「ああ、そうだな。キッチンでお前の初めてを奪うわけにはいかないし」
青葉はふふっと微笑むやいなや、雛子の背中と膝裏に手を差し込んで軽々と抱き上げる。
「きゃっ!」
体が宙に浮いて雛子は慌てて青葉の首に腕を回した。
「なにより準備が必要だ」
青葉は雛子の額に唇を優しく押しつけると、それから優雅に雛子をベッドへと運び宝物のように横たわらせる。
雛子は高鳴る胸の鼓動を感じながら、のしかかってくる青葉を見上げた。
いつもは優しく雛子を見守ってくれている青葉だが、今、自分を見つめる彼の目は熱に潤んでいて、男の目をしている。
これから自分は青葉に抱かれるのだ。そして彼のものになる。そう思うと体の奥がまたじんわりと熱を持った気がした。
「まず、服を脱ごうか」
青葉の手がかろうじで体にひっかかっていたワンピースを頭からすっぽりと脱がす。それまでカッカと火照っていた体が、部屋の空気にさらされてひんやりと冷たくなる。
「あ、青ちゃんも、脱いで」
「――そうだな」
青葉はふんわりと笑ってするすると帯を解き、着ていた浴衣と一緒に床に落とすとボクサーパンツ一枚になった。
「……っ!」
青葉の裸を見て、雛子は顔を真っ赤にして目を逸らす。青葉の体はぜい肉ひとつなく、彫刻のように美しかった。作家というインドアな仕事をしているが、泳ぐことが好きで、週に数回、町のジムに泳ぎに行っているのだ。
(青ちゃんの体……きれいすぎる……)
鍛え上げられた鋼のような肉体美に、自分の体をさらすことが恥ずかしくてたまらない。
うつむいたままの雛子に、青葉が耳元に顔を近づけて色っぽくささやく。
「恥ずかしい?」
「うん……」
素直にうなずくと、青葉は「じゃあ……」と微笑んで、雛子の背後に回り後ろから雛子を抱きしめ、すっぽりと腕の中に閉じ込めてしまった。
「こうやって後ろから抱きしめたら、平気だろ?」
そして青葉はゆっくりと雛子の腕や肩を手のひらで撫でる。優しい手の感触は気持ちよかった。まるで犬か猫にでもなった気分だ。
「青ちゃんにそうされるの、好き……落ち着く」
素直に答えると、背後の青葉がクスクスと笑う。
「よかった。でも落ち着かれても困る。今の俺はこれだけでは満足しないからな」
そして青葉はゆっくりと、雛子の腹を撫でていた手を下着の中に滑り込ませた。
「あっ……」
突然のことに、雛子は驚いて体をよじらせるが、背後からがっちりと抱きかかえられていて、彼の腕の中から逃れることはできない。
「ひな……ぐしょぐしょに濡れてるな」
青葉は熱っぽい声でささやいて、指先でそおっと花弁をかきわけ、花芽をつまみ上げた。青葉の指が、多くの物語を紡ぐ美しい指が自分の秘密の場所をかきわけていると思うと、とてもいけないことをしている気がして、眩暈がする。
「あ、あお、ちゃっ……」
「ここは、上からこすられるのと、しごかれるの、どっちがいい?」
問いかけながら青葉の指先が雛子の花芽を上から押し込んだ。
「あっ……ンッ!」
それは今までのような淡い快感ではなく、経験のない雛子には強すぎる刺激だった。
目の前に白い火花が散って、雛子は軽い悲鳴を上げながら背中をのけぞらせる。思わず青葉の膝をつかんで爪を立ててしまった。
「もうイったのか。ちょっといじられただけなのに……」
青葉は少し嬉しそうに声を弾ませて、それからまたビクビクと細かく体を震わせる雛子のこめかみに口づける。
「いく……?」
「ああ。女の体は何度も続けてイケる……。たくさんよくしてやるからな」
そして今度は人差し指と中指を使って、花芽をとんとんとリズミカルに叩き始めた。
「あ、あっ、ああっ……」
雛子の肌がまた快感に粟立つ。
「まって、あっ、あっ……ああんっ……ひっ……!」
押されたときとは違う快感に、雛子が戸惑っていると、
「かわいい声……」
青葉は「興奮する……」とささやきながら雛子の耳たぶに舌を這わせ、もう一方の指で雛子の下着を完全にずり下ろすと、足を開かせて花弁の間に指を滑らせる。
「じゃあ今度は、中をほぐそうか」
と、指を蜜壺の中に押し込んでいった。体の中に、青葉の指が入ってくる感触に、雛子はビクッと体を震わせた。
「まず一本……ああ、とろとろだ。狭いけれど俺の指を飲み込んで……あったかいな」
「青ちゃ……っ……」
「二本目も入るか……」
「あんっ……!」
体の奥に、確かに青葉の指を感じる。彼の指が二本入っていて、ゆっくりとうごめきながら、雛子の体の内側を這い回っている。しかも相変わらず、花芽は指先でリズミカルに刺激を与えられて、じわじわと雛子を高みへと追い詰めていく。
不愉快というわけではないが、異物感が少しだけ怖い。
そんな雛子の緊張が伝わったのだろうか。
「耳も舐めてやろうな」
青葉の舌が雛の耳の奥へと滑り込んで、頭の中でぐちゅぐちゅと激しい水音が響き始めた。ぞくぞくと快感が駆け上がる。
「あ、はぁっ……」
同時に蜜壺に埋められた指に、ある一点を押されると、雛子のまぶたの裏に火花が散った。
「あ、そこ、あっ、強すぎるのっ……だめっ……」
あまりにも強い快感に、雛子は悲鳴を上げていた。だが正解を確認した青葉は当然その手を緩めることはない。
「駄目じゃない。言っただろ、何度気持ちよくなってもいいんだって」
「あぁ……」
「ほら、鏡、見てみろよ。お前のここは俺の指をくわえ込んでぎゅうぎゅうと締めつけているし、こっちはいじられ過ぎて、ぷっくりと大きくなってる」
「鏡……?」
言われて気がついた。
壁際に置いてある姿見に足を広げた自分が映し出されていたのだ。