「今度こそ、君を守る。俺に君を守らせてほしい」
パティシエのひじりは、幼い頃から〝人ならざるモノ〟が視える特殊な性質の持ち主。ある日、店を訪れた和装イケメンの臥龍岡梅から「愛しい番」と呼ばれ、初対面にもかかわらず口づけられそうになる。実は梅の前世は龍神で、ひじりの前世と夫婦だったという。千年の間、失われた番の魂を求め続けた梅から猛烈なアプローチを受け、次第に絆され惹かれていくひじりだけど…!?
ひじりには、何も強要したくなかった。彼女には、何にも縛られずに、幸せでいてほしかった。自分の番などになってしまったばかりに、命を屠られ続けてきた彼女には、自由と幸福が与えられて然るべきなのだ。
矛盾している、と自分でも思う。彼女を離したくないのに、自由でいてほしいと願う。それはちょうど、彼女を自由にしたいのに、そのためには自分に縛り付けなくてはならない、今の状況とよく似ていた。
頭の中で今なお葛藤する矛盾を抱えたまま、それでも梅は番の唇を貪ることをやめられないでいる。
(──ああ、柔らかい、甘い……)
がむしゃらに舌を蠢かせて味わう番の口内は、甘露のような味がした。まるで熟れた桃の果実だ。人の唾液が甘いなどあり得ないのに、どうしてこれほど甘く感じるのか。
「ん……、は、ぅんっ……!」
接吻に慣れていないのか、ひじりが空気を求めるようにして首を捩る。唇がずらされ、喘ぐように息を吸う彼女を堪らなく可愛いと思いつつ、接吻が中断されたことが耐えられなくて、すぐさま再び唇を塞いだ。柔い下唇に歯を当てると、ひじりが仔犬のような鼻声を上げた。その声に情欲が煽られて、頭が白くなっていく。
早く、早く、早く──何に急かされているのか自分でもわからない。彼女の全てが欲しくて頭がおかしくなりそうだった。千年以上凝り続けた番への情欲は、熱と光を凝縮した恒星のように危うく、いつ爆発してもおかしくない。
逸る気持ちのままに手が動き、ひじりの衣服を剥ぎ取っていく。ボタンが飛び、布を裂く音が聞こえたが、すぐに意識の外に消えた。下着すらも邪魔で、鷲掴みにして毟り取ろうとしたが、ひじりの手が慌てたように止める。
「そ、それじゃ、取れないからっ、……! 自分で、脱ぐ……」
接吻の合間に切れ切れに訴えられ、梅は彼女に動く間を与えるために、渋々覆い被さっていた上体を起こした。ひじりは恥ずかしそうにしながらも、モゾモゾと動いて下着を自分で取り去った。
生まれたままの姿になった彼女を、梅は食い入るようにして見つめる。
柔らかく肌理の細かい白い肌に、流れるような滑らかな線を描く嫋やかな肢体。丸い双丘はふわふわと柔らかそうで、隠そうとする腕のせいで余計にその存在を主張させてしまっている。むっちりとした太腿はつき立ての餅のようで、梅はふるいつきたくなるような衝動を抑えなくてはならなかった。
「……っ、そんな、見ないで……」
梅の視線に、ひじりが顔を赤くして囁く。本当に恥ずかしいのだろう。酒に酔った時のように、首まで赤くしている。顎の辺りで切り揃えられた黒髪が、上気したその肌にかかってひどく艶めかしく見えた。
「無理だ。こんなにきれいなものを、見るなというほうがどうかしている」
心からの言葉だったのに、ひじりは冗談だと思ったのか、呆れたようにこちらを睨んで唇を尖らせる。
「お世辞言ったって、だめです……」
「俺は嘘はつかない」
そう答えながら、梅は頭を下ろして細い首に吸い付いた。この首に噛みついてやりたいと思っていた。噛んで吸って、自分の痕を死ぬほどつけてやりたかった。その願望のままに、頸に、鎖骨に、胸にと次から次へと吸い付いては喰み、鬱血痕と歯形を残していく。白い肌が赤い痕に侵されていくのを見ると、腹の奥で暴れ回っている龍の本能が嬉々として飛び跳ねているのがわかった。
──もっと、もっと痕をつけたい。これは俺の番だという証拠を。
歓喜と欲望で、頭が焼き切れそうだった。
柔い乳房を両手で掬い上げるようにして掴み、その中央で震える薄赤い蕾の片方を口に含む。
「──っ、ぁっ……!」
敏感な胸の先を吸い上げられて、ひじりが小さく息を呑んだ。そのささやかな声も丸呑みしたいと思いながら、梅は口の中で乳首を舐め転がした。尖らせた舌先で飴玉のように上下に嬲ってやれば、柔らかかった肉はあっという間に芯を持って硬く尖る。根本からじゅうっと音を立てて吸い上げると、またひじりが嬌声を漏らした。
「ひぅっ……!」
その甘い声に、心臓がドクドクと音を立て、全身の血流が下腹部に集まっていくのを嫌というほど感じる。すでに熱り立っている己のモノが、下穿きを押し上げて苦しいほどだ。もう片方の乳首にも齧り付きながら、梅はひじりの右の太腿の内側を掌で擦った。想像どおりの柔らかな感触に、知らず口元に笑みが浮かぶ。そこにも痕を山のように散らしてやれば、どれほど楽しいだろうか。
この玉のように美しい番の体が、自分の痕と体液に塗れ、しどけなく横たわる姿を想像するだけで、高笑いしたくなるほど気持ちが高揚する。もはやまともな人間の思考ではないことは感じていたが、それを抑える理性はとうに吹き飛んでしまっていた。
「ゃぁっ……、梅、さん、そんな、吸ったら……」
切なそうな番の声に我に返ると、弄り倒していた乳房は鬱血痕だらけになり、きつく吸われた乳首が真っ赤になって震えていた。小さな突起が自分の唾液にてらてらと光る様が愛しくて、梅はそれを指で弾く。するとそれに呼応するように、ひじりの体がピクピクと揺れた。
「う、めさん、それ、変になるからやだぁ……」
「変でいい。もっとなれ、ひじり」
ひじりの体温が上がって、皮膚がしっとりとし始めている。番の番が快楽に溶け出したのを感じて、胸の中で悦びが膨らんだ。その歓喜に浮かされるように、梅はひじりの膝を掴んで脚を開かせる。
「あっ……!」
ひじりが焦ったように小さく叫んだが、その声すらもう耳に入ってこなかった。
むっちりと伸びる両脚の付け根では、柔らかそうな下生えがうっすらと恥丘を覆い、その下にきれいな桃色をした花弁が見える。まだ触れられていないそれはぴっちりと閉じたままだが、じわりと愛蜜が溢れ出ていた。
興奮で目眩がしそうだった。だが目眩など起こしている時間がもったいない。
梅は開いた内腿に口づける。柔らかい肉を喰み、その皮膚を味わいながら、そこにもたくさんの痕をつけていった。彼女の全身を自分の痕で埋め尽くしてやりたい。
欲望に浮かされるまま、梅は両手の親指で花弁を割り開き、淫溝にむしゃぶりつく。舌の腹を使って溝をなぞると、愛液の甘さを味蕾が捉えた。
(ああ、甘い……)
彼女はどこもかしこも甘かった。よく熟れた果実のようなその味に、脳が酩酊していく。もっと味わいたくて、蜜口へと舌を沈め、穿るようにして動かした。そうしているとちょうど鼻先にコリッとした感触がして視線を下げると、皮膜を被った陰核が見える。半分だけ顔を覗かせるその小さな蕾が可愛くて、梅はそれを撫でるように鼻先を押し付けた。すると、途端にひじりの体が跳ねた。
「ひぁっ……!」
明らかに快楽を伴った悲鳴に、梅は嬉しくなってそれを中心的に弄ろうと決める。
蜜筒の浅い場所を舐めていた舌を引き抜くと、陰核を口の中に含んで舌先で蹂躙する。
「ぁ、ああっ、ぁんっ……っあ、ダメ、梅さん、それ、だめぇ……!」
嬌声は高くなり、彼女の体温がどんどんと上がっていくのがわかった。その熱さを直に感じたくて、梅は蜜口に指を挿し入れる。にゅぷり、と長い指を受け入れたそこは、想像以上に熱く、そしてたっぷりと濡れていた。梅の指を歓迎するようにうねうねと蠢く媚襞に、腰がずくりと疼く。滾りきった肉棒が、そこに挿入れろと狂ったように叫ぶのを感じながら、梅は陰核をしゃぶり続けた。執拗な愛撫に、愛液があとからあとから湧き出て溢れ、梅の手首まで垂れていく。ひじりの呼吸は甘く荒くなっていき、両脚がブルブルと震え始めた。
「あ、ああ……んっ……、あ、も、……」
悩ましい嬌声が細くなり、掠れていく。
彼女の絶頂が近いことを察し、梅は指で陰核の皮を剥くと、露呈した小さな蕾に犬歯を当てる。
「ひぁああッ……!」
その瞬間、身を弓形にしてビクビクと体を痙攣させ、ひじりが高みに駆け上がった。
どぷりとさらに大量の愛液が溢れ、媚肉が梅の指を食い締める。その感触にもう一度ごくりと唾を呑み、梅は泥濘から指を引き抜いた。
ひじりは絶頂の余韻の中にあるのか、ぼうっとした眼差しでこちらを見上げている。張り詰めた四肢がゆっくりと弛緩していくのを待って、梅は彼女の脚の間に陣取った。着ている物の前を寛げると、勃起しきった肉竿がブルンと勢いよく飛び出してくる。太い血管が脈打って揺れる様は、まるで生きた獣だ。待ちきれないとばかりに先走りが溢れさせる鈴口を、絶頂の余韻に震える蜜口へとあてがった。
「あ……」
ひじりがどこかうっとりとした表情で、窺うような眼差しを向けてきたので、梅は短く宣言した。
「挿入れるぞ」
もう、我慢の限界だった。
彼女が「やめて」と言っても、もう遅い。もう無理だ。
昂る欲望のままに、己の凶暴な雄で番の雌孔を穿った。
「ああッ……!」
ひと突きで最奥まで抉られた衝撃に、ひじりが顎を仰け反らせて海老反りになる。
「……ッ」
梅もまた息を詰めて動きを止めた。
熟れて熱い彼女の膣内の心地好さに、腰が溶けそうだ。
気持ち好い。頭がどうかなってしまいそうなほどの快楽だった。拳で握られているかのような締め付けなのに、柔らかく熱く蠕動して梅の剛直を歓待している。
だが、梅を襲っていたのは、肉の快楽だけではなかった。
番と一つになれた。千年以上もの長い間、恋焦がれたその人と、ようやく一つになれたという感動で、動けなくなっていた。
じわりと瞼が熱くなり、涙がボロリと溢れ出て、ひじりの頬の上に落ちる。
悩ましげに目を閉じていた彼女が、その感触に瞼を開いた。
「……うめ、さん……?」
ひじりは梅が泣いているのを見て、驚いたように目を丸くする。
「泣いてるの……? どうして……、何が、悲しいの?」
「……違う。頭がおかしくなりそうなほど、嬉しいんだ。君を、抱いている。ああ、夢みたいだ……」
そう答えながらも、涙がぼたぼたと溢れていく。