互いの利益のため、学生時代の友人でイケメン御曹司の片倉涼太と〝契約結婚〟することになった果歩。男性との経験もないまま人妻になってしまうけど、初めてのキスも触れ合いも、全部、涼太が優しく淫らに教えてくれる。まるで愛されているかのような溺愛の日々に、偽りの結婚だとわかっていながらも惹かれる気持ちが止められなくて……。
背後から果歩を抱え込むようにして湯をちゃぷちゃぷと揺らした涼太はご機嫌である。
(どこを見たらいいのかもわからないのに……)
浴槽につかる以上、タオルを巻くという選択肢はありえないという涼太の説得により、どちらも何も身に着けていない。
それだけに、直接感じてしまうのだ。
背中を預けている彼の胸だの、抱きしめてくる腕の感触だのを。
うかつに視線をめぐらせれば、目に入れてはいけないものまで入れてしまいそうで、果歩の視線は前方に固定されたままだ。
一緒に温泉に入りたいとは言われたが、またいつかのことだと思っていた。
「今度、旅行に行った時──と思っていただろ」
後ろからささやきかけられ、果歩は肩を跳ね上げた。
「べ、別に……」
むっとしたのが声に出ていないか心配だ。
正直に言えば、ちょっと騙されたとは思っている。
触れ合うことに多少、慣れたとはいえ、二人でのお風呂はハードルが高い。
また今度で流そうとした自分も悪いという自覚があるので、本気で怒っているわけではないけれど。
「でも、こんなこと自分の家じゃできないだろ?」
「え? ……ちょ、ちょっと待って! あんっ!」
先ほどから、嫌な予感がしていたといえばしていたのは否定できない。
だって、腰のあたりに何か当たっている──と思えば、その先は予想がつくというものだ。
本当の意味で結ばれたのは先日のことだが、結婚して以来、いちゃいちゃ──毎日のように身体を重ね合わせているから、そのあたりはすっかり詳しくなってしまった。
「だ、だめだって……ん、んんぅ──」
背後から果歩のお腹を押さえていたはずの手が、いつの間にか両胸に回っている。
腰に押し付けられている涼太自身はすっかり準備が整っているようだ。果歩を煽ろうとしているのか、また強く押し付けられる。
「こ、ここ外でしょう……そういうことはちょっと……」
「ちょっと? 何?」
きゅっと両胸の頂をひねられるのと同時に、耳朶をぱくりとくわえられる。ぞくぞくっとしたのを隠すように身体をひねったけれど、逃げられるはずもなかった。
「こ、声……出ちゃう……!」
「安心しろ。敷地内にいるのは俺達だけだ」
「そういう問題じゃ──あんっ」
たしかに、この別荘の敷地は広い。多少声を上げたところで、誰かに聞かれる可能性は低いだろう。けれどそれとこれとは別問題だ。
いけないことをしていると思うからか、身体の奥がどんどん熱くなってくる。
「お礼をしてくれるんだろ?」
「こ、こういうつもりじゃ──!」
果歩が了承したのは、一緒に露天風呂に入るところまでだったはずだ。ここでの不埒な行為にまで同意したつもりはない。
だが、涼太の方は譲歩してくれるつもりはまったくないようだ。左手で乳房を揉みしだきながら、右手をそろそろと脚の間に滑り込ませてくる。
「こういうつもりって、どんなつもり? ここは、そうは言っていないみたいだけどな」
「いじわるっ!」
首を振るけれど、逃げられるはずはない。
こういう時、涼太は非常に意地が悪いのだ。果歩の経験が浅いのをいいことに、全部教え込もうとしているようだ。
(……だって、こんなの)
今までの経験から、意地を張っていてもろくなことにはならないのはわかっている。
花弁の間を指がさまよい、湯とは違うぬめりを感じ取ったらしく、首筋に軽く歯を立てられる。
「濡れてる」
「……言わないで……! あっ、あっ、ん、ぁっ!」
硬くなり始めた花芽を指の先でつつかれ、声を上げそうになってしまう。慌てて口を閉じたけれど、声を殺すことはできなかった。
「ここ。ここも硬くなり始めてる」
「だから、言わないでって──あんっ!」
こんなに自分は快感に弱かっただろうか。膝を懸命に擦り合わせようとするけれど、涼太の膝が割り込んでくるのが先だった。
「果歩とここでしたかったんだよ。こういうのってものすごくエロい──」
「知らないっ!」
手を涼太の腿に突っぱねて抜け出そうとするけれど、胸の先端を指で押し込まれたら、とたんに力が抜けた。
視線を落とせば、涼太の手の中で乳房が形を変えているのがよくわかる。外から内へ抉り込むように、寄せられ、そのまま大きく広げた手の中でつぶされる。
鈍い痛みもまた、快感に塗り替えられた。
「んぅ……だ、だって……あっ、んんんっ!」
このまま、自由に声を上げてしまったらきっと楽になれるだろう。でも、羞恥の念がそれを押しとどめる。
「いいこと教えてあげようか。そうやって、我慢していた方が感じやすいって知ってた?」
「し、知らな……い……ふ……あぁ……!」
湯の中で、つま先を丸めたりそらしたり。
すっかり硬くなった淫核を、次から次へと指の先が撫でていく。親指、人差し指、中指、薬指、小指──そして、今度は小指、薬指と戻ってくる。
「んっ、ふっ、あぁ……あ、あ、あぁっ!」
触れる指が変わるたびに、刺激される場所が微妙にずれる。そのたびにお腹の奥にずしんと大きな快感が押し寄せて、喘ぐことしかできなくなる。
いつの間にか、ここが外だとか、入浴中であるとか、頭から完全に抜け落ちていた。背中を涼太の胸に預けてしまい、より深い快感を得ようと腰が浮く。
「……涼太……も、だめ……」
指を二本突き立てるのと同時に、秘芽を親指で押さえられて、あっけなくのぼりつめてしまった。がくりと力が抜けて、はぁはぁと荒い息をつく。
「お礼をしてくれるんじゃなかったっけ?」
この期に及んで、まだそんなことを言うのか。肩越しに涙交じりの目で見上げれば、くくっと喉の奥で笑われた。なんだか妙に腹が立つ。
「……じゃあ、どうしたらいいの?」
「こっち向いて」
涼太の膝の上で向きを変えさせられる。先ほどまで背中を預けていたのが、今度は向かい合う形になった。
彼にまたがっている形になっているから、下腹部に当たるそれが気になってしかたない。見下ろすわけにもいかず、かといって正面から涼太と顔を合わせるのも恥ずかしくて、視線をさまよわせる。
「入れて」
それなのに、涼太はまた無茶苦茶な注文を追加してきた。入れてってどういうことだ。
「果歩の手で、俺をちゃんと入れて。全部」
「い、入れてって!」
かぁっと頬が熱くなった。何を要求されているのか、わかってしまったから。
正面を見ればすぐそこに、眼鏡を外した涼太の顔があるし、視線を下ろせば見えなくてもいいものが見えてしまう。
困ってしまって、顔を横に向けたら、耳に唇が寄せられた。
「お礼、してほしいな?」
耳元で艶めいた声でささやかれ、ドキリとする。そのささやきは、甘美な快楽への呼び水みたいなものだった。
お礼をすると言った過去の自分を止めたい。こんな淫らなことを要求されるとは思ってもいなかった。
──問題なのは。
先ほどから愛撫で、果歩の身体もうずき始めているということだ。
湯の中で押し付けられる剛直は、湯よりも熱くて、それを体内に招き入れたらどれだけの快感を得られるのだろうと思うとぞくぞくしてしまう。
自分が、こんなにもはしたなくなるなんて、想像もしていなかった。
「ほら、早く」
本当に、意地が悪い──。果歩がもじもじしているのさえ、きっと楽しんでいる。
わずかに腰を浮かせ、そのまま腰を落とそうとする。けれど、つるりとそれは滑ってしまって、体内に招き入れることはできなかった。
「──あっ」
漏れたのは、物足りなさそうな声。耳のすぐ近くで、小さく笑う声がする。
「だめだよ、ちゃんと握らないと入らない」
「……うぅ」
自分からそれに触れたことは、ほとんどない。そっと手を添えれば、ぴくりと跳ねる。
「無理?」
「無理……じゃない……」
たぶん、本当に果歩が嫌がっていると思えば、涼太はこれ以上はさせないだろう。今、無理かとたずねたのもその証拠だ。
でも、それでは果歩の気がおさまらない。
「は──あぁ」
先ほどと同じように腰を浮かせ、慎重に入り口にあてがう。それだけで奥の方がきゅんとするのがわかった。
自分でも、彼を欲しがっている。
「あっ……ん……あぁぁ……大き、い……」
受け入れることには慣れたはずなのに、今日はいつもより一回り大きく感じる。じりじりと内部を押し広げられていく感覚に、ほうっと息をついた。
最奥まで呑み込んだのはいいけれど、そこから先どうしたらいいかわからなくなる。もぞもぞと腰を動かしたら、思ってもみなかったところを擦り上げられた。
「んっ……も、やだぁ……」
「上手にできました」
鼻の先にキスされて、なんだかあやされているような気分に陥る。
「……どうしたらいいの?」
「そのままでいい。果歩は、そのまま──俺につかまってて」
「あぁっ!」
ぐっと下から突き上げられて、今まで知らなかった場所を刺激される。果歩の方が上にいるから、いつもとは体勢が違うというのもあるのだろう。
力強く突き上げたかと思ったら、今度は腰を押さえて小刻みに揺さぶってくる。ぱしゃぱしゃと跳ねる湯が肌をなぞる感覚さえも快感に変化した。
「はぁっ……あ、あぁっ」
誰も聞こえる範囲にいないとはいっても、声を上げるとどうしても気になってしまう。けれど、いつもと違う環境での行為に、内壁も過敏になっているようだ。
腰を固定されて突き上げられ、ここが外だというのも忘れて淫らな声を響かせてしまう。
「あ──だめ、いっちゃう……!」
先に降参したのは果歩だった。こんなに奥まで抉られて、あっという間に達しなかったらどうかしている。
突き上げられるたびに下半身全体に痺れが走って、腰骨が溶けそうだと感じるほどだ。開かれた膝の先、つま先がぴんと反り返って、絶頂を目指して一気に駆け上がる。
「いく、いく、から──!」
「いいよ、先にいって。次は、俺も一緒にいくから」
それなのに、涼太の方はまだまだ余裕らしい。
達してしまった果歩が、首を振るのもかまわず、腰を引き寄せ、激しく腰を使い始める。湯が溢れているのもまったく気にならないようだ。
「やぁ、無理、無理だって、ば……!」