その可愛い声で俺の名を呼べ
冷徹無慈悲な黒騎士様×落ちこぼれ魔術師
失意の底だった前世から、乙女ゲームの最弱魔術師に転生したユノ。今度こそ成り上がろうと、推しキャラではない不遜な騎士・レオンに極秘任務で接近するが、彼とは魔力を増強し合える「つがい」だと発覚。するとレオンは、周囲を顧みず蕩けるキスで魔力を注いできて!? 際限なく求めてくる彼に愛を囁かれ、初めて知る熱情に陥落しそうになり――。
本作品はWeb上で発表された『ツンデレ騎士は運命の乙女魔術師を溺愛する』に、大幅に加筆・修正を加え改題したものです。
きっとチャームがかかったレオンは、魔獣みたいに懐柔されるはず。
任務を放り出して、ユノに撫でられながら自堕落に過ごすだけだろう。そうなれば団長の地位は剥奪されるだろうから「堕落させる」という当初の目的を果たせる。
そういえば魔術師長は、現在の団長であるレオンがその地位にふさわしくないと言っていたが、本当にそうなのかという疑問があらためて湧く。
乙女ゲームでも彼は悪そうな男だったが、思い描いていた典型的な悪者かというと違う気もする。
今日は一日、黒騎士団の団長補佐として働いたが、レオンは団員たちの信頼が厚いとわかった。
彼らに適切に指示を出し、ユノや団員たちを守るように最前列に出ていた。卑怯や怠惰とは無縁で、まさに最強の騎士団のトップとして遜色ない。彼のどこが団長にふさわしくないといえるのだろうか……。
疑問に思ったが、ユノはかぶりを振る。
考えてはいけない。ユノが知らなくてもよい上層部の意見なのだ。
いまさら引き返すなんてできない。
それに、ユノには極秘任務を成功させなければならない理由がある。
前世でも結果を出せなかったのに、転生してもまた同じような末路を辿りたくない。
この世界ではっきりと意思と夢を持てたのだ。
いつまでもFランクの乙女魔術師で馬鹿にされていたくない。どうしても、Aランクの賢者に昇格したい。
そうなれば堂々と故郷の村に帰り、両親に「私、賢者なんだよ」と報告できる。
自分には隠された実力がある。それがついに証明されるときがやってきたのだ。このチャンスを逃すわけにはいかない。この世界でのユノの夢を叶えたかった。
報われるには、今しかない――。
迷いを振り払ったユノは、きつく拳を握りしめる。
足を踏み出し、そっと自室の扉を開いた。廊下を忍び足で歩き、隣の部屋の扉に耳をくっつける。
室内から物音はしない。もうレオンは眠っているようだ。
けれど少しの物音でも彼は起きるから、油断しないよう気をつけよう。こちらを見たら、すぐにチャームをかけよう。
魔力は漲っている。きっと大丈夫。成功する。
ドキドキと早鐘のごとく心臓が鳴り響くのを感じながら、ユノは扉を開ける。
そうっと裸足で室内に踏み込む。
ところが、応接室の隣にある寝室からは、明かりが漏れていた。
ぎくりとしたユノは足を止める。
えっ……起きてるの?
息を吞んだそのとき、フッと明かりが消えた。
レオンが蠟燭を吹き消したようだ。
どうしよう。
でも、ここで引き返すわけにもいかない。
それにどうせチャームをかけるには、目を合わせなければならないのだから、相手が覚醒していたほうが好都合とも考えられる。
行くしかない。
覚悟を決めたユノは、足を進めた。
寝室を覗くと、仰臥しているレオンがふとこちらを向く。これから眠るところだったらしい。
「……ユノ? どうした」
彼はぼんやりしているようだ。
これは絶好のチャンスだ。
ユノはレオンを驚かせないよう、そっと近づく。
「あ、あの、眠れなくて……」
緊張で声が震えた。
両手を伸ばし、レオンの肩を押さえつけて起き上がれないようにする。
「ん……? 添い寝か?」
「えっと……」
そのままベッドに乗り上げて、彼の腹に跨がった。
大胆な仕草に、仰臥しているレオンは驚いたように瞠目する。
ふたりの視線は完全に合っている。
――今だ!
ユノは体中の魔力を振り絞った。
「私を、好きになりなさい」
呪文を唱え、チャームの魔法が放たれた。
レオンの黒曜石のような双眸が閃く。すぐに彼の目は、とろんとして瞼が重くなる。
ごくりとユノが唾を吞み込む。
すると、ぼうっとした彼は、低い声でつぶやいた。
「……好きだ」
その言葉に、ユノは目を見開く。
成功した――!
胸には驚きや喜びが湧き立った。
よかった。レオンはチャームにかかった。極秘任務は成功したのだ。
ほうっと安堵の息をついたユノだが、レオンに手を回されて首の後ろを押さえられる。
「えっ?」
彼は悠々と体を起こした。
ユノが肩を押さえる力など、まるで赤子のように非力だったとわかった。
「好きだ。キスしよう」
「えっ、ちょっ」
戸惑っているうちに、強引に唇を合わせられる。
ちゅ、ちゅ、と音を立てて吸われ、舌が口腔にもぐり込む。
濡れた舌が、怯えて縮こまる舌を掬い上げた。濃密に絡め合わせると、そこから魔力を注入される。
「ん……んっ……」
今のチャームですべての魔力を使い果たしたユノに対し、レオンも任務のときに一度魔力は底を尽いている。わずかに彼の魔力が流れ込んでくる感触があるが、ほとんどただのキス同然だった。
それなのにいつしかユノは夢中になり、雄々しい舌を貪るように吸っていた。
キスをしながら、抱きしめられたユノの体が、とさりとベッドのシーツに横たえられる。
その感触に気づいたユノは、はっとした。
「あ……」
顔を背けて、濃密なキスから逃れる。
なんでキスしてるの……?
いつの間にか、レオンの強靱な体に伸しかかられる格好になっていた。しかも彼は上半身が裸で、剛健な肉体をさらしている。貞操の危機を感じたが、キスをしたせいか体が熱くなっている。
レオンは組み伏せたユノの首筋に、くちづけを落としている。
押しのけようとして肩に手をやったが、びくともしなかった。
「あの、レオン。魔力はお互い空なんですから、もういいです。離してください」
「断る」
「えっ」
「好きだ。抱きたい」
「ええ……?」
直截に言われて、ユノは困惑した。
冗談で夜這いとレオンは言っていたけれど、『聖なる魔法と愛のつがい』は健全な展開のみで、攻略対象とのキスすらなかった。でも転生したこの世界は、用意されたゲームストーリーとは違うのだと認識する。だからこそ、本当はモブのユノがレオンとつがいになっているのだ。
このままでは抱かれてしまう。レオンと体を重ねるなんて、まったく予想していなかった。
それに魔獣と違って、好きの濃度が多すぎる気がする。
魔獣はなんでもユノの言うことを聞いてくれたが、レオンの場合は逆に指示してくるので困ってしまう。強靱な体の下で、じたばたとユノはもがく。
「それはダメ! 主人として命令します。私を離しなさい!」
「断る。抱いたら離してやる」
即座に一蹴されて啞然となる。
これではどちらが主人なのかわからない。魔獣とは勝手が違いすぎる。
レオンはユノを主人としては考えていないらしく、ユノの命令に従ってくれない。それも彼の傲岸な性格ゆえなのか。
暴れるほどネグリジェの裾が捲れ上がってしまい、レオンはそこからするりと手を入れる。
肌に直接触れられて、びくんと肩が揺れた。
レオンはとろみのある甘く低い声音で鼓膜を揺らす。
「優しくする。心配するな」
彼の穏やかな声が戸惑いを霧散する。
ユノは暴れていた手を止めた。
その手に大きなてのひらを重ねたレオンは、ぎゅっと指と指を絡めてつなぐ。まるで恋人のように。
「好きだ。おまえは?」
「え……私は……その……」
答えに迷っているうちに、レオンはネグリジェを脱がせる。下着を身につけていないので、ユノは一糸まとわぬ姿になってしまった。
恥ずかしくて身を捩ると、レオンに手首を取られてシーツに縫い止められる。
彼はユノの裸身を見下ろすと、ほうと息をついた。
「綺麗だ。まるで女神のようだな」
「そ、そんなわけ……」
チャームの魔法の効果は絶大だ。
もし素のレオンだったなら、ユノを女神のようだなんて絶賛するはずがない。もちろん、好きだなんて何度も言うはずもないし、こんなふうに体を求めるのもチャームによるものなのだ。先ほど喧嘩をしたばかりなのに、彼はそんなことも忘れてしまったようだから。
こうなったらレオンの求めに応じるのは仕方ないと、ユノは腹をくくった。ここで頑なに拒絶したら、堕落するまで持ちこたえられないかもしれないからだ。
どうせチャームを解除したら、レオンはなんとも思わないに違いない。
そう、賢者になるためなんだから、処女を失うくらいどうってこと……ないよね?
納得しつつも困惑が胸を占め、綯い交ぜになる。
だけどレオンの手や唇に触れられたところが熱くて、なにも考えられなくなる。
乳房を揉まれて、紅い突起にくちづけられると、鼻にかかった甘い声が漏れた。
「あっ……ん」
「いい声だ。もっと啼かせたくなる」
チュッ、チュと執拗に胸の頂にキスされて、体の奥からとろりとしたものが溢れてくる。
レオンは胸の狭間に顔を埋めて淡いくちづけの痕をつけると、乳房や二の腕の内側など柔らかいところにも次々に赤い花びらを散らせた。
しかも彼の大きなてのひらがユノの肌を撫で下ろしていくので、触れられたところが疼くような感じがする。
「あ、ぁ……んん……」
悶えたユノは身を捩らせるものの、強靱な体に抱き込まれているので逃げることが叶わない。
レオンの唇は腹から太股の内側に下りていき、際どい箇所に所有の徴をつけていく。体中にキスされて、ユノの体は蕩かされていった。
ぐいと両脚を掲げられ、大きく広げられる。
こんな恥ずかしい格好をするなんて、羞恥で顔が熱くなる。
股の間のレオンの顔を見られずに目を逸らしていると、ぬるりと秘所に生温かいものが触れた。
それがレオンの舌だとわかり、ユノは動揺する。
「や、やだ、そんなところ、汚い……」
「汚くない。それに、俺の太いのを挿れるんだからな。しっかり舐めてほぐさないといけない」
ぬるぬると、雄々しい舌は花襞と蜜口を舐め上げる。
蜜口からは、とろりとした愛液がこぼれた。それをレオンは卑猥な音を立てて啜り上げる。
「ひ……ひぁ……」
初めて知る官能のかけらに、体が引き絞られるような感覚がする。
もどかしさを覚えたユノは、踵でシーツを蹴りつける。
だがそうするほどに身のうちに芽生えた肉欲はいっそう昂り、男の獰猛な舌はさらに卑猥に蠢いた。
「ん、ん……やぁ……」
「痛いか?」
「んっ……痛くない、けど……なんだか体が変な感じで……」
舌で濃密に愛撫されるほど、下腹の奥から焦燥めいたものが迫り上がってくる。
それがもどかしくて、たまらない。
ぬくっと蜜口の奥に舌を挿し入れられると、疼いた隘路は花蜜を滴らせる。
「それでいいんだ。すぐに気持ちいいと感じるようになる。こんなに蜜を垂らしているんだからな」
「よく、わからない……」
これが気持ちいいという感覚なのだろうか。
滑らかなレオンの舌は天鵞絨みたいな心地よさを覚えた。
彼の舌が隘路を舐め上げるたびに、甘い官能が湧き上がってくる。
ユノは陶然として勇猛な雄の舌を受け入れた。
ねっとりと花筒をほぐしてから、蜜口を丁寧に舐っていく。そうしてから、また奥へと挿し入れられた。