会社の屋上で見つけたノートで、謎の人物と文通を楽しんでいた京香。ある日、文通相手の正体が、酔ったはずみで一夜を共にした上司・冬威であることを知ってしまう! 彼を知るほどに恋心がどんどん大きくなっていくけれど、一流建築士かつ大企業の御曹司である冬威とは釣り合わない――なのに、彼はここぞとばかりにぐいぐい迫ってきて・・・・・・!?
「俺を聖人だと思うと後悔するぞ」
「……後悔なんてしません」
京香は挑みかかるつもりで、藤ヶ谷の双眸をまっすぐに見据えた。
とんでもないことを言っているという自覚はある。これでは抱いてほしいと言っているようなものだ。今後も毎日顔を合わせる直属の上司に。住む世界が違う御曹司に。
たぶん、まだ酔っているのだろう。その上、彼の優しさにほだされて、自分を受け入れてもらいたくなっている。
「本当にいいんだな?」
ふたたびベッドに腰かけた彼が、ネクタイを緩めつつ耳元で囁く。耳の産毛をあたたかな息が揺らし、京香は震えながら頷いた。
「んっ」
さっそく耳を軽く吸い立てられて、びくりと身体が揺れた。その唇が首筋をたどり、ブラウスの襟元から覗く鎖骨に触れる。骨ばった手が腰に回された瞬間、京香は彼の手を掴んだ。
「待ってください。シャワーを浴びないと」
「一緒に浴びるか?」
妖艶な声が首筋で響き、ぞわりとする。
「それはさすがに……」
「俺はこのままでも一向に構わない。君の匂いだけで興奮する」
欲望に満ちた眼差しを向けられ、ぞくぞくと背中を震えが這い上がった。普段は冷静で取り澄ました彼が、こんな口を利くなんて……
その言葉のとおり、藤ヶ谷が京香の肩を抱き、うなじに鼻を深く突っ込んできた。京香は彼の胸を両手で押す。
「や、やっぱりシャワーを浴びたいです」
「オーケー」
藤ヶ谷が返事をした直後、身体が宙に浮いて京香は小さく悲鳴を上げた。
縦に抱き上げられ、運ばれていく先には脱衣所があり、その奥にガラス張りのバスルームが見える。
そのまま脱衣所へと入り、大理石でできた洗面台の上に座らされた。少し身を屈めた彼が、すぐにキスをしてくる。吐息が頬を撫で、大きな手が服の上から腰をまさぐり、そしてバストへと滑り上がる。ゆっくりと味わうような動きだ。彼の吐息が徐々に荒くなっていくのにも、官能を揺さぶられる。
「んふっ……」
スーツの上から胸の中心を引っ掻かれ、おかしな声が出た。こういう男女の親密な行為は久しぶりで、ちょっと首や背中に触れられただけで反応してしまう。
口づけを交わしながら、彼は京香のスーツをするすると脱がしていった。ジャケット、スカート、プラウス、ストッキングと順に剥ぎ取られ、あれよという間に下着だけになる。
(部長、やっぱり慣れてる……)
一瞬、胸にちくりと痛みが走ったが、彼ほどの男なら仕方がない。この部屋にしたって、ひとりやふたりはいるだろう特別な女性を相手にするために、契約しているのかもしれないのだから。
藤ヶ谷が京香を脱がすのと同時に、京香も彼のスーツを脱がしにかかっていた。しかし、こちらは不慣れなせいでだいぶ苦戦している。上等なスーツだけに、爪を引っかけてしまうのが怖いのだ。
「俺がやるよ」
唇を離して彼が囁く。とても顔なんて見られなくて、京香はごまかし半分にヘアゴムで髪を結んだ。
「すみません。もたもたして」
藤ヶ谷は自分でシャツのボタンを外している。頭の上のほうから、くすりと笑う声が聞こえた。
「そういうところだぞ」
「え?」
「君がかわいくて堪らなくなる」
顔を上げたところ、濡れた唇に官能的な笑みを浮かべる彼の顔が目に入った。その瞬間、彼の肩からシャツが滑り落ち、思わず息をのむ。
顕わになった藤ヶ谷の肉体は、元水泳選手だけあって均整の取れた逆三角形をしていた。肌の色は浅黒い。肩幅は想像していたよりもずっと広く、こんもりとした胸はきれいな半球型だ。
けれど、何より素晴らしいのは美しく割れた腹筋だろう。それは彼の動きに合わせて皮膚の下で躍動し、見事なシックスパックを作った。
「おいで」
トラウザーズとボクサーショーツを脱ぎ、一糸まとわぬ姿になった彼が手を差し伸べる。京香が洗面台から下りると、すぐに抱きしめられた。肌のぬくもりよりもさらに体温の高い、彼の身体の中心部がお腹に当たる。
京香は唾をのみ込んだ。彼がショーツを脱いだ時には、恥ずかしさのあまり顔を背けていた。でも、見なくてもわかる。彼のそこは鋼鉄のごとく硬く張り詰め、先端にはすでに露が溢れているはず。
「部長」
京香は震える声で呟いて、筋肉質な藤ヶ谷の胸のあいだに顔をうずめた。彼の力強い鼓動は、京香のそれよりもずいぶんとゆっくりだ。額の生え際を撫でられ上を向いたところ、端整な顔が視界に飛び込んでくる。
「どうした? やっぱりやめるか?」
わずかに眉を顰めて彼は尋ねた。本来は自信に満ちた瞳が揺れている。
「大丈夫です」
京香ははっきりと首を横に振った。そして、なだらかな筋肉の起伏を確かめるように、彼の背中に指を這わせる。
彼みたいな人が、こんな平凡な自分に対して欲情しているのが信じられなかった。それと、こういうことがあまりにも久しぶりで、ちゃんとできるか自信がない。
戸惑う京香の気持ちを置き去りにして、藤ヶ谷はブラジャーのホックに手を掛けた。それはすぐに外され、ぱさりと床に落とされる。冷えた空気に乳房が触れた途端、その頂がじんと痺れて硬くなった。
「きれいだ」
彼の熱い視線がまっすぐに射貫いてくる。京香は耐え兼ねて俯いた。すると、片方の乳房が大きくあたたかな手に包まれる。
「あ……はっ……」
頂を指で弾かれた瞬間、吐息を洩らして背中を反らした。ついさきほどまでは上司だった相手だ。甘い声を聞かれた恥ずかしさに、顔から火が出るかと思う。
自分では十人並みだと思っているバストを、藤ヶ谷はゆっくり味わうかのごとく揉みしだいた。時折、硬く尖った先端を摘んだり、手のひらで転がされるたびに、秘密の場所が潤っていくのがわかる。だから、彼のもう一方の手がショーツの中に忍び込もうとしたとき、京香は思わず腰を引いた。
「自分で脱ぎます」
藤ヶ谷に背を向けて、レースのショーツを下ろす。それを足から抜いた途端に後ろから抱きしめられ、心臓が跳ねた。
「橘」
「部長……」
背の高い彼の昂りが、腰のあたりで強く脈打っている。それに負けじと、京香の胸が狂おしく高鳴る。
彼の無骨な手が、京香の下腹をゆるゆると撫でた。それが徐々に下へと向かい、柔らかな秘丘の内側へと滑り込む。谷間をぬるりと撫でられた瞬間、雷にでも打たれたかのようにびくりとした。
「あっ……だ、だめっ……」
腰を折り曲げ、藤ヶ谷の手首を掴む。彼はそれをものともせず、蜜を纏わせた指でくちくちと泉のほとりを愛撫した。
「すごいな……もうこんなに濡れてるのか」
囁きとともに、荒々しい吐息が首筋に掛かる。彼の言う通り、京香の下草の奥は淫らな蜜が零れんばかりに溢れていた。彼の長い指でそこを撫でられるたび、ぞくぞくと甘い快感が這い上がる。
「んあっ……あっ……恥ずかしいっ……」
「かわいい……早く抱きたくて堪らない」
藤ヶ谷が首を伸ばして噛みつくようなキスをしてくる。すぐに舌が捻じ込まれ、京香は彼の期待に応えようと懸命に舌を伸ばした。
深く舌を絡ませあった状態で、ふたりはガラス張りのバスルームに足を踏み入れた。
彼が手探りでシャワーのコックを捻る。藤ヶ谷がふたりまとめて身体を流し、泡状のボディソープを手に取って後ろから抱きすくめる。
「ん……」
香りよく濃密な泡が、京香の身体の上をするすると滑った。くすぐったいような、心地いいような。恋人同士のじゃれあいみたいで、なんだかこそばゆい。
「気持ちいい?」
藤ヶ谷が低くかすれた声で尋ねてくる。
「はい。でも、ちょっとくすぐったいです」
「そうか。じゃあこれは?」
彼がそう言って、胸の頂をきゅっと押し潰す。
「ふぁっ」
思わず仰け反ると、満足したような笑い声がうなじをくすぐった。
「いい声だ」
彼は味を占めたのか、両手でやわやわと乳房を揉みしだきつつ、繰り返し乳首を優しくしごく。そうしながらも、昂った自分自身を腰に押しつけてくるので堪らない。
「ん……だめ……そんなにしちゃあ」
京香はもじもじと太腿をこすり合わせた。すっかりずぶ濡れになった秘所が、さっきから何かを欲しがるように疼いている。すると、下腹へ向かって伸びた藤ヶ谷の一方の指が、いきなり最も敏感な蕾を撫でた。
「はあぁんっ!」
鋭い快感に全身を貫かれ、京香は背中を弓なりにした。乳首に触れられた時とは違う、獰猛で直接的な快楽だ。指の腹で円を描くように、優しい愛撫が繰り返される。じわじわと重なる快感が、身体の奥に灯った快楽の火種を増幅させていく。
「あっ、はあっ……そこはっ」
甘すぎる責め苦から逃れようと、京香は身をよじった。その拍子によろけて浴室の壁にもたれかかるが、藤ヶ谷は愛撫をやめない。
「橘……気持ちよかったらちゃんと言ってくれ」
耳に掛かる彼の息遣いが荒々しい。いつも冷静な彼にこんな一面があるとは、一体誰が思うだろう。
「ふ……、気持ちいいから……だめなんですっ……」
そう答えつつ、京香は今にも絶頂に達してしまいそうなところで、懸命に踏みとどまっていた。
硬く膨れた蕾が、指の動きに合わせてじんじんと甘く痺れている。あとちょっとこれを続けられたら爆発してしまいそうだ。
しかし、口にしたことで、却って彼のいたずら心に火をつけてしまったらしい。途端に指の動きがスピードを増し、全身がカッと熱くなる。
「あっ、あっ、んんっ——」
のぼりつめる瞬間、声を上げないよう唇を噛んだ。びくびくと痙攣しながら、逞しい腕にすがる。
「はっ……、部長、待って」
すると、指の動きが極々ゆっくりになった。脱力した京香の身体をしっかりと抱きしめて、藤ヶ谷が耳に唇を寄せる。
「もしかして今イッた?」
セクシーな声にぞくりとしてしまう。京香は首を後ろへ曲げて彼をねめつけた。その瞳はいたずらっぽく、エロティックに輝いている。
「もう、いじわるですよ……」
口を尖らせたところに、ちゅ、と音を立てて唇を吸われる。そこから火がついたように口づけを交わし、くるりと回された京香の身体は、藤ヶ谷の厚い胸に抱きしめられた。
急いで泡を流し、脱衣所で互いの身体を拭く。抱き上げられてベッドルームに向かうあいだも断続的にキスは続いていて……。気がつけば、彼とこうすることに慣れてきたと感じる。
京香の身体は、まっさらなシーツの上に優しく横たえられた。
「寒くないか?」
その上を跨ぐようにしてベッドに上がった藤ヶ谷が尋ねる。彼はシーツを腰まで引き上げて、まだ幾分湿り気を帯びた手で京香の肩を撫でた。
「大丈夫です」
京香が返すと、そうか、と頭の上で声がする。首を曲げて見たところ、その手には避妊具と思われる小さな箱が握られていた。まだ透明フィルムで覆われたままのパッケージには『XL』の文字が。
素早く手を伸ばして、藤ヶ谷の手を掴んだ。
「ちょっ……! 待ってください。まっ、まだ心の準備ができてな——」
ぽん、と頭に手を載らせれる。
「用意してるだけだから」
「……ですよね」
そう返したところで、XLの文字を見てしまったあとでは安心なんてできない。シャワーを浴びるあいだも、つい数時間前までひとりの上司だった彼の股間を直視することが憚られて、一度も目を向けられなかった。でも、やはり彼は大きいらしい。お腹や腰に当たる感触から、なんとなく予感はしていたけれど。
ぴりり、とパッケージを切り離す音を、京香はどきどきしながら聞いていた。
「橘」
準備が終わり覆いかぶさってきた彼が、こつんと額をくっつけてくる。その瞳が優しげに揺れた。
「緊張しすぎ。ちゃんと痛くないようにするから安心しろ」
京香はこくりと頷く。
「部長……優しくしてくださいね」
「ん」
彼は応じて、軽くついばむだけの口づけを落とした。一度離れて視線を合わせ、もう一度角度を変えて唇を重ねる。
京香は藤ヶ谷のうなじに腕を回した。重なる素肌がなまめかしくて、鼓動が逸る。期待と緊張が増す。
藤ヶ谷が京香の髪を指ですきながら、額、まぶた、頬と、顔じゅうにキスの雨を降らす。それを京香は嬉しさ半分、不思議な思いで受け止めた。こういうことは、恋人同士が愛を伝えるためにするのだと思っていた。
「あっ……ん」
髪から離れた指が、首筋、喉、乳房へとたどる感触に京香は顎を反らす。大きな手が、脇に流れた乳房を包み込むようにすくい、柔らかさを味わうかのごとく揉みしだいた。中央に絞り寄せ、ぷくりと尖った乳首に息を吹きかけられ、びくびくと震えてしまう。
「感じやすいんだな」
彼の声が楽しそうだ。目を細めて見下ろしてくる視線から逃れたくて、京香は顔を背けた。
「くすぐったがりなんです」
「嬉しいよ。男にモテるだろう」
「まさか」
「謙遜しなくていい。でも今は俺だけを見てくれ。いいね?」
「……はい」
手慣れた様子の割に、時折自信がなさそうなそぶりを見せる藤ヶ谷が、憎らしいような、かわいらしいような。けれど、その思いはすぐに霧散した。笑みを消し、雄の顔をした彼の唇が胸の頂に吸いついたからだ。
「んぁっ……ああ……ん」
えも言われぬ快感が身体の中を突き抜ける。仰け反ったついでに脚が上がった。そこへ彼の膝が滑り込む。
熱のこもった舌先が、京香の乳首をころころと器用に転がした。もう一方の乳首を弄んでいた手が離れ、京香の顎を掴んだ。
「顔を見せて。……エロいな」
藤ヶ谷の上気した頬と不埒なもの言いに、京香はぞくぞくした。
強く握られて立ち上がった乳首が、彼の舌に翻弄されていろいろな方向を向く。ちゅぽ、と唇で優しくしごかれるとどうしようもなく淫らな気持ちになった。
「は……あっ……、部長、気持ち……いいです」
「俺も」
藤ヶ谷が何を言っているのかわからない。え? と問いかけようとすると、身じろぎをした彼が京香の両膝を裏側から押した。彼の視線が脚のあいだに注がれ、羞恥に居たたまれなくなる。
「きれいだ。よく濡れて光ってる」
「そん、な……んあっ!」
藤ヶ谷が秘所に顔を伏せた瞬間、電流が走ったかのごとく強い快感に襲われた。京香は彼の頭を掴み、激しく仰け反っていやいやをした。熱を持った彼の唇が、芯をもって膨らみつつある花蕾に吸いついたのだ。
唇で捏ねられていた肉粒が、ちゅっという音とともに解放される。かと思えば、体勢を整えた彼が、今度は舌先でちろちろとくすぐってくる。外側を覆っている皮膚を押し広げつつ、敏感な核を執拗に舐めるので堪らない。
一旦離れた藤ヶ谷は、指の腹で泉のほとりをくちくちと撫でた。
「ここがひくついてるよ。すごいな……中からどんどん溢れてくる」
「んぅっ、やだ……そんなこと言わないでください」
「どうして?」
京香は激しくかぶりを振る。もう泣きそうだ。
「恥ずかしい……私ばっかり」
脚のあいだで藤ヶ谷がにやりと不敵な笑みを浮かべる。
「君が気持ちよくなれば俺もよくなる。もっと声出して。君をもっと感じさせたい」