ぽっちゃり体型が悩みのOL日葵は、怪我をしたヤクザの獅堂を介抱したことで彼に気に入られた。強く怖く美しい彼は、見た目に反して日葵に美味しい食事を作ったり、過保護に送り迎えをしたりと甲斐甲斐しく溺愛する。「すげえ…この感触、最高だな」と自己肯定感が爆上がりする褒め方で迫ってくる彼に強引に抱かれ、惹かれていくのを止められなくて!?
コン、と音を立てて、獅堂が猪口をテーブルに置く。
「お前、俺の女になれ」
酒を口に含んでいた日葵は思わずむせた。ゲホゲホと咳き込みながら、獅堂のほうを向く。
「はい!? や、ヤクザの女にですか? ……ないない!」
獅堂の目がスッと細くなる。
「俺のこと舐めてんのか?」
「舐めてるんじゃありません。慣れたんです」
「慣れ――」
次の瞬間、獅堂が噴き出した。よっぽどおかしかったのか、腹を抱えて笑い転げている。その姿を見ていたらこっちまでおかしくなり、一緒になって涙が出るまで笑った。
「おもしれえ女だな。ますます気に入った。日葵、今日からここで一緒に暮らせよ。毎日うまいもん食わせてやるから」
「う、うまいもん……?」
思わず喉を鳴らした。はち切れんばかりにお腹が膨れているのに、勝手に口の中に唾液が溢れてくる。
獅堂の薄い唇が横に広がった。
「なんでも好きなものを言えばいい。外で食ってもいいし、俺が作っても構わない。お前が好きな甘いものだって食わせてやる」
「甘いものも!?」
「ああ。食べ放題でも、高級なスイーツを取り寄せてもいいぞ」
日葵の頬を撫でつつ甘言を弄する獅堂を、日葵は崇めるような目で見つめた。
こんな話、『お断り』の一択だと頭ではわかっている。それなのに、どうしても首を横に振ることができない。今夜のすき焼きも生まれてはじめてのおいしさだった。それが毎日。憧れだった高級なスイーツだって食べさせてもらえるかもしれない。
(でも……)
冷静な思考を奪う整った顔から視線を外す。
いくら優しくされても、身なりや暮らしぶりがきちんとしていても、獅堂はヤクザだ。
おいしい話には裏があるし、彼のことをまだほとんど知らない。頷いたが最後、いいように弄ばれたり、金づるとして風俗で働かされる可能性もあるのだ。
日葵は彼を、探るような上目遣いで見た。
「あのー……それって、タダじゃないですよね? もしかして、お金ですか? それか、臓器とか」
「金も臓器もいらねえよ。ただし――」
「あっ」
いきなり肩を押されて、ソファに押し倒された。その上から圧し掛かってきた獅堂が、ぎらついた目で日葵の顔を覗き込む。
「俺の女になるなら相応の対価はもらう。毎日抱かせろよ。それだけだ」
「やっ、ちょ……っ! ひぁっ」
ブラウスの裾をまくり上げようとする手を、日葵は必死に引きはがそうとした。けれど、大の男に力で敵うはずがない。獅堂は大柄で、大変な筋肉質なのだ。キスをされた時だって、まったく抵抗できなかったではないか。
「ダメっ、汗かいてるし!」
「暴れるなって」
「無理です、無理! このブラウスも高かったの! 破れちゃう!」
本当はそんなことはどうでもいいのだが、こういう時のスマートな断り方なんて知らない。
獅堂の手が急に緩んだ。彼の顔に目を向けると、先ほどとは打って変わって研いだナイフみたいな顔つきをしている。おまけにはだけたシャツの胸元から刺青が見えて、一気に恐怖心が舞い戻ってきた。
「どのみちお前は逃げられない。家も会社も知ってるんだからな」
日葵は獅堂を睨みつけた。
「ひどい……やっぱりヤクザなんですね」
「まあな。でも、女には優しくするぜ。必ず満足させるから」
「きゃっ」
自信たっぷりに言われて、一瞬気持ちがぐらついた。それで隙ができたのか、両手を掴まれて、ソファに押さえつけられてしまう。
こうなってはもう抵抗できない。すぐに獅堂が覆いかぶさってきて、首筋に唇が押し付けられる。
優しくするといわれても、所詮はヤクザだ。断ろうものなら無理やり犯されるのだろう。弟の存在も知られてしまったし、会社に乗り込まれても困る。
「んっ……!」
首筋をぬらりとしたものが這い、ビクッと身体が揺れた。逃れようとして身を捩るが、全体重で圧し掛かられて身動きができない。
「じっとしてろって」
「そんなこと言われても……! あ、あの、痛いことはしませんよね?」
「当たり前だろ」
今度は耳元にキスが落ち、ぞくりと腰が震える。
「本当に? 絶対の絶対に?」
「うるせえ奴だな。約束するよ。もし嘘だったら、お前の言うことをなんだって聞く」
そう言った彼の顔つきが真剣そのものだったため、日葵はゆっくりと力を抜いた。こうなったらやけだ。どうせ普通に暮らしていても、『かわいい』と言ってくれる男性と知り合うことなんてない。すれ違いざまにからかうような男と比べたら、獅堂のほうがマシだろう。
ブラウスの中にもぐり込もうとする手を、必死に押さえる。
「ちょっと待って! じゃ、じゃあ、せめてシャワーだけでも浴びさせてください」
獅堂がため息をついて身体を起こした。
「わかった。ちょっと待ってろ」
それから二十分ほどのち、日葵はバスルームにいた。
調光された仄かな明かりのなか、ぬるめに入れたお湯の中には、やたらとムーディなバスライトが沈んでいる。浴室は一般的なユニットバスよりもかなり広めで、バスタブも数人がゆったり入れるサイズだ。聞けば、このマンションを新築で買ってすぐに、リフォームして特注品を入れたのだとか。床も壁も小物も、よく磨かれていてぴかぴかに輝いている。
でも。
(だからって、なんでこんなことに――――!?)
生まれたままの姿になった日葵は、バスタブの中で獅堂に後ろから抱きしめられていた。
腹部に巻き付いているのは、浅黒い色をした逞しい腕。背中には筋肉質な胸筋がぴたりと密着していて、視線の先に長い脚が投げ出されている。
心臓がバックンバックン揺れていて、今にも破裂しそう。先に風呂に入った日葵が身体を洗っていたところ、素っ裸の獅堂が突然入ってきたのだ。自分がシャワーを浴びている隙に逃げらたらかなわない――そういうことだろう。
ちゃぷ、と水音をさせて、ごつごつした手が日葵の腹部を撫でる。彼の肌の色は日葵の白い素肌とは対照的だ。
「柔らけぇ……」
(ひっ)
後ろからかすれた声がして、肩に唇らしきものが触れた。
「それに肌がきれいだ」
「あ、ありがとうございま――ひゃっ!」
乳房の脇を指で押された途端に、びくりとした。ぷにぷにの身体を他人に見られるだけで恥ずかしいのに、男性に、しかもヤクザに撫でられているなんて、自分の身にいったい何が起きているのだろう。
子供の頃から、林間学校や修学旅行で友達と風呂に入るのが本当に嫌だった。友達は皆、無駄な肉などないスリムな身体つきをしていた。そして、成長するにつれメリハリの利いた女らしい身体つきになっていく。
そんななか、日葵だけはいつも全身ムチムチしていた。胸と尻が特に大きく、それがコンプレックスで、バスタオルで身体を隠しながら入ったものだ。
だから、獅堂が耳元で囁いた時は本当にびっくりした。
「お前、モテるだろ」
「ふぇっ!? も、モテませんよ! こんなぽちゃモブ――うぐぅ」
後ろから口を押さえられて、両手をバタつかせる。すると、さらに強い力で抱きすくめられた。
「いいか? その言葉は二度と口にするなよ。自分を卑下することばかり言っていると、自分自身がその言葉に囚われるようになるんだぞ?」
日葵の頬にぴたりと顔をくっつけて、獅堂が言う。
「こんなけしからん身体しやがって……クソッ。最高かよ」
片手で太腿を撫でつつ、もう片方の手で乳房の脇をたぷたぷと揺らされる。
この身体のどこがいいのかさっぱりわからないが、彼の言うことには納得した。いくら自分で発した言葉でも、他人に言われたのと同じように自己肯定感が下がるのだと、何かで読んだことがある。子供に諭すみたいな声に、図らずもキュンとしてしまった。
「優しいんですね」
前を向いたまま洩らすと、太い腕がギュッと抱きしめてくる。
ヤクザだし、強面だし、全身刺青なのに、中身はちゃんとしていて優しい。このギャップにやられる人もいるだろう。
「お前な、マジでそのうち痛い目見るぞ」
ふわふわした気持ちでいた日葵は、ドキッとした。
「どうしてですか?」
「チョロすぎだって言ってんだよ。俺は優しくなんかない。今だって、嫌がるお前を無理に抱こうとしてんだぞ? いいか。俺以外の男の誘いには絶対に乗るなよ」
(ひぃ……)
口調は優しいのに、ちらりと窺った顔つきがまるで鬼だ。それなのに、恋人みたいに後ろから抱きしめられている。どうしてこんなにも懐かれてしまったのだろうか。
浮力で浮いた豊かな乳房を、大きな手がやわやわと揉みしだく。手のひらで胸の頂が転がされた瞬間、ビクッと身体が震えた。
「気持ちいいか?」
「う……よくわかんないです」
「もしかして、はじめてなのか?」
「は、はい」
小声で答えると、身体を横向きにされて獅堂の膝の上にのるような格好になった。
(ひゃ……近い)
もう慣れたと思っていたのに、刺青が視界に入るとやはり恐ろしい。右胸には獰猛そうな龍、左胸には咆哮する虎が描かれている。顔は恥ずかしくて直視できない。
「なら、なおさら優しくしねぇとな」
そう言った獅堂の声が言葉通り優しくて、彼を横目で見た。普段は恐ろしいまでの三白眼が、今は穏やかに弧を描いている。やはり、首から下を見なければ強面なだけのイケメンだ。濡れた髪をかき上げるしぐさも、妙に色っぽい。
「んっ」
バストを優しく弄ばれて、日葵は身じろぎした。大きな手の中で、たっぷりの脂肪がマシュマロみたいにふやふやと形を変える。大きすぎて、醜くて、嫌で堪らなかった胸だ。それを彼は、慈しむように、味わうように、ゆっくりと撫で回す。
「すげえ……この感触、最高だな」
「そ、それはよかったです……んんッ」
「自信もっていいぞ。少なくとも俺は大好きだ」
(大好き!)
ボン! と顔から火を噴きそうになった。女として好きだと言われたわけではないとわかっていても、嬉しい響きだ。
獅堂の頭が近づいてきて、不意にバストの先端が口に含まれた。
「ひゃんっ」
びっくりする間もなく、そこが口内で転がされ、吸われ、唇で潰された。なんとも言えない奇妙な感覚に、自然と身体に力が籠る。
「はァんっ! ……や、やだ……」
恥ずかしくなるような声が出てしまい、手の甲で口元を押さえた。なんだろう、この感じ。愛撫されているのは胸なのに、脚のあいだがムズムズする。
喪女であっても、性に興味がないわけではない。大抵のことは知っているつもりだし、自分で触れてみたことだってある。けれど、他人にそんなところを舐められるとは、思いもよらなかった。
それがこんなにも気持ちがいいなんて。
「あんッ」
ちゅぽ、と音を立ててバストから唇が離れた。
「力を抜けよ。緊張してると感じないだろう?」
「そ、そういうものなんですか?」
ああ、とぎらついた三白眼が目の前で頷く。
「リラックスするのが一番いい。それに、身体があったまると感じやすくなる。そろそろいい具合なんじゃないか?」
そう言った彼は、日葵の膝の下に手を潜らせた。
「あぁぁん!」
何かが秘所に触れた瞬間、びくんと身体が跳ねた。そろそろと下腹部を見下ろしてみると、骨ばった手が下草の中でうごめいている。紫色に光る湯の中で行われる秘密の行為に苛まれ、両手で口元を押さえた。
「ふ、うう……う」
「どうだ? 気持ちいいか?」
うっとりしたような顔つきで、獅堂が尋ねた。彼の長い睫毛には、雫の玉が光っている。
「んっ、ん……そ、そんなとこ、さわっ、触っちゃ……」
気持ちいいも何も、身体の芯がキュンキュンしてじっとしていられない。彼の指は、秘裂をそっと撫でつつ、女の身体で一番敏感な核の部分を愛撫しているのだ。
「気持ちいいかどうかって聞いてんだよ」
「あ、あんっ、気持ちいい、で……すッ、あっ、あっ、いやっ」