転職先の御曹司、悠斗に偽の婚約者になるよう頼まれた成穂。婚約者を妹に奪われた傷を持つ成穂は葛藤の末、その話を受けることに。打ち合わせと称したデート中、悠斗は本当の恋人のように振る舞い、成穂の中に踏み込んでくる――「何度抱けば俺だけを見てくれるんだ?」情熱的に愛され彼に傾く心。だけど悠斗が求めるのは便宜上の婚約者のはずで……!?
「全部吐き出してしまえ」
悠斗は成穂の手の中からカップを抜き取り、ローテーブルに置いた。そして成穂の肩に両手を置く。
「俺の前で笑ったみたいに、泣いていいんだ」
悠斗が成穂をそっと抱き寄せた。
「私、別に我慢とか……してないです」
「そんな嘘はつくな。見ていてつらいんだ」
悠斗の手が成穂の背中をギュウッと抱きしめた。大きく広い胸はまるで守ってくれているかのように温かく、背中に回された腕は力強い。
「だって、今は仕事もすごく楽しくて……應太さんと別れなかったら、転職してなかったし……」
成穂の目にじわじわと熱いものが浮かんだ。抱きしめてくれる腕から彼の温もりが伝わってきて、ため込んでいた言葉が体の奥底からせり上がってくる。
「でも、本当は嘘つきって言ってやりたかった。『成穂は俺を束縛しないし、頼らないし、自立してるところがいい』って言ってたくせに。『成穂は強くてしっかりした女性だから一人でも大丈夫だろうけど、美咲はそうじゃない。俺が守ってやらないといけないんだ』って……。あんまりだよ! 應太さんが自立している女性がいいって言うから、私、彼に頼らないようにしてたのにっ」
胸の内を言葉にして吐き出し、「わあぁっ」と声を上げて泣く。
應太と別れた後、家族の目があったから実家では泣けなかった。同僚から向けられる哀れみの目を跳ね返そうと、会社では何でもないフリをして強がっていた。それなのに今、悠斗の温もりに包まれていると……勝手に気持ちが溢れてくる。
(私、本当はこんなにも泣きたかったんだ……)
涙と言葉が零れるに任せていると、次第に心が洗われたように穏やかになった。背中を優しく撫でてくれる悠斗の手が心地よくて、彼の胸に頬を預けたまま口を開く。
「昨日……妹が彼氏と結婚したがってるけど、両親は長女の私が独身だから結婚に反対してるって言ったんですけど……本当はもっと複雑なんです」
悠斗は何も言わないが、彼の手は変わらず優しく背中を上下する。成穂は両手をギュッと握りしめた。
「妹が結婚したがっている彼氏は……五ヵ月前、私にプロポーズしてくれた恋人だったんです」
成穂は恋人を両親に紹介するつもりで実家に連れていったら、彼が妹に一目惚れしたこと、妹に知らされた妊娠週数を逆算したら、成穂が彼と別れる前に授かった子どもであるらしいことを説明した。
「そんなことがあったのか……」
悠斗が低い声で言った。成穂の傷ついた痛みを一緒に感じてくれているかのような、思いやりのこもった声だ。
「四年も付き合ったのに、あんなにあっさり心変わりされて……悲しいし悔しいし情けないし腹が立つしで……もう気持ちがぐちゃぐちゃで。いったいどう整理したらいいのかわからなくて」
だから考えないようにしてたんです、と成穂はつぶやいた。
「でも、もう元カレの気持ちは戻ってこないし、二人は赤ちゃんまで授かって未来に向かっていこうとしてるんだから……妹に頼まれた通り、もう私のことを理由に妹たちの結婚に反対しないでって、両親に言おうと思ったんです。それで、私にも新しい恋人が……プロポーズしてくれる相手がいるとわかれば、両親も妹たちの結婚を認めやすくなるかと思って……副社長の契約婚約の話に乗ることにしました」
「君は自分のことを優しくないと言ったけど、それは違うよ」
「違いません。本当は一人だったら……両親や妹に本当の気持ちを隠し通せる自信がなかっただけです」
悠斗が手を伸ばし、成穂の髪にそっと触れた。そうして成穂の頭をポンポンと撫でる。その優しい仕草に、なぜだか胸がじんわりと熱くなった。成穂は瞬きを繰り返して涙を散らし、そろそろと顔を上げる。
「みっともないところをお見せして、申し訳ありません……」
「そんなに他人行儀に謝るなよ」
悠斗が右手の人差し指で成穂の目元を拭った。いたわりのこもった彼の瞳に見つめられて、成穂は今さらながら恥ずかしくなって視線を落とす。
「俺が君の力になるよ」
「どうやって……?」
「本当に元カレを忘れたらいい」
悠斗の右手が成穂の頬を包むように触れた。
「でも……そんなにすぐには……」
「俺を利用すればいい」
「……利用されるなんて……副社長は嫌でしょう?」
「成穂になら構わないよ」
悠斗は端正な顔を傾けてゆっくりと近づけてくる。けれど、成穂の唇に息がかかる距離で止めた。嫌なら拒めばいいと言うように。
成穂は悠斗のジャケットの胸をキュッと掴んで彼を見た。悠斗が長いまつげを伏せ、成穂はつられるように目を閉じた。直後、唇に彼の柔らかな唇が重なり、ドクンと心臓が大きく打つ。
悠斗はゆっくりと唇を離した。彼の手がそっと頬を滑り降りて顎を持ち上げる。
悠斗が成穂の目をまっすぐに覗き込んだ。彼から伝わってくるいたわりと優しさに、目の奥がじわりと熱くなる。
「忘れさせてください……今夜だけでも」
「成穂が望むなら今夜だけじゃなくても構わない」
「副社長……」
「名前で呼んでくれ」
悠斗が囁くように言って、また唇を重ねた。触れた唇はゆっくりと角度を変えながら、何度も柔らかく押しつけられる。とても甘くて優しいキスに、荒れていた心の波がゆっくりと静まっていく気がした。
「あ」
下唇を軽く噛まれて腰の辺りが淡く痺れ、思わず小さく声が漏れた。悠斗の手がセミロングの髪を梳くようにしながら後頭部に回される。同時に唇を割って彼の舌が差し込まれ、キスが深くなった。首筋をなぞった彼の指先がシャツの襟元に触れ、ゆっくりとボタンが外される。
シャツの前がはだけられ、肩から生地が滑り落ちた。大きな手が鎖骨からゆっくりと下りて、ブラジャーの上から丸い膨らみを包み込む。捏ねるように揉まれて、成穂は悩ましげに眉を寄せた。
「成穂」
悠斗の唇が成穂の唇に一度キスを落とした。続いて頬へ、耳たぶへと口づける。そのまま首筋に唇が触れて軽く吸われ、成穂は背筋がゾクゾクするのを感じた。その間にも彼の手が背中に回り、ホックをぷつりと外した。
「白くてきれいな肌だ」
ブラジャーを押し上げられ、露わになった膨らみを手のひらで包み込まれた。ゆっくりと指先を沈めるように揉まれ、硬くなり始めた先端を指先で押し潰されて、お腹の奥がじんと疼く。
「んっ……」
桃色の尖りを指の間で挟んで刺激しながら、悠斗が唇を重ねた。口内に彼の舌が侵入し、誘うように舌先に触れる。舌を絡めると、軽く吸われて甘く歯を立てられた。そうして口の中をなぞられながら胸を強く弱く揉みしだかれて、下腹部がじんわりと熱くなる。なんだか切なさを覚えて、成穂は悠斗のジャケットの袖を握った。
「んぅ、副社長……」
「そうじゃないだろ」
悠斗の唇が離れたかと思うと、胸の先端を指先でキュッとつままれた。
「やぁんっ」
「〝悠斗〟だ」
「は……」
名前を呼ぼうとした瞬間、彼が赤い舌を出して胸の膨らみにぺろりと滑らせた。濡れた舌で尖りを舐められ、転がされ、押しつぶされて……思ったように言葉が出ない。
「ると……さ……あぁっ……」
「いつ名前を呼んでくれるんだ?」
悠斗が笑みを含んだ声で言った。彼の手が後頭部に回され、ゆっくりとラグの上に押し倒される。ぼんやりとした目で見上げると、彼の瞳に欲望がはっきりと浮かんで見えた。
(私に……欲情してくれてる……?)
まだ自分を求めてくれる人がいるのだ。その思いに胸を震わせたとき、彼の長い指が脇腹を滑り降り、スカートをたくし上げた。ゆっくりと素肌を撫で上げた彼の長い指が、脚のつけ根に触れてショーツの中に忍び込む。前後に動いた彼の指先がぬるりと滑った。
彼は成穂の首筋にキスを落とす。
「俺に感じてくれてるんだな」
悠斗の言葉を聞いて、成穂の頬が羞恥で染まった。その間も彼の指先は割れ目の周囲をぬるぬると撫で回し続ける。悠斗の指先がかすめるたび、蜜口がもどかしげにひくひくと震えた。
成穂が耐えるように眉根を寄せたとき、彼は溢れた蜜を絡めて、突起をくちゅりと愛撫した。突然の刺激に成穂の腰が跳ねる。
「あぁっ……待っ……て」
「待たない。成穂に俺のことだけ考えさせると決めたんだ」
決然とした悠斗の声が聞こえ、彼の長い指が熱く潤った秘裂からゆっくりと差し込まれた。
「ん……あぁっ」
探るように中をじっくりと撫でられ、体中の血が沸騰しそうに熱い。丹念に中を探っていた指先にある一点をこすられ、頭の芯まで響くような刺激に甘い声が漏れた。
「や、あぁっ……ダメぇ」
「本当にダメ?」
彼が低い声で囁き、胸に熱い息がかかった。かと思うと突起を濡れた唇に含まれ、舌先で弾かれて、体の奥がずくんと痺れる。
「ああっ……ん……はぁあ……」
込み上げてくる愉悦に内股をこすり合わせたくなる。それを阻むように彼の膝が入れられたかと思うと、割れ目を押し広げられるような感覚がして、指が二本に増やされた。抜き差しされるたびに、あられもない水音が響く。
「あ、や……はる……とさ」
胸も中も同時に愛撫されて、体の中で快感が渦巻くように高まっていく。成穂が体を強ばらせたのに気づいて、中でしなやかに蠢く指がリズミカルになる。
「やっ……ダメ……それ以上したら……もうっ……」
耐えきれなくなって、成穂は悠斗の両肩を掴んだ。彼女を追い詰めるように、彼の親指が疼いていた花芯に触れる。
「ふ、あ、あぁーっ!」
たまっていた熱い疼きが一瞬にしてはぜ、あっという間に絶頂に押し上げられた。視界が真っ白に染まって、成穂は無我夢中で悠斗の体を引き寄せる。悠斗がギュッと抱きしめてくれて、彼の腕の中で体を震わせた。
「成穂」
悠斗が覆いかぶさったまま、成穂の髪を優しく撫でる。チュ、チュと額や頬にキスが落とされ、成穂は心地よいくすぐったさに目を細めた。ようやく快感の波が収まり、成穂は両手を伸ばして悠斗の頬に触れた。彼は成穂の左手を掴んで指先にそっと口づける。
「すごくきれいだ」
悠斗の熱っぽくかすれた声を聞いて、成穂ははにかんだ笑みを浮かべた。頬に口づけが落とされ、背中と膝裏に彼の手が触れる。そのまま彼に抱き上げられて、ベッドに寝かされた。腰のあたりでベッドが沈み、乱れた服と下着をはぎ取られる。
悠斗は着ていたジャケットをベッドの足元に落とし、カットソーを脱いだ。ほどよく盛り上がった胸筋と引き締まった脇腹が現れ、思わず目が引き寄せられる。
(すごく……逞しいんだ)
見とれている間に彼は残りの服も脱ぎ捨て、成穂に覆いかぶさった。脚を持ち上げられ、秘裂に彼の硬い切っ先が触れると、これから与えられる快感を期待するかのように、蜜口がじんわりと熱を持った。
「……いくよ?」
熱情を孕んだ目で見下ろされ、成穂はこくんと頷いた。彼が唇を重ねると同時に、猛ったそれがゆっくりと押し込まれる。
「あ……んぅ……」
彼自身に中を埋められ、成穂は熱い吐息を零した。下腹部から甘い痺れが伝わり、それを悦ぶように中がギュウッと収縮するのが自分でもわかる。
「成穂……」
悠斗が整った顔を悩ましげに歪めた。眉を寄せて自分を見下ろす切なさの混じった表情に、胸がキュンとなる。
「悠斗さん」
思わず名前で呼ぶと、悠斗は苦しげに目を細めた。
「今、その顔で呼ぶなんて……俺の理性を吹き飛ばす気か」
下腹部を満たす圧迫感に、成穂は眉を寄せて声を発する。
「呼ぼうとしたのに……副社長が……ずっと……呼ばせてくれなかったじゃ」
「違う」
悠斗が言って腰を引いたかと思うと、中をこすり上げるようにぐっと突き上げた。
「やあぁん……!」
激しい刺激が背筋を駆け上がり、成穂はシーツをギュッと握りしめた。