化粧品会社の研究職に就くみずきは、学生時代に本気で愛した男から手酷く裏切られて以来、恋人も作らず仕事に邁進してきた。
趣味のオンラインゲームでは、素顔も素性もわからないが気の合う男性もいて、いつか彼に会えるのを楽しみにしていた。
ある日、ゲームのオフ会へ出掛けると、そこには自分を裏切った男──坂上千歳が待ち構えていて……!?
「俺を愛して、みずき。俺と同じくらい……頭がおかしくなるほど、俺を欲しがってよ。俺と同じ所まで落ちてきて」
狂おしいほどの切願に、心が満たされるのはどうしてなのか。
自分と同じだけ愛し返してほしい、という願いは、酷く子どもじみている。愛情の大小は計れるものでも比べられるものでもないし、そもそも愛情の定義だってその人によって異なるものだ。他者の感情を己の感情と同列にすること自体がナンセンスだ。
だがそれでも、人は誰かと分かり合いたい生き物なのだ。
それが愛する人ならなおさらだ。
(ナンセンスだって分かっていても、そのクソデカ感情に心が満たされてる私も、結局あなたと同じなのよね――)
みずきは微笑んで頷いた。
「いいよ。一緒に落ちよう、千歳」
あなたのいる場所より、もっと深い所まで。同じ穴の狢、だ。
キスをして抱き合って、お互いの心臓を掴み合うまで一つになろう。
相手が離れようとすれば、その心臓を握り潰せばいい。
千歳が死体になっても愛せるし、きっと彼も同じだろう。
それでも不安なら、お互いの命を掴んだ状態で、離れられなくなってしまおう。
みずきの言葉に、千歳が目を見張る。
信じられないものを見るような表情だった。
「落ちてくれるの」
「うん。私の愛も人生も、全部あなたに渡すよ。だからあなたも、全部私にちょうだいね」
その返事に、千歳は呆然としたように固まった。
薄い色のきれいな瞳に透明な涙が浮かび、雫になってみずきの鎖骨の上に落ちる。それを美しいなと思っていると、掠れた囁きが聞こえた。
「丸ごとあげるよ。――全部、受け取って」
秀麗な美貌が下りてきて、みずきの唇を塞ぐ。重なった瞬間に深くなったキスは、先ほどの性急さはなく、労わるような甘さがあった。
キスの間も、千歳の愛撫は進んだ。乳房の弾力を楽しむように揉みしだかれ、心臓が高鳴った。久々の性的な触れ合いに、体が緊張するのが分かる。だがその緊張も、乳首を摘ままれてすぐに霧散した。敏感な場所への刺激に、理性から欲望へと体のスイッチが切り替わる。
「ふ、好きな場所、変わらないね。……嬉しいな」
みずきの体の反応に、千歳がうっそりと笑った。
そんなものが簡単に変わるわけがない、と思うのに、昔のままだったことがよほど嬉しいのか、千歳は乳首を執拗に弄り始める。
「……っ、ん、ぁ、……!」
指の間で転がされ、捻られて、下腹部にジクジクとした疼きが溜まっていく。
弄られる度にピクピクと体を揺らしていると、乳房の上をジュッと吸い上げられて痛みを感じた。キスマークをつけられたと分かったが、それを怒る暇も与えず、乳首に吸いつかれる。
「ひ……!」
生温かく濡れた感触を胸の先に覚えて、小さな悲鳴が出た。そのまま口の中で飴玉のように舐め転がされて、強い快感に脳に霞がかかる。溜まった疼きに目覚め始めた欲望が胎の中を熱くして、じわりと奥から愛蜜を溢れさせる。
久しぶりの快楽に、みずきの体が嬉々として溺れていく。
千歳が空いた手でもう片方の乳首も弄り始める。両方いっぺんに刺激されると、快感に身悶えしたくなって腰が浮いた。
するとそれを見計らったように手が伸びてきて、みずきの柔らかな内腿をスルリと撫でながら脚の付け根に到着し、下生えを優しく梳く。
秘めた場所への接触に、どきりと心臓が鳴った。
わずかに身を強張らせたみずきに、千歳が耳元で囁く。
「大丈夫」
何が大丈夫なのか、と普段ならツッコむところだが、今はただ頷いた。
千歳は嬉しそうに目を細め、みずきの耳介に鼻を擦りつけた後、パクリとそれを喰んだ。
ぴちゃ、という音がダイレクトに鼓膜を揺らし、ゾクゾクとした喜悦が電流のように背中を駆け下りる。
それと同時に、下生えを撫でていた指がさらに奥へと進み、蜜を湛えた女陰へと触れた。
「……ああ、もう濡れてる」
耳の中に吹き込まれる嬉しそうな囁きは、みずきにとってはもう愛撫でしかない。快感の電流がパチパチと音を立てそうなほど強烈に体の芯を震わせた。
その一方で、泥濘の中に指を差し挿れられ、媚肉を掻き回される。異物が侵入する違和感は一瞬で、隘路はすぐに千歳の指を歓待した。
「すごい、もうこんなに熱くなってるんだ……」
指を二本に増やして、みずきの膣内の内襞の一ヶ所一ヶ所を味わうように捏ねながら、千歳が恍惚とため息をつく。
その吐息にすら反応してしまい、嬌声とともに顎を上げると、千歳が愛しげに頬擦りをしてきた。
「ああ、すごい、みずき、かわいい……、どうしよう、俺、理性飛びそう……」
独り言のようにぶつぶつと言って、千歳はみずきの両膝を抱えると、それを胸に押しつけるようにして折り曲げた。この体勢だと、局部が彼に丸見えになる。さすがに羞恥心が込み上げたが、そこに熱い物をあてがわれて息を止めた。
見えないけれど硬く重量のある感触から、彼のものがもう臨戦態勢になっていることが分かり、体中の細胞が熱を帯びる。蜜路が期待にヒクつき、愛液がまた奥からとぷりと吐き出された。
「あっ、ゴム……」
快楽に侵された思考の中でもわずかに残った理性が働き、焦って要求すると、千歳は「まだ挿れないから」と言った。
「……挿れたいのはヤマヤマだけど、一回で治まるとは思えないしな……」
「え……」
「ぬるぬるだし、さっきからめちゃくちゃ締めつけてくるし……めちゃくちゃ気持ち好さそう。やばいな。俺、持たないかも……」
なおもぶつぶつと言いながら、千歳が腰を動かし始める。
「あっ……!」
ビリ、と快感が全身を貫いた。
溢れた愛液で滑りの良くなった脚の付け根に、千歳の陰茎が何度も素早い動きで前後する。猛った剛直で蜜口の上を擦られると、粘着質な水音が恥ずかしいくらいに立った。
ピストンの度に、張り出した雁首が期待に膨らんだ陰核を擦り上げ、目の前に火花が散るほど強烈な快感がみずきを貫く。
「ぁっ、……ぁ、ああっ、ち、ちとせ、これっ、だめっ」
千歳の怒張は上を滑るばかりで、まだ膣内には入って来ない。先ほど彼が言ったとおり。まだ挿れるつもりはないのだろう。
だがみずきはもう欲しくてたまらなかった。自分の虚路が戦慄き、キュウキュウと収斂してここに欲しいと叫んでいるのに、それを無視して陰核だけを刺激され続けて、欲しい快楽をもらえずに頭がおかしくなりそうだ。
ダメだと言っているのに、千歳は動きを止めるどころか、そのスピードを上げる。
ぐちゃ、ぐちゃと身動ぎのタイミングに合わせて淫音が鳴って、恥ずかしさと気持ち好さの狭間で、みずきは啜り泣いた。
「だめ? 好さそうだけど」
「だっ、て、すぐ、イッちゃっ……!」
イヤイヤと子どものように首を振って訴えたのに、千歳はうっそりと笑って言った。
「イッていいよ」
「やあっ、もう、欲しいのにっ……! お願い……!」
半分泣きながら叫ぶと、千歳はぴたりと動きを止めた。
「……そんな可愛いこと言われたら、仕方ないな」
苦い笑みを浮かべて言われ、みずきはホッとして頬を緩める。ようやく欲しかった快楽を与えてもらえると思うと、お腹が切なく疼いた。
千歳は「ちょっと待ってね」と言って避妊具を取り出すと、素早く装着してみずきを真上から見下ろした。
「挿れるけど、途中でへばらないでね」
念押しされて、みずきは不思議に思いながらも頷いた。セックスの最中でへばったことなど一度もないのに。
だが千歳は満足げに「言質取った」と笑い、再びみずきの脚を抱え上げた。
開かれた脚の付け根は濡れそぼり、ヒクヒクと震えながら待ちわびている。そこにずっしりとした熱杭がひたりとあてがわれ、みずきはこくんと喉を鳴らした。
「――みずき、俺が欲しい?」
「欲しい!」
餌を前に焦らすように問われて反射的に答えると、千歳がクッと笑った。
「即答。最高」
揶揄っているのか、と怒ろうとした瞬間、串刺しにされた。
「――――ッ!」
息もできなかった。全身を雷のような快感が貫いて、一気に絶頂に押し上げられる。
一突きで腹の奥まで埋め尽くした千歳は、みずきとピッタリ重なったまま硬直していたが、やがて深く息を吐き出しながら緊張を解いた。
「――っは、ヤバ。挿れただけでイッたの? 搾り取られるかと思った……」
千歳の声は耳に入っているが、絶頂の余韻が強烈すぎて、みずきは反応を返すことができない。
まだ愉悦の残りが生々しく体を満たしていて、全身が酷く敏感になっているのが分かった。
それなのに、千歳が律動を再開し始める。
「ぁっ、ぁ、やぁっ……だめ、まだ、イッてるから……」
絶頂の快感に戦慄く蜜筒を、張り詰めた剛直にズリズリと擦り上げられて、消えかけていた欲望の火にまた熱が灯されていく。
「ダァメ。俺がまだイッてないでしょ。へばんないでって言ったはずだよ」
言いながら、ずるりと陰茎を引き出される。太い亀頭に媚肉を刮がれ、ゾクゾクとした疼きが腰を這い上がり、みずきの脳内が再び快楽に霞んでいく。
抜け落ちるギリギリまで引き抜かれた剛直が、再び勢いよく最奥まで叩き込まれた。重く鋭い突きで子宮の入り口を叩かれて、痛みにも似た鈍い悦びが顔を覗かせる。
そのまま凶暴なまでの勢いで抜き差しを繰り返され、みずきはあっという間に愉悦の淵まで追い詰められた。
穿たれ、揺さぶられ、呼吸すらもままならないほどもみくちゃにされて、汗と涙に塗れながら必死で腕を伸ばして千歳の背中に縋り付く。
頭がおかしくなるほど、気持ちが良かった。
「あっ、あっ、ひ、ぁ、ぁあっ!」
いつの間にか自分でも腰を振りながら、みずきは千歳を見る。
彼はいつもの美貌を苦しげに歪ませていた。
「千歳、ちとせ……!」
わけも分からず名前を呼ぶと、千歳が苦悶の表情のまま額を合わせてくる。彼の汗がパタ、と自分の頬に落ち、その感触にすら愛しさが込み上げて泣きそうになった。
「愛してる……」
囁きながら告げると、千歳が美貌をくしゃくしゃにして笑った。泣き笑いだった。
「……俺も、死ぬほど、愛してる」
そう囁き返すと、千歳はみずきの唇にかぶりつくようなキスをした。
差し入れられた舌を夢中で受け止め、お互いに貪るように絡め合う間も、腰の動きは止まなかった。
激しい抽送に泡立った淫液が、とろりと接合部から溢れ出し、後孔に伝い落ちる。猛り切って今にも弾けそうな剛直に、媚肉が涎を垂らして絡みつくのを感じた。
(気持ち、いい、気持ちいいよぉっ……!)
「みずき、もう、イク……!」
唸り声のように言って、千歳がゆらゆらと浮いた柔尻を鷲掴みにした。滑らかな肌に指が食い込むのも構わずみずきの腰を固定すると、千歳は最後の猛攻をかけ始める。