若手のイケメン社長、雲雀司の秘書をしている清花は、地味で堅物だと言われ男性に縁がないのが悩み。誕生日を機に婚活を始めようとしたが、雲雀にばれて俺にすればと立候補されてしまう。「なにもしなくていいから。ただ、感じてて」ずっと清花が好きだったという雲雀は甘く優しく距離を詰めてくるが、意識し始めると彼が女性にもてるのが気になり!?
「俺は、先に別のものが食べたいんだけど」
まっすぐ目を見つめられて言われても、なんのことか見当もつかない。
「……前菜、ですか? それはどこにある……?」
これに社長が堪えきれないとばかりに笑い出す。
「まあ、そうともいう。でもちょっと違うかな」
「あの……私、鈍いからはっきり言ってくださらないとわからないんですが……」
「わかった。本永さんを抱きたい」
きっぱりはっきり言われて、ひゅっと喉が鳴る。
――だ、抱きたいって……
数秒のち、心臓がばくばくとかつてないほど激しく脈うち始めて、気がついたら胸を手で押さえていた。
「ほ、本当にはっきり言いますね」
「だってはっきり言わないと分かってもらえないから。でも、こればかりは君がうんと言ってくれないと不可能なんだけど……どうかな」
委ねられても、こればかりは経験がないのでどう答えていいのか。
多分、私、これまでの人生で一番対応に困っている。
「そんなこと、わ、私に聞かれても困りますっ! 未経験ですし……」
「だからだよ。もっと時間や準備が必要なら、俺はいくらでも待つよ。でも、本音を言えば俺は今すぐにでも本永さんとそういう関係になりたいんだ。そこは覚えておいてほしくて」
「今、すぐ、ですか……」
この部屋に来ることが決まったとき、ちらっと頭の片隅にそういう出来事が起こるんじゃないか、という考えがよぎった。でも、意外と気を遣うところがある社長だから、私に遠慮してすぐそういう展開には持ち込まないようにしそうだな、なんて自分なりに社長の気持ちを解釈したつもりだった。
「……私、勝手に社長は私みたいな初心者には、すぐ手を出したりしないと思ってました……」
本音を言ったら、社長が顔を手で覆った。
「最初はそう思ってたけど。でも、やっぱり無理だった。頭で考えるのと体ってイコールじゃないから」
「そ……そうでしたか……」
そういうのを聞くと、仕事人間だと思っていた社長も普通の男なんだなって気付かされる。人間らしくていいと、むしろ好感が持てた。
とはいえ、迫られている状況に変わりはない。早く結論を出さないといけないのだが、本気でどうしたらいいのか。
正直言ってまだ心の準備が出来ていない。だけど、誕生日のたびに今年もなにもなかった、と落ち込んでいた私に、とうとう処女を捨てるチャンスが巡ってきたのだ。
これを逃したら……というか、これを拒否して社長を逃すことになってしまったら、絶対に自分は後悔する。それだけは間違いないと断言できる。
――勇気を……ここで出さないで、いつ出すの……!!
心の中でグッと拳を握りしめた。
「わかりました。します」
はっきり言ったら、社長が「えっ」と驚きの声を漏らす。
「いいの? 本当に?」
「はい。今しなきゃいつするのって話ですよ、もう、こうなったら私、逃げませんから」
この言葉に社長が眉をひそめる。
「いや、今しなくてもいつでもできるけど……俺は、なるべく本永さんの負担にはなりたくないと……」
「社長、だめです!!」
話をぶった切って声を上げたら、社長がビクッと肩を揺らした。
「ここで私を甘やかしてはいけません! そんな、いつでもいいだなんて、そんなこと言ってたら私、いつまで経っても変われないし……それに」
「……それに?」
社長がおそるおそる私の顔を覗き込んでくる。
「いつまで経っても身も心も社長のものだって言えないままです……!」
「本永さん」
目をまん丸にしている社長は、多分驚いている。
――そりゃそうだ、今まで余計なことは一切しない、言わない堅物秘書だったから。
「君、そんなことを考えてたのか、でも……」
社長がなにかフォローしようとしている。でも、私はそれを最後まで聞かず、社長の胸元に手を伸ばした。白いシャツの襟を両手で掴むと、そのまま自分に引き寄せた。
「えっ……」
戸惑う社長の声が耳に入ってはいたが、敢えてそれを無視した。
自分から顔を近づけ彼の口におもいきり自分の唇を押しつけた。触れた瞬間、昨日も思ったけれどやっぱり社長の唇って柔らかい、と思った。あと、ほんの少し冷たい。
全然色気もなにもないキスだ。目を閉じているので、社長が今どんなことを考えているのかはさっぱりわからない。でもいい、知らない、構わない。
多分時間にしたら数秒だったと思う。ずっと押しつけているのもどうかと思い、こちらから身を引こうとした。
しかし、素早く腰に手が添えられて、押しつけた唇の隙間から肉厚な舌が滑り込んでくる。
「!?」
こっちはキスを終えるつもりだったのに、意図せずもっと激しくなってしまった。
――あ、あれ?
腰に添えられた力強い手が、体を社長の方へ引き寄せる。彼の硬い胸板と自分の胸元がぴったり密着して、どちらのものとも分からない心音が全身に響く。
「……っ、しゃ……」
角度を変える隙に声を出そうとしたけど、すぐに彼の唇が追いかけてきて塞がれてしまう。
すごい。
この前のキスは触れるだけだったけど、このキスは違う。大人の男の本領が発揮された、腰が抜けそうになる程の威力を持つそれだ。
彼の体重が次第にこっちにのしかかってきて、だんだん背中が反り返っていく。腰を押さえてもらっているのでなんとか立っていられるが、そうでなければ多分床に倒れ込んでいたと思う。
肉厚な舌が口腔をくまなく蹂躙し、歯列をなぞる。舌を引っ込めていると誘い出され、絡め取られて、吸われる。
キスというのは、初心者には非常に対応が難しいものなのだと、今知った。
「も……、む、むり……っ」
なんとか隙間で声を上げると、これまで私の口腔内にいた社長の舌が引っ込んだ。その隙に彼の胸に手を当て、素早く彼と距離をとった。
わかりやすく肩で息をするのは悪いかと思ったけど、息苦しいのはどうにもならない。
正直、めちゃくちゃ苦しかった。
「ちょ……ちょっと、休憩をください……」
こんな私に、さすがの社長も申し訳なさそうにしていた。
「ごめん。つい……スイッチ入っちゃった」
スイッチ入るとこんななの? す、すごくない? ていうか、どこでスイッチ入ったの!?
まだドキドキしている胸を押さえながら、照れている社長に視線を移す。
「ほ、本気のキスって、すごいですね。びっくりしました……」
「嫌じゃなかった?」
この質問には、即座に首を横に振った。
「よかった」
わかりやすく安堵したような社長の声に、こっちも少しホッとする。そしてこの微妙に気まずい空間をどう乗り越えようか考えていると、社長の手が私の手首を掴んだ。
「今のキスをOKととります。いいかな」
言われて思い出したけど、そもそもキスをしたのは私からだった。それを思い出して顔を赤らめていると、社長が私を連れてリビングを出る。そして向かったのは、玄関を入ってすぐ目の前にあった、あのドアの向こうにある部屋だった。
そこは、寝室だ。
社長が先に寝室の奥へ進むと、カーテンをして間接照明を点けた。それだけでムーディになって、私だけかもしれないけど一気に緊張感が増した。
「……あの」
「もちろん無理なことはしないよ。ちゃんと、本永さんに合わせるから」
ベッドに腰を下ろした社長が、ぽんぽんと隣を叩く。誘われるままそこへ座ると、すぐ頬に社長の手が添えられ、彼の顔が近づきキスをされた。
さっき私がしたぶつかるだけのキスとは大違いの、優しく触れるキス。何度かついばむように触れている間、彼の手が私のシャツのボタンを外し始めた。
軽く襟元を寛げ、首筋にキスをされる。それがくすぐったくて身じろぎしていると、軽く体を押されベッドに倒された。
――う、わ……!
ここがはじまりです、と言わんばかりのこの状況に、極度の緊張で声が出ない。
もはやちゃんと息が出来ているのかすら、わからなくなる。
「緊張しなくていいよ」
「で、でも……私、どうしたらいいのか……」
「なにもしなくていいから。ただ、感じてて」
と言われても。
その感じてろというのが、具体的にどうしたらいいのかわからない……と考えていたら、彼の唇が首筋を滑り降り始めた。それがくすぐったくて、「ふふっ」と声が出てしまった。
「く……くすぐったい……」
「まだ余裕ありそうだね?」
首筋に舌を這わせたり、たまにチュッとキスをしたりしながら、彼の唇が首から鎖骨に移動していく。
「余裕、はないんですけど……」
「そう? 見えないけど」
「未知すぎて、なにがなんだか……」
鎖骨の辺りにいる社長が、ふっと吐息を漏らす。肌に彼の息がかかって、軽く身震いした。
「そっか。まあ、そのうち余計な事はなにも考えられなくなるだろうから」
――え? それってどういう意味……
彼の見ていないところで真顔になっていると、トップスの中に大きな手が入り、直接肌に触れてくる。
「あ」
意図せず声が出てしまい、社長と視線がぶつかる。
「……びっくりした?」
「少し……」
「このあともっとびっくりさせるかもしれない。先に謝っておく、ごめん」
「え、それってどの程度……」
言いかけてすぐ、背中に回った手がブラのホックを手際よく外した。パチンという音がして途端に胸の締め付けがなくなり、ブラジャーが肌から浮く。
ホック外すの上手い。そう思ったのも束の間、社長の手が乳房に直接触れてきた。
「あ」
気がつけば、シャツの前ボタンは半分以上外されていた。キャミソールが盛り上がり、彼の手が今どのような動きをしているのかが分かる。
胸の谷間に顔を埋めていた社長が、キャミソールを胸の上まで捲り上げた。ほぼ役割を果たしていないブラジャーをどかし、乳房が露わになる。
彼がおもむろに顔を上げ、まじまじと胸の膨らみを見つめたあと、先端を口に含んだ。
「ん!」
見知らぬ感覚に敏感になってしまい、上半身が大きく反ってしまう。彼が驚いてしまうのではと気になったけど、どうやら動じていない。私に構わずまだ愛撫を続けていた。
口に含みつつ、反対側のそれを指の腹でぐりぐりと弄る。触れられることによって硬さを増してきたそれは、あっという間に勃ちあがり、まるで自ら触ってと自己主張しているようだった。
「は……っ、あ……っ!!」
未知の体験はまだまだ始まったばかり。それなのに、胸への愛撫だけで喘ぎすぎて、まるで長距離走したあとみたいになっている。
「や……っ、しゃちょ……!! それ、だめですっ……!」
執拗に愛撫を続ける社長の頭を手で押しのけようとした。でも、嘘みたいにびくともしない。
「気持ちいいってことでしょ? それは止める理由にならないな」
先端に舌を這わせながら、ちらりとこちらに視線を送ってくる。その光景がエロティックで、扇情的で息を呑んだ。
「理由にならないって……は、……あンっ!!」
頂を強めに吸い上げられると、息が止まりそうになって何も反論できなくなる。それどころか子宮がキュンキュンと痛いくらいに疼いて、もっと愛撫を続けてほしいとさえ願ってしまう。
――私……は、初めてなのに、どうしてこんなことを考えてしまうのだろう……
頭の中でははしたないとか、恥ずかしいとすら思う。それなのに、どうして実際に彼を止めるという行動に繋がらないのか。
それは、自分も彼を求めているからだ。
頭の中が恥ずかしい、でも気持ちいい、という文言でいっぱいになっていると、社長が胸元でぼそりと呟いた。
「予想外に反応が良すぎて、ヤバいです」
「ヤバいって、な……」
社長が上体を起こし、ぐっと私の顔に自分の顔を寄せてくる。
見慣れた社長の顔をこんな近くで見ることは、今までなかった。本当に綺麗な顔だなと見とれそうになる。
「理性が働かなくなりそう、ってことです」
「ん……!」
口を開け、舌を出した社長の顔が見えたあと、すぐに唇を塞がれた。肉厚な舌に翻弄され、濃厚なキスが、私を追い立てていく。
その間も彼の手は私の乳房の上にあって、掌の中で激しく形を変えるほどに揉みしだかれた。
「あ……ん、ふっ……」
荒々しいキスで、呼吸がままならない。必死でこっちも拙いながらに舌を絡ませるけど、すぐに社長に絡め取られてそのまま深く口づけられる。
まるで私の唾液から細胞から全部彼に食べられてしまうのではないかと思えてくるくらい、初心者にとって容赦ないキスだ。
――すごい……これが、本気の……
今、自分の身に起こっていることが、まだどこか夢のよう。でも、夢うつつの気分でいられたのは、ここまでだった。
今の今まで胸を揉んでいた彼の手がウエストから差し込まれ、ショーツの中に入った。
「あ、あ」
自分以外ほぼ触れることのない場所を社長に触れられているだけで、すでに恥ずかしさの極地。加えて、少しだけこの先に起こりうることが怖くなった。
「しゃ……しゃちょ……」
「司」
指の動きは止めないまま、社長がこちらに視線だけ寄越す。
「え……」
「社長、だとなんだか悪いことしている気分になるんで、今からは司でお願いします」
「つ……かささん……」
「そう。よくできました、清花さん」
不意に名前で呼ばれて、お腹の奥が疼く。
――こんなタイミングで呼ぶなんて、ずるい……
もっともっとこの人のことを好きなる。それが手に取るようにわかる。
しかも名前を呼んだときに、蜜壺の中へ指を入れられてしまった。指は、私の蜜を潤滑油にして、するすると私の中を滑っていく。
自分の中に他人がいるという感覚はとても不思議だった。嫌な気はもちろんない。それどころか嬉しさすら感じてしまう。
なんだか私、自分でも気付かないうちに、社長のことをものすごく好きになってるみたいだ。
――……それを行為の最中に気がつくとか……私って……
どんだけ鈍いの、と自分を恥じる。しかしこの間も私の中にある社長改め司さんの指は、探るように私の中を前後していた。
「すごく濡れてる」
くぐもった司さんの呟きに、カアッと体が熱くなった。