オメガの羽衣には政略的に結ばれた幼馴染みの婚約者がいたが、相手に「運命の番」が現れ破談になる。新たに婚約者となったのは、元婚約者の弟で羽衣を嫌い海外に渡っていたアルファの桐哉だった。初恋の相手である桐哉との再会を喜ぶ羽衣だが、突如初めての発情を迎えてしまう。「すぐに楽にしてやる」熱く火照る身体を、桐哉は情熱的に慰めて…!?
「ん、あっ……!」
温かい乾いた手のひらの感触に、羽衣の身体が歓喜する。
触れられた場所の細胞が蕩け出すようだった。
(気持ちいいっ……!)
それは、カラカラに渇いた喉にようやく水を与えられた感覚に近い。
もっと欲しい。もっとこの手で触れて欲しい。
下着を外され丸裸にされても、恐怖などカケラもなかった。
「き、ちゃっ……きもちいっ……!」
譫言のように言えば、桐哉が一瞬驚いたように動きを止めて、それから吐き出すように笑う。
「……好きでもない男でも、発情期には抗えない、か。悲しいオメガの性質だな」
彼がまた何か言っているが、発情期の熱で朦朧としている羽衣にはもう届かない。
ただもっと触れてほしくて、必死で彼に向かって両手を伸ばした。
「もっとぉ……!」
「──ッ、クソッ」
唸り声で悪態をつくと、桐哉がガバリと覆い被さってくる。
彼が触れさせてくれたことが嬉しくて、羽衣は微笑んで彼の首に腕を回した。
だが桐哉はその腕をすぐにもぎ離すと、羽衣の乳房を掴んでその上の尖りに齧りつく。
「ひぁっ」
敏感な場所に歯を当てられて、強い刺激に羽衣の身体がビクリと痙攣する。
だが桐哉はお構いなしに愛撫を続けた。
舌で転がされると、小さな乳首はあっという間に芯を持って固く凝った。
桐哉の舌で嬲られるたび、ビリビリとした快感が生まれて下腹部に伝わっていく。
溜まった快感が熱となって、とろりと何かが溶け出すのを感じた。
「ッは、すごい匂いだな……。これが発情期フェロモンか……」
桐哉が動きを止めて呻く。
「……くそ、脳が溶けそうだ」
忌々しげな口調に、羽衣は朦朧としながらも悲しくなった。頭がうまく働かないけれど、桐哉が怒っているのは悲しい。
だからイヤイヤと首を横に振った。
「怒らないでぇ……」
羽衣の哀願に、桐哉が驚いたような表情になって、それからフッと微笑んだ。
「……怒ってない」
「ほんと?」
「ああ、本当だ」
優しい声にホッとして、羽衣はふにゃりと相好を崩す。
その笑顔を見て、桐哉が困ったように眉を下げ、ため息をついてキスをしてきた。
今度のキスは、優しかった。啄むように唇を喰まれ、労わるように口内を舐められる。
桐哉からのキスも、優しさも嬉しくて、羽衣はうっとりとしながら瞼を開く。
すると黒曜石のような桐哉の瞳が、こちらをまっすぐに見つめていた。
「きーちゃん……」
昔のままの呼び名に、桐哉がまた困ったように苦い笑みをこぼす。
「甘ったれは、昔のままか……」
そのセリフに、ギクリとなった。
(……そうだった。私は、甘ったれな性根を直そうと、ずっと頑張ってきたはずだったのに……)
桐哉に見直してもらいたかったから、一生懸命努力してきたはずだったのに。
ちゃんとしなくては、と思うのに、発情期のせいか、正常な思考が保てない。
桐哉の傍で彼の匂いに包まれていると、頭の中が彼に触れたい、触れられたいという欲望でいっぱいになってしまうのだ。
「ごめ……」
自分を制御できないことが情けなくて謝ろうとすると、桐哉が不思議そうに目を丸くした。
「なぜ謝る? ……甘ったれなお前は、可愛い」
彼はひどく甘い声で言いながら、羽衣の首筋に顔を埋める。
「あっ」
頸を吸い上げられて、ゾクッとした快感が背筋を伝った。
桐哉の唇は首から鎖骨に下り、その窪みを舌でなぞっている。
その間も、彼の手は別の場所を弄っていた。
細い肋骨を数えるように撫で下ろすと、くびれた柳腰の曲線を辿って柔らかな太腿へと至った後、小さな臀部を揉みほぐし始める。
「んっ、……っ、ふぅっ……!」
どこを触られても、気持ち良かった。
はしたない声が出そうになるのを、奥歯を噛み締めて必死で堪える。
彼に愛撫された場所は全て、火を点けられたように熱くなり、そこだけ感覚が鋭敏になって、彼の吐息だけで肌が粟立ち、電流のような快感が身体の中に走る。
熱くて、気持ちよくて、頭が変になりそうだった。
「きーちゃ……、ぁっ、ひ、ぁあっ、そこ、やぁっ……」
感じやすい内腿を優しく擽られると、堪らず鼻にかかった泣き声のような声が出た。
身の内に溜まった快楽の熱を持て余し、ビクビクと身を震わせる。
立ち上がった乳首を喰んでいた桐哉は、羽衣の泣き言にクスクスと笑った。
「良い声で啼くんだな」
「あ、だってぇ……! ぁあっ、ダメェっ、噛まないで……!」
桐哉はなおも羽衣の乳首を歯の間に挟み、舌先でそれを転がして遊んでいる。
ただでさえ敏感になっているのにそんなふうに執拗に弄られたら、快感がすぎて苦しくなってしまう。
それなのに、桐哉が無情に言った。
「もっと啼け、……ほら」
長い指が内腿を這い、脚の付け根にスルリと入り込む。
誰にも許したことのない秘めた場所に触れられて、羽衣の腰がビクリと跳ねた。
ぬち、と粘着質な水音がして、桐哉がクスリと笑うのが聞こえる。
「さすが、オメガだ。もうすっかり準備は整っている」
言いながら、桐哉は無遠慮に蜜口に指を挿し入れた。
「ふぁっ……!」
そんな場所に誰かの指を受け入れたは初めてだ。自分の指だって挿れたことはない。
そこが生殖行為で使われる場所だと分かっていても、発情期を完璧にコントロールしてきた羽衣にとって、性欲は無縁のものだったからだ。
それなのに今、羽衣のそこは桐哉の長い指を根本まですんなりと呑み込んでいた。
(あ、あ、あぁ……どうしよう、私、初めてなのに……気持ち、いい……!)
これがオメガの性質と言えばそれまでだ。
アルファとの生殖が存在意義と言ってもおかしくない性なのだから。
発情期を起こした時に、いつでもアルファを受け入れられる身体になっているのだ。
「すごいな。二本目もあっという間に呑み込んでしまった」
桐哉はクツクツと笑いながら、二本の指で羽衣の膣内をぐちゃぐちゃと掻き回す。
節だった指を曲げられて蜜襞を引っ掻かれたり、隘路を広げるように指を広げられたりすると、キュンキュンと腹の奥が疼いた。
(ああ……足りない……もっと、もっと、欲しいのに……!)
自分が何を求めているのか、快楽の熱に侵された羽衣には分からない。
だが身の内側が物足りなくて、切なくて、身悶えしたくなるような欲求が込み上げてくる。
その衝動を堪えきれず、羽衣は腰を浮かせて泣き声をあげた。
「きー、ちゃっ……、おねがっ……もうっ……!」
その哀願に、桐哉が羽衣の中から指を抜いて、それを翳すようにして羽衣に見せる。
大きな手の半分ほどが、濡れてテラテラと光っていた。
それが自分の淫液だと分かった羽衣は、カッと顔を赤らめて視線を逸らそうとしたが、桐哉がその手を舐めるのを見てギョッと目を見開く。
「やっ……! やめて、汚いからっ……!」
羽衣が止めるのを無視して、桐哉は赤い舌を伸ばし自分の指についた愛蜜を舐め取っていく。
その光景は、ひどく不思議で、淫靡だった。
無駄な贅肉のない鍛え上げられた肉体を惜しげもなく晒し、異国の神のように美しく逞しい男が、自分の淫欲に濡れた手を舐め清めている。
羽衣はこれまで、桐哉という存在をどこか神聖視してきた。
子どもだった自分を甘やかし、面倒を見てくれた初恋の人だ。
散ってしまった幼い恋への執着と会えない寂しさを、思い出と妄想で宥め続けてきたせいなのだろう。
羽衣にとって桐哉は思い出の中の存在で、肉感的な実像を伴っていなかった。
だが今、目の前の桐哉は、圧倒するほどの存在感と、蠱惑的な色香で羽衣の視線を奪った。
桐哉は羽衣の目が自分に釘付けになっていることに、満足そうに口の端を上げた。
そしておもむろに自分の手を下げると、見せつけるようにして穿いていたスラックスの前を寛げる。
「……ッ」
羽衣は絶句した。
開かれたファスナーを割るようにして飛び出してきたのは、太く雄々しい男根だ。
赤黒く、張り出した傘の部分が光っていて、陰茎には太い血管が脈打っている。
男性器は、学生時代の教科書や医学書などで見たことはあったが、本物を目にするのは初めてだった。
グロテスクで、凶暴そうだと思った。
それなのにそれが桐哉のものだと思うと、怖いという気持ちは湧いてこない。
それどころか、これが今から自分の中に挿れられるのだと思うと、胸がドキドキと高鳴った。
桐哉はそれを片手で持つと、もう片方の手で羽衣の脚を掴んで開かせる。
「あ……」
羽衣はどこか呆然と一連の動きを眺める。
桐哉の所作に惑いはなかった。
彼は当たり前の行為だと言うように、開かせた羽衣の脚の間に陣取ると、自身の熱杭を蜜口に当てがって、そのまま一気に突き挿れた。
「あ、あああぁっ⁉」
ずぶりと一息に串刺しにされて、羽衣は甲高い悲鳴をあげる。
痛みはない。ベータ女性の場合、初めての性行為には痛みを伴うものだというが、アルファとオメガはそうではない。
アルファ女性はそもそも挿入する側だし、オメガ女性は発情期状態では性行為に特化した身体となるからだ。
膣は柔軟に、性器内部から豊富に潤滑液が分泌される。
発情期フェロモンに当てられ、本能丸出しとなったアルファの荒々しい行為にも対応できるようにするためだ。
だが痛みはなくとも、桐哉の男根はあまりにも大きかった。
入り口の粘膜が引き攣れ、内臓を押し出されるような圧迫感に全身から汗が噴き出し、四肢が強張るのを感じた。
「く、くる……しぃっ、ああっ」
経験したことのない苦痛に身悶えし、逃れようとする羽衣の身体を、桐哉が上からのし掛かるようにして押さえ込む。
自分よりも一回り以上大きな身体に押さえられ、恐怖を抱いてもいいはずなのに、どうしてか羽衣は安堵してしまった。
裸の身体同士が密着し、熱い桐哉の肌の感触が心地好い。
(ああ、きーちゃんの、匂い……)
シトラスとブラックティの香水に、彼の肌の匂いが混じった、独特の香りだ。
この香りを嗅ぐと、羽衣は無意識に身体の力を抜いてしまう。
桐哉を信頼できる相手だと本能的に認識していて、彼に守られているような気持ちになってしまうのだ。
くたりと彼に身を預けたのが分かったのか、桐哉がフッと眼差しを緩めてキスしてくれた。
「いい子だ、羽衣。そうやって力を抜いていろ」
唇を外してそう言って、桐哉が上体を起こして羽衣の両膝を抱え上げる。
「いくぞ」
短く告げた後、いきなり激しい抽送が始まった。
「きゃ、ぁ、ぁあっ、あ、ん、ああぁっ」
桐哉の動きは容赦がなかった。猛った陰茎をギリギリまで引き抜いたかと思うと、叩き込むように突き入れられる。
硬い切先で何度も最奥を抉られると、鈍痛の奥に火の玉のような快感が溜まっていくのを、羽衣は感じていた。
桐哉の肉棒は凶暴だった。
出し挿れのたびに張り出したエラの部分でゴリゴリと膣壁をこそがれると、腹の奥から愛液がどぷどぷと溢れ出てくるのが分かる。
(気持ちいい……気持ちいい……!)
桐哉に内側を犯される行為の全てが、気持ち良かった。
頭の中は真っ白で、ただ桐哉の与えてくれる快感を追いかけることだけしか考えられなくなっていた。
最初こそただ受け入れるだけだった隘路は、今や桐哉の肉棹に絡みつき搾り取るように収斂している。
「は……っ、くそ、持っていかれそうだ……!」