亡き両親から許嫁の存在を教えられていたが、とある事情からまったく信じていなかった真白。しかし、25歳を迎えたその日、老舗ホテルグループの御曹司である夕生から自分たちは結婚するのだと告げられた! 強引な夕生の勢いに呑まれて始まった新婚生活。忌避していたはずの夜の営みさえも、夕生に触れられると体が蕩けるのだと存分に思い知らされて!?
「ん……」
瞼を持ち上げたら、心配そうな夕生の顔が映り込んだ。
どきっとして仰け反りながら、真白はベッドが左右にも広いことに気づかされる。
真白な漆喰天井に、丸く盛り上がるように作られた薔薇の装飾。そこから垂れ下がるガラスの照明は、応接室のシャンデリアよりシンプルでシックなものだ。
「気分はどうだ」
夕生は言う。
バスローブ姿でベッドの縁に腰掛け、上半身をひねって真白を見下ろして。
「……わたし……?」
「ああ、風呂場で倒れたんだ。のぼせたんだろう。俺が、俺の寝室まで運んできた」
そう言われて、思い出す。夕生と一緒に湯船に浸かってしまったことを。
もしやとベッドの中を見れば、やはりだ。下着の一枚すらも、身につけていない。
この姿でここまで運ばれたわけだから、つまり、ばっちり見られてしまったのだろう。裸を。
「す、すみません……」
真白は思わず詫びたが、夕生は不本意そうに眉をひそめた。
「なんだ。恨み言のひとつくらい、聞けるかと思ったのに」
「恨み言……?」
「強引に風呂に入れて、のぼせさせた。そのうえ、運ぶときには裸だって見た。横っ面を叩かれてもおかしくない。それなのにおまえは、怒りの感情すら見せずに謝るのか」
謝ることの何がいけないのだろう。
倒れた真白を、夕生は運んでくれた。その手間に対しては詫びるべきだ。横っ面を叩くなんて、とんでもない。真白は戸惑いのあまり瞳を揺らすばかりで、反論の言葉も出ない。
これに夕生はいよいよ苛立ったようだった。眉間に皺を寄せたまま、斜めに迫ってくる。
顔の横に右手を置かれたと思ったら、次の瞬間、真上から見下ろされた。
「俺には何故かと問うくせに、おまえは本音を見せない」
「ゆ……夕生さ……」
「籍を入れたと伝えたときも、ほとんど無反応だったな」
不愉快さを表すように歪んだ唇が、垂れ下がる前髪の向こうに見える。
「おまえには意思がないのか。婚姻届に記入したのも、ただなんとも思っていないからか。俺との結婚は、おまえにとって擦り傷程度か。拒否反応すら、する価値もないと?」
黒く細い毛先が額を掠め、真白はびくりと肩を竦める。
一瞬、ブラックアウトする寸前の出来事が脳裏に蘇った。
――『俺がおまえとの結婚を、心待ちにしていたらいけないのか』
それはつまり、夕生が真白と夫婦になる日を待ち侘びていたということで、だから……だから? なぜ彼がこのタイミングで機嫌を損ねるのか、わからない。わからなくて、混乱する。
潜って隠れようとしたが、布団の端を引っ張られて止められた。
「それとも、俺はまだ、夢を見ているのか」
言い切った唇が、落ちてくる。
咄嗟に顔を左に背けたが、顎を掴んで戻され、口づけられてしまった。
「ん……っ!」
キス。
戸惑いで瞼も閉じられない真白を、夕生はさらに真下に組み敷いた。
生温かい唇が、真白の唇をくわえ込む。角度を変えて、押し付けられる。ひっきりなしに口を塞がれて、焦るあまり呼吸もできない。
「んん、っ」
真白は懸命に両脚をばたつかせて、逃げようとした。
しかし、逃げるどころか身動きひとつできなかった。掛け布団の上から体の左右を押さえつけられ、まるで真空パックにでもされているような状態なのだ。
「ゆ、夕生さ……っ、ぅ……!」
名前を呼んでも、夕生はキスをやめない。
堰を切ったように、あるいは挑発的に、これでもかとばかりにうぶな唇を奪い続ける。
「んっ……ふ、ァ……あ」
やがて噛み合わせを破られると、生温かい舌が容赦なく入り込んできて、真白は震えた。
いやらしい。恥ずかしい。こんなのはいけない。だが、不思議とそれだけではない。
てっきり嫌悪感が先走ると思っていたのに、何故だろう。
強引に与えられる体温は、夕生という生身の人を、より鮮明に真白に意識させるばかり。
上顎をちろりと舐められると、あやされているようにくすぐったかった。頭でも撫でられているようでたまらなくて、思わず瞼をぎゅっと閉じる。
「は……」
そこに、低い吐息が降ってきた。
じれったそうな響きに、どうしてだか下腹部がそわつく。
「ま……待っ……」
止めずにはいられなかった。はっきりとした理由はわからないが、とにかく、これ以上はいけないと思った。しかし、夕生は退かない。
「もう充分、待った」
忌々しげに言うと、掛け布団を剥ぎ取って覆いかぶさってきた。
太ももの間に入り込まれながら、真白にできたのは、さらなるキスを受け止めることだけ。
顎は固定されていなかったが、情熱的な舌を差し込まれると、めまいがして動けなかった。
「ふ、う」
夕生の手が、真白の太ももの上をゆるゆると這う。
それこそ卑猥な行為に違いなかったが、真白はまたも、そう感じなかった。
肌の上を滑る掌は温かく、ほんのり力強く、触れたいという夕生の意思をはっきりと伝えてくる。そうして夕生の欲を意識すればするほど、腰のあたりが甘く痺れるのだ。
『いかがわしい? どこがだ』
以前聞いた台詞が、不思議と耳に蘇る。
「あ」
そのとき、太ももを撫でていた手が、左胸に触れた。
膨らみの上からふんわりと掴まれ、びくっと腰が跳ねる。
(なに、今の……、体の奥のほうが、きゅうっとするみたいな)
驚いたのは、己の反応に対してだった。
こんな感覚は知らない。二十五年間生きてきて、一度も、感じたことがない。
戸惑う真白を見下ろし、夕生は様子を見ながら進めるべきだと判断したのだろう。手の中の白い膨らみを、掴みそうで掴まない、絶妙な力加減で撫でまわし始めた。
「ん、んぁ……あ!」
胸を他人に触られたのが初めてなら、びくびくと波打つさまを見たのも初めてだった。
恥ずかしいはずなのに、見惚れてしまう。隠さねばならないと思っていた扇情的な膨らみは、夕生の手の中にあって初めて、誇れるものにでもなったみたいだ。
「本気で拒否しなければ、俺は引かない」
拒否――拒否って、どうやって?
胸の先端をするすると擦られるたび、もっとそうしてほしくて、真白は腰をくねらせる。
唇を重ねられたが、胸を弄られる感覚があまりによく、気を取られすぎて、みるみる舌が吸い出されていくのにも気づけなかったほど。
「ぅ、ンっ……、ふ」
ちゅくちゅくと舌先をしゃぶられながら、ぼんやりと真白はなすがままになった。
尖った頂を、親指で転がされ、膨らみに押し込まれる。一度ではなく、何度もだ。執拗にそうされていると、膨らみの奥が熱く、もどかしくなってくる。
「はっ……ァ、はぁっ……う……」
いっそ、思う存分掴んで、捏ね回してほしいくらいだ。
体が熱い。
誰かに、どうにかしてほしい。
たまらなくなって、ふるりと身震いしたときだ。
夕生が太ももの間に、手を滑り込ませてきたのは。
「知らないからな、どうなっても」
「っ……!」
なにをするの。
焦って膝を閉じようとしたが、夕生の胴に阻まれて、できない。真白が動揺しているうちに、夕生の指先は茂みをかき分け、ふっくらとした秘部へと到達してしまう。
「っ……、あ、あ!」
触れられたのは、花弁の上からだった。そこをふにふにと揉まれて、飛び上がる。触れられているところの、もっと奥。欲しい刺激が、そこにある。
ここまで来ると、真白にはもう、絶対に拒否しなければ、という危機感はなかった。
割れ目を前後に擦られ、胸の先よりさらに敏感に、びくん! と腰が跳ねる。
「ひァ、アあっ」
これだ、とはっきりわかった。欲しかった刺激の正体。
熱い。痛い……? いや、今のはまるで電流だ。
火花でもそこに散ったかのような、鮮やかで華のある電流。
「あ……あ」
すこしだけ、怖い。けれど、もっと。もう、止められない。
遅すぎる性への目覚めを、真白は今、まさに迎えようとしていた。長いこと、目を逸らし続けていた。後ろめたいと思っていたぶんまで、いっぺんに解放された状態だ。
(……おかしく、なりそう……)
恍惚と息を吐く真白の花弁の隙間を、夕生の指は前後して擦り続けた。前は勃ち上がりかけた赤い突起、後ろは処女の入り口まで。と、すこしして、夕生の指がとろりとぬめる。
それがなんなのか、快感に侵された真白の頭では判断できない。
「いいんだな? 本当に、このまま、暴いても」
「ふぁ……ア……」
ただ、気持ちいい。ひたすらに、いい。
欲しがるように蜜口をほぐされても、奥からさらに生温かいものが溢れ、シーツへと伝い流れていっても、ぞくぞくと腰を震わせるばかり。
「ん、あ、っふ……うう、ぁ」
もっと、もっと。
唇がまた、熱っぽい口づけで塞がれると、真白は自然と舌を差し出していた。割れ目の間の粒をぬるぬるとしごかれながら、身悶える。
大きな波がやってくる気配に背中を反らせば、誘うように乳房が揺れた。
応えて、右胸をすこし強引に掴まれる。先ほどの優しすぎる撫で方とは打って変わって、欲のままに捏ねられて、ああ、もう、と覚悟する。
(ふわふわ……する、投げ出され……そう……っ)
危機感が真白に訴えてくる。
これ以上されたら、体が言うことを聞かなくなる。しかし危機感が募れば募るほど、その堰を越えたくてたまらなくなった。強くなる快感が、真白を翻弄する。
「も……っだめに、なっちゃう……う」
もう、耐えきれない。
腰をくねらせて訴えれば、夕生は十センチ先から見下ろしてきた。
「この期に及んで、まだ嫌とは言ってくれないんだな」
掠れた声。切なく懇願するような瞳にどきっとした、次の瞬間だ。
きゅ、と割れ目の中の粒を押され、夕生の指の上で、真白は大きく弾けた。