長年の恋人に裏切られた杏樹は、心機一転婚活に挑むが出会うのは地雷男ばかり。半ば諦め気味に上司の紹介で医師の和馬とお見合いすると、以前地雷男から助けてくれた男性だった。彼はエリートなのに平凡な杏樹と趣味も嗜好も相性ぴったりで互いに運命の人だと確信する。「あなたを逃したくない」その夜情熱的に結ばれ、すぐに新婚蜜愛生活が始まり!?
カーテンの向こうで色とりどりのネオンやビルの灯り、街灯の光が瞬いている。
この部屋はホテルの高層階にあるので、見下ろせばうっとりするほど美しい、都心の夜景を眺められるだろう。
だが、今は夜景よりも和馬に触れたかった。
シャワーを浴びるのももどかしく、部屋に入るなりベッドに雪崩れ込む。
五つ星ホテルだけあり、室内はモダンで洗練されている。
家具は窓際の椅子、テーブル、ベッドとも同シリーズでダークブラウンに統一され、壁はオフホワイト、フロアには現代風にアレンジした波模様の絨毯が敷かれていた。
もちろん、杏樹は五つ星ホテルに泊まるなど初めての経験だ。
通常時ならさぞかしはしゃいでスマホで撮影しまくり、ベッドに飛び込むなり、カーテンを開け放つなりしていただろう。
だが、今は和馬以外目に入らなかった。ぼんやりとしたルームランプしか灯りがない中でも、その端整な顔だけははっきりと見えた。
「本多さん……」
和馬が上着を脱ぎ捨て、ネクタイを解いた。
「あ、あの……」
ずっと本多さんもなんなのでおずおずと口を開く。
「杏樹、って呼んでくれませんか」
切れ長の目がわずかに見開かれる。
「その、やっぱり名前がよくて……」
「……じゃあ、杏樹」
甘く掠れた声でそう呼ばれると、胸がきゅんとしてそれだけで体温が上がった。
「杏樹って可愛い名前だよな」
和馬はそう呟きながら杏樹の体を反転させ、ファスナーを下ろしてワンピースを脱がせた。
丁寧語がいつしか砕けたものになっている。いつもはこうなのだろうか。それともベッドの中だけか――。
「はい、自分でも気に入っていて……」
続いてスリップを頭から引き抜かれる。和馬の指がブラジャーのホックに掛かり、器用に外すのを感じた時には心臓が破裂しそうになった。
「どんな由来?」
「え、えーっと、笑える話になっちゃうんですけど……」
杏樹の実家はミカン農家だ。
「だから、本当は蜜柑ってつけたかったらしいんですよ。でも、ミカン農家の娘が蜜柑じゃそのまんま過ぎるだろうってなって……」
なら、他の果物の名前にしようということになり、同じ柑橘類の柚子、縁起のいい果物だとされる桃、響きが可愛いからと杏樹が候補に挙げられた。
しかし、考えることは皆同じ。村内にすでに柚子と桃と名付けられた娘がいたため、なら、ひとつだけ残った杏樹にしようとなったのだ。
「でも、自分じゃ結構気に入っているんです」
和馬がこれから呼んでくれればもっと好きになれそうだった。
「桜川さんはどうして和馬って名前になったんですか?」
「父の命名なんだけど、尊敬する恩師が蒼馬って名前だそうなんだ。そこから一字もらって一馬になった」
「へえ……」
聞かせてもらってなんとなく嬉しくなる。
「桜川さんによく似合っていると思います」
和馬がふと甘く微笑んで人差し指を杏樹の唇に当てた。
「今から桜川は禁止。杏樹も和馬って呼んでくれ」
「えっ……」
「ほら、呼んで」
耳元で囁かれると首筋がゾクゾクする。
「か、和馬さん……」
禁断の呪文を口にした気分になった。
「うん、よくできました」
言葉とともにショーツがずり下ろされ、体を仰向けにされる。黒い瞳が体の線をなぞっているのを感じる。
胸の膨らみや腰の丸み、人より少々ふっくらした腿、足の爪先まで――。愛撫されたように感じてしまう。
「あっ……」
思わず右胸で胸を、左腕で下半身を隠す。
「どうして隠すの?」
「え、えっと……最近ちょっと太っちゃって」
婚活疲れをアルコールと美味しいもので解消しようとしたのだ。
「俺はこれくらいの方がいいけどな」
俺という一人称に目を瞬かせる。ずっと「僕」だったので新鮮に思い、同時に和馬の雰囲気が途端に野性味を帯びた気がした。
「特に、この足がすごく好み」
自分では太いと気にしていた腿を擦られ、「ひゃんっ」と妙な声を上げてしまう。その拍子に手を胸と下半身からはずしてしまった。
「ほ、本当に……?」
「ああ、本当だ」
和馬がワイシャツを脱ぎ捨てる。
意外とがっしりとした肩と長い腕、広く逞しい胸に目を奪われた。
「着痩せして見えるんですね」
「それは君もだろう」
大きな手がそっと頬に添えられる。アルコールのせいか燃えるように熱く感じた。
その手がゆっくりと杏樹の肌を温めるように擦る。
頬から首筋、首筋から胸、胸から腹、腹から腿へ行くと、その手がまた胸へと戻っていく。
「あっ……」
右の乳房を覆われると肩がピクリとした。
和馬は熟した桃を思わせる張りのある乳房を、指に力を込めてゆっくりと揉み込んだ。
「あ……ん」
手の平でピンとたった頂を潰され身悶える。腹の奥が切なく疼いて熱を持った。
「胸揉まれるの、結構好き?」
「……」
「う……ん」
杏樹はこくりと頷いた。だが、この行為そのものが好きなのかと問われると違う。
「和馬さんだから……好き」
切れ長の目がわずかに見開かれる。
「……クソッ、可愛いな」
誰かに可愛いと言われたのは久しぶりで、嬉しくなってつい「もっと」とねだってしまった。
「もっと……可愛いって言って?」
「……可愛いよ」
重低音の声が耳を擽る。
「世界一だ」
次の瞬間、端整な顔立ちが間近になったかと思うと、熱く乾いた何かが杏樹の唇を塞いだ。
「ん……ん」
胸を刺激されながら、舌先で歯茎をなぞられ、口内を舐め回されて舌を絡め取られる。
「……ん」
杏樹も和馬に応えて舌を動かした。
体を重ねるのはこれが初めてなのに、不思議とタイミングがわかる。和馬がどうしたいのか、どう応じるべきなのか。自分たちの共通点は医療関係である――それだけなのに。
それでも、時折ちゅっと唾液ごと吸い上げられると、不意打ちに背筋がゾクゾクとし、対照的に脳髄と腹の奥は熱く溶けた。
和馬はその間にも火照った両の乳房を交互に、時には両手で揉み込んだ。
「あっ……あっ……ああっ……」
握り潰されると爪が肌に食い込み軽く痛みが走る。その痛みが快感に変換され、足の狭間をじわりと濡らした。
「もっと……強く……して」
「もしかして、ちょっと痛いのが好きか?」
「……」
目を潤ませてこくりと頷く。
今まで誰にも打ち明けたことはなかったが、杏樹には少々Mっ気があった。ベッドの中では男性に組み伏せられ、翻弄され、責められたい。
普段はとにかく明るく元気で、どこまでも健全に生きている反動なのだろうか。
「そんな顔で強請られると……聞かないわけにはいかないな」
大きな手の中で乳房が和馬の思うままに形を変える。
「あっ……ああっ……いいっ……」
時折乳首を指先に挟まれくいっと捻られると、背筋から首筋に電流にも似た痺れが走った。
「ふ……うっ」
歓喜の息を吐き出すと和馬が熱っぽい眼差しで囁く。
「その目……その顔……ゾクゾクする……」
杏樹も黒い瞳に見つめられると、これから激しく抱かれ、和馬のものになる期待にゾクゾクした。
そんな杏樹の心に反応し、秘裂からトロリと蜜が漏れ出る。
和馬はふっくらした足の狭間に手を差し入れると、その蜜を指先で掬い取って杏樹に見せ付けた。
「感じやすい体なんだな。もうこんなに濡れている」
「……っ」
恥ずかしいはずなのについ凝視してしまう。羞恥心が媚薬となって更に蜜をトロリと分泌させた。
「本当は、もう少し慣らすつもりだったけど……我慢、できない。悪い」
和馬はベルトを抜き、ズボンをずり下ろした。
「少し早いけど、いいな」
「えっ、いいって……」
視界が滲んだ涙でぼやけてよく見えない。だが、和馬のすらりと長い足の狭間に、大きく太い、赤黒い雄の証がいきり立っているのはわかった。
「まっ……」
強引に膝で足を割り開かれる。そこに和馬の腰が入り込んだ。
「あっ……」
テラコッタ色の目が大きく見開かれる。グズグズになった蜜口に肉の楔の先が押し当てられた。
「ああっ……」
体の奥がひくりと疼く。
「あっ……そんなっ……まだっ……ああっ……」
言葉とは裏腹に隘路は内壁を妖しく蠢かせて、和馬の分身を迎え入れようとする。
「まだって、ほらもう、びしょびしょじゃないか」
和馬はうっすら笑みを浮かべながら、ぐぐっと一気に腰を押し込んだ。
「やぁんっ……」
体がビクビクと痙攣して足の爪先がピンと伸びる。痛みはまったくない。それどころか、体が歓喜しているのがわかった。
「すごいな……ぴったりだ」
「……っ」
杏樹も何か言おうとしたが言葉が出てこない。ただ熱い息を繰り返し吐き出すことしかできなかった。
「……杏樹」
低く掠れた声で名前を呼ばれた次の瞬間、ずるりと肉の楔を引き抜かれ、再びぐっと最奥を穿たれた。
「ああんっ……」
快感のあまり肌が粟立ち、体から力が抜け落ち、膝がガクガクする。
「激しくされるのが好きなんだな」
「……っ」
「ひくついて、ヌルヌルして、咥え込んで離さない」
「そんなこと、言わないでえ……」
「ほら、また締め付けた」
「あっ……」
和馬は強引に腰を引いた。
「ひぃんっ……」
内壁を擦られる感覚に悲鳴を上げる。続いて間髪を容れずに一気に貫かれた。
「あっ……あっ……も、もっと……」
優しくしてほしいのか、激しくしてほしいのか、自分でもわからなくなる。
すると和馬が笑みと興奮を含んだ声で呟いた。
「そうか。激しくしてほしいんだな」
「ちっ……ああっ……」
和馬の行為が一層激しさを増した。杏樹の両脇に手をつき、より奥深くを抉る。
時折肉の楔の切っ先が子宮へと続く扉に届いて掻き、そのコリッとした感触に杏樹の唇から噎ぶような吐息が漏れ出た。
「やっ……あっ……ああんっ……和馬さっ……」
弱い箇所を突かれ身悶える。いやいやと首を横に振ると、涙が飛び散りシーツにシミを作った。
「嫌じゃないだろう。好きだろう?」
「……っ」