「目を逸らさないで。君を可愛がっているのが誰か、きちんと見るんだ」
前世での記憶ゆえに恋愛を避けている平凡なOLの清良は、トラブルに見舞われた海外旅行先で大企業の御曹司・須王に助けられ、甘く情熱的な求めに応じ一夜をともにする。その時限りの関係だと思っていた清良だったが、帰国後、思いがけず須王と再会し……。強引だけど優しい彼に惹かれる一方、前世で敵対関係にあったような疑念が拭えず――!?
「食べられる覚悟はできた?」
「あぁ……ンッ」
首筋に顔を埋められて、カプリと甘噛みされた。
そのまま強く吸い付かれると、なんだかお腹の奥までキュウッと収縮する。
身体が火照る……下腹が疼いて、私も期待しているみたい。
……このまま最後まで流されてしまいたい。
美しい獣のような男に捕食されてみたい。
正直、死ぬまで処女を守りたいなんて思っていなかった。ここで捨ててもいいのではないか、と私の中で声がする。
……そうだ。私は恋人を作らないって決めているけど……でも、処女はあげてもいいかもしれない。
恋愛はしない。
恋は人をおかしくするから、そんなものに巻き込まれたくはない。
普通の男女が歩むような平凡で幸せな結婚は、来世に期待しようと思っていた。恋愛結婚して、家庭を持ち、子供を育てて……そんなありふれた人生は私には眩しすぎる。
恋愛をしない主義だから、男性と肌を重ねることもなく死ぬと思っていたけれど。それはこんな機会が訪れないと思っていたからで。
逆に今後も一生独り身で生きていくなら、思い出くらいは作ってもいいのではないか。
その一度きりの相手が須王さんという極上な男性なら、文句なんて出てこない。むしろこれまでにないくらい幸運なのではないか。
少しでも好ましいと思っていた相手に抱かれたら、きっとその思い出だけで私はひとりで生きていける。いつかの未来で、この経験は幸福な思い出だったと言えるだろう。
そっと後ろを振り返る。水に濡れた髪がとてもセクシーだ。
求められる心地よさに胸の奥をくすぐられながら、私はそっと須王さんに問いかける。
「私を食べたいの?」
「うん、とても」
迷いのない返事を受けると、なんだか笑いがこみ上げてきそう。
こんなに真っすぐに求められて、嫌だと突っぱねる理由がなかった。恋人でもないのに一夜の関係は不誠実だなんて思うほど潔癖でもない。
「じゃあ、どうぞ。召し上がれ?」
お口に合うかはわからないけれど。
でも須王さんはおいしく料理をする気でいるようだ。すぐに私を抱き上げた。
「出よう」と一言声をかけて、すたすたとバスルームを去る。棚に置かれていたバスタオルを掴むのも忘れていない。
彼が使用しているベッドの上に運ぶと、自身の身体を拭くよりも先に私の身体をタオルで拭いた。
髪を乾かす余裕はなさそうだ。
私の上に須王さんがのしかかる。彼の雄はすでに臨戦態勢に入っていた。
臍につきそうなくらい猛々しく凶悪で、ずっと我慢をしていることが伝わってくるんだけど……どうしよう。
比較対象がいないからわからないが、立派すぎやしないだろうか。
咄嗟に視線を逸らす。
なんだか生々しすぎて、今見た光景をキノコにたとえようとするけども、ろくなイメージが出てこなかった。極上な松茸……いや、むしろキノコどころではない。
比喩表現はやめよう。私は思考をストップさせた。
「ああ、これも脱がないと」
須王さんが私の最後の砦を脱がしにかかった。なんだか機嫌がよさそうだ。
抵抗らしい抵抗もできないまま、水を含んだ布は床に落とされる。
身体を隠すものが一切ない。羞恥心から身体全体が上せそう……。
「あの、あなたも拭かないと……」
「そうだな、忘れてた」
彼は大雑把に身体についた水滴をぬぐうと、それもポイッと床に落とした。
視線を彷徨わせる私の首筋を指先でなぞり、反応を伺ってくる。
「緊張してる?」
「そ、れは、もちろん……慣れてないので」
「今恋人はいないって言ったけど、最後にいたのはいつ?」
「……それ、今聞く?」
思わずふいっと視線を外した。
なんとなく今まで恋人がいたことはないと明かし辛い。見栄とかではないけれど。
だが須王さんは私の心情を察したのだろう。もしくは初心な反応を見てとっくに気づいていたのかもしれない。
「よかった、君の過去の男たちに嫉妬しなくて済みそうだ」
「嫉妬って……」
「私以外の男にも見せていたかと思うと、胸が焼き焦げそうになる」
言い過ぎではないか。たかだか数日一緒にいただけなのに。
本当、少し情が移っただけの相手に向ける眼差しじゃない。
熱を帯びた双眸が私を搦めとるように見つめてくる。早く喰わせろと訴えるように。
本能的に逃げたい気持ちと、この先を求めてみたい欲求が混ざり合う。
紳士の仮面を脱いだ獣に食べられたら、一体どうなってしまうのだろう。今までの私ではいられなくなりそうで少しだけ怖い。
でも……期待からか、喉がこくん、と上下した。
口から洩れる吐息も熱を帯びている。
「お手柔らかにお願いします……」
「努力しよう」
ふたたび唇が合わさった。しっとりとした柔らかさが私の理性を攫っていく。
今日だけで一体何度目のキスだろう。
須王さんとのキスに嫌悪感はない。むしろふわふわとした心地にさせられる。
そういえばどこかで、キスができる相手は特別な人になれるって聞いたことがあったっけ……。
それが相手と付き合えるかどうかの基準のひとつだそうだが、確かにそうかもしれない。
キスをしても大丈夫か、嫌悪を抱かないかを想像して、問題ない人は好きになる可能性があるらしい。多分理屈で判断できるものではないだろう。
須王さんが好きかどうかはわからない。ただ一緒にいる時間が心地よくて楽しくて、そして触れられることが嫌ではない。
でも、私はたった一晩抱かれただけで彼女になったとは思わない。時折思い返しては胸を疼かせる経験として処理するつもりだ。
だから今は、あれこれ考えるのをやめてしまおう。与えられる熱だけに集中したい。
「あぁ……、はぁ……っ」
胸のふくらみを弄られるだけで、胎内の熱が膨らんでいく。
自分では決して得ることのない感覚だ。男性の武骨な手で触れられるから、こうして気持ちよく感じてしまうのだろうか。
「可愛いな……もう食べてほしそうにしている」
「あぁ……ッ」
ぷっくり膨らんだ胸の蕾をキュッと摘ままれた。
ピリピリとした電流が背筋を駆ける。無意識に腰が跳ねてしまう。
卑猥に形を変える胸を直視できない。須王さんが私に見せつけるようにねっとりと胸の頂を舐めるのも、恥ずかしすぎてたまらない。
私が恥ずかしがるほど、身体がどんどん変化していく。
太ももをこすり合わせるだけで淫靡な水音が響いた。
彼の愛撫に身体が感じている証拠だ。
「清良、目を逸らさないで。君を可愛がっているのが誰か、きちんと見るんだ」
「……っ!」
意地の悪いことを言いながら、彼は私の官能をさらに引きずりだそうとする。
胸を吸われて赤い欝血痕をつけられる。ちくりとした痛みが走るのも快感に変わりそうで、口から微かな喘ぎが漏れた。
なだらかな腹部を撫でられて、下腹にまで到達する。そのまま大きな手は私の秘所へと伸ばされた。
「あ、待って……」
クチュン、と水音が聞こえる。自分でも感じ取れるほど濡れていることが伝わってきて、もう咄嗟に顔を隠したくなった。
「感じやすいようでよかった。濡れにくい体質ならローションを使った方がいいかと思っていたが、生憎手持ちがない」
そう言われてもなんと答えていいか返答に困る。
「……じゃあ、濡れなかったら諦めてたの?」
「いいや? こんなごちそうを前に諦める雄がどこにいる。清良がドロドロに感じてくれるまで励むだけだ」
須王さんが身体をずらした。
なにをするのだろうと窺っていると、私の両膝を立たせてその中心部へ顔を寄せた。
「なぁ……っ、ひゃあ!」
じゅるり、と愛液を啜りだした。
励むというのはそういうことかと時間差で理解する。
まさか舐められる覚悟なんてしてない……!
はじめての体験に声にならない悲鳴が出そうだ。恋人でもない相手の秘所を舐めるのは行きすぎなのか、普通なのかもわからない。
視界がチカチカと明滅する。
お腹の収縮は止まらず、蜜壺は絶えず新たな蜜を流し続ける。
「あ……ダメ、それ……っ」
がっちりと膝を固定されていて動かせない。身体から力が抜けていく。
彼の舌が慎ましい花芽を嬲り、きつく吸い付いた。
「ン――ッ!」
胎内で燻っていた熱が出口を求めて小さく弾けた。
四肢から力が抜け落ちる。
頭が真っ白になり、身体が一瞬浮遊した気がした。
「ああ、すごく可愛い……蕩けた顔がたまらない」
須王さんに顔を覗き込まれた。
彼の灰色がかった瞳には、呆けたように見つめ返す自分の顔が写っている。
恥ずかしい……。
口を半開きにして浅く呼吸を繰り返す。熱を帯びた目はとろんとしている。理性の欠片も感じられない。
与えられる熱に翻弄している女の顔だ。
須王さんは私の顔を覗き込んだ後、喰らいつくように唇を塞いだ。
喘ぎも呼吸も彼の口に飲まれてしまう。
ぐずぐずに蕩けた泥濘に指を何本差し込まれているかもわからない。
ただ慣れない異物感を窮屈に感じながらも、膣壁がこすられることが気持ちいい。
……ああ、水音がいやらしい。
下肢から響く淫靡な音。自分がこぼす愛液だと思うと、耳を塞ぎたくなる。
リップ音を奏でて、唇の体温が離れていく。
ツ……と唇に繋がった銀糸がいやらしく視界に映った。
「はぁ……、アァ、ン……っ」
「聞こえる? 清良から零れる蜜の音。私の指を難なく三本も飲み込んでいる」
グチュッ、と音を奏でながら指を抜いた。
透明な蜜をまとった指を直視できない。
須王さんはその指を見せつけるように、私の前でねっとりと舐めとった。
「――ッ!」
なんていやらしいんだ。エロすぎて呼吸が止まりそう……。
「恥ずかしくてたまらないって顔をしてる。でもそんな表情は逆効果だ。余計誘われているようにしか感じない」
そんなことを言いながら、彼が私の脚を肘にかけた。
蜜壺の中心に楔をあてがい、ハッとする。
「あ……待って、避妊は?」
僅かに残る理性が確認を求めた。
さすがに一晩の過ちで妊娠するのは困る。
「大丈夫、もちろんつけている」
いつの間につけたのかわからないが、避妊具を使用していることにホッとする。私がぼんやり絶頂の余韻に浸っているときにつけたのだろうけど、どこに隠し持っていたんだろう。
だが安心したのも束の間。身体に衝撃が走った。
「あぁ……ッ!」
ぐぷり、とめりこんだ先端が一拍後、一気に最奥まで貫いた。
「――っ!」
声にならない悲鳴をあげる。
内臓を押し上げる異物感が苦しい。