「この関係を解消するときは、君が俺の恋人になるときだ」
過去のつらい離婚の経験から、恋愛も結婚も避けてきた京香は、大企業の後継者で遊び人と評判の上司ニックと、週末だけの〝セックスフレンド〟の関係にある。欲望のままに互いの身体を激しく貪りあい、後腐れなく寂しさを埋められればいい──そう思っていたのに、ニックが倒れたことをきっかけに、ふたりの関係にも変化が訪れて……!?
「誘ってくれてありがとう。今日はあのまま帰りたくない気分だったから」
「うん、わかるよ。寂しかったんだな」
「えっ、寂しい?」
「違うのか? 優宇に親友を奪われて寂しいのかと思っていたが」
――ああそうか、私は寂しかったのか……。
ニックの言葉が妙にしっくりきた。
私は嬉しくて楽しくて、そしてとても寂しかったのだ。
結婚していたときは夫と、離婚してからは万智と誕生日の夜を過ごしてきた。それが今年はとうとう一人ぼっち。恋も仕事も充実させている万智を見て、私は自分だけが取り残された気持ちになっていたのだろう。
「勝手だよね……さっき皆で祝ってもらったばかりなのに。私だって結婚中は万智そっちのけで夫と過ごしていたのに」
「しょうがないさ、誰だって一人は寂しい」
「あなたみたいな人でも?」
「ああ、寂しい。今日みたいに楽しく過ごしたあとは、誰かと寄り道したくなるよ」
「そっか……でも、なんだかわかる」
わいわい騒いだあとで、一人で電車に乗るときの寂寥感。真っ暗な部屋に帰って明かりをつけたときの孤独感。
そういうのを少しでも先延ばしにしたくて、ついつい帰る足が重くなってしまうのだ。
──そうか、ニックもそんなふうに思ったりするんだ……。
だから次々と恋人を作っているのかな……などと考えつつチラリと見ると、やけに色気のある表情で見据えられた。
二人の視線が絡まって、私はごくりと唾を飲む。
こういう空気を知っている。これは男女の始まりの合図だ。
「……上に俺の部屋がある。酔いを覚ましていくか?」
先に仕掛けてきたのはニックだった。遠回しに問いかけながら、私の反応をうかがっている。
艶のある声が、やけに大きく耳に響いてきた。
腰から下が痺れだす。じわりと奥から濡れてくるのがわかった。こんな感覚は久しぶりだ。
「酔いを、覚ますだけ?」
「酔いが覚めるし……温まる」
「温まる? この熱帯夜に? もう十分なんだけど」
「いや、もっと熱くするし、気持ちいい」
こういう男女の駆け引きも長らくしてこなかったな……などと考えつつも、頭の片隅では微かに警報が鳴っていた。
――駄目だ、絶対に面倒なことになる。
今まで何人かの同僚から誘われたことがあるが全て断ってきた。関係を持って同じ社内で気を遣うのもトラブルになるのも、まっぴら御免だ。
しかもニックは会社のトップ、周囲にバレて騒がれるのはただの同僚の比ではない。
そう思っているのに自分の身体は正直で。
「行こう」
先に立ち上がったニックに手を掴まれると、そこから電気が流れ込んだみたいに子宮が痺れた。
「……うん」
身体を引き上げられて肩を抱かれ、私は魔法にかかったようにフラフラと彼についていったのだった。
そこからはもう順番も何もあったもんじゃなくて。
最上階のスイートルームに入った途端、すぐに激しく口づけられた。
――あっ、この人キスが上手だ。
舌の裏を根元から舐め上げられたと思ったら、間髪を容れず舌先で上顎をくすぐられる。
唾液がどんどん甘ったるくなってきて、私も夢中で彼の薄い唇を貪った。
ニックはキスをしながら器用にスーツの上着を脱ぎ捨てる。
私の背中を壁に押し付けると、立ったまま太ももを撫でてきた。
「ちょっ、シャワーくらい……」
浴びさせてよと言う前に、ニックが足元に跪く。
私のショーツを下ろすと素早くスカートの中に頭から入ってきた。すぐに割れ目に舌を這わせてくる。ペチャッと粘着質な音がした。
「やっ、あ……っ!」
生温かい舌の感触に腰が跳ねる。ここを誰かに触れられるのは離婚以来だ。いや、結婚生活のときでさえ後半は愛撫もおざなりで、夫の性欲処理のみの行為に成り果てていた。
ましてや舐められるなんて本当に何年かぶりのことで……。
「京香、暑い。裾を持ち上げてくれ」
スカートの中からくぐもった声がして、私は慌てて裾をたくし上げた。
見下ろすとニックは両手で割れ目を開いて中心に何度も口づけている。
彼がちろりと上目遣いになる。視線が交差すると、ニックはそのまま見せつけるように小さな粒を吸い上げた。ジュッと短い音がして、私の中心が熱くなる。
「ああっ! 駄目ぇ!」
「京香、脚を開いて、肩に乗せて」
私の返事も待たずにニックに片脚を持ち上げられた。彼の右肩に片脚を絡めた瞬間、奥からトロリと愛液が溢れ出る。それを素早く彼の舌が掬っていく。
蜜壺に彼の舌がねじ込まれ、同時に蕾を指で捏ねられる。
あっという間に波が訪れた。
「やっ、駄目、ニック、もう止めて!」
あまりの刺激に立っていられない。私はブルッと腰を震わせると、壁に背を預けたままズルズルとしゃがみ込んだ。けれど彼の顔は股のあいだに沈んだままだ。
「もうっ、イった……からっ!」
息も絶え絶えに訴えるものの、彼は聞く耳を持ってくれない。立てた膝を大きく割られ、剥き出しの蕾を舌で転がされる。長い指が挿入ってきた。ジュボジュボと水音を立ててナカを掻き回された途端、絶頂が背中を駆け抜けていく。
「あっ、ああーーっ!」
両手で彼の頭を抱え込んで弓反りになる。二度目の波がおさまったのを見届けるとニックはようやく上体を起こす。
「京香……綺麗だ」
彼は私の頬をするりと撫でて、啄むようなキスをした。これで終わりかと思いきや、すぐに抱き上げられる。そのまま奥にあるベッドルームに連れ込まれ、キングサイズのベッドに横たえられた。
ニックが私の服を剥ぎ取ると、みずからも膝立ちになってシャツを脱ぐ。見事な肉体美が月明かりに晒された。彼はどうやら着痩せするようで、肩も胸板もしっかり筋肉がついている。
ぼんやりと見惚れているあいだに、彼がスラックスのベルトを抜いてファスナーを下ろす。下着の前が張り出していて、すでにシミができていた。
――大きい!
それだけでもかなり立派なのが見てとれたが、下も全て脱いだのを見た瞬間、思わず「嘘でしょ!」と声が出た。
想像を絶する長さと太さ。アメリカ人とはシたことがないけれど、これが向こうの標準サイズなのだろうか。こんなのが入るとは思えない。
「絶対に無理……」
私の呟きを聞いたニックが口角を上げる。
「大丈夫、しっかりほぐすから」
「えっ……あっ!」
次の瞬間には蜜口に二本の指が挿入される。抽送を繰り返しつつ、合間に浅いところを撫でられた。
「ああっ!」
「I found it(見つけた)」
激しく身をよじった私に、ニックが目を細める。
「ここが京香のスイート・スポットだね?」
トントン……と指の腹でナカの天井部分をノックされた。指が長いせいか、驚くほど的確にポイントを突いてくる。そのたびに魚みたいに腰が跳ねてしまう。
「ここ、こうすると気持ちいい?」
「あんっ、そこ駄目ぇ!」
――気持ちいいも何も、絶妙すぎる!
ソフトタッチで刺激され、またすぐに達してしまいそうだ。一点をグッと押し上げられて、目の前に火花が散る。
「あーーっ、イクっ!」
嬌声をあげ、大きく背中を震わせた。なのにニックの動きは止まらない。
それどころか指が三本に増やされて、グチョグチョと大胆にナカを掻きまわし始める。
「駄目っ、本当に駄目だってば!」
止めようとした手を掴まれた。細身に見えても彼は男性なのだ。片手で私の手首を捕らえたまま、右手の指で激しくナカを擦り続ける。
「もっと快くなる」
「嘘っ、やだっ……ああっ!」
ここまで来たら拷問だ。気持ちいいのか苦しいのかさえもわからない。
私はひたすら腰を捻って声を出し続けた。
四回目の絶頂を迎えたあとで、ようやく身体が解放される。
連続した刺激の責め苦を終えて、ほっと息をついたその直後。ニックが立派な屹立に避妊具をはめるのが見えた。
やはり相当な大きさだ。期待と恐怖が交錯する。
「やっ、もう……」
「嫌なのか? 本当に?」
蜜口に彼の先端が充てがわれた。先走りを塗りつけながら、ヌルヌルと割れ目を上下する。
「あっ、ん……っ」
擦れた場所がジンジンする。お腹の奥から甘い疼きが湧いてくる。駄目だ、めちゃくちゃ気持ちいい。
「京香、気持ちいい?」
「んっ、いい……」
そのとき突然ニックの動きが止まる。右手で握りしめた屹立を入り口でピタリと止めて、私をじっと見下ろしてきた。
「どうする? 今ならまだギリギリ止められるけれど」
「えっ?」
「京香が選んで」
――ここで私に決めさせるつもり!?
なんてズルい男だろう。責任逃れのためか、あくまでも私に最終判断を委ねるつもりなのだ。
ここまで快感を高めておきながら生殺しの状態で放置するなんて、とんでもない策士だと思う。
けれど火照った身体はこの先を求めていて……。
――そっちがその気なら……。
私は勢いよく身体を起こし、ニックの両肩に手を置いた。そのまま彼を仰向けに押し倒すと腰を跨いで膝立ちになる。これで形勢逆転だ。
「京香……!?」
ニックは目を見開いて茫然としている。私はその顔を見下ろしながら、勃ち上がった彼の屹立をみずから蜜口に充てがった。
「ねぇ、どうする? 今ならまだギリギリ止められるけれど?」
「そんなの……」
私の意趣返しに動揺するかと思いきや、ニックが両手で私の腰を鷲掴む。
「……っ、止められるか!」
「ああっ!」
いきなり下からズンッと突き上げられた。
隘路を無理やりこじ開けながら彼の剛直が貫いていく。ナカがミシッと音を立てるのが聞こえるようだ。
「やっ、キツい……こんなの駄目ぇ!」
彼が最奥まで到達した。硬くなった先端が子宮口を叩く。そのまま連続して勢いよくぶつけられた。
こんなに奥まで突かれたのは、はじめてだ。振動が頭蓋骨まで響いてくる。
想像以上の衝撃に、私はまるで処女みたいに全身を震わせた。
「あっ、やぁ、ああっ!」
逃れようにも腰をガッチリ掴まれて敵わない。内股に力を入れて必死で快感を逃そうとするも、それを上回る刺激に身悶えるしかない。
「京香、動いて」
「駄目っ、こんなの、無理っ……」
彼のお腹に手を置いてじっと耐えようとしているのに、ニックの攻撃は容赦ない。急に上体を起こしたかと思うと私を前から抱きしめる。座位で向き合ったまま揺すぶられて、私は背中をのけ反らせた。乳房を揉まれ、先端のピンクをつねられる。
「ああっ、すごい!」
「気持ちいい?」
「いいっ、気持ち……いいっ!」
緩急をつけた攻撃に、ただただ翻弄される。全身が熱い。お腹の中でマグマが煮えたぎっているようだ。
――こんなの、抗えない……。
「……っは、京香、気持ちいいよ」
ニックが動きを緩やかにする。
私のナカが彼のサイズに馴染んできたらしい。いつの間にか滑りがよくなり、粘着質な音が大きくなった。
大きなストロークで掻き回されて、奥から新たな波が生まれだす。それはあっという間に全身を呑み込んで、私を絶頂の渦に沈めてしまう。
「やっ、イク……っ!」
私はつま先をキュッと丸めると、今日、何度目かの強烈な刺激を受け止める。
「もう……駄目……っ」
脱力し、ゆっくりと後ろに倒れ込んだ。
けれどぐったりと目を閉じた私の耳に、とんでもない言葉が飛び込んでくる。
「京香、まだだよ。俺がイっていない」
――えっ!?
「ちょっと、私はもう……ああっ!」