「もう一度君と結婚できるなら、他のすべては捨てていい」
シングルマザーの真帆は、息子の急病で駆け込んだ先で、医師である元夫の孝生と再会してしまう。蕩けるほど幸せな結婚生活を送っていた二人だったが、孝生が実家の後継者争いに巻き込まれたことが原因で引き裂かれたのだ。そんな過去にも関わらず、孝生は昔と同じ甘く情熱的な態度で真帆と息子を溺愛する。辛い過去と孝生への思いに揺れる真帆は!?
「なんでそんなに恥ずかしがるんだか」
「想像通りでがっかりした……?」
胸はやや小ぶりで、若く肌に張りがある分、熟し切れない果実みたいだし、腕や足だって、しなやかだけれど、艶っぽいとは言いがたい。
成熟した女性というよりは、奔放に野を駆け回る若い牝鹿のような身体は、少しだけ真帆のコンプレックスでもあった。
「あんまり、色気がない、よね」
「なにを言ってるんだか。……白く滑らかな肌も、しなやかに動く四肢も、胸も、もちろん、顔も心も、真帆は全部がとても素敵だよ」
恥ずかしさと照れから顔を隠したままでいると、坊城はブラの上から胸に触れ、つぶさに語る。
「ここだって……恥ずかしさと興奮で桜色になった肌に、すごく白が映えて、まぶしいぐらいだ」
「あっ、やぁッ……」
レースと乳房の膨らみで盛り上がるカップの頂点をぴんと指で弾かれ、刺激の強さにびくんと背が浮く。
驚き戸惑う真帆を見た坊城が、ふと笑いを止め、低く男らしい声でこぼす。
「駄目だな。じっくり記憶に残したいけど、時間をかけると、真帆はどんどん余計なことを考えそうだ。……だから、余裕も遠慮もなしで抱くよ」
えっ、と声を上げるまもなく左右から乳房を掴まれる。
「ん、んんっ、ん……っく」
形が変わるほど揉み込まれるが、ブラジャーが胸を覆っているため、伝わる感覚はどこか鈍く、もどかしい。
布が肌を擦る感覚や、手に込められた力は伝わるのがかえってじれったい。
本気で抱くと宣言した割に、肝心な素肌に触れず緩く、むず痒い刺激だけの状態に身体が疼く。
もっとちゃんと触ってほしい。坊城の指を、肌の熱を、その身体を知りたい。
切ない願いが喉元まで込み上げ、真帆が苦しげな息をこぼした時だ。
いつもの優しい恋人だった坊城の目が鋭く細められ、劣情にぎらりと光りながら真帆の視線を捕らえた。
肉食獣を思わせる野性味と、秘めた力を知らしめる瞳の輝きにどきりとした。
襲われる小動物の畏れと、相手の身体の一部となれる歓びが胸をかき乱し、ぞくぞくとするものが腰の辺りからうなじまでを走り抜ける。
同時に、腹の奥にある女の器官が、男の情動に穿たれずくんと疼く。
女の身体に起こった変化を見抜いたのか、坊城はブラのカップを引き下ろすや否や、両方の乳首を同時に摘まむ。
「あ……、あぁッ! あ! あぁ」
肌に触れた男の指の熱さにうろたえたのも束の間、女の身体の中でも感じやすい場所を突如摘ままれ、真帆は理性を働かすことも忘れ、高く喘ぐ。
電流に似た鋭い刺激が胸の尖りに走り、たわわに実る二つの果実を愉悦で揺らし、鼓動が一拍打たれるごとに膨らみが張り詰めていく。
徐々に芯を持ち硬くなっていく先端をこより、擦る指先の熱が皮膚から染みて血肉へと響く。
完全に下着からはみ出た肉のまろみは、掬うようにして男の手に囚われ汗ばみ、より一層艶めかしく二人の肌が密着する。
互いの体温が馴染み伝わるごとに、緊張に張り詰めていた身体がほぐれ、弛緩し、立てていた膝が細かに震えだす。
そうなるともう恥ずかしさもなにもわからなくなり、真帆は男の求めるままに喘ぎ啼き、乱れる呼吸もそのままに、初めての快感に身を捩る。
「んやっ……ぁッ、ああ……ぁあっ! やぁ」
発情した猫のような声に紛らせ、戸惑いに抵抗しようとするも上手くいかない。
「駄目ッ、……ん、そこ、変になるぅ」
半泣きに似た声で訴えれば、余裕を失いだした坊城が激しく息を継ぎつつ応える。
「いいよ。俺も変になってる。真帆のことしか考えられない。ねえ、真帆、かわいい。綺麗だ。真帆……好きだッ」
枕詞のように妻となった女の名を繰り返し、あらゆる好意を単語にしてぶちまけながら、坊城は胸の谷間に顔を埋め、衝動を隠さない強さで肌を吸う。
ちくりとした痛みが走り、次いで、濡れた皮膚からじんわりと広がる媚熱を感じる。
肌に触れていた男の唇が離れても疼くその場所に視線をやれば、はっとするほど鮮やかな紅い徴が刻まれていた。
ぁ――と、掠れた声が漏れ、心が歓喜にわななく。
えもいえぬ多幸感が全身を包み、真帆は自分が坊城のものになりつつあることを嬉しく思う。
紅い吸い痕は胸の谷間だけに留まらず、乳房の側面やたわむ膨らみの下、そこからなだらかな曲線を描く腹から腰へと、いくつもいくつも散らされる。
朱に染まった女の肌にあってなお鮮やかな接吻の鬱血は、季節外れの紅梅のように華やかで艶めかしい。
まるで自分の身でないように、女として色香を匂い立たせる肉体に心が昂ぶり敏感になる。
輪郭を辿るようにして男の手で脇から腰を撫でられると、得も言えぬ心地よさが身体を巡る。
初めての感覚に戸惑い身を捩るごとに、胸の膨らみが揺れたわみ、男の愛撫で薔薇色に染まり勃ち尖った先が心もとなげにふるふると揺れる。
自分の身体が示す淫らな変化に息を呑むと、たまらないと呟いて坊城が淫らな果実を口に含む。
「ひあっ……やっ、ぁああん」
引き締まった男の唇に包まれたのも一瞬、すぐ口腔へと吸い込まれ、濡れた感触とともに舌が先へと絡みつく。
ぬめる舌の感触は、指で触れられるのとはまったく違い、ひどく淫らで生々しい。
溢れる唾液を塗りつけるように側面に絡ませ、かとおもえば、硬くした舌先を押しつけ、胸の柔肉に埋めるようにし、ありとあらゆる手管を試しては真帆が身を捩り、震え、心許なげに喘ぐ反応を楽しまれる。
ふとなにかを思いついたように舌の動きが止まり、次の瞬間、綺麗な歯列で根元を挟み思いっきり吸い上げられる。
一際甘く甲高い声が、喉から夜闇へと放たれる。
同時に、頭の中にいろんな色がぱあっと散り巻かれ、輝きまたたく。
「あ、あ……ッ、だ、め……それ、だめぇッ!」
強すぎる快感に驚きうろたえつつ訴えるが、まるで聞いてもらえない。
どころか、もっと官能に溺れてしまえと言いたげに、さらに執拗に舌でしごき、花蕾の先にあるくぼみにまで歯を立てられる。
強弱をつけた舌戯に理性を留めていられない。
濁流じみた愉悦に流され、心までもって行かれそうだ。
やり過ごそうと力を込めた背が、綺麗な弧を描いて弓なりとなる。
男に捧げるように双丘がぐうっと男に向かって張り出し、もっととねだるように可憐に震えた。
目を見張り、息を呑み、真帆の痴態を見つめていた坊城が、は、と熱い息をこぼし呟いた。
「邪魔だな」
なにがと問うより早く、男の手が浮いた背をくぐって留め金を外し、真帆の胸を隠していた布を奪う。
「きゃっ……!」
小さな悲鳴を上げた時にはもう、坊城の指はパジャマのズボンにかかっていて、膝から先が跳ね上がるほどの性急さで、下着ごと引き抜いてしまう。
突如、生まれたままの姿に剥かれ、目を白黒させている真帆の前で、坊城もまた素肌をさらしきる。
若木のようなしなやかな腕に、筋肉で逞しく絞れた腰。
そこから太股に至る輪郭は滑らかなのに、割れた腹筋の陰影は薄暗い寝室でも見て取れるほど明瞭で、しっかりと鍛えられているのがわかる。
脇腹から見事な三角を形作る腹斜筋の下部は黒々とした陰毛に覆われ、そこから力強く反り返るものが隆起する。
女性にはない器官を目の当たりにした真帆は、見てはいけないような、それでいて全部見てしまいたいような、好奇心まじりの羞恥に胸を高鳴らす。
あわてて顔を横に背けたことで、なにを見て紅くなっているのか気付いたのだろう。
坊城は、剥ぎ取った真帆の下着も自分のパジャマも一緒くたに丸め、床に放りながら、したり顔で真帆に覆い被さる。
「見たい?」
堪えきれぬ笑いで語尾をかざりつつ尋ねられて身悶える。
別にとか、いやそれはと、口の中だけでもごもごと呻いていると、焦れた坊城が正直に言う。
「俺は、見たい。……なにもかも、全部。だけど」
「だ、だけど……?」
緊張に上擦った声で相手の語尾を繰り返せば、見とれるほど鮮やかな笑みを返し、坊城は言い切った。
「真帆が見られるのに抵抗あるみたいだから、今日は、触れるだけにする」
言うなり、坊城は真帆の恥じらいをなだめるように、足下にわだかまっていた毛布を引き上げ二人の下肢を隠してしまう。
優しい気遣いにほっとしたのも束の間、毛布の下で男の手が素早く動き、真帆が太股をとじ合わせるよりはやく足の間へと至る。
自分でさえあまり触れたことのない場所を、坊城の手で包み込まれ、伝わる熱と掌の大きさに驚き身体びくんと大きく跳ねた。
たまらず両脚をすりあわせ、男の手を押し出そうとするも、かえって恥丘を包む男の長い指や、骨張った節の部分を意識することになり、真帆はますますいたたまれなくなる。
顔を両手で覆い、むずがる赤子に似た動きで首を横に振る。
拒絶にも取れる動きをしたことにぎくりとするが、真帆が弁解するより正確に、坊城は真帆の心中を読み解く。
「信じられない、って反応をしてる」
額に額を軽く当てられ、指の間から薄目で見ると、坊城は悪戯が成功した少年みたいな表情をしていた。
「俺も、信じられない。……真帆に触れて、感じさせられる日がこんなに早く来るなんて」
嬉しい。とシンプルに喜びを口にしつつ、坊城がそろりと――繊細な動きで恥部を覆う茂みを指に絡ませる。
じんわりとした熱が男の掌から伝わり、肌に馴染むに従って呼吸は落ち着きだすけれど、恥ずかしさはまったく消えない。
どうすればいいのか分からず、ただただ身を震わせていると、坊城がはあっとやるせない溜息をこぼし、あわてて唇を引き結ぶ。
「孝生、さん」
「ん……?」
余裕があるように見せかけながら、その実、真帆の心がほぐれるまで辛抱強く劣情を抑えてくれているのだと気づき、真帆は恐る恐る手を顔から外し、脇に下ろす。
「大丈夫?」
荒れがちな呼吸の合間に尋ねられ、我慢しつつうなずくと、こら、と囁かれ額を指で弾かれた。
「我慢なんて、しなくていいよ。……俺は待てるから」
真帆に告げるというより、自分に言い聞かせるような声音に心が震えた。
どれだけ、大切にしてくれるのだろう。どれほど、真帆を愛しているのだろう。
はかりしれないほど大きく温かな気持ちに包まれ、真帆は自分がいかに坊城の大人な部分に甘えていたのかを悟る。
「待たないで。……大丈夫。ただ、少し恥ずかしくて慣れないだけ」
秘部を触れられることなど初めてだからと、言外に含ませつつ正直に伝えれば、参ったなと坊城が苦笑し、頭を振る。
「本当に、真帆は、俺を煽って、喜ばせる天才だな……。たまらなさすぎて暴走しそうだ」
言うなり坊城は左手で真帆の背を支え起こし、そのまま肩から腕、手首と緩やかに撫で下ろし、最後にそっと手首を摘まんで自分へ引き寄せる。
「だったら、俺の恥ずかしい処も触ってみる?」
問い、否定されるより早く真帆の手を己の股間へと導く。
「う、わっ…………!」
指先が尖端に触れ、そのつるりとした感触と思わぬ熱におたつき、咄嗟に指を引きかける。
が、坊城にはそれを許すつもりはなく、逃げかけた真帆の指ごと自身の屹立を手で包み込み、そっと握らせる。
「やっ、やだ……! 嫌らしい、女みたい」
ぐっと迫り上がり硬く兆しているものを手で感じつつ、恐れを口にだせば、坊城が苦笑する。
「なんで? 俺が触らせてるのに。……真帆は、そんなこと、考えなくて、いいよ」
興奮しているのか、あるいはためらいを殺すためか、ところどころ声を途切らせつつ坊城が続ける。
「俺も、真帆と同じだよ。初めて女に触らせるから、少し照れくさい。……でも、触れてほしいとも思ってる」
身を起こした真帆の肩口に顔を埋め、熱い吐息を肌に吹きかけ坊城は微笑む。
「だから、怖くないってわかるまで、俺と一つになることにためらいがなくなるまで、触って」
その言葉に勇気づけられ、真帆はゆっくりと己の意志で雄の証に指を沿わせる。
すべすべとして丸みを帯びた尖端の膨らみから、段差のあるくびれ、そこから握り混むようにして幹の部分から根元を掌で包み込むと、浮き上がった血管が激しく脈動するのがわかる。
自分にはない器官が示す生命の脈動に、不思議な感動を覚えると同時に、好奇心が煽られる。
(こんな風になっているんだ)
真帆の指が動くのにあわせ、ぴくぴくと跳ね動く様は愛おしく、それでいて力強い。
手の内にあるものが硬く膨らんでいく。まるで、彼の心の中に溢れる真帆への愛情や優しさがそこへ流れ込んでいると言いたげに。
際限なく膨張する気持ちを、肉体として受け入れてほしいと願っているのが伝わってくる。
「すごく、大きくて……硬い」
ちゃんと自分の中に入るのかな。受け入れられるのかなと上目遣いで夫となった男の表情を伺えば、ぞくりとするほど艶めいた表情で目を閉じ、長いまつげを震わせつつ、彼が呻く。
「う……ッく」
痛いのかなと、絡む指の力を緩めようとするも、できなかった。
「そのまま、続けて。……すごく、気持ちいい」
正直に快感を口にされ、真帆の中にある女が誇らしさで満たされる。
感じさせている。なんてことのない自分が、坊城のように素晴らしい雄を。
優越まじりの多幸感が心を縛る不安を溶かし、より大胆に心を解き放つ。
「気持ち、いい?」
緩やかに手でしごきつつ、ためらい混じりに尋ねれば、彼は恍惚とした表情を見せ答える。
「すごく、いいよ。……真帆は?」
触れることに気を取られ、いつしか緩んだ太股の間で坊城の手が緩やかに恥丘をあやす。
「気持ち……いい……」
ほうっと息を漏らし、心のままに伝え、自分もまた坊城の男根の先を指で撫でる。
そのうち、ただ丸いと思っていた尖端に細い切れ目があることに気づき、そっと指先を沈めれば、とろりとした粘液を皮膚に感じた。