山で遭難した若菜は訓練中の陸上自衛隊員・大地に救助され一晩を山で過ごす。数日後、その彼からプロポーズされ、あれよあれよと結婚することに! 迎えた初夜、優しく丁寧にカラダを拓かれ、味わったことのない快感を与えられるが、大地と一つになることはできないままその夜は終わる。大胆な下着を用意して、新婚旅行でリベンジを誓う若菜だが…!?
「悪い」
「分かってる、忙しいことくらい」
でも、と若菜がぎゅうっと俺に抱きつく。
「寂しかったし悲しかった……ずっと心配してたんだから」
俺は胸の上で半泣きになっている若菜をぎゅうっと抱きしめる。若菜は訥々と話し続けた。
「怪我して返事できないのかなとか、……色々考えちゃって」
若菜の嫋やかな手が、俺の通勤用のスーツを強く握る。
「若菜、ごめん」
「ん」
「ごめんな」
何度も謝りながら、彼女の形の良い後頭部を撫でる。しばらく目を閉じてじっとしていた若菜が一度ぎゅっとさらに目を閉じた後にゆっくりと笑って俺を見上げる。
「おかえりなさい。──拗ねてごめんね」
「いや、俺が」
言葉を最後まで言い切る前に、若菜が被せるように「だからね」とやけに婀娜に笑う。
つい、見惚れてしまった。
白黒の映画で見た、アメリカの美しい女優の笑い方に似ている──と若菜の視線に絡め取られ、身動きできないまま思う。
コケティッシュで、なのにどこまでも清純な微笑み。いや、若菜の方がもっと──
「綺麗だ」
「わ、何、急に? 褒めても何も出ないよ」
「心からの賛辞だ。ところで『だから』ってなんだ?」
若菜がそのコケティッシュな笑みを深める。そうして俺の耳元で囁いた──「今日、私がシてもいい?」。
俺は目を瞠る。
そうしてくるりと若菜と身体を入れ替えた。
「あれ?」と目を白黒させる若菜にのしかかり「だめだ」と笑う。
「なんで? 疲れてないの?」
「めちゃくちゃ元気だから心配するな」
するすると若菜のスカートを捲り上げ、ストッキングに手を伸ばす。若菜が慌てて足をバタつかせた。
「だめ! バレンタインなんだから」
「バレンタイン?」
軽く眉を上げると、体の下で若菜がこくこく頷く。
「二日遅れの……」
そう言って若菜が手を伸ばし、廊下の隅にこっそりと置かれていた紙袋を引き寄せた。有名チョコブランドのそれを自分と俺の間に挟むように両手で持ち小首を傾げる。
「いつも気持ちよくしてもらってるから、たまにはね、チョコだけじゃなくて私から色々プレゼントしたかったの」
「可愛いが過ぎる」
俺の言葉に、若菜がきょとんと目を瞬く。
「つまり、若菜がプレゼントってことでいいのか?」
「え、わ、そ、そんなつもりじゃ……きゃっ」
俺は若菜を肩に担ぎ上げて廊下を歩く。もう片方の手には、チョコレートの紙袋。
「そうだろ? 色々してくれる若菜をプレゼントってことでいいんじゃないのか」
「違う……え? 違わない?」
リビングのソファに座り、混乱している可愛い若菜を膝の上に抱え直す。向き合って座っている若菜の頬は真っ赤になっていた。
「さあしてくれ。煮るなり焼くなり」
「……いただきます?」
「いただかれます」
若菜がたどたどしい手つきで俺の服を脱がせていく。ジャケットをソファの背にかけ、ネクタイをその上に。そうしてぷち、ぷち、とゆっくりシャツのボタンを外していく。
「焦らすの上手だな」
「わ、違うの……っ、んっ」
べろりと白い首を舐めると、若菜が肩を揺らす。
可愛すぎて頬がゆるゆるになるのをこらえながら若菜の腰を支え、舌先で首筋──鎖骨から耳の後ろまでを繋ぐ胸鎖乳突筋──を鎖骨から上へ舐めていく。
「あ、大地さん、集中できないからっ」
「俺のことは気にしなくていいから」
「気になるんです……っ」
首までが赤い。俺は笑って耳を丁寧に舐めていく。耳介結節、ダーウィン結節、三角窩に耳珠。そのまま外耳道に舌を挿しこんで、わざと水音を立て舌を動かす。
「ふ、ぁっ、やめ……」
若菜の指先はもうボタンを外していない。俺のシャツを握りしめ、小さく震えるばかり。
「手、止まってるぞ」
耳元でそう囁くと、若菜は呼吸のたびに喘ぎながら必死でボタンを外す。
俺はソファの背によりかかり、彼女の背中を撫でながら若菜が羞恥で顔を真っ赤にするのを眺めた。悦い眺めすぎて屹立が痛い。
自覚はなかったけれど、俺、もしかしてSなんだろうか……
全部外し終わった若菜が嬉しげに顔を上げた。「褒めて」と言わんばかりのかんばせに、心臓が破裂しそうなくらい痛い。可愛すぎる、愛おしすぎる、死にそうだ……!
「次はどうするんだ? 俺の奥さん」
「えっと……」
若菜が困ったように首を傾げたあと、子猫のような舌で俺の喉仏や鎖骨を舐める。官能というよりは、くすぐったさで身体を微かに捩らせる。
「気持ちい?」
「気持ちいいよ」
頬が緩む。よしよしと頭を撫でると、若菜が嬉しそうに目を細めた。
若菜は俺の鎖骨を甘噛みしてからぺろりと舐め、鎖骨の下に吸い付いた。ちゅ、ちゅっ、と何度か強く吸い付いた後、鬱血の跡を満足げに見遣る。
若菜の中に、俺に対する所有欲が確かにあるのを感じて妙に興奮する。
ヤキモチを妬かれるのなんか、面倒くさいだけだったのに。連絡してくれないと拗ねられるのも、煩わしいだけだったのに──若菜から与えられるそれらは、どうしてかとても甘美だった。
恋をする前と後では、遺伝子レベルで別人になってしまうのかもしれない──なんてことまで考えて若菜の頭にキスを落とす。
若菜は、そのまま舌を下に向かって動かしていく。俺の膝から降り、ラグに膝立ちになった若菜の舌が胸と腹を通って、下腹部へ向かう。臍のあたりで若菜が俺を見上げ、舌で唇をぺろりと舐める。明らかに誘う仕草の、それ。
くらくらする頭でベルトを緩め、スラックスをくつろげた。これ以上なく熱を持った屹立がまろび出る。
若菜の細い指が、そっと肉張った先端に触れる。そのまま形を確認するように動かしたり、そっと根元を握ってみたりと忙しそうだ。
どうやらこれは、焦らしているわけでもなんでもなく。
「若菜、遊んでいるだろう」
「わ、ご、ごめんなさい。なんか可愛くて」
俺のを握ったまま緩く微笑む若菜に、ちょっと複雑な気持ちになる。自分のを「可愛い」と言われて喜ぶ男はあまりいないんじゃないか? まあ大きさの話ではなさそうだけれど。
そもそも、俺以外を知らない彼女が誰かと俺を比較なんかしようがない。
「こんなの入ってるんだなあって」
そう呟いた若菜が、屹立に舌を這わせる。最初はつつくように、それから舌全体で舐めるように──そして彼女は俺のを口に含む。うまく咥えられなくて、すぐに口から出したり、思い切って奥まで咥えようとして軽くえずいたり。
涙目の若菜が俺を見上げる。
「ごめんね下手くそで……」
「そんなことない。上手」
よしよしと髪の毛を梳く。
「ほんと?」
「無理に咥えなくていい。手で握って、舐めてくれたら十分気持ちいい」
若菜がその通りにちろちろと舌で舐める。もちろん刺激は足りない。なのに心が満たされていって。
「はー……」
気持ちよくて天を仰ぐ。気を抜けば出てしまいそうだった。若菜が俺のを舐めているという絵面だけでヤバいのだ。
ふっと目線を戻すと、若菜と目が合う。嬉しそうな瞳には、隠しきれない欲情と興奮があった。
俺はボタンを外されたシャツを脱ぎ捨てる。
そうして彼女を抱き上げて、ソファに押し倒した。
「あ、あれっ?」
戸惑う若菜の膝裏を持って押し上げると、するりとスカートが腰まで落ちる。黒いストッキングに染み出すほど若菜の肉襞から温い水が溢れていた。
「何もしてないのに」
ふ、と笑ってしまうと若菜が唇を尖らせた。
「してる、舐めたりとか」
「あれだけでこんなに?」
俺は濡れそぼったそこに屹立を擦り付ける。若菜の眉が快楽に寄り、僅かに空いた唇の隙間から蕩けそうに甘い声を零す。
「うー……」
悔しそうに俺を見上げる若菜の陰核をぐいぐい擦る。そのたびに濡れて張り付いた布がくちゅくちゅと音を立てた。
「あー……やらし」
「いじわる」
そう言いながらも若菜の呼吸が荒くなっていく。手に指を絡めると、その手のひらは汗でしっとりと湿っていた。
視線が絡む。若菜は眉を下げて、それから本当に悔しそうに「……挿れて?」と甘えた視線で言う。
「若菜がしてくれるはずだったのに」
「だって」
蕩けそうな目で俺を見つめ続ける若菜。心底惚れこんでいる妻のそんな視線に勝てるわけがない。
俺は若菜の両太ももを胸部に押し付け、ストッキングと下着を太ももの途中まで下ろす。
「ちゃんと脱がせて……っ」
「後でな」
そう返しながら、ナカにぐっと自身を埋め込んだ。
「……っ、きつ」
大きく足を開いていないからか、どろどろに蕩けているのにとてもキツく感じる。一気に奥まで肉襞を押し分け貫く。最奥に届いた瞬間、若菜のつま先が跳ね、ナカの肉襞がきゅうっと締まる。
「あ、あ……っ」
今イっています、と雄弁に伝えてくる声音に唇が上がる。
「『可愛い』のでイかされてしまったな、若菜?」
「あ、んっ、そんなっ、つもり、じゃ……っ、あっ、ぁあっ、あんっ、あっ」
腰と腰がぶつかるたびにばちゅばちゅと音が鳴る。ほとんど上から突き刺すように抽送を続ける。
「んっ、ぁ、あっ、だめ、来ちゃ、……っ!」
びくびくと痙攣しているナカを、それでも抉り続ける。
「っ、だめっ、大地さんっ、イってるの……っ!」
「イってるなあ。『可愛い』ので何回もイかされてて苦しいよな」
よしよしと頬を撫でる。けれど抽送は止めない。若菜の眉がぎゅうっと寄る。最奥まで戦慄いた。
「またイった」
「っ、ふ、ぁんっ、もう、全然っ、可愛くないぃ……っ!」
若菜は泣いて喘いで俺を締め付ける。
は、と笑ってから、何度も頤を上げ達している若菜の唇にむしゃぶりついてキスをした。蕩けそうに熱い口内を貪りながら、彼女の最奥に欲望を吐き出す。
結局、チョコレートを食べることができたのはバレンタインから三日後ということになったのだった。
有名ブランドのバレンタイン限定だったチョコレートトリュフ。それをあんなふうに食べたのは、世界で俺たちだけだったかもしれない。
…‥いや案外と、世のカップルというのはこんなものなのかも、と思ったりもしている。