元社長令嬢の美哉は、趣味を楽しみながら慎ましやかに暮らしていた。そんな彼女の前に元婚約者で名家の御曹司・昂輝が突然現れ「結婚してやる」と迫ってくる。十年前、彼の方から婚約を破棄してきたのに――結ばれることはないと彼を忘れようとしてきた美哉。でも強引な昂輝の求愛に振り回され、初めて与えられる甘くて執拗な快感から逃れられず……。
「わかった。じゃあ一緒にシャワー浴びるか」
「えっ?」
「一緒だ。これは譲らない」
昂輝は美哉の腕をつかんで体を起こすと、肩を抱いてそのまま小さなバスルームへと向かう。そしてなんのためらいもなく、いきなり穿いていたスラックスに手をかけて、ジッパーを下ろしてしまった。
「……!?」
美哉は慌てて彼に背中を向け、思わず猫背になる。
(ど、どうしよう……!)
背後で昂輝がごそごそと身じろぎする気配がする。
上半身だけでも照れくさくてあまり直視しないようにしていたのに、背後でまさに裸になろうとしている昂輝を想像し、体が緊張で強張ってしまった。
そんな美哉の戸惑いが伝わったらしい。
「お前……脱がなきゃシャワーできないだろ」
背後から呆れた声が聞こえる。
「わかってますっ……!」
わかっているが、体が動かないのはどうしようもない。
美哉はすうはあと大きく深呼吸をして、フレアスカートのウエストに手をかけてジッパーをゆっくりと下ろしていく。
「手伝ってやろうか」
背後から手が伸びて、美哉の手をつかんだ。
「あっ」
「ほら」
ウエストがふっと楽になり、そのままストン、とスカートが足元に落ちてしまった。
「最後に下着だな」
昂輝の指がショーツにかかる。脱がされると思った瞬間、全身が震えた。
美哉は咄嗟に「ちょっと待ってくださいっ」と叫んで、その場にしゃがみ込む。我ながら情けないが、これはもう仕方ない。
「……あとから入るので、お先にどうぞ」
美哉はぼそぼそとつぶやいていた。
「は?」
「お先にどうぞっ!」
「……」
強情な美哉の態度を見て、昂輝も仕方ないと思ったらしい。
「わかった」
彼はそう言って、そのままお風呂のドアを開けて中に入っていった。
それからまもなくして、シャワーの水音が聞こえ始める。
おそるおそる顔を上げると、浴室ドアの向こうに肌色の人影が見えて、心臓がキューッと縮み上がった。
(とりあえず私も、ひとつずつ壁を乗り越えていこう……まずは脱ぐところから!)
美哉は立ち上がって、背中に手を回しブラジャーを外す。
そしてまたたっぷりと時間をかけてショーツを下ろし、脱いだものを昂輝のと一緒に洗濯かごに入れた。
あとは髪をざっくりとまとめて体をタオルで覆い隠すと、大きく深呼吸をしてから浴室ドアを押して中へと足を踏み込む。
(いざ、出陣!)
浴室内は蒸気でむせ返るほど熱気に満ちていた。昂輝の筋肉質な背中や、引き締まった腰や尻が目に入る。当たり前だが完全な裸だ。
「……遅い」
美哉が入ってきたのに気がついて、髪を洗い終えた昂輝が振り返りながら不満を口にする。
(こ、昂輝さんの裸……!)
美哉はごくりと息をのんだ。
彼はかなり着やせするタイプのようだ。日々鍛えているのだろう、体は筋肉で分厚く、腹筋は綺麗に割れて、脂肪がひとかけらもなかった。
まるで石膏像のような端整な美しさで、なんとへその形すら美しかった。
(ひやぁぁ~……! 助けて~~!)
なぜか心の中で助けを呼んでしまった美哉だが、当然なにも言えなくて、喉がぎゅうっとしまる。
そんなふうにガチガチに緊張している美哉を見て、昂輝は少しだけ困ったように表情を緩める。
「怯えるな、美哉。俺はお前を……傷つけたりはしない」
昂輝はそう言って美哉に向かって手を伸ばすと、肩を手のひらで撫でて落ち着かせたあと、美哉を抱き寄せてしまった。
「あ……」
反射的に身じろぎしてしまったが、昂輝は美哉を手放しはしなかった。
しっかりと肩を抱き、さらに腕に力を込めて腕の中に抱きしめる。
「昂輝さん……」
熱いシャワーは昂輝の首筋から肩を流れ、彼の腕の中にいる美哉も徐々に濡らしていく。ふたりの体の間にはタオルが一枚挟まれているが、それも次第にお湯を吸って重くなっていった。
(なんだか頭がぼうっとする……)
バスタオルがあるとはいえ裸で抱き合っているのだ。
あの、天花寺昂輝と――。
もしかしてこれは夢ではないだろうか。いまいち現実味がなくて、そんな気すらしてくる。
そうやってしばらく身を寄せ合っていたのだが、
「……美哉」
突然、昂輝が美哉の顎先をつまんだ。顔を上げると、そのまま頬を傾けた昂輝の顔が近づいて、唇がふさがれる。
思わずビクッと体を震わせた美哉だが、昂輝は我慢できないと言わんばかりに強引に舌を差し込み、美哉の口内をかき回していく。
口の中でちゅくちゅくと水音が響く。
昂輝の舌は熱く、情熱的に美哉の口の中を味わっているようだが、そのキスを受ける美哉は、眩暈がするほどの陶酔の中に溺れてしまいそうだった。
「……んっ……はぁっ……」
唇が離れた隙に必死に息を吸ったところで、昂輝が美哉の頬を両手で挟んで、こつん、と額をぶつけてきた。
「お前、キス下手だな」
そういう昂輝はちょっと面白そうな雰囲気でもある。
「そ……そんなこと言われても……仕方ないと思います……経験が、ないし……」
二十六歳でキスもしたことがないと告白するのは、なかなか勇気がいることだった。
もちろん美哉だって、過去に男性から告白されたことは何度かあるが、一度だってその気になれなかった。どうしても過去の昂輝と比べてしまっていたのだ。だから仕方ないと思う。
というわけで、嘘をついてもすぐにばれると思って正直に告げたのだが、その瞬間、昂輝はパーッと表情を明るくすると、どこか満足したように親指で美哉の唇の上を撫でる。
「だろうな」
そして次に、体に巻きつけたタオルの端に手をかけた。
「これ、取っていいか」
お湯を浴びてすっかり重たくなったタオルを支えていたのは、美哉の両手だった。
「お前の体を見たい」
昂輝がさらに言い募る。
「あ……」
もう彼の望みを拒めなかった。
昂輝が美哉の両手首をつかんで左右に開く。かろうじて体に引っかかっていただけのタオルは、そのまま足元に落ちてしまった。
(恥ずかしいっ……)
美哉の胸はそれほど大きくない。むしろ慎ましいほうだ。自分の体は女性的な魅力に欠けると思っているので、思わずぎゅうっと目を閉じてしまった。
「……綺麗だ」
だが昂輝は目元を赤く染め、かすれた声でささやいて、美哉の手首をつかんだまま身をかがめ、胸に唇を寄せる。昂輝の唇が美哉の胸の先を口に含み、吸い上げる。
「ひあっ……!」
全身にびりっと甘い痺れが走り、美哉は思わず体を震わせた。
「ん、やっ……」
強い快感に思わず上半身をそらして逃げようとしたが、昂輝は手首をつかんでいた手を美哉の背中に回して、体を引き寄せる。
そして強引に、覆いかぶさるように美哉のささやかな胸に舌を這わせた。
「あ、あっ……」
シャワーの水音の中、昂輝の舌づかいはどんどん激しくなった。
立ち上がった乳首を唇ではみ、ちゅうっと音を立てて強く吸い、それから舌全体を使いながら、たっぷりと舐め上げる。
まるで皿のミルクを舐めとる子猫のように、一生懸命に、だ。
「んっ……」
美哉はなんとか声を抑えようとするが、まったく我慢できなかった。腹の奥がぎゅうっと締めつけられて、立っていられない。
(あ、頭がぼうっと、しちゃう……)
このままでは転んでしまいそうで、とっさに昂輝の首の後ろに手を回すと、昂輝は美哉の背中を支えながらもう一方の指を美哉の下腹部へと移動させた。淡い茂みをかきわけて、昂輝の指が花弁へと侵入していく。
「あっ……?」
そんなところに触れられると思わなかった美哉は戸惑うが、
「ぬるぬるだな……キスでここまで濡れるのか?」
昂輝はからかうような口調でささやきながら、美哉の花びらをかきわけ、指の先で蜜をかき集めるように動かし始めてしまった。
「あ、あっ、あんっ……」
昂輝の指が動くたび、今まで感じたことのないような甘い快感がどんどんと押し寄せてきて、下腹部が重くなる。
なんの経験もないのに、なにかが来る気がして、美哉は甘い悲鳴を上げていた。
「ま、まって、あんっ、ああっ……」
膝がガクガクと震え始め、苦しくてたまらない。
とっさに昂輝の肌に爪を立てると、
「待たない。俺の指でイケよ、美哉……」
昂輝の涼やかな目に獣の熱がこもる。
彼の綺麗に整えられた指先が、美哉のふくらんだ花芽をつまみ、こすり上げた。
「いっ……あっ!」
美哉のまぶたの裏が、一瞬真っ白に染まる。
自分の体のはずなのに、自分の意思とはまるで関係なしに体が動き、甘美な快楽にのまれていく。
「あ、ああっ、ひ、ああっ……! んんっ~……!」
大きく背中をそらせた美哉の体を、昂輝はしっかりと抱き寄せてそのまま覆いかぶさるようにキスをしていた。
「美哉……美哉っ……」
昂輝は何度も唇を重ねながら、無我夢中で美哉に吸いつき舌をすすり、唾液を飲み込んでいた。