飲み友達になって一年、思わぬタイミングで互いの利益が一致した希実と恭介は恋人の期間を経ることなく結婚することに。精神科医の恭介は、すべてを知りたがるように夜ごと希実を翻弄し、希実は心もカラダも拓かれ溺れていく。互いを深く知らずに始まった関係に希実は不安を感じていたが、恭介に愛撫されるたび、熱く甘い蜜と昂ぶりを与えられ――。
「ありがとう、お疲れさま。コーヒーでも淹れようか」
「あ、ううん。わたし、お風呂に入るし……」
「俺もまだだから、一緒に入ろう」
髪に口づけながらそんな提案をされ、希実の頬がじわりと熱を持つ。
同居は今のところ、それなりに上手くいっている。だが一宮の態度が格段に甘くなったことが、希実を戸惑わせていた。
「つ、疲れてるなら、一人でゆっくり入ったほうがいいよ。一宮さんが先に――」
「いや、そんなには疲れていない」
「でもクリニックで診察したあと、産業医として企業に出向いたりしてるんだよね?」
「まあ、もう慣れてるからな」
彼は事も無げに答え、「それより」と言葉を続けた。
「せっかく同じ時間帯に家にいるんだ。〝夫婦〟としてのコミュニケーションを積極的に取らないと」
ニッコリ笑って脱衣所に連行された希実は、どう断ろうかとグルグル考える。するとこちらを振り向いた一宮が、抱き寄せて唇を塞いできた。
「……んっ」
肉厚の舌が、口腔に押し入ってくる。
ザラリとした表面を擦り合わされ、希実は小さく呻いた。絡めながら中をくまなく舐め尽くされ、喉奥から声が漏れる。彼のキスは巧みで、じわじわと官能が高まり、唇を離される頃には息が乱れていた。
「はぁっ……」
希実のカットソーに手を掛けた彼が、頭からそれを脱がせてくる。下も脱がせてこようとしたため、慌ててその手を押さえて言った。
「じ、自分で脱ぐから、先にバスルームに入ってて」
「でも」
「恥ずかしいの!」
断固として言い張ると、一宮は小さく噴き出し、希実の髪にキスをして答えた。
「わかった、待ってる」
彼は躊躇いなく自身の衣服を脱ぎ、先にバスルームに入っていく。
背を向けてそれを見ないようにしていた希実は、背後でドアが閉まる音を聞いてぐっと唇を噛んだ。
(このまま逃げるのは……やっぱまずいよね。もう、何でこんなことになってるんだろ)
初めて抱き合ってからというもの、一宮の態度は明らかに変わった。
スキンシップが増え、ふとした拍子に触れてきたりキスをする。そのしぐさは自然で気負いがなく、欧米人のようにスマートなため、希実はいつもかわすタイミングを失っていた。
他にも、率先して料理をしたり片づけをしてくれたり、仕事で疲れているのをねぎらってくれたりと、その姿は〝新妻を甘やかしたくてたまらない夫〟に他ならない。そんな彼を目の当たりにするたび、希実はムズムズと落ち着かない気持ちを味わっていた。
(私たちの結婚って、もっとビジネスライクなものだと思ってた。友達の延長の、互いの利害を優先するような……。でもこれじゃまるで、好き合って結婚したカップルみたい)
モヤモヤとしながら、希実はタオルで身体を隠してバスルームに入る。
湯は既に溜められており、浴室内には白い湯気が立ち込めていた。先に身体を洗っていたらしい一宮が、シャワーを手にこちらを向いて微笑んで言う。
「おいで。湯に浸かる前に、身体を洗おう」
スポンジにボディーソープを馴染ませ、たっぷりの泡で身体を洗われる。
身体を隠すタオルを取り払われて、明るいところで裸体を晒す恥ずかしさにじんわりと顔が赤らんだ。目の前の彼の身体は無駄なところがなく引き締まっており、まるでアスリートのような体型だ。
全身に実用的な筋肉がついていて、しなやかな身体のラインが男の色気を漂わせている。希実は気まずさを紛らわせるように口を開いた。
「い、一宮さんって、いい身体してるよね。やっぱり鍛えたりしてるの?」
「週に二回ほど、仕事の合間にジムに通ってる」
「そうなんだ……」
目をそらしながら話す希実を見た一宮が、クスリと笑った。
「俺の身体を気に入ってくれて、何よりだ。君に飽きられないように、今の状態を維持しなきゃな」
「べ、別に、気に入ってるわけじゃないけど」
こんな状況で色めいたことを言われると、ドキドキしてしまう。
シャワーで身体の泡を流した彼が先にバスタブに入り、希実の手を引いて誘った。背後から抱き込まれる形で収まり、熱い湯を肌に感じて、思わずため息を漏らす。
すると一宮の手が胸のふくらみに触れ、やわやわと揉みしだいてきた。
「ぁ……っ」
背中から大きな身体に包み込まれ、逃げ場がない状態に心臓の鼓動が高まる。
男の手の中でふくらみがたわむ様は、ひどく淫靡だ。先端を摘ままれるとじんとした愉悦がこみ上げ、希実は息を詰める。一度ベッドを共にしてから、彼は箍が外れたように希実を抱くようになった。その触れ方はひどく巧みで、焦らすようにしたかと思えば激しく貪り、抵抗する暇を与えない。
かといって粗暴なところはなく、こちらを傷つけないよう気遣っているのが伝わってきて、希実は夜ごと一宮に翻弄されていた。回を重ねるごとに彼のやり方に馴染み、触れられるとすぐに体温が上がってしまう。
しかし自分たちの関係は恋愛から始まったわけではないという事実が、素直に感じることにブレーキをかけていた。
「……っ……一宮さん……」
「ん?」
胸の先をいじる手を押し留めつつ、希実は必死に言い募る。
「あの、ここじゃ……」
「こうして君の身体に触れていて、我慢できるわけないだろう」
先端を押し潰す指に力を込められ、希実は「んっ」と顔を歪める。痛みと紙一重の快感に、身体の奥が熱く潤み始めていた。
しかも彼は思いのほか声がよく、耳元でささやかれるとゾクゾクしてしまう。一宮が「それに」と言葉を続けた。
「いい加減、『一宮さん』はやめろと言っているのに。君も同じ苗字なんだから」
「……っ、それは……」
「名前で呼んでくれ、希実」
さらりと呼び捨てにしながらそう促され、希実は声を上ずらせながらつぶやく。
「恭介、さん……」
「よくできました」
彼の手が頤を上げ、後ろから覆い被さるように唇を塞がれる。
ぬるりとした舌が押し入ってきて、口腔をいっぱいにされた希実は、湯の中で身じろぎした。
後ろを振り仰ぐような姿勢が苦しく、舌を絡めながら胸をいじられ続けて、目にじわりと涙がにじむ。やがて一宮の手が胸から離れ、脚の間に触れた。太ももに力を入れて阻止しようとしたものの、強引な手にあっさり割れ目をなぞられてしまう。
「もう濡れてるな。お湯じゃないもので、ぬるついてる」
「んん……っ」
必死に身を縮めようとする動きに、バスタブの中の湯が大きく波打つ。
彼の指が敏感な花芽を押し潰した瞬間、それに呼応して蜜口がヒクリと蠢いた。秘裂を行き来し始めた指に浅くくすぐられ、希実はビクッと身体を震わせる。
湯の温度だけではなく身体が熱くなるのを感じながら、押し殺した声で告げた。
「やっ、お湯入っちゃう……っ」
「じゃあ一回立って、こっち向いて」
顔を紅潮させた希実は、渋々体勢を変えて一宮に向き直る。すると彼はバスタブの縁に座ってこちらの身体を抱き寄せ、胸のふくらみをつかむと先端に舌を這わせてきた。
「……っ」
柔らかな舌が乳暈をなぞって、その刺激に肌が粟立つ。先端がみるみる芯を持って硬くなり、それを舐め上げつつ一宮が言った。
「希実の身体はきれいだな。胸の形もいいし、色が白くて」
胸をつかんだまま上目遣いに見上げられ、希実の中で羞恥が募る。
端整な顔立ちの彼が自分の胸を舐めている姿は煽情的で、一宮がこんなにも色事に巧みなのは、希実にとって大きな誤算だった。
「恭介さん、わたし――……、ぁっ」
ふいに彼の片方の手が脚の間に入り込み、蜜口から指を挿れられる。
とっくに潤んでいたそこは一本の指を難なくのみ込み、柔襞がきゅうっと絡みついた。
「はぁっ……ぁ……っ……」
ゆっくりと抽送され、浴室内に濡れた音が響く。
硬い感触が身体の内側をなぞるのには快感があり、隘路がビクビクと蠢く。そんな反応を愉しむように一宮が指を増やし、深くねじ込んできた。
「うぅっ……」
ゴツゴツと硬い指で最奥を抉られ、甘ったるい愉悦がこみ上げる。
胸の尖りを吸いながら体内に指を挿れられるのは、鮮烈な快感を希実にもたらした。縋るものを求めて目の前の彼の首にしがみつき、胸をぎゅうぎゅうと押しつけてしまう。一宮はそれを制止せず、ふくらみに顔を埋めたまま先端に緩く歯を立て、指をひときわ深く押し込んできた。
その瞬間、希実は小さな声を上げて達していた。
「あ……っ!」
挿れられた指を内壁がきつく締めつけ、襞が絡みつく動きをする。
絶頂のあと一気に脱力する身体を、彼が抱き止めた。そしてずるりと指を引き抜き、希実の頭を肩口に抱き寄せて言う。
「……大丈夫か?」
「……っ」
無言で頷いた途端、一宮が希実の手を自身の股間に誘導する。
硬いものが手に触れ、驚いて目を見開くと、大きく張り詰めたものが天を仰いでいるのが見えた。希実にそれを握らせながら、一宮が問いかけてくる。
「ここでこのまま挿れたいって言ったら、怒るか?」
「それは……」
浴室に避妊具はなく、要するに彼は「生でしたい」と言っている。
そう理解した希実は、考える間もなく急いで首を横に振った。間髪いれないその反応を見た一宮が、笑いながらあっさり言う。
「そうだよな。調子に乗って、悪かった」
「あの……」
「――じゃあ、ベッドに行こう」