「俺に依存してほしいんです。俺だけ必要としてほしい」
学芸員として働く香凛の父は絵画の贋作師。生い立ちの負い目から、他人と深く関わることを避けてきたのに、常連客でイケメン警察官の藤田から猛烈なアプローチを受ける。「閉じ込めたいな。俺以外の目に触れないところに」熱の籠もった視線に感情は乱れ、ダメだと思いながらも藤田に惹かれていく香凛。だけど、彼との出会いは仕組まれたもので…!?
「他の女性なんて、選びませんよ。俺には香凛さん以外いないのに」
藤田さんはそう言って私を引き寄せ、彼の腕の中に閉じ込める。ひんやり冷えて、冬の匂いがした。セーターがしっとり濡れているのは、雪が溶けたせいだろう。
泣きそうなくらい、嬉しい。
「嬉しい。香凛さん、大好きだ」
「だから、私、嫉妬なんて」
「ん。わかってます、知ってます」
藤田さんは子どもをなだめるみたいに言いながら、私の頭や頬にキスを落とす。大切でたまらないと言われている仕草に、胸が切なく熱くなる。
「逃がさない」
藤田さんの声が、微かに低くなる。
気がつけば、自分から唇を重ねていた。彼の手が私を弄り、触れられたところが次々に熱を灯す。
「香凛さん、あったかい」
藤田さんが深く息を吐きながら言い、顔を私の頭に寄せた。
「大好きです、香凛さん」
無言で彼の体温を感じる。少しずつ温かくなっていく彼の鼓動を感じて安心している自分がいる。同じくらい、ドキドキしている自分も。
「香凛さん。素直になってくれませんか?」
「最初から素直です。私、私は」
小さく息を呑み、続ける。
「私は、誰のことも好きにならない」
だっていつか、迷惑をかける。
父は罪を犯している。犯し続けている。今もきっと、偽物の絵を描いて悦になっているだろう。本物かどうかも見抜けないくせに、と小馬鹿にして筆を握っているはずだ。
藤田さんは低く、彼に似つかわしくない笑い声を上げる。
「じゃあ──身体からでいいから、俺に落ちて。好きになってください」
うなじや、頬や、額や、耳や、とにかく触れられる範囲の全てにキスが落ちてくる。指を絡められ、撫でられ、手のひらをくすぐられ、性的なことでないはずなのに、身体の奥が蕩けていく。
「あーあ……そんな男を誘う顔して。だめですよ、俺以外に見せちゃ」
「そんな顔してません」
答える声は震えている。藤田さんは「へーえ」と笑い、私の手首を持ち上げてキスを落とす。
私の目の前で、動脈があるあたりに軽く歯を当て、そのままべろりととても艶かしく舐める。
「あ……」
「可愛いです、香凛さんは。これくらいで真っ赤になって、初心で」
息を呑み俯く。真っ赤だなんて!
「俺、香凛さんの全部を舐めたり噛んだりしたいんですよ」
唐突に言われ、足元を見つめながら「ん?」と首を傾げる。藤田さんは「ちゅぽ」と私の親指を口に含む。
「っ、ふ、藤田さん」
バッと顔を上げると、彼は私を見下ろしながら親指を舐め続ける。爪の付け根、爪と爪の間、関節、親指の腹、全部を。
そんなことをしているのに。
彼はどこまでも、初夏の風のような微笑みを湛えている。
「食べちゃいたいくらい、可愛い」
藤田さんのその言葉が、正真正銘、本音だと伝わってくる。そうして、ぐっと歯に力を入れる。歯型が付かないギリギリの強さに、ゾクゾクと腰骨に電気が走ったみたいにこそばゆい。
「本気ですよ。俺は……信じられないなら、結婚しましょう」
藤田さんは私の親指を口から放し、代わりに手の甲にキスを落とす。恭しく、騎士のように。
「え?」
私は目を瞠る。一体、何を……私は、私は、咎人の娘。高飛びまでしている犯罪者の娘なのに!
「な、何を言って」
「結婚。本気ですよ、俺」
藤田さんは私の薬指に舌を這わせ、付け根をカリッと噛む。軽い痛みはあったけれど、跡はない。藤田さんは残念そうに指を眺め、「噛みたいなあ」と呟く。
「跡がつくくらい。痛いですかね」
「痛いと思います。いやです」
「なら本物の指輪を嵌めさせてください」
「いやです」
眉を寄せると、藤田さんは幸せそうに笑い、私を抱き上げ框に座る。膝の上に猫みたいに乗せられぽかんとする私にキスをして、口の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜながら彼は私の身体を弄る。
私がどうなったら蕩けるのか、彼はすっかり知っている。だからあっという間に私はグダグダになって、藤田さんの身体にもたれ、みっともなく淫らに濡れてしまう。
「あっ……はあっ」
「身体くらい素直になってくれると嬉しいなあ」
「そんな……ぁう、っ……!」
あぐらを組んだ彼の足の上に座らされ、パジャマのズボンをずらされナカに挿れられた藤田さんの指。数本のそれがバラバラに動き、私は彼の腕を掴み「いやいや」と首を動かした。
「ふ、ぁあっ、あ」
ぐちゅぐちゅとはしたない水音が玄関に響く。
いつも、こうだ。
気がつけばぐずぐずにされて、蕩けさせられて、イかされて。
「ふ、じたさ」
「なんですか?」
「身体っ、目当て……ですか?」
だから、いつも抱くの?
ほかに、親密な女性がいて私を手放さないのは、身体が気に入ったから? 執着するほど、相性がいい……?
そう思うと、余計に悲しくなる。藤田さんは微かに息を吐き「違いますよ」とはっきりと否定した。
「性欲は否定しません。でもそれは、身体からでも落ちてほしいという、俺の必死な懇願です」
そう言いながら、彼は私の感じてしまう箇所を指で擦り上げ始める。
「っあ、それ、だめ、ですっ」
「知ってますよ。イっちゃうもんな。すぐイくからなあ、香凛さんは。可愛い」
否定したいのに、次の瞬間には私は達して淫らに入り口を窄め彼の指に吸い付いている。
「ね? ほら、俺はね香凛さん。あなたに俺に依存してほしいんです。俺だけ必要としてほしい」
彼が私から指を引き抜く。ちゃぽ、と蕩けた水音が立つ。
「あはは、ほら。見えますか香凛さん、トロトロで俺の指ふやけてますよ」
藤田さんは抜いた指を私に見せつけ、楽しげな声音で笑う。明らかに嗜虐的な声のはずなのに、彼の声帯から出ると余韻と清涼感のあるものになる。それがとても不思議だ。彼はその濡れた指で私の肉芽を摘まみ、優しく扱く。
「ぁあ、っ、んんっ」
「皮、剥いてほしそうですね」
「剥く?」
肉芽に触れられる快楽を堪えつつ聞くと、藤田さんは本当に嬉しそうに目を細めた。
「はい。ほら、充血してかわいそうでしょう?」
そう言ったかと思うと、彼は指をスライドさせた。何をされたかよくわからなかった。ただ、電流が走ったかのように背中を反らせ、目を見開き息を詰めた。
「あ……っ」
「はは、気持ちいいですか? かわいそう」
彼の「かわいそう」という言葉は、どういう感情から来たものかわからない。ただ、本当にかわいそうだと思っていないことはよくわかった。だって敏感な神経の集まりみたいになったそこを、指先で引っかくように擦るから。
「あ、あああ、ああっ」
「ほら、バタバタしない。大丈夫大丈夫」
あまりの刺激に堪えかね、身体をくねらせた私を、彼は片腕でやすやすと抱きしめなおし、肉芽をさらに扱き上げる。
「ゃうっ、気持ち、ぃっ、藤田しゃ、っ、やめっ、お願っ」
「そんな声で甘えられて、止められる男はいないと思いますよ」
はあはあと私の荒い声が遠くで聞こえる。頭の中がどんどん真っ白になっていく──だめ、このままだと、おかしくなる。
「死んじゃ、っ、死んじゃうっ」
気持ちよすぎて、死んじゃう。
「ん、大丈夫ですよ。気持ちいいですね、可愛い、可愛い」
優しい声で言われ、ぎゅうっとそこを摘ままれて、もう耐えられなかった。涙をボロボロ零しながら、身体をつま先まで強張らせ、絶頂を味わう。味わうというより、無理やり味わわされた。
「は、……ぁ……」
がくん、と力を抜いた私の脇に手を入れた藤田さんに、彼のほうに向けて座りなおさせられる。藤田さんはベルトとジーンズをくつろげ、すっかり硬く逞しくなった屹立を取り出す。先端から露を溢れさせ、幹に血管を浮き立たせた、それ。
ナカに挿れると、とっても気持ちいい大きな熱──それを私に見せつけながら、藤田さんは「挿れませんよ」と笑う。
「……ぇ?」
「だってゴム忘れてます。会えないなんて言われて、取るものもとりあえず駆けつけただけなので」
私は明確な子宮の疼きを感じる。
「で、も」
声が震えた。浅ましい本能が、彼のものを欲しがっている。
そのまま受け入れろと、欲を呑み込みたいと、下腹部が蠢く。
「でも」
お腹がかゆいくらい、疼く。
欲しくて仕方ない、それ。
「今から結婚してくれるなら、挿れますけど?」
「それは、だめ、です」
私は自然と、彼の屹立に肉芽を擦りつけていた。ヌルヌルの割れ目も。
「じゃあ、クリスマスはデートしてくれますか?」
「っあ、あの人は」
蚊の鳴くような声になりながら、続けた。
「あなたが会っていた女性は、あなたのなんなんですか?」
大切な人?
首を傾げ必死に聞く。頭も身体もぐちゃぐちゃだ。何も考えられない。
「仕事だったんです」
「嘘」
「本当ですよ」
私はゆるゆる首を振りながら、彼の後ろ首に腕を回してしがみつく。
「っ、ほ、他の人とデートなんかしないで、優しくしないで」
本音がまろび出てしまう。ああ、私は──私は弱いのだろう。
「ふは、嫉妬してる香凛さん、すごく可愛い。俺が好きなのはあなただけです」
欲しい言葉が返ってこない。私は胸がかきむしられるみたいに辛い。
なんで、なんで、もう会わないと言ってよ。他の人に優しく微笑んだりしないでよ。
「やだぁ……」
「はー……可愛い、可愛い。俺の香凛さん」
藤田さんはそう言いながら、私を優しく廊下に横たえる。そうしてパジャマを下着ごと膝までずり下げ、太ももを閉じさせ、その間から屹立の肉張った切っ先を割れ目や肉芽に擦りつける。
「あ、ああっ、あんっ」
「はは、可愛い、気持ちよさそう」
藤田さんの声も少し掠れる。
彼も気持ちいいと思うと、不思議な気分になる。
「本当は挿れたいんですよ、香凛さん。好き勝手に腰動かして、ナカに全部出して、さっさと子どもを孕ませたい。そうしたら諦めて俺のものになるでしょう?」
お臍の下が、きゅんとした。まるでそれを望んでいるかのように──同時に肉芽をぐりぐりされて、私は小さく叫びながらイってしまう。藤田さんも私のパジャマをたくし上げ、白濁を私のお腹の上に放った。とろりとそれが垂れ、廊下に落ちていく。
「はは、えろ。見てたらまた勃ちそ……」
彼はそう言って立ち上がり、勝手知ったる感じで廊下を進み、部屋からティッシュを取って戻ってきて、放たれた残滓を拭いてくれる。
「猫、可愛いですね」
「カラス──隠れなかったんですね」
「はい。というか、ぐっすり眠っていました」
「危機感のない……」
彼はぐったりしている私を抱き上げ、お風呂場に向かって歩く。
「洗ってあげます」
「大丈夫です」
「遠慮しないでください」
「してません」
ぷいっと顔を背けると、藤田さんは「素直じゃないなあ」と楽しげに笑った。