「君が望むなら今、キス以上のこともできるけど」
食品メーカーで働く茂仁香は、引っ越して来た隣人・小井土に引ったくり犯から助けられる。彼は警察庁に勤める警視だった。お礼をしたい茂仁香に対し、小井土は不要だと素っ気ない。だが一生懸命な彼女にやがて彼の態度も軟化し――「なに? あれだけじゃ不満だった?」交際し始めた二人だが、塩対応だったはずの小井土は熱情を隠さず、極甘に豹変し!?
「おいで」
結局できあがったコーヒーをカップに注ぐこともせず、私達は彼の寝室に移動した。
セミダブルサイズの黒いロータイプのベッドが、窓を背にして一台置かれているだけの空間。
これからすることを想像したら、心臓が皮膚から飛び出してきそうなくらいドキドキした。
小井土さんは先にベッドに腰を下ろすと、私に向かって手招きをした。素直に従って近付くと、座っている彼の太股の上に乗れという。
「乗っちゃっていいんですか? 重いですよ」
「平気だから大丈夫。気にせず体重かけて」
本当かな? と訝しみつつ、跨ぐようにして彼の太股に腰をおろした。するとワンピースの裾から彼の手が中に入ってきた。
外が暑かったので、ワンピースの下はブラジャーとショーツのみ。それを知ってか知らずか、彼は早速ブラジャーのホックを外した。
「もう取っちゃっていいかな」
「え?」
ぼそっと一言漏らしたかと思うと、彼はワンピースとブラジャーを一緒に頭から抜いてしまった。
あっという間に私だけ彼に半裸を晒すことになってしまい、羞恥がすごい。
「やっ、はや……」
戸惑う私に構うことなく、彼は何も身に付けていない乳房から視線を逸らさない。
「綺麗だね。形もいいし、色も」
「恥ずかしいから、あんまり見ないで……」
「見るでしょ。あと、この腕」
小井土さんが私の二の腕をするっと擦った。
「一緒にいる間、この腕が気になって仕方なかった」
「ええっ!? そんな……今日は暑いし、二の腕を晒してる人なんか、たくさんいたじゃないですか」
「気になる女性が晒していれば、そりゃ気になる」
二の腕が……と言いつつ、小井土さんの手は乳房にある。両手で左右の乳房を寄せ集めるように掴み、片方の乳房の中心に顔を近づけ舌を這わす。
「ン……っ」
ぺろっと舐められただけで、甘い痺れが襲ってきた。ビクッと体を揺らすと、彼は満足げな顔をする。
「気持ちいい?」
「うん……」
「素直で可愛いね」
すると今度は、乳首を口に含んで舐めしゃぶられる。口の中で飴玉のように舐められると、子宮がきゅうきゅうと疼き、腰が勝手に動いてしまう。
「あっ、あ……、ン……っ」
胸元にある小井土さんの頭を掻き抱き、与えられる快感に悶えた。
ずっと思っていたけれど、小井土さんの髪はさらさらしている。
仕事のときは整髪料できちんとまとめていて隙がない。でも、休日になると目にかかるくらいの前髪が、下を向くたびにさらりと落ちる。それを見て、やわらかそうな髪だなと思っていた。
――触ってみたい、と思っていた髪が、すぐそこにある……
思わず頬ずりしたくなって、実行した。案の定柔らかいし、良い匂いがする。
「小井土さん……」
「ん?」
「好き」
まだ舌での愛撫を続けていた小井土さんが顔を上げた。
「好きって言いました」
「……」
小井土さんが無言で私から目を逸らす。恥ずかしいのかな、と思っていたら、いきなり背中に腕を回され体を持ち上げられた。「え!?」と驚いている間にベッドの上に仰向けになっていた。
「俺も好きだよ」
ちゃんと目を合わせて、好きって言ってくれた。初めて好きって言ってくれた。
それが嬉しくて、自分から彼の唇に自分のそれを押しつけた。
押しつけた相手の唇の隙間から、肉厚な舌が出てきて私の舌を絡め取った。
「ふあ……っ」
口腔内にいる彼の舌の動きが容赦ない。溢れる唾液と、激しく動く舌に翻弄され、思考が追いつかない。
「んんっ……、こ……小井土、さ……」
彼の名を口にしたところで、なぜかピタッと動きが止まった。
「……そういや俺、君に下の名前を教えてなかったような気がする……」
「え。あ。……そういえば、知らない……」
今更過ぎて笑えてきた。私が声を出して笑ったら、彼も苦笑した。
「あきなり。晃成」
こういう漢字。と言いながら、小井土さんが空中に指を使って文字を書く。
「へえ……晃成さんかあ。ぽいな~」
「……ぽい、とは」
小井土さんがわからないという顔をする。
「顔と名前がなんとなくマッチしている、という意味です」
「そうか」
「ちなみに、私はもにかです。茂仁香……ってこう書きます」
彼がやったように、私も空中に指で文字を書く。
「へえ。可愛い名前だな。可愛いのは名前だけじゃないけど」
「えっ……」
小井土さんが今度は私の首筋に唇を押し当てた。そのまま首筋をざらついた舌で愛撫する。
「んっ……、んんっ……」
首筋から鎖骨、胸の間に到達した舌は、迷うことなく乳房の先端に達した。ざらついた舌が下から上、口に含んでねっとりと執拗に舐めるたびに、快感で腰が跳ねた。
「ああ、あ……っ、ン……」
「腰、動いてる。……可愛い」
小井土さんがさっきから、何回も可愛いって……
普段絶対言いそうもない単語を何度も口にした小井土さんに驚く。でもそれが快感をより後押しして、胸への愛撫だけで達してしまいそう。
キュンキュンと子宮の疼きが止まらない。
――ああ、やばっ……、気持ちいい……っ
ずっと愛撫を続けている小井土さんの腕を掴み、ふるふると首を振った。
「あのっ……、私……、も、いきそ……」
「え。そう? じゃ」
すると彼はいきなりショーツの中に手を入れた。長くて節ばった指が繁みの奥にある蕾に触れてきて、電流のような刺激が私を襲った。
「ひゃっ……あ、だめ、それだめっ、あ、あ、あっ……――!」
胸と敏感なところへの愛撫で、あっけなく達してしまった。
びくびくと体を揺らして天井を仰いだ私を、一旦愛撫を止めた彼が上半身を起こして見下ろしていた。
「感度いいね」
「……っ、そんなの、わかんない……です……」
だいぶセックスなんかしていないし、自分のどこが性感帯かなんて忘れていた。だから感度がいいと言われてもあまりピンとこない。
ただ、こんなに早く達したのは初めてかもしれない。
はあはあと呼吸を整えていると、小井土さんが着ているものを脱ぎ出した。
この前抱きついたときの感触や、Tシャツから覗く腕を見た時にも思ったけれど、小井土さんの体は相当鍛えられている。腕も胸板も硬いし、お腹は綺麗に割れていた。
そんな彼の裸体を見て、私がときめかないはずがなかった。
「こっ……小井土さん、体、すご……」
「でも昔に比べたらだいぶ筋肉落ちたけど」
胸のあたりを手でペタペタ触りながら説明する小井土さんだけど、そんな話は全く頭に入ってこない。
鍛えられた上半身もすごいけど、パンツの上からでもわかる股間の大きな膨らみに、さっきから目が行ってしまいドキドキが止まらなかった。
目の前にいるこの素敵な人が、自分に欲情している。それってすごく嬉しいこと。
多分もう、彼を受け入れる準備は整っている。なんなら今すぐ彼と繋がりたい。
でもそれを言ったらはしたないかなと、さすがに躊躇う。
「あ、の……なんならもう。挿れても……」
それとなく言ってはみたが、小井土さんの反応は薄い。
「どうしようか」
「んっ!」
再びショーツの中に手を入れられる。長い指が蜜口から入ってきて、私の中をゆっくりかき混ぜていく。
「確かに……いけそうな気はするけど」
言いながら一旦指を引き抜くと、彼はショーツに手をかけ一気に足から引き抜いた。
「もう少し」
私の膝を立て、足を開かせる。彼の前に全てを曝け出す格好になると、恥ずかしさで腰から下を直視できない。
「あ……、あの……」
戸惑いつつ小井土さんの行動を気にしていると、彼が股間に顔を近づける。そしてためらいなく繁みの奥に舌を差し込んできたので、「きゃっ!!」と大きな声が出てしまった。
「やっ、小井土さん!! そんなことしなくても……っ、汗、掻いてるからっ……」
「大丈夫」
そう言って彼は、こっちを見ることなく舌を這わす。ざらっとした舌が蕾に触れるたびに、呼吸が荒くなって、普段なら絶対発することのないような声が出た。
「あっ……、あン、ああっ……!」
しっかりベッドメイクされたシーツがくしゃくしゃになるほど、シーツを掴んで悶えまくった。
甘い痺れが何度も私を襲い、腰から下に力が入らない。さっき達したばかりなのに、また頭がぼんやりしてくる。
それと同時に蜜口から溢れる蜜の量がえげつない。ずっと蕾を舐めしゃぶっていた彼は、いつの間にか蜜口から溢れる蜜を舐め取っていた。
ふと我に返ると、小井土さんにそんなことをさせていることがたまらなく恥ずかしくなった。
「いやっ、やめて……くださいっ……、もう……」
息も絶え絶えに、懇願するように挿れて……と呟くと、舌の動きが止まった。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
顔を上げた小井土さんが、口元を親指で拭う。拭うほど濡れたのかと思うとなんとも言えない気持ちになる。
開いていた脚を閉じ、汗ばんだ額を手で拭った。その間、半裸の小井土さんはベッドから離れ、部屋に備え付いているクローゼットを開けていた。そこから見覚えのある箱を出し、中から取りだしたのは避妊具。
そりゃ、大人の男性だし。そういうものは持っていてなんら不思議はない。だけど、それを最後に使ったのがいつなのかは気になってしまう。
――訊きたい……。でも、この場面でそんなことを訊いて、もし彼が萎えてしまったら……
それを思うと怖くて訊けない。だって、私だってセックスの経験はあるし、彼に経験があることに関して全く問題はないのだから。
戻ってきた小井土さんが、パッケージを咥えたまま穿いていたパンツとボクサーショーツを脱ぎ捨てた。その途端、下腹にくっついてしまいそうなほど反り返った屹立が視界に入った。ぱっと見ただけでも、かなりのサイズだ。
――う……。お、大きい……
久しぶりのセックスだからか、大きさに怯んでしまう。そんな私の前で、彼は避妊具のパッケージを破り、屹立の上から手際よく被せていった。
「ん? なにか気になる?」
私がずっと凝視しているのが気になったらしい。
「……っ、私、すごく久しぶりなので……。きつかったらごめんなさい」
正直に気にしていたことを伝えたら、彼は気が抜けたように笑う。
「なんだ、そんなこと。俺は気にならない。それより、きつくて痛い思いをするのは君のほうだろ」
避妊具を装着し終えた小井土さんが、私の股間に屹立を宛がった。先の方を何度か蜜口に擦りつけたあと、ゆっくりと私の中へ沈める。
「それに久しぶりなのは、俺も一緒」
何年ぶりかの感覚に、意図せず息を呑んだ。
「んっ……」
きついかな、痛くないかな。
心配ばかりだったけれど、意外にも屹立の進みはスムーズで、思ったほどの痛みは今のところ感じなかった。
どちらかというと、小井土さんの方が苦しげだった。
「…………きつ」