完璧すぎる美貌の若き帝王×おばあちゃん子な秘書
帝王と呼ばれる若手社長、花木優心の秘書として働く芽唯は、ある夜、引っ越し先近くの公園で物思いに耽る男性に遭遇する。それはクールな美貌だが常に無表情で、近寄りがたいとされている優心だった。夜の公園で逢瀬を重ね、惹かれ合うふたり。「どうしようもないほど、きみを愛してる」彼に甘く蕩かされながらも、周囲には秘密の交際に不安も覚え―!?
優心は、ソファから立ち上がって両腕を広げる。
「おいで、芽唯」
――あ、名前……。
初めて、名前を呼び捨てにされた。
嬉しくて、恥ずかしくて、胸がせつなくて、彼の誘惑に逆らえない。
芽唯は言われるまま、ソファのそばへ歩いていった。
優心が、優しく芽唯の体を抱きしめる。
彼の胸からは、雨の香りがしていた。
「はあ……」
芽唯を抱きしめて、彼が幸せそうに息を吐く。
「あ、あの、優心さん?」
「きみが、誰かと過ごしていた時間を想像したら、嫉妬で息ができなくなりそうだった」
――そんなに!?
芽唯は驚きながらも、彼のことが愛おしくなる。
「芽唯の過去も全部愛する覚悟はあるよ。だけど、考えるだけでおかしくなる。俺の芽唯を、ほかの誰かが……」
「誰もいませんっ。わたし、優心さんが初めての彼氏なんです!」
伝えなくては、と思っていたけれど、こんなかたちで言うことになるとは。
――怒っているみたいに聞こえたかもしれない。
しかし、彼が気にした様子はなかった。
「ほんとうに?」
「ほんとう、です……」
「嬉しいって、言ってもいいのかな」
「……知りません」
ぷいっと拗ねた芽唯を抱き寄せて、優心がキスをする。
重なった唇に続いて、温かな何かが歯列をノックしてきた。
――え、これ、前と違う……!
驚いて口を開くと、そこに彼の舌がするりと入り込んでくる。
「んっ、ん……!」
舌を絡められ、息ができない。
喉から胸まで甘苦しい感覚が襲ってくる。
芽唯は、無意識に彼のワイシャツに爪を立てた。
「……これも、もしかして初めて?」
何も言えずにうなずく。
もう、隠すことは何もない。
ここにいるのは、自分を愛してくれる人。
彼の前では、取り繕う必要なんてないのだと、優しい声が告げていた。
「かわいい、芽唯」
首筋にキスされて、吐息がくすぐったい。
芽唯はびくりと体を震わせ、彼の腕から逃れようとする。
「や、ヘンなとこ、さわらないで……」
「どこも変じゃないよ。芽唯は全部かわいくて、きれいだ」
ちゅ、ちゅっと首や鎖骨にキスされるたび、自分の中から知らない感覚が湧き上がった。
もっとしてほしい。
これ以上されたら、おかしくなってしまう。
だけど、続きを知りたくて。
「あの、優心さん……?」
――まさか、このまま、ここで?
初めてではあるけれど、芽唯だって恋人同士がキスの先に何をするか知らないわけではない。
二十五歳なのだから、そういう行為に興味だってある。好きな人となら、してみたいとさえ思う。
とはいえ、やっぱり初めてがいきなりソファはどうだろうか。
「芽唯のこと、ベッドに連れていってもいい?」
かすれた声が、愛しかった。
彼もまた、芽唯を欲してくれている。
――あなたになら、わたしの全部を……。
「連れていって、ください」
彼の首に抱きつくと、そのまま体が宙に浮いた。
寝室には、天窓がぽっかりと丸い口を開けている。
芽唯はベッドに仰向けに横たわり、右腕で目元を浅く隠しながら雨の当たる天窓を見上げた。
――ほんとうに、するんだ。
一度は盛り上がった感情が、冷静さを取り戻して羞恥心を煽る。
「芽唯」
ベッドに腰をかけて、優心が大きな手で頭を撫でてきた。
「芽唯ちゃんって、呼んだほうがいい?」
「ううん、呼び捨てにしてください。彼氏って感じがして、すごく……」
「すごく、何かな」
「ドキドキ、するんです」
知らなかった。
自分の気持ちを言葉にすることで、体の中の興奮が高まっていくことを。
――わたし、優心さんに名前を呼ばれるの、好き。芽唯ちゃんって甘やかされるみたいに呼ばれるのも、芽唯って独占するみたいに呼ばれるのも……。
「じゃあ、ベッドの中では芽唯って呼ぼう。いいね、芽唯?」
「は、い……」
彼が芽唯の両脇に手をついた。
上半身が影を落とす。
天窓には、雨粒。
唇が甘くわなないて、芽唯はもどかしさから彼の背中に両腕を回した。
「かわいいよ、芽唯」
「んっ……!」
首筋に、やわらかな唇の感触が落とされる。
彼は軽く歯を立てて、甘咬みしながら芽唯の肌を吸い立てた。
――や……! 何? どうして……!?
ただ、肌にキスをされているだけなのに。
全身に甘い痺れが駆け巡る。
「ん、んっ……」
声が漏れてしまうのが恥ずかしくて、芽唯は右手の甲を口に押し当てた。
「こら、声我慢しないで。俺にいっぱい、芽唯の声を聞かせてよ」
「だ、って……」
「だって、何?」
さっきから、優心は芽唯の言葉の続きを逃がしてくれない。
言わせたがりの、優しい支配者。彼は喉元から鎖骨へと、唇で芽唯の輪郭をたどっていく。
「これ、邪魔だね。俺の服を着ているの、かわいくてたまらないけど、今は脱いじゃおうか」
「……でも、あの」
「大丈夫だよ。何も怖くないから」
なだめるような手つきに逆らえず、芽唯は下着姿になる。
胸元が心もとなくて、ブラから覗くやわらかな肌を両手で隠そうとする。
しかし、彼はそれを許さなかった。
芽唯の手よりも先に、胸元に鼻先を寄せた。
「や、優心さん……っ」
「肌、すごくきれいだ。どこもかしこもやわらかくて、キスしたくなる」
背を撫でる彼の右手が、ぷつりと音を立ててブラのホックをはずす。
「っっ……!」
両肩からストラップがはずされて、芽唯の素肌が彼の前であらわになってしまう。
ふっくらと形良い左右の胸が、心臓の鼓動に合わせて震えていた。
――わたしの、体。優心さんに見られてる。
耳まで真っ赤にした芽唯は、泣きそうに眉尻を下げて彼を見上げる。
「そんな顔されると、たまらないな」
「そ、そんな顔って、どんな顔してるんですか、わたし」
「自分では自覚してない? 無自覚の誘惑顔だよ」
「ゆ……っ!?」
両手で頬を挟んで、芽唯は目を瞬いた。
「ははっ、かわいすぎ。芽唯は、困っていても笑っていても、きっと泣いていてもかわいいんだろうな」
「う、泣かせないでほしい、です」
「はい。善処します」
冗談めかして言いながら、彼は芽唯の左胸を大きな手で包んだ。
「ぁ……っ」
胸の先端が、彼の手のひらに触れる。
わずかな刺激だというのに、体がビクッと震えてしまう。
――やだ、どうして。声が出ちゃう。
「ここも、すごくかわいいよ」
「そ、そんなこと、言わないで……」
「芽唯の体の全部、愛しくておかしくなりそう。全部、俺だけのものにしたい」
裾野を手のひらで持ち上げて、優心は膨らみにそっとくちづける。
初めての感触に、体が逃げそうになった。
――恥ずかしい。優心さんが、わたしの胸にキスしてるだなんて。
「っっ……ん、っ」
「白くて、簡単に跡がついちゃいそう。芽唯の感じやすいところに、キスしても大丈夫かな」
「ま、待ってくださ……」
「待てそうにないって言ったら、どうする?」
仕事中の、無表情で冷徹な印象の彼。
ふたりきりでいるときの、優しくて温厚な彼。
そして今、また芽唯の知らない顔を優心が見せている。
情慾に声をかすれさせ、雄の顔をした、彼――。
「優心、さん……」
「ごめん、怖がらせちゃったかな」
芽唯は、違う、と首を横に振った。
彼が怖いのではなく、したことのない行為への不安があるだけだ。
優心に触れられるのは、恥ずかしい。だけど、もっと触れてほしいと願う気持ちもあるのだから。
「……して、ください」
「芽唯」
いいの、と彼の目が問うた。
何も言えずに、芽唯はまぶたを下ろす。
次の瞬間、胸の先に濡れた温かなものがちろりと触れた。
「! ぁ、ああッ」
唇が、乳首を食んでいるのだとわかるまで、数秒を要した。
じんじんとせつなく疼く快感に、芽唯は知らず腰を揺らしている。その動きが、彼を誘うだなんて考えもしなかった。
――何、この感覚。優心さんにキスされて、体中が敏感になっていく。
「ん、んっ……、や、ぁ……」
「ここ、硬くなってきちゃったね」
自分の体がどうなっているのか、わからない。
彼の言葉に目を開けるのと、優心が唇を離して舌で先端をかすめるのが、ほぼ同時だった。
芯が通ったように突き出た乳首を、赤い舌が翻弄する。
「やぁっ、ん、んっ、それ……っ」
「嫌?」
「ち、がうの、きもちぃ……ッ」
ぴちゃぴちゃと音を立てて、彼が舌先で芽唯を狂わせてしまう。
根元を舌で舐られると、腰が浮きそうになった。
「気持ちいいんだ?」
「んっ、ぁ……」
「芽唯、かわいい」
「やぁッ……!」
ねっとりと舐められれば、どうしようもないほど甘い疼きが体の深いところにたまっていく。
彼の舌は、熱くみだらに芽唯をあやすのだ。
先端を押し込むように舌で突かれて、痛みにも似た感覚が胸の中心に広がる。
だが、それは似ているだけで痛みそのものではない。
――感じすぎて、痛いだなんて。
「はっ、ぁ、あ」
「いっぱい突き出て、俺に舐めてって言ってるみたいだよ。それとも、吸ってほしいのかな」
「す、吸うの、ダメ。ダメです……っ」
「ほんとうに?」
甘い声音が、蠱惑的に鼓膜を震わせる。
――ほんとうは、してほしい。舐められるだけでこんなに気持ちいいなら、きっと……。
「期待した顔してるよ」
「っっ……! わ、わたし……」
「気持ちよくなるのは、悪いことじゃない。俺は今、芽唯に感じてほしくてがんばってるんだからね」
だから、と彼は続ける。
「芽唯のかわいいところ、もっと見たい。もっと、感じてる顔を俺だけに見せて」
「優心さん……」
もう、返事は必要なかった。
彼は芽唯の体から力が抜けたのを察して、赤く色づいた先端を口に含む。
粘膜のやわらかな感触に包まれるやいなや、感じやすい部分が吸い上げられた。
「っぁああ、あ!」
触れられるのとは、あきらかに違う。
快楽の糸を撚り合わされるような、純度の高い刺激に芽唯は高い声をあげた。
「ああ、芽唯はここが感じるんだね」
「ゆっ……、あ、あっ」
「いっぱい吸ってあげる。もっと感じて、もっと俺だけの芽唯になって」