実は御曹司のボディーガード ×小柄で守ってあげたい彼女
カフェ店員の春菜は、お客の恋の成就に一役買ううちに、客であるボディガードの羽柴に恋愛上級者と誤解され、彼女役としてレッスンをつけてほしいと頼まれる。片思い相手からの依頼に迷いながらもOKすると、練習のはずが「ずっとこうしたかった」と羽柴に本命のように溺愛され!? でも彼が実は御曹司社長と判明。他の女性とも会っている噂を聞き――。
「羽柴さん……」
春菜はちょうどグラスから離れた羽柴の右手を取った。両手で包む。それだけでは足りなくて、自然と頬を寄せていた。どこか芝居じみた大げさな動作だけれど、そうすることがとても自然に思えた。
とうとうキスで触れてしまった時、彼が微かに震えたのがわかった。
「痛みますか?」
春菜は自分の両手のなかでじっとしてくれている彼を、もう一度そっと握った。
ふと見ると、羽柴は目を閉じていた。
「この傷はたちが悪いんだ。忘れようとすると痛む」
羽柴の瞼がゆっくりと開いた。
彼の目に春菜が映っている。
「でも、君がキスしてくれた時は痛みが和らいだ」
「え……」
「気持ちよかったんだ」
握っていた手を握り返され、彼の方へと引かれた。
今度は彼が春菜の手に口づけた。
「もっと気持ちよくしてくれる?」
上目遣いに尋ねる彼の目は、恐ろしいほどの艶を含んでいた。男性にこんな眼差しを向けられたことのない春菜の背を、ぞくりと熱いものが駆け抜けた。
「誘っているのは私か? それとも君?」
熱を帯びた艶やかな瞳に迫られ、春菜は震える口を開いた。
「こういう時は、よりその思いが強い方がリードするんです」
暗に私の方が強いと主張したつもりだった。
彼に口づけられた手が疼く。
彼とたくさんキスがしたかった。長く佇んでいた踊り場から、一歩踏み出したかった。そのためなら恋愛マスターにだってなんにだってなってやる。ゴーサインだって出してやると、春菜は震えるほどの勇気を行動に換えようとした。
春菜は羽柴からキスを奪うため、彼の腕に手をかけた。――と、春菜が唇を寄せるより先に抱きしめられた。
「春菜……」
初めて名前で呼ばれた。思わず閉じた瞼の奥が熱くなる。涙が出るほど胸を締めつけられる幸せを、春菜は生まれて初めて味わっていた。
キスの気配がした。そっと近づいてきた彼の唇は、だが、重なると思ったとたんなぜか離れていった。
「嫌だ……」
羽柴が呟く。苦しげな声が吐き出した言葉の意味が、春菜にはわからなかった。
春菜を抱きしめる手に力がこもった。お前を腕のなかに閉じこめ逃がさないとでもいうように、強く強く抱きしめられる。
「浴室に行こう」
「え……」
「あいつの匂いを消したい」
「君が入ってきた瞬間、わかったよ。あの時にはもう、すぐにでも消したかった」
春菜が綾瀬と一緒だったと羽柴に教えたのは、香りだった。綾瀬が日頃使っているお気に入りのフレグランスを羽柴は覚えていた。おそらく綾瀬に借りた膝掛けについていたものが、春菜に移ったのだろう。
シャワーの湯気で温まった浴室で、春菜は羽柴の腕のなかにいた。
身体と身体が少しの隙間もなく重なっている。裸でいるのは今すぐ逃げ出してしまいたくなるほど恥ずかしいのに、こうして彼と肌と肌をくっつけていたい、いつまでも離れたくないと焦がれる気持ちは燃え上がる一方だった。二人の身体がひとつに溶け合っていく安心感があった。
シャワーの湯に打たれ、唇は羽柴から降りてきた。
さっきはためらったキスを、もう一度最初から。
「……ん」
柔らかく吸われて、唇が綻んできたところをさらに深く重ねられる。
彼の舌が春菜のなかに入ってきた。熱く濡れたものが、早くも蕩けそうな甘さでいっぱいになった内側を探っている。あやすように撫でられるたび、うなじや脇腹や背中や……。口のなかとはまるで関係のないところにまで、何とも言えない心地よさが広がっていく。
「……ぁ」
キスの合間に熱く零れる息は、すぐに止まらなくなった。羽柴のせいだ。唇を奪い続ける彼の手が、春菜の身体の隅々にまで滑っていくから。まるで綾瀬の香りを残さず洗い流そうとでもするように。
「あ……」
肩の丸みを繰り返し撫でていた手が、するりと下へ。乱れた呼吸で上下する胸元へと移ったのを知って、春菜は身を固くした。そのまま滑り落ちれば乳房は彼の手のなかだ。
「あいつに抱きしめられた?」
羽柴が聞いた。指先が乳房の裾野で遊んでいる。焦らすようにさわりと動いている。
「正直に答えて」
「そ……んなこと、されてません」
春菜は止まらない吐息を呑み込み、懸命に答えた。
「あの香りは、綾瀬さんに借りた膝掛から移ったもので……」
さっきもそう説明したのに、羽柴はなぜそんなことを聞くのだろう。
「……っ」
春菜は息をつめた。
「本当に?」と重ねて尋ねた彼のその大きな手のひらが、とうとう春菜の乳房を包んでいた。
「本当にこんなふうに触らせなかった?」
彼の指が春菜の膨らみを柔らかく凹ませた。羽柴は手のなかに春菜の乳房があることを確かめるように、ゆるゆると揉んだ。
「あ……や……」
身体の芯から込み上げてきた甘やかな快感に邪魔され、春菜は返事ができなかった。触らせてなんかいないと、必死に頷いた。
「誰にも触らせるな」
囁きが熱く春菜の耳に吹き込まれた。
「私以外、誰にもだ」
(羽柴さん……)
濡れた前髪を分け、額に口づけるその優しさに、春菜は泣きそうになった。
春菜は偽物の恋人なのに、彼は決してぞんざいに扱ったりはしなかった。与えてくれる悦びは本物で、本当に愛されていると勘違いしてしまいそうだ。
羽柴は春菜の髪や額や頬をキスで飽きることなく埋めながら、乳房を愛撫する手は止めなかった。
意地悪い指先が乳房の形をなぞる。先端へとすうっと引かれるように動いたかと思うと、頂に辿り着く前に止まった。ポツンと勃った実の周りにくるくると円を描く。
「あ……あ」
「気持ちいい?」
「……やぁ」
乳房が疼く感覚を、春菜は初めて教えられた。もっと触れてほしいのを知っていて焦らしているのがわかるから、羞恥が膨らむ。でも、恥ずかしさが増す分だけ、なぜか疼きも強くなるのだ。
「ん……っ」
凝った先端をつつかれ、春菜の肩が小さく跳ねた。軽く摘まれた瞬間、ビリッと鋭い快感が身体を突き抜け、春菜は思わず声を上げてしまった。自分でもドキリとするほど甘えた声だ。
「感じやすいんだな」
春菜は顔を上げられない。「可愛い」と信じられない言葉を囁いてくれる声が、本当に優しい。最初からずっと夢を見ているのかもしれないと思う。
「……ん」
乳房全部をすくい上げる手に、乳首を悪戯する指が混じる。指の腹で撫でられ続けているうち、声が止まらなくなっていた。
「や……あ、恥ずかし……」
「耳まで真っ赤だ」
春菜は耳がこんなに感じるなんて知らなかった。片方の耳朶を食まれると、そこから生まれた悦びはあっと言う間に指の先まで沁みていく。
快感に呑み込まれ膝から崩れそうになった春菜を、羽柴が抱き留めた。
「過去は詮索しないと言ったのを後悔してる」
ふいに彼が言った。
羽柴はいったん春菜から離れると、今度は後ろから抱きしめた。バスタブを背にそのまま腰を下ろす。彼が恋愛上級者の技だと信じて実践している体勢だ。シャワーで温められたはずの床を冷たく感じるのは、彼に愛され身体が火照っているせいだった。
「今まで何人の男が君をこうして抱きしめてきたのか、私は知らない」
春菜は他人に手ほどきができるほど恋愛経験が豊富だ――という噂を、羽柴は今も疑っていないのだろう。
「……私……全然もてないから……」
「いや、君の魅力に惹かれる男はたくさんいるはずだ。綾瀬だってそうかもしれない」
自分の開いた脚の間に春菜を置いて動きを半ば奪ってしまった羽柴は、目の前のうなじや肩にキスをしている。
「……はぁ」
全身が神経の塊になっている春菜は、うなじへのキスひとつ、肩を滑る唇ひとつで、ぐずぐずに崩れそうに気持ちよくなってしまう。たくさんの男たちなどどこにもいないと訴えたくても、乱れる息に邪魔され声にならない。
春菜の愛する大きな手が、膝の上に置かれた。と……、それは腿へとするりと滑り落ち、ゆるゆると撫ではじめた。
「もしもこの身体にほかの男の記憶が残っていたとしても、自分のものに書き換えられる。それができるのが上級者だろう。私にもできるだろうか」
太腿の内側まで忍び込んできた彼の手に春菜は脚を閉じようとするけれど、できない。撫でられる快感に緊張を解かれ、閉じるどころか緩んでしまう。
「駄目……、お願い」
今にも泣きだしそうな春菜の声に煽られたのか。
「もっと触ってほしい?」
羽柴は意地悪なことを言う。
「それとも、別のところに欲しい?」
(あ……っ)
脚の付け根の方まで濡れた空気が流れ込んできた。彼に膝を割られて足を大きく広げられ、春菜の秘花は温かな湯気に晒された。
「俺の声を聞いて……」
彼の手が、春菜の叢を撫でるように過る。
「俺だけを感じて」
春菜は逃げたかった。彼が触れようとしている場所がどうなっているのか、春菜は知っているからだ。浴室に連れ去られ最初のキスをしている時にはもう熱を帯び、疼いていたその場所を、彼に見られたくなかった。
小さなマメシバは巨きなサーベルタイガーの前脚に押し倒され、尻尾を震わせることしかできない。
一瞬、春菜の頭にそんな場面が浮かんで消えた。だが、すぐにあの何とも言えない安心感が全身に広がって、怖いほど大きな彼にすべてを委ねたくなる。自分のすべてを奪ってほしくなる。
「……っ」
彼の指先が、春菜の閉じた花弁の合わせ目に沿って線を引いた。春菜は思わず腰を捩った。無駄と知りつつまた膝を閉じようとしたが、やはり許してもらえない。
羽柴は春菜の花弁を開くように指を動かした。
「見て。もうこんなになってる」
「……や……あ」
やはり、秘密の場所は恥ずかしいぐらい潤んでいた。きっと彼の指を濡らしているに違いない。どうにかしようと身体に力を入れれば入れるほど、快感の蜜が滲んでくるのを感じる。
「あ……、駄目ぇ……」
「春菜のここは熱いな」
彼は春菜の浅く短い裂け目に、何度も愛撫の指を行き来させた。快感がまた膨らんだ。花弁のたてる蜜に塗れた淫らな音が聞こえてくるようだ。
(もう……)
苦しいぐらいに気持ちがいいから、いっそ昇りつめてしまいたい。覚えのある強い衝動がすぐそこまで迫っていた。
「私で感じてくれてるのが嬉しい」
羽柴はいったいどんな顔をして、こんな優しい言葉を向けてくれるのだろう。
(……私も……)
春菜も嬉しかった。羽柴もまた春菜で感じてくれていたからだ。春菜の後ろに当たる彼の分身は、とっくに力を漲らせ固く張りつめていた。
羽柴は大きな手のひらで春菜の秘花を覆い、柔らかく揉むように動かした。
(駄目、駄目……、いっちゃう)
いやいやをしながら腰が逃げてしまう春菜に、「我慢しなくていい」と彼は囁いた。
羽柴は手の動きに合わせ猛った自分を春菜に押しつけ、刺激している。彼の興奮が余計に春菜の快感を煽った。
「ふ……っ」