身よりのない真冬は、病弱な弟を支えるためバイトをかけもちして働いていた。ある日、店の客の幸哉に多額の報酬と引き換えに跡継ぎを生んでほしいと契約結婚を提案され、悩んだ末に承諾する。老舗料亭の若女将として頑張るものの、周りの視線は冷たい。そんな中でも幸哉は真冬を労わり溺愛してくる。やがて真冬も彼の誠実で甘く優しい態度に惹かれていき――。
頬に触れるリネンの感触がいつもと違うことに違和感をおぼえ、真冬はふと目を覚ます。
それと同時にすぐ傍にぬくもりを感じ、ぼんやりと瞼を開けるとそこには裸の男性の身体があって心臓が跳ねた。
(えっ、この人って……えっ?)
半ばパニックになったものの、すぐに彼が有家であることに気づく。
(そうだ、昨日……)
――昨日、自分は有家幸哉に抱かれた。
そのことを思い出した途端、スイートルームに来てからの一部始終が脳裏によみがえり、真冬は一気に恥ずかしくなる。
朝から挙式披露宴を執り行い、その後親族の食事会を終えた真冬は、この部屋に来たとき疲労困憊だった。だがこの結婚の目的は子作りなのだから、初夜を拒むわけにはいかない。そう考えたものの、いざそういう場面になるとにわかに緊張が募った。
いくら契約だとはいえ、恋愛感情のない相手にこのまま抱かれて自分は後悔しないだろうか。妊娠出産をするとなれば、身体的なリスクを伴う。そんな考えが頭をよぎったものの、真冬はすぐにそんな自分を叱咤たした。
(これまでさんざん考えて自分で決断したんだから、今さら躊躇うなんて間違ってる。しかも有家さんは契約どおりに奨学金や生活費を支払ってくれたんだもの、今度はわたしが約束を守る番だ)
とはいえ今まで手ひとつ繋がなかったのだから、有家はおそらく性的に淡白な性質なのだろう。
もしくはこちらを子どもを生む道具としか思っておらず、異性としての魅力を感じていないのかもしれない。
そう思い、自分の中の疑問を彼に率直にぶつけてみたところ、「ここ数年は女性とつきあうことがなかったからそういう行為をしていないだけで、それなりに性欲はある」「君に魅力を感じていなかったわけではない」と答え、濃密なキスを仕掛けてきた。
(……すごかった)
キスはもちろん、その後なし崩しにベッドに行って始まった行為は、真冬の想像をはるかに超えるものだった。
過去に一人としか交際経験のない真冬に対し、有家は終始大人の男の余裕があった。じわじわと官能を高めていく手管に真冬がすっかりグズグズになった頃、ようやく中に押し入ってきて、それから長いこと喘がされた。
行為中の彼は汗ばんだ顔やときおり漏らす押し殺した吐息に男の色気があり、それまで抱いていた〝淡白〟という印象は今やすっかり覆されている。触れる手や腰使いがひどく巧みで、どんなふうに動かれても快感があったのを思い出し、真冬の身体の奥がふいにじんと疼いた。
(やだ、わたし……)
久しぶりの行為で局部にはヒリヒリした痛みがあるのに、昨夜の行為を思い出しただけで最奥が蠢いている。
中に出されたせいでぬるつく感触があり、一刻も早く残滓を洗い流したくてたまらなくなった。真冬は自分の身体を抱き寄せている形の有家の腕をどけるべく、わずかに身じろぎする。すると彼がぼんやりと目を開け、こちらを見つめてつぶやいた。
「……おはよう」
「お、おはようございます」
「今、何時?」
「え、えっと」
有家が問いかけてきたものの、スマートフォンが手元にないせいで時刻がわからない。
だがベッドサイドの棚に置き時計があるらしく、真冬の身体越しにそれを見た彼がつぶやいた。
「七時か。いつもより寝坊したな」
挙式披露宴の翌日である今日は、有家は仕事の休みをもらっているという。
そのため、チェックアウトの正午までゆっくりできることになり、確かに起きるにはまだ早い時間といえなくもない。だが何ともいえない気まずさをおぼえた真冬は、彼の顔を見ないようにしながら言った。
「あの、わたしはお風呂に入ってきますから、幸哉さんはゆっくり寝ていてください」
「じゃあ、俺も入ろうかな」
「えっ?」
「二度寝はしない性質なんだ。せっかくだし、一緒に朝風呂もいいだろ」
真冬は狼狽し、慌てて身体を起こしながら言った。
「一人で入ったほうが、きっとゆっくりできますよ。わたし、急いで上がりますから――」
しかし有家はベッドの下に落ちていたバスローブを拾い、こちらに手渡してくる。
そして自身もおざなりに羽織ると、真冬の腕をつかんでバスルームに向かって歩き出した。
(嘘。ほんとに一緒に入る気……?)
彼とは昨夜初めて抱き合ったばかりで、恋人同士ですらない。
それなのにいきなり一緒に入浴するのはハードルが高く、拒みたい気持ちでいっぱいだった。しかし脱衣所に入った有家は、自身が着ていたバスローブをさっさと脱ぐ。
そして引き締まった裸体を惜しみなく晒しながら先に浴室に入り、浴槽にお湯を溜めつつ言った。
「そこにタオルがあるから、真冬のタイミングで入ってきてくれ。俺は先に身体を洗ってる」
「……っ」
そう言って目の前で曇りガラスの扉が閉められてしまい、真冬は所在なく立ち尽くす。
おそらく彼はこちらの戸惑いを知っていて、あえて猶予を与えてくれたのだろう。真冬はバスロ
ーブを胸元に掻き寄せ、グルグルと思い悩む。
(どうしよう、このまま知らんぷりしたら感じ悪いよね。じゃあ一緒に入らなきゃいけないってこと?)
はたして自分たちの〝契約〟に、こういったことまで含まれるのだろうか。
そんな疑問が湧いたものの、結局真冬はバスローブを脱ぎ、棚の上にあったタオルで身体の前を隠してドアを開けた。
するとシャワーのお湯を出して温度調節をしていた有家が、こちらを見て微笑んだ。
「何だ、意外に決断するのが早かったな」
「そういうことを言うなら、わたしは後にします」
真冬がムッとして踵を返しかけると、彼が肘をつかんで呼び止めてくる。
「待て。冗談なんだから、本気にするなよ」
足を止め、居心地の悪い気持ちでうつむくと、有家がクスリと笑って言った。
「せっかく式の翌日なんだから、仲よくしよう。身体を洗ってやるよ」
「結構です。自分でできますから」
「いいから、ほら」
シャワーのお湯を掛けられ、前を隠していたタオルがみるみる濡れて肌に貼りつく。
身体の線が浮き出ていくのがわかって、真冬はかあっと頬を赤らめた。それでもタオルを外さずにいると、有家が言う。
「タオル、どけてくれないと洗えないんだが」
「ほ、本当にいいです。自分でしたいので……あっ!」
手からサッと奪い取られ、窓から差し込む朝日で煌々と明るい中、素肌があらわになる。
真冬は腕を伸ばし、タオルを取り返そうとしながら抗議した。
「返してください!」
「昨夜さんざん見たんだから、今さらだろう」
「恥ずかしいんです。わたし、胸が小さいので」
すると彼が眉を上げ、こちらの胸を注視しながら事も無げに言う。
「きれいで可愛いけどな。感度もよかったし」
「……っ」
シャワーを一旦止めた有家が、ボディソープを手のひらに取る。そしてそのままこちらの胸に塗りつけてきて、真冬は小さく声を漏らした。
「ぁ……っ」
大きな手がささやかな胸のふくらみを包み込み、揉みしだく。
ボディソープのぬめりのせいでぬるぬるとし、少し強めに揉まれると呼吸が乱れた。押し回し、両脇からふくらみを寄せるようにしたかと思えば先端部分を弄られ、じんわりと愉悦がこみ上げる。
気がつけば胸の先がつんと勃ち上がり、色づいていた。
「……っ、……ん……っ」
こちらの反応を見られていることが、恥ずかしくてたまらない。
だが壁際に追い詰められて逃げ場がなく、真冬は足元に視線を泳がせながら言った。
「幸哉さん、もういいですから……」
「よくない。昨夜、結構汗かいてたんだからちゃんと洗わないと」
「あっ」
ふいに身体を抱き寄せられ、両手で尻の丸みを鷲づかみにされて、思わず声が出る。
ぬるつく手で強く揉まれると、淫靡な気持ちがこみ上げた。頬に触れる有家の素肌や皮膚の下の張り詰めた筋肉の感触、こちらをすっぽりと抱き込む身体の大きさに、女とはまるで違う造りを如実に感じてドキドキする。
そうするうちに身体を裏返され、壁に両手をつく形にされた。後ろから覆い被さる体勢になった彼が、首筋に口づけながら再び胸のふくらみを包み込んでくる。
「んっ……ぁっ」
首筋をチロリと舐められ、有家のかすかな息遣いや髪の感触にゾクゾクし、真冬は身体を震わせた。
ボディソープでぬらぬらと光るささやかな丸みが大きな手の中でたわみ、ときおり先端が強く摘ままれる様がいやらしく、その光景にどうしようもなく乱されていく。
やがて有家の片方の手が脚の間に触れてきて、真冬はビクッと太ももをわななかせた。
「ぁ……っ」
花弁を開いた指が割れ目をなぞり、体温が上がる。
昨夜彼を受け入れた蜜口は腫れぼったくなっており、ボディソープがわずかに滲みた。有家の指
が緩やかに行き来し、やがてくちゅりと音が漏れ始める。
太ももに力を入れて何とかその動きを阻もうとするものの、彼はやめない。首筋に唇で触れていた有家が、耳元でささやいた。
「……ああ、昨夜のが出てきたな」
「……っ」
隘路の奥から精液が溢れ、太ももを伝って落ちていくのがわかって、真冬は身の置き所のない羞恥をおぼえる。
まるで粗相をしてしまったかのようで恥ずかしく、顔が真っ赤になった。すると彼が後ろからこちらの頤を上げ、口づけてくる。
「んぅっ……」
顔を上向けられ、覆い被さるような形で唇を塞がれて、喉奥から声が漏れる。
押し入ってきた舌に絡めとられ、口腔をいっぱいにされて、目に涙がにじんだ。そうしながらも有家が敏感な花芽に触れ、昨夜中で放たれた精液を纏った指で押し回してきて、じんとした甘い愉悦がこみ上げる。
「ぅっ……んっ、……は……っ」
残っていた精液だけではなく、にじみ出た愛液のせいで指を動かされるたびに粘度のある水音が立ち、官能を煽られる。やがて唇を離した彼が、真冬の耳朶を食みながら言った。
「昨夜ここに出したとき、すごく興奮した。変な話だけど、君が俺のものになったんだという妙な感慨が湧いて」
「……っ」
「真冬はどうだった? 奥に出されて」
「ぁっ……それは……っ」
真冬は即答できず、言いよどむ。
中に出された瞬間、「もう後戻りはできない」という思いと、「これで子どもができたら、万事上手くいくのだ」という期待が入り混じり、何ともいえない気持ちになった。
だがそうした本音を有家に明かすのは気が引けて、真冬はぐっと唇を引き結ぶ。すると彼が蜜口
から指を挿れてきて、思わず眉根を寄せた。