ずっと片思いしてきたサイアスが自分に見合いを申し込んできた真意を探るため、先祖から伝わる薬で猫に変身したティーナ。サイアスに優しい手つきで撫でられて気持ちよくなっていたら、その夜、サイアスの部屋でなぜか人間に戻っちゃった!? しかも目覚めたサイアスに濃厚なキスをされて「夢」と言い聞かせたまま全身をじっくり蕩けさせられてしまい!?
(私……は、は、裸っ!?)
一糸纏わぬ姿をで抱き締められている。まさかサイアスもなのかと慌てて確認し、全裸でなかったことにホッとすると同時に、自分が元の姿に戻っていることに気づいた。
ならば全裸であることも納得できる。猫はドレスを着ないからだ!
(待って、待って……どうしてこんなことになっているの……!?)
秘薬の効果が切れたのか。だが効果は約一日とあったのに、どうして人に戻っているのだろう!?
それとももう一日経ってしまっているのかと視線を巡らせ、サイドテーブルの置時計を確認する。半開きのままのカーテンから入り込む薄い月光と置時計の時間からして、間もなく日をまたぐという深夜だ。
サイアスが起きないうちにここから脱出しなければ! この状況をどう説明すればいいのかわからない。
起こさないように気をつけながら、とにかく裸身を何とかしようと掛け布を引き寄せようとする。だが彼の腕が腰と背中に回ったままで、身じろぎしかできない。
どうしたら、と恐慌状態になったとき、サイアスの瞳がぼんやりと開いた。起こしてしまったと身体を強張らせた直後、彼が深く息を吐きながらティーナを強く抱き寄せつつ、くちづけた。
「……っ!?」
押しつけられた唇の感触に大きく目を見開く。薄く温かい唇は、感触を確かめるように何度か唇を啄んできた。
(わた……私……っ、サ、サイアスと……っ)
くちづけを、している――驚き以上に触れられる心地よさと甘いときめきに、抵抗する気は信じられないほど早く溶けていく。先日のパーティーでしてしまったくちづけを思い出した。
ちゅっ、ちゅっ、と啄んでいた唇が、今度は食むように動いて唇を押し割ってきた。うっとりと閉じていた瞳を新たな驚きに開いた直後、熱く肉厚なものが口中に入り込んでくる。
ぬめった感触が唇の内側を舐め擽ってきて、本能的に逃げ腰になる。サイアスの腕に力がこもり、乳房が彼の胸で押し潰されるほど強く抱き寄せられた。
(……な、何……っ!?)
潰されるのではないかと思えるほどきつく抱き締めながら、サイアスの舌が口中を探ってくる。はじめは、どこかぎこちなく反応を窺うような動きだったが、驚きに思わず口を開いてしまうと深く入り込んできた。
「……ん……ふ、う……っ?」
戸惑って強張った舌に、サイアスの舌が触れた。熱さとぬめりが予想外に心地いい。
サイアスの舌が恐る恐る舐めてきて――すぐに飢えたように絡みつき、舐め合わせてきた。
「……んっ、んぅ、んー……っ?」
角度を変え、口中をかき混ぜるかのように何度も激しく貪られる。
舌が強く擦り合わされ、搦め捕られて引き出され、前歯で甘く噛まれる。互いの唾液が混ざり合い、どちらのものともわからなくなる。
濃密すぎるくちづけは、思い描いていた甘い擽ったさをもったものとは、まるで違っていた。それなのに身体の奥が熱く疼き、不思議な気持ちよさを覚えてしまう。
(息……苦し、い……っ)
空気を求めて口を開けば、さらに舌が奥まで入り込んでくる。
上顎のざらつきを強く舐められ、少し仰け反った。腰に絡んだ腕に力がこもり、密着度が強くなる。
「……んー……んぅ……っ」
このまま息が止まってしまうのではないか。思わずサイアスの胸を拳で叩いてしまう。
サイアスが瞳を開きながら、唇を離した。互いの上唇が触れ合いそうなほど間近にある顔。緑の瞳は、熱っぽい。
「……ティーナ……」
くちづけで濡れた唇が、呼びかける。
寝ぼけているからだろうか。いつもの呼びかけよりもずっと優しく、甘く、熱っぽい。
変に胸がドキドキしてしまい、目を伏せる。
サイアスが頬を寄せ、瞼にくちづけてきた。気恥ずかしくなって、ティーナは頬を染める。
「ティーナ」
甘い囁きは、サイアスのものとは思えない。何を言えばいいのかわからず俯くと、唇が右耳に押しつけられた。
「……ひゃ……っ」
驚いてしまい、変な声を上げてしまう。
ティーナは反射的に自分の口を片手で塞ぎ、身を縮めた。今の声をどう思っただろう。
サイアスが驚いたように瞳を瞬かせ、すぐに嬉しそうに笑った。
「可愛い……」
(え……今、何て言ったの!?)
問いかけるよりも早く、唇が右耳に再び押しつけられた。
濡れた舌がかたちを確かめるように耳殻を舐め上げ、唇が時折甘噛みし、尖らせた舌先で複雑な窪みも耳穴も擽ってくる。時折唾液が絡む淫らな水音が奥深くに入り込んできて、ゾクゾクした。
甘い疼きが下腹部に溜まる。何か淫らな気持ちになっていくようで、ティーナは身を強張らせながらサイアスの胸を両手で押した。
「……そ、それ……駄目……」
サイアスは構わず耳裏にちゅうっ、と音を立てて吸いつく。熱い呼気が首筋を擽り、思わず声が上がった。
「……あ……やぁ……ん……っ」
本当に自分の声なのかと疑ってしまうほど、甘く濡れた声だった。
サイアスは小さく息を呑むと、嬉しそうに首筋を啄み、舐め、唇で甘噛みしてくる。そのたびに甘い疼きは強くなり、ティーナはサイアスの腕の中で身を捩った。
「ティーナ、可愛い……すごく可愛い声だ……」
「……んっ、んぅ……っ」
再び唇を深く官能的なくちづけで塞がれる。
先ほどよりも深いくちづけは本当に息を止められそうで、危機感を覚える。ティーナはサイアスの胸を今度は全力で押しのけた。
サイアスが驚いて唇を離し、ひどく悲しそうに瞳を細める。
「……嫌か……?」
「そ、そうではなくて……っ! い、息が……できな……っ」
呼吸を乱しながらも何とかそう言うと、また嬉しそうに笑われた。
「そうか。可愛いな」
「……んむっ」
また舌を搦め捕られる深いくちづけを与えられる。
サイアスも苦しげなのに、くちづけをやめる様子がまったくない。くちづけの角度を変える際に何とか空気を吸い込むものの、次第に頭がぼうっとしてくる。
「可愛い……ティーナ……それに柔らかくて、甘い匂いがして……はぁ……っ」
くちづけの合間に、熱に浮かされたようにサイアスが囁く。蕩けるような甘い声は、初めて耳にするものだ。聞いていると、意識が溶けていく。
「……ティーナ……ティーナ」
身体に回っていた腕が動き出した。背中を撫で上げられて、思わず声が漏れる。
くちづけを止めないまま、サイアスが身体を撫で回し始めた。腕や肩、腰のくびれ、臀部の丸み――そして腹部を撫で上げて、胸の膨らみを両手で包み込んでくる。
大きな掌は、熱い。
くちづけで息を乱し、触れられるたびにびくびくと震えてしまう。これ以上触れられたらどうなるのかわからない甘い恐怖と、彼の体温と掌の大きさの心地よさにどうしたらいいのかわからない。
胸の柔らかさに驚いたのか、サイアスの両手が一瞬止まった。だがすぐに感触を確かめるように揉み込んでくる。
「……んぅ……んっ、んー……っ!」
くちづけを続けられているため、抗議なのかそれとも喘ぎなのか――自分でもよくわからないくぐもった声は、サイアスに呑み込まれてしまう。
十本の指が、乳房を押し回すように揉みしだき始めた。
サイアスが覆い被さり、舌先を最後まで触れ合わせながら顔を上げる。情欲を宿した緑の瞳はゾクリとするほど男の艶と熱を孕んでいて、涙目で見返すことしかできない。
(わ、私……このままサイアス、と……?)
息を乱しながら、サイアスが下肢の寝間着を引きずり降ろそうとする。どこか獣めいた瞳はティーナから一瞬たりとも離れない。
だが自然と零れた涙の一粒に気づくと、ハッと見開かれた。
サイアスの全身が強張った。大きく目を見開きながら、低く呼びかける。
「……ティーナ……?」
寝ぼけていた意識がはっきりしたらしい。愛撫が止まってホッとする。
「ティーナ……なのか……?」
無言のままこくこくと何度も頷くと、サイアスが存在を確かめるように改めて組み敷いたティーナの全身を見回し、直後に飛び退いた。
「……何で素っ裸なんだ!?」
「……きゃあ! 見、見ちゃ駄目……!!」
羞恥が一気に蘇り、慌てて掛け布を引き寄せようとする。それよりも早くサイアスがそれをばさりと大きく広げ、身体を包み込んだ。
掛け布でもこもこになりながら頭を出し、礼を言う。
「……あ、ありがとう、サイアス……」
「礼はいい! 早く服を着ろ!!」
頬を真っ赤にし、サイアスは慌てて背を向ける。もちろんそうしたいのだが、猫の姿から人に戻ったために服を持っているわけもない。
「何で君が俺の部屋にいるんだ! しかも裸で!! は……裸……っ」
先ほど触れた感触と姿を思い出したのか、サイアスが口ごもる。こちらからは後ろ姿しか見えないが、両手で顔を覆いながら俯いた耳と首筋が、茹だったように真っ赤になった。
ティーナもくちづけられたこと、全身を大きな手で熱く撫で回されたこと、胸を揉まれたことなどを瞬時に思い出し、羞恥で真っ赤になって俯く。どちらからともなく黙り込み、気まずい沈黙が漂った。
この状況をどう説明すればいいのだろうか。だが秘薬を飲んだら猫になりました――などと、言っても信じてもらえるかどうか疑わしい。それに猫になって何しに来たんだと問われたときに、上手く答えられる自信もなかった。
サイアスは両手の中に顔を伏せたまま、ブツブツと呟く。
「……これはどういうことなんだ。何でティーナが俺のベッドにいるんだ……しかも裸で、は、裸で……あんなに柔らかくて甘い匂いがするなんて……犯罪だ……。いつもの夢と、全然違うぞ……っ」
(……夢……?)
『いつもの夢』の内容はさっぱり見当がつかないが、その言葉が現状の解決策を導いてくれる。かなり無理があるかもしれないと頭の隅で思うものの、これで押し通すしかない。
ティーナは胸元を押さえながら身を乗り出した。
「――サイアス、これは夢なのよ!!」
究極の言葉だ。サイアスの背中が強張り、ゆっくりと振り返る。
「……は……!?」
何を馬鹿なことを……!! とでも言いたげで、心に刺さる。自分でも相当無茶だとわかってはいるが、今はこの言葉で納得してもらうしかない。
そしてそうか夢かともう一度眠ってもらい、その隙に逃げ出す。
(今はこの方法しかないの! お願い、信じてサイアス!!)
ティーナは満面の笑みを浮かべて続けた。軽く人差し指も立てて、まるで教師然とした仕草も加える。
「だってよく考えてみて? こんなこと、あり得ないわ。今となってはあまり会わなくなった幼馴染みの私が、あなたのベッドで裸で一緒に寝ているのよ? 大人になった私たちがこんなふうに過ごすことは、絶対にあり得ない。そうでしょう?」
「……大人の、俺たちでは……」
サイアスが反芻し、納得したのか小さく頷いた。
「……そうだな。今の俺たちでは、こんなふうに過ごすことはないか……」
呟かれた声が、どことなく寂しげな響きを含んでいる。ティーナは小さな胸の痛みを覚えながらも、続けた。
「だからこれは夢なの。あなたは私の夢を見ているのよ」
「……夢……」
「ええ、朝になったら私はここにはいないの。夢の中だから、サイアスの目の前にいるのよ」
まるで暗示をかけるような気持ちで繰り返す。サイアスは目を閉じてしばし考え込んだあと、驚くほどにあっさりと頷いた。
「ああ、そうか……そうだな、確かに夢だ。そうでなければ、こんな状況は確かにあり得ない」
何とかこの場を誤魔化せそうな雰囲気に、ほっとする。
だが安心したのは束の間だ。サイアスはぐりんっ、とこちらに向き直ると、にじり寄ってきた。
「……サ、サイアス……?」
食い入るようにこちらを見つめながら迫ってこられ、本能的に怯えてしまう。思わず後ずさろうとする腕をサイアスが掴み、自分に引き寄せた。
予想外の行動に驚いたせいで掛け布を押さえることができず、肌を滑り落ちてしまう。再びサイアスに裸を見られてしまい、真っ赤になって身を捩った。
「きゃあ! 見ちゃ駄目!」
「……いや、見るだろう、この場合は」
あっさりと言い返され、絶句する。サイアスは再び組み敷いたティーナの身体を、舐めるように見つめた。
「……綺麗だな……」
「……や……見ない、で……」
視線に感触などあるわけがないのに、肌がざわつくような感覚を覚えてしまう。
サイアスはティーナの両手を指を絡めて握り締め、シーツに押しつけた。これでは掛け布を引き寄せられない。
羞恥で涙目になってしまいながら、首を横に振る。
「や……サイアス……っ、見ないで……っ」
「……俺の夢なんだぞ? 俺の願望がかたちになってるんだから、ここで見ないでどうするんだ。……本物のティーナも、こんなふうに綺麗な身体をしているのか……?」
サイアスの真面目な反論に、驚いて目を瞠った。願望がかたちになっているのが今の状態だとすると、サイアスは自分の裸をいつも夢に見ているということなのか?
(え……え!? それってどういうこと……!?)
驚きが連続でやって来ているためか、考えが上手く纏まらない。茫然としていると、サイアスの手が優しく身体を撫で始めた。
「綺麗だ……俺とは違うな……白くて、ミルクみたいな色だ」
先ほど寝ぼけて触れたときのように、欲望のまま性急に触れてはこない。肌の質感や体温を確かめるようにゆっくりと――同時に壊れ物に触れるかのように少し恐る恐る触れてくる。
(気持ち……いい……)
骨張った硬い指先は、自分のものとはまったく違う。なのに触れられると、不思議な心地よさがある。
下腹部に、再び熱が溜まり始めた。
「滑らかで、俺の指に吸いつくみたいで……もっと……触り、たい……」
「……あ……胸……駄目……っ」
サイアスの両手が何かに魅入られたように胸の膨らみを押し上げながら包み込み、揉みしだいてきた。
先ほどは困惑と驚きで身が強張るだけだったが、触れられるのが二度目だからだろうか。触れられることに対する驚きよりも、与えられる心地よさが強くなる。
「……あ……んぅ……っ」
「……すごい……柔らかい……」
感じ入ったように呟かれて、恥ずかしい。サイアスの手が動くたびに唇から甘い声が零れてしまい、それがとても恥ずかしかった。
「……ふわふわ、だ……これ、本当に俺の見ているいつもの夢なのか? ずいぶんと現実的で……」
「あ……あ……っ」
サイアスの手がさらに激しく動く。
円を描くように捏ね回され、指が沈み込み、柔らかな膨らみはサイアスの思うままに自在に形を変えた。それがとてもいやらしい。
(私の、胸……こんなふうに……変わる、の……っ?)
「……あ……サイアス……やめ、て……っ。そ、んなふうに、触ら……ない、で……」
小さな抵抗の声に、サイアスがハッと我に返り、慌てて手を離した。
「……すまない! 痛かったか!?」
ティーナは泣きそうな顔になりながらも答えた。
「……ち、違う、の……変な、気持ちになる、から……もう触っては、駄目……」
手の動きが止まって、ほっと息を吐く。だがサイアスは小さく息を呑んだあと、再び乳房に手を伸ばし、揉みしだいた。
「……あ……駄目……って、言った、わ……!」
「……変な気持ちって、嫌な気持ちか? それとも気持ちがいい、か……?」
(気持ちいい)
そう答えようとして、慌てて唇を強く引き結ぶ。軽く眉根を寄せた表情を熱っぽく見つめながら、サイアスの人差し指が胸の頂をそっと捉えた。
「じゃあ……これは、どうだ?」
指の腹でふにふにと押し揉まれる。柔らかかったそこは次第に硬くなり、サイアスは乳首の側面を擦り立てた。
「……あ……んぅ……んっ」
身を捩って逃れようとしてもサイアスが覆い被さっているため、逃げられない。新しい刺激は確かに快感に繋がった。
爪の先が、かりっ、と乳頭を軽く引っ掻いた。甘い痺れるような快感が生まれ、ビクリとひときわ大きく反応してしまう。
「……やぁ……! サイアス、サイアス……駄目、それ、駄目……っ。変、に……なっちゃう……っ」
「……く、そ……っ、可愛いすぎる……っ! なあ、もっとしたら……もっと、可愛い反応をしてくれるのか?」
「これ以上は駄目……っ!」
本能的な怯えを覚えて止める。サイアスは不満げな顔をしながらも、仕方なさそうに小さく言った。
「俺の夢なのに、駄目なのか……」
どこか残念そうな顔が、不思議と可愛い。そんな表情に驚いて軽く目を瞠ると、サイアスがちゅ……っ、と軽く唇にくちづけながら言った。
「……わかった。ティーナがそう言うなら仕方ない……でも、あともう少しだけ……いいか?」
あともう少しというのがどの程度なのかわからないものの、何だか我慢している表情が無性に愛おしくなる。羞恥に顔を赤くしながらも小さく頷くと、サイアスが乳房をすくい上げ、両方のそれを押し寄せた。
中心に寄った二つの頂を、彼の熱い舌が一緒に舐め回してくる。
「……ひゃ……ああっ!」
指で弄られるのとはまた違う気持ちよさに、軽く仰け反る。それは自分から胸を捧げるような体勢になるだけで、舌の動きはますます激しくなった。
「……やぁ……サイアス……サイアス……っ!」
どうしていいのかわからず、サイアスの名を呼ぶことしかできない。
「もう少しだけ……いいって、言ってくれた、だろ……っ」
サイアスは胸の頂の片方を口に含み、熱い口中で舌を細かく動かして上下左右に嬲った。同時にもう片方の頂は人差し指と親指で摘んで擦り立て、軽く引っかくようにしたり、弾いたりしてくる。
次々と与えられる甘いながらも強烈な刺激に惑乱し、されるがままになるしかない