結婚してほしい副社長×恋人の自覚がないOL
上司のセクハラに困っていた杏は何故か窓掃除をしていた副社長・和仁に助けられのたがきっかけでひとりが好きな者同士意気投合。彼と「誰かと過ごすことに慣れる訓練」をすることになる。映画鑑賞好きな杏とアウトドア派な和仁で譲歩しあい、ふたりの居心地のよさを覚えていくが、身体を重ねた後も訓練のつもりの杏と結婚したい和仁ですれ違い――!?
舌の先と舌の先が触れ合う。粘膜だからなのか、手と手が触れ合うのとはまるで違う感じがした。
舌がじわじわと溶けてしまいそうだ。
――ふたりで会うのはそろそろやめた方がいいと感じていたはずなのに、こんなことをするのはよくないんじゃないだろうか。
頭の片隅で、そんなことを考えた。
わずかに残った理性はしかし、肩に置かれていた手で首筋を撫でられたとき、どこかへ飛んでいってしまった。
体中の骨がぐにゃぐにゃになってしまったみたいに、手にも足にも力が入らず、和仁を拒めない。
優しくて甘いキスに、目眩がした。
「あ……んはぁ……んん……」
「杏さんっ……」
頬に触れてきた、和仁の手が熱い。
舌の表面をざらりと舐められ、気持ちよくて背筋が震えた。
うっとりと与えられる快感に浸っていると、ふと和仁の顔が離れた。
「杏さん……」
「……はい?」
「そんな顔しないでください。優しくできなくなってしまいます」
そんなってどんなだか杏にはわからない。
ただ、さっきの気持ちいいキスが、もっと欲しかった。
「だから、そういう……」
かぷり、と唇に食いつかれ、そのままもぐもぐ甘噛みされた。
「あ、ふ……ぅ……キスって、気持ちいいものなんですね」
「え?」
「知りませんでした」
正直に言うと、和仁は一瞬目を見開いた後、掠れた声で「光栄です」と言った。
それからまた顔を寄せてきて、今度は深いところまでぬるっと舌を侵入させてきた。
じゅるっ、と唾液が合わさる音がした。
歯茎や上顎まで丹念に舐められ、腰が砕けそうになる。椅子に座っていなかったら、倒れてしまっていただろう。
どういうタイミングで呼吸をすればいいのかわからず、頭がボウッとしてくる。
「ん、はぁっ、溶けちゃう……」
唇が離れた隙に大きく息を吸い込んだが、吐く前にまた口をふさがれた。
陸の上にいるのに、溺れてしまいそうだ。
「杏さん……ベッドへ」
和仁は一旦杏から離れ、バルコニーの引き戸を開けた。
杏は椅子のリクライニングを戻して立ち上がろうとしたが、口付けの余韻で足ががくがくと震えてしまった。
そんな様子を見た和仁は、軽々と杏の体を横抱きにした。
「すごい、和仁さん、力持ちですね」
「杏さんが軽すぎなんです。前々から思っていたんですが、栄養のあるものをもっとたくさん食べてください」
お説教されながらベッドに運ばれ、優しく横たえられた。
シーツがひんやりしていて、キスで火照った体に気持ちが良かった。
杏の横に座り、和仁は真面目な顔をした。
「本当にいいんですか。これ以上進んだら、僕はもう、止まれません」
経験はないが、なにを言われているかわからないほど子供ではない。
杏と和仁は、恋人ではない。
それどころか杏はもう和仁と会うのはやめようと考えはじめていた。それなのにこういうことをするのは、きっと正しいことではないだろう。
「……はい」
わかっていて、杏は頷いた。
思い出が欲しかったからだ。
抱かれた思い出があれば、ただの副社長と平社員という関係に戻っても、週末ひとりの寂しさに襲われなくて済むのではないかと思った。
「杏さん……」
和仁の顔が下りてきて、また口付けられた。
そのままぎゅっと抱き締められ、和仁の体の重みを感じた。幸せな重さだった。
こういうことに不慣れな杏は、ほぼされるがままだったが、手のやり場に困って和仁の首に腕を回した。
和仁はときどき顔の角度を変えて、何度も何度も優しいキスをしてくる。
自分の欲を発散させたいだけなら、こんなふうに丁寧に扱ってはくれないだろう。
まるで、愛されているみたいだ。
やっぱり優しいひとだなと、改めて思う。
杏が口付けに夢中になっている間に、和仁の右手がカットソーの裾から侵入してきた。
「んんっ……! んぁ……」
お腹を撫で、胸へと伸びてくるその手を、やけに熱く感じた。
ブラの上から、大きさや柔らかさを確かめるみたいに、胸を揉まれる。
手つきは優しいが、恥ずかしさに耐えきれず、ついカットソーの上から和仁の手を掴んでしまった。
「すみません、痛かったですか……?」
「痛くは、ないですけど……は、恥ずかしいです……あんまり、大きくないですし……」
「大きい大きくないとかじゃなくて、杏さんの胸だから触りたいんです」
谷間からブラの中に手が入ってきた。ほぐすように乳房を揉み上げられ、熱い吐息を漏らしてしまう。
「あ……っ、んん、あんっ」
背中に回った手が、ブラのホックを外してくる。
あ、と思ったときにはもう遅く、ブラごとカットソーを胸の上までまくり上げられていた。
「やっ……!」
恥ずかしくてたまらず、杏は腕で顔を隠した。
すぐになにかしてくると思ったが、和仁はなかなか動かない。
「……?」
どうしたのかと思い、少しだけ腕をずらして彼の顔を見上げると、とろけるような目で杏の小ぶりな乳房を見ていた。
「……可愛い」
ぼそっと呟いて、和仁は杏の胸に顔を寄せてきた。
「――ああっ!」
ツンと上を向いていた乳房の先端に吸い付かれ、杏は背中を跳ね上げて喘いだ。
「すごく可愛い」
舌と唇で先端を刺激され、じっとしていられなくなる。かかとでシーツを蹴り、両手で和仁に縋りついた。
ここは、こんなに敏感なところだったろうか。
体を洗うときなど、自分で触ることはよくあるが、こんなふうに背骨まで快感が突き抜けてくるようなことは一度もなかった。
やめてほしいのか、もっとしてほしいのか、自分でもよくわからない。
なにも考えられず、杏はただ与えられる刺激に甘い悲鳴を上げるだけの生き物になってしまった。
「やっ……んあっ、ああっ……」
右の乳房は優しく揉まれているだけなのに、皮膚の表面が、ぴりぴりと痺れる。
杏はこの年までセックスの経験がなかったわけだが、特にしたいと思ったこともなかった。言ってはなんだけれど、他人と肌や粘膜、体液をくっつけ合うなんて嫌悪感があり、相手が誰であろうと遠慮したいとすら思っていた。
それがいまは、乳首に唾液を塗り込めるようにされていることに、体が喜んでいる。
まだセックスのセの字の段階にも進んでいないだろうに、自分がこんなふうになってしまうなんて、知らなかった。
「は、あぅ、和仁さんっ……!」
あられもない声が、勝手に口から出てしまう。
手で、口で、愛撫されている胸全体が、熱い。
先端を刺激されるたびに大きく背中をのけぞらせてしまい、もっと触って欲しいとねだっているみたいで、恥ずかしくてたまらなかった。
火照った肌を、あばらにそって指先で撫でられる。
指が這ったところを、今度は唇がたどる。
いやらしいことをしているのに、触れ方はどこまでも優しい。
上半身を余すことなく触られた頃には、杏はもう、体中の骨がぐにゃぐにゃになってしまったみたいになっていた。
「杏さん……」
意志を確認するように、じっと杏の目を見つめながら、和仁がスカートの裾をまくってくる。
いよいよ、下半身にも触れられてしまう――と、覚悟しかけたところで、杏は大変なことに気付いた。
「だ、だめっ……!」
大きな声で言って、和仁の手をガッと掴む。
「えっ……」
ここまできて急に拒絶されるとは思わなかったのか、和仁は目を丸くしている。
「すみません、嫌でしたか」
「あっ……や、嫌というわけでは、ないんですけど……」
穿いてない。
ショーツを。
バスタオルに包んで脱衣所に置きっぱなしにしているのを、いまさらながら思い出してしまった。
「無理はしないでください、杏さんの嫌がることはしたくないんです」
心から気遣われて、ますますいたたまれなくなる。
「あの、本当に、そういうんじゃなくて」
ノーパンです、なんて自分からは口が裂けても言えない。
でもこんな中途半端なところでやめて欲しくない。
杏は迷ったあげく、掴んでいた和仁の手をそっと離した。
「杏さん……」
察してくれたようで、和仁はまずなだめるように杏の太股を撫でた。
それからスカートのなかをゆっくりと上がってきて、腰の横に差し掛かった辺りで、ピタリと手が止まった。
「え?」
まともに和仁の顔が見られず、杏は両手で顔を覆った。
「あっ――すみません! 僕、下着までは考えていなくてっ……そうですよね、海水で濡れちゃいましたよね」
「いえ……私が、ちゃんと言うか、ホテルに着く前にコンビニで買うなりすればよかったんです……」
こんなことで、僕が私がと謝り合うことすら恥ずかしい。
泣きたい気分になっている杏の頬に、温かい手が触れた。
「恥ずかしい思いをさせてしまって、すみません」
「いえ……」
「でもめちゃくちゃ可愛いです」
「っ、その、可愛いって言うの、やめてください」
なおさら恥ずかしくなってしまって、もう死んでしまいそうだ。
「正直、可愛すぎて頭がおかしくなりそうです」
余裕のない声で言われ、スカートの中で太股や腰をまさぐられる。脚の付け根の際どいところに指先が触れ、杏はビクッと震えた。
「あっ……!」
「お願いです、怖がらないで」
逃げそうになった腰を押さえられ、わずかに開いた脚の間に右手を入れられた。
一番大事なところに、和仁の指が食い込む。
「――っ!」
声にならない声を上げて、杏は固まった。
「濡れてる……」
そう呟かれて、羞恥心がメーターを振り切り、心が無になる。
くちゅり、と下の方で水音がした。
そんないやらしい音が、自分の股間から聞こえてきているなんて、信じたくない。しかし誰も侵入したことのない蜜穴の入り口を引っ掻くようにされては、もう自分を誤魔化すことができなくなった。
「だ、だめぇっ……」
拒絶する言葉を口にしても、和仁は手を止めてくれない。さっきはすぐやめてくれたのに、と恨めしい気持ちになるが、こんな甘ったれたような弱々しい拒絶じゃ、聞いてもらえなくて当たり前だとも思う。
ぬめりをまとった指先が、内側に入りかけては、ぬぷりと出ていく。これからここに指ではないものを入れるのだと宣言されているみたいで、ぞくぞくした。
「はぁ、うっ……んんっ」
花弁の間を、和仁の指がすべる。その刺激に上げかけた悲鳴は、唇をふさがれて和仁に呑み込まれた。
ねっとりと、舌が絡む。呼吸が苦しくなるような深いキスに応えるだけで精一杯なのに、和仁は敏感な割れ目をいじるのをやめてくれない。まるで微弱な電気を流されているみたいに、体の震えが止まらなくなった。
「ああっ、だめっ……! だめに、なっちゃうっ……」
唇を振り払って逃げるように腰をくねらせたが、和仁の手は股間に張り付いたまま離れない。
一番敏感な突起をコリッと優しく転がされ、目の前に火花が散る。
「そのまま……そのまま、感じていてください」