転職のため面接を受けた杏奈。そこで出会ったのは、旅先で偶然キスした男性、達彦だった。就職して上司と部下となり改めて彼から告白されるが、達彦が実は御曹司と知り杏奈は素直になれない。彼にそっと触れられると敏感な肌が反応し、逞しいもので擦られれば甘い喘ぎが洩れるけれど――。だが、仕事が忙しいという達彦に女性の影がチラつき始めて……!?
その後はクルーザーをしばらく走らせた。出港したときは呆然としていたから、ようやく海風と景色を実感できた気がする。
再び船を停めて、デッキから海を覗き込んでいると、達彦がおもむろにTシャツを脱いだ。引き締まった上半身が目に飛び込んでくる。服の上からではわからなかったけれど、思った以上に鍛えているようだ。
「泳いでみる?」
「ええっ? こ、こんなとこで無理です……どのくらい深いんですか? 足着かないでしょ?」
我に返った杏奈の言葉に、達彦は仰け反って笑った。
「そりゃそうだけど、だいじょうぶだよ。泳ぎは得意なんだ。大事な杏奈ちゃんを溺れさせたりしないって」
そう言われても、怖いものは怖いのだ。杏奈が答えずにいると、
「信用されてないんだな」
と、達彦に顔を覗き込まれる。
「そうじゃなくて——あ、水着がないから」
「嘘だな」
達彦は杏奈のシャツの肩をつまんだ。
「この花はプルメリアかな? 下着にしては派手すぎるし、仮に下着だとしても、杏奈ちゃんならシャツに映るような着方しないよね」
「あっ……でも、ほんとにまともに泳げないんです!」
杏奈が必死に訴えると、達彦は「わかったよ」と引いた。
「無理強いはしないって約束だからね。今度、ホテルのプールで教えてあげる。でもせっかくだから、水着姿は見せてほしいな」
「わた、私なんかお目汚しで……」
「またまた、自信持っていいよ。ていうか、島に水着を持ってきたってことは、機会があったら着るつもりだったんだろ? 最初は俺に見せてくれなきゃ」
だめ? と甘えるように言われて、杏奈はつかの間逡巡した後に、シャツのボタンに手をかけた。
季楽島で仕事をすると決まってから、実はすぐに水着を新調した。鮮やかなフューシャピンクに白いプルメリアが映えるビキニは、かなり気に入っている。達彦に披露するなんて想像はしていなかったけれど。
でも……見たいって言ってくれると、恥ずかしいけど嬉しい……。
それでも服を脱いでしまうと、どうしたらいいのかわからなくて、シャツとパンツを抱えたままもじもじしてしまう。
達彦は眩しそうに目を細めていた。
「色が白いから、すごくよく似合う。そんな隠さないで、堂々とポーズとって」
「素人にむちゃ言わないでくださいっ」
「そっちのデッキチェアで日光浴——と言いたいところだけど、日焼けしたら赤くなりそうだね。日陰においで」
達彦はさりげなく杏奈の肩を抱いて、左舷に移動した。手の感触もそうだけれど、肘や背中が達彦の素肌に触れて、杏奈はもうドキドキしっぱなしだった。
そんな杏奈の内心を知ってか知らずか、達彦は楽しませてくれようとする。釣り糸を垂れてもみたが、小一時間粘って小さなアジが一尾かかっただけだった。どうしようもないのでリリースした。
夏の陽が傾き始め、そろそろ帰る時間かと杏奈は残念な気持ちになった。初めてのクルーズも楽しかったけれど、なにより達彦とふたりきりで過ごせたのが嬉しい。しかも告白を受け入れて、恋人同士になっての記念すべき初デートでもあったのだ。
「帰りたい?」
デッキの手すりにもたれて隣から訊かれ、杏奈は達彦を見上げた。陰影が濃くなったせいか、微笑みがちょっとせつなげに見えて、杏奈の中で好きという感情が高まる。
「戻るなら、日が暮れる前がいい。でも実は、帰港は明日だって言ってある。杏奈ちゃんが選んでいいよ」
そんなの……狡い……。
達彦は本心から杏奈の意思を優先しようとしているのかもしれないけれど、強引に決めてくれたほうがいいときだってある。
杏奈が口を開けずにいると、達彦は手を伸ばして杏奈の頭を抱き寄せた。
「俺は帰したくない」
杏奈は自らも達彦の肩に顔を押し当て、囁いた。
「……私もまだ……帰りたくない……」
クイーンサイズのベッドは、通常の部屋に置かれるものとなんの遜色もなく、柔らかく杏奈を受け止めた。そして、Tシャツを脱いだ達彦が覆いかぶさってくる。
「あの……、シャワーは?」
遠慮がちに押し返して訊くと、達彦は笑みを返す。
「真水はそんなに無駄づかいできないんだ」
「あ……」
そうだった、ここは海の上だ。あんまり快適だから、つい忘れそうになっちゃう。
たしかに水は貴重だから、遠慮したほうがいいかもしれない。
「——なんてね。ふたりで一泊ぐらいなら、全然余裕だよ。余裕がないのは俺」
達彦はそう言って、杏奈の首筋に顔を埋めた。唇が這う感触に、杏奈は首を竦める。
「これからきみに触れられるんだと思うと、これ以上待てない」
シャツのボタンが次々と外されていって、達彦の顔も胸元へと移っていく。首の後ろで結んでいた水着の紐を解かれて、杏奈は慌てた。
「明かり! 消してください! 無駄づかいだから」
杏奈の胸の上で、達彦が喉を鳴らして笑った。
「俺としては全然無駄じゃないっていうか、むしろ必要なんだけど……まあ、歩み寄ってこれくらいにしようか」
リモコンを操作したらしく、ベッドサイドの明かりだけが灯った。
ほっとする間もなく、ビキニのブラジャーがはらりと下ろされた。
……みっ、見られてる……しかも間近で。あ、息が……。
吐息はかすかだったけれど、杏奈が反応するには充分だった。それまでの間に緊張していたせいも——期待していたせいもあるかもしれない。先端が疼痛に痺れる。
「よかった、嫌がられてないみたいで」
「嫌なんて……」
「うん、そうだよね。こんなに尖ってる——」
指の腹で撫でられて、杏奈は肩を揺らした。わずかな刺激に、身体が急速に昂っていく。
「あっ、あっ……」
「こんなこと言ったら引かれるかもしれないけど、前に触っちゃったことがあるだろ? あのときの感触がずっと忘れられなかったんだけど……今日で一新されそうだな」
達彦の部屋の玄関でのことを言っているのだろうと思い出す。
いっそう硬くなった乳首から指が離れ、乳房全体を包まれて、押し上げるように揉まれた。達彦の髪が素肌を掠め、次の瞬間、反対の乳頭を湿った温かい感触が覆う。
「……あ、や……っ……」
舌先で擽るように乳暈をなぞられ、より尖らせようとするかのように乳首を舐め上げられ、杏奈は言葉にならない声を上げ続けた。
余裕がないなんて言ったくせに……。
そう思ってしまうくらい、達彦の愛撫には急いたところがなかった。杏奈の反応をじっくりと確かめて、あるいは愉しんでいるようだ。
気づけばシャツもビキニの上も取り去られていて、達彦の手は杏奈のパンツの前を開いていた。その感触が秘所に響いて、杏奈ははしたなく腰を揺らしてしまう。
「ここが好き?」
中心を水着のショーツの上からなぞられて、仰け反っている間にパンツが脚から引き抜かれた。
杏奈を腕に抱いた達彦は、乳房の間に顔を埋め、片手をショーツに這わせる。ラインをなぞるように指が滑って、敏感な皮膚がぞくぞくした。ヒップの下から指が忍び込み、素肌の感触を味わうようにさまよう。あわいに沿って進んだ指は花園の縁に触れ、ぬぷりと沈む。
「ああっ……」
自分でもわかるくらい、さらに蜜が溢れた。そっと動く指に、密やかな水音が生じる。
「もっと感じて……」
達彦はそう囁いて、杏奈の乳房を柔らかく食んだ。口を閉じていくにしたがって、歯の間を肉が滑り、最後に残った乳首に甘い痛みを与える。
達彦は身体をずらしながら、杏奈のショーツを引き下ろした。膝を割られ、間に陣取った達彦が、片方の足首に引っかかっていた水着を取り去る。
「やっ……」
思わず秘所を手で隠そうとしたが、達彦は舌を伸ばして杏奈の指ごとそこを舐めた。
「ん、あっ……」
快感は途方もなく、杏奈の手は力をなくして身体の左右に落ちていった。
先端の粒を舌で擽られ、繰り返し舐め上げられて、たちまち達してしまう。跳ねる身体の奥に指が差し入れられ、悦びにうねる媚肉を掻き回された。中を刺激されながら花芽を玩弄されてもう一度達し、ようやく達彦が身を起こした。
続けざまの絶頂に胸を喘がせる杏奈の腰を抱いて、達彦が身を進めてくる。
「あの……」
「ちゃんとつけてるから心配ないよ」
避妊具のことなんて杏奈のほうが失念していたが、達彦はちゃんとマナーを守ってくれるようだ。
「そうじゃなくて……いえ、それもそうなんですけど……言うべきことがどうかもわからないんですけど、私……まだこれまで——」
「中でいったことがない?」
察して続きを引き取ってくれた達彦に、杏奈は小さく頷いた。
セックスの経験がないわけではないし、それを隠すつもりもないけれど、性的に成熟しているとは言えない。
ここまで杏奈の反応を見ながらことを進めてくれた達彦だから、この先も杏奈を感じさせようとしてくれるだろう。しかし、それに応えられるかどうかはわからない。
「でも、ここまでですごかったから……あの、後は好きなようにしてください。今度は前——達彦さんの番だから——」
「杏奈ちゃん」
達彦は杏奈の頬を手で包んで、顔を覗き込んできた。微苦笑している。
「そりゃあ気持ちよくなるためにすることだけどさ、どっちかが気持ちよければいいってもんじゃないだろ。少なくとも俺は、きみと一緒に気持ちよくなりたいと思う。だから気にしないで、大船に乗ったつもりで……クルーザーに」
それを聞いて、杏奈はくすりと笑った。達彦の言葉が嬉しかったし、愛されているのだとも感じられた。
「ほんとにきみは可愛いな……」
キスをされ、舌を絡め合ううちに、達彦が少しずつ押し入ってきた。久しく行為がなかったせいか圧迫感を感じたけれど、恥ずかしいほど濡れていたために、結合はスムーズだった。
「ああ……まずい、夢中になりそうだ」
いっぱいに埋め込まれたと思っていたのに、さらに腰を押しつけられて、杏奈は喘いだ。達彦は深く杏奈を貫いたまま、円を描くように腰を揺らした。隙間なく密着していたものが、徐々に内壁を擦り出す。
……なんか……。
ついぞ感じたことがない疼きが、身体の奥から湧き上がってくる。掴めそうで掴めないそれを手繰り寄せようとして、杏奈は我知らず腰を揺らした。
「……あ、ああっ……」
達彦の動きが大きくなり、中を捏ねるように抜き差しされて、杏奈はびくりと身を跳ねさせた。
「それ、だめっ……」
「こんなに濡らして、締めつけてくるのに?」
交接音が耳を塞ぎたくなるほど、大きく淫らに響いていた。