「俺だって、君をめちゃくちゃに抱きたいって思うときはある」養父母に強いられ、二度目の政略結婚に応じた織絵。夫
の彰は織絵よりずっと年上だが驚くほどイケメンの御曹司。互いへの誤解から最初はギクシャクしたけれど、相手を知る
ほど惹かれ合う気持ちが高まる――わだかまりが解けた二度目の初夜、彼の手でとろとろに溶かされ愛されて……!?
「やめて……」
あられもなくM字に開脚されて、脚の付け根に熱い視線を感じる織絵は、顔を背けて右腕で双眸を隠した。
恥ずかしいなんてレベルじゃない。幼児を脱してからは誰にも見せていない大切な場所を視姦されているのだ。
目を閉じると感覚が鋭くなったときと同じく、視界を塞いでいても彼が自分を射貫いているのを悟ってしまう。劣情を帯びた視線は熱を持つから、見られているだけなのに炙られて呼吸が逼迫してくる。
「ハァッ……、そんなに、見ないで……」
哀れを誘う弱々しい涙声に、秘園を凝視していた彰は妻へと視線を向けた。しかしすぐ、小さく震える女の裂け目に指の腹で触れた。
「ん……」
乳房を念入りに可愛がられたせいか、先ほどよりうんと潤っている。上下に優しく撫でるとさらに蜜があふれてきた。
グズグズにぬかるんだ入り口へ、蜜を絡めた中指がそっと入り込む。
「あっ、ああ……っ」
うねる媚肉の形に沿って慎重に指が最奥を目指す。
織絵は体の中に自分ではない肉体が入ってくると、自分よりずっと太い指が膣をまさぐっている内側から感じる淫らな感覚に、心臓の鼓動がますます激しくなった。
性の知識は人並みにあるつもりだが、男性器以外に指を入れてどうするのかは知らない。何をされるか分からない未知の怖れに、体が逃げを打つ。このとき蜜路に居座る指が曲がって、お腹側の媚肉がぐぅっと圧迫された。
「あぁんっ、はぁあ……っ」
ずしんとした重い快感に織絵の上半身が仰け反り、粘ついた卑猥な水音が立ち昇る。
「濡れてきたな」
「う……」
事実を言われているだけなのに、穴があったら入りたい気分だった。
——あ、あれだけ胸を触られたら、誰だって感じちゃうんじゃないの……?
心の中で泣き言を漏らしていたら、根元まで沈んだ長い指が縦横無尽に動き出した。
「ああっ! ヤッ、待って……!」
温かな蜜沼をかき混ぜるように、丁寧に媚肉を掘り返しつつ、女の泣き所を的確に攻めてくる。
お腹の中で精神を直接撫でられるような、鮮烈で生々しい感覚があった。徐々に追い詰められる織絵の体から汗が噴き出てくる。
——気持ち、いいけど……っ、きつい……っ!
快楽が膨らんでくるのに、決定的な刺激が足りなくて悶える。中途半端な焦れったさと歯がゆさは、織絵の心を針でチクチクと刺してくるようで。
夢中で織絵のナカをかき混ぜていた彰は、彼女の苦しそうな様子に気づいて眉根を寄せた。
「もしかして、イけないのか?」
「……はぁっ、……え?」
——行くって、どこに……?
織絵が潤む瞳で見上げると、困惑する彼女の表情に彰は指を引き抜いた。
「ひゃっ」
「まあいいか……、力を抜け」
蜜口に硬いものがグゥっと押しつけられ、ハッとした織絵が重い頭を持ち上げる。視線を下げると、彼がとんでもない太さの肉塊を挿れようとしていた。
「まっ、やだっ、入らない……!」
怯えが混じる拒絶の声を無視して、彰は容赦なく腰を突き出した。一息に亀頭が蜜沼へ埋められる。
「いぃ——……っ!」
あまりの痛みに逃げることもできず織絵は硬直した。小さな肉の口がめいっぱい開かれて、強制的に肉茎をくわえさせられる。限界以上に蜜口を開けようとする勢いに、織絵の意識がブレて、目を開けているのに視野が霞がかる。
「……キツイな。力むんじゃない」
彼が何かを言っているが脳が理解してくれない。
——いぃっ、痛いぃ……っ!
狭い処女地を、ガチガチに膨らんだ屹立が強引に進もうとする。織絵の太腿をわしづかんだ彰が、逸物に体重を乗せて上から落とすように挿入してくる。
十分に潤っているが、決定的にサイズが合わないのだ。むりやり埋め込もうとしたため、貫かれた瞬間、織絵の喉の奥から声にならない悲鳴がほとばしった。
「——ッ!」
下腹部の奥から焼かれるような熱さが生じ、目を剥いて天井を見つめる。今まで彼に感じていた淡いときめきを含む熱ではなく、純粋に体が傷つくことによって生じる痛みの熱。
苦痛に涙がぼろぼろと噴き出した。
その様子に興奮していた彰もようやく我に返る。
「……おい?」
演技とは思えない、苦悶の表情で震える織絵の様子にやっと気がついた。
「どうした?」
「……ぬ、いて……」
声を漏らすだけで、引き攣るような痛みが広がって呻き、さらに痛みが生じる。
か細い声に視線を下ろした彰が限界まで目を見開いた。
「なっ」
一筋、いや二筋の鮮血が結合部から垂れている。真っ白い肌に描かれる赤い筋は禍々しいほど鮮やかで、数秒ほど見入ってしまった彰は慌てて腰を引いた。
「ヒ……ッ」
織絵はその動きにさえ、腰が壊れるような痛みが下腹部から伝わって苦しい。震えながらのろのろと脚を閉じ、横向きになって腹部を押さえ体を丸めた。
信じられないほどの痛みだった。彼に抱いた温かい気持ちや、絆されそうになった想いもすべて彼方へ吹っ飛んでいく。
目を閉じ、じんじんと響く鈍痛に歯を食い縛って耐えた。
「大丈夫か……?」
彰が織絵の肩まで毛布をかけ、腰に手のひらを添える。
そっと労わるように撫でる動きに、織絵は大丈夫ではないが反射的に頷いた。視界を閉じていても、彼のほっと息を吐く気配は感じ取った。
「すまん、もっと解した方がよかったな。……バツイチだから処女だなんて考えもしなかった」
大丈夫かと、こうしているだけでいいのかと、他に何かして欲しいことはないかと、矢継ぎ早に問いかけてくる。
行為前と後では別人のような低姿勢に、織絵は安心するどころか疑問で混乱してきた。
どういうことなの、と。
「……なんで、そんなに変わるんですか……?」
重い瞼を持ち上げた織絵が横目で夫を見上げる。彼は眉根を寄せて不快そうな表情になっていた。
「なんでって、俺のせいでこうなってるんだろ。心配ぐらいする」
「あなたは……、自分はこの通りの人間だから、変えようがないって、言ってたじゃないですか……」
まだ下腹部には、じんじんと鈍い痛みが残っている。その疼痛で織絵の心がささくれ立つようだった。
出会ってからずっと冷淡な男が、初めて見せる人情に喜ぶどころか、手のひらを返す扱いに強烈な違和感を覚える。
織絵は下腹部を庇いながら体を起こし、困惑する様子の夫を真正面から射貫いた。今まで従順で大人しい、言い換えれば自己主張がない人形のような妻が、激しく睨みつけてくるので彼は戸惑っている様子だった。
その人間くさい表情……妻を気遣い慰める態度や声も含めて、初めて垣間見せる彼の本質が優しいだけに、なぜもっと早く変わってくれなかったのかと絶望感を抱く。
「帰宅したとき……逃げればよかったのにって、私を突き放しておきながら、処女だと分かったら手のひらを返すんですか……?」
「いや、それは君を傷つけたからだ」
「……はあぁ?」
地を這うような低いドスのきいた声に、彰が軽く仰け反っている。面食らう彼を見て、織絵はだんだんと頭に血が上ってきた。
これは怒りだ、と思った。苛立ちや腹立たしさとはレベルが違う、恨みにも似た怒り。
「お見合いのときからもうずっと、私はあなたの態度に傷ついています。でもあなたの言う傷つけたって、体のことですよね。心はいくらでも傷つけていいと思ってるんですよね。目には見えない傷だから、いくらでも斬りつけても構わないと」
彰がすぐに口を開いたが、言葉を発しないまま口を閉じる。
以前の彼なら威圧を込めてすぐさま言い返しただろう。なのに蒼ざめてボロボロの妻を前にした途端、「同情しています」的な態度で下手に出る。
その変わりように織絵は猛烈な憤りがこみ上げてきた。
処女だったのは単に偶然の産物だ。前夫が妻に興味を持っていれば、織絵は夫婦の行為にも慣れていたはず。そうしたら今頃、彰はヤることだけやって、さっさと部屋を出て行っただろう。
「処女って、あなたにとって、そんなに大切なんですか……?」
「大切というか、初めては男だって緊張するだろ」
「緊張はしたけど、ぶっちゃけ処女膜なんて日常生活で破れたりするし、処女でも痛くない人だっていますよ。ちなみに私が出血せず、痛みも感じなかったら、あなたは今どうしていました?」
グッと詰まる彼の秀麗な顔には、こんなふうに妻を労わることなどなかったと、正直に書かれている。
それは織絵のことを軽んじ、侮っているのと同じだった。妻など情けをかけるに値しない存在だと。
ブチッと頭の中で何かが切れた気がした。考えるより早く動いた手が枕をつかみ、彼へ思いっきり投げつける。
油断していたのか彰はよける間もなく顔面で受け止めた。
「うわ!」
「馬鹿にするな処女厨ッ! 私はあなたのサンドバッグじゃない!」
処女厨と呼ばれたことに驚いたのか、彰は口をパクパクと開いたり閉じたりしている。
珍しく動揺を表す素の表情を織絵は睨みつける。
彼との十ヶ月もの付き合いの中で、どれほど尽くしても頑なな態度は変わりそうにないと、もう諦めていた。けれど彼は言葉はきつくても暴力など振るったりしない人だから、愛されなくてもそばにいると心に決めていた。
——なのになんで、処女だからって、私が痛そうにしてたからって、こうも変わるのよ……
呆然とする彰を気に留めず、織絵は毛布を引っぺがしてベッドから降りる。その途端、ズキンッと脚の付け根から痛みがほとばしり、呻きながらその場に崩れ落ちた。
「大丈夫か!」
差し出された手を、パンッと甲高い音が鳴るほど思いっきり振り払う。彼の方を見ずに、床に散らばった服を急いで身に着けた。ショーツもスカートも水を含んで着にくかったが、腹の虫が治まらない織絵はそれどころではなかった。生地から水がしたたるのさえ、どうでもいい。
怒りがそれ以外の感情を麻痺させていた。
ビスチェを手に取ったとき、不意に今朝の記憶がよみがえった。二回目の結婚式のために、体を締め付けるきつい下着を頑張って身に着けた。あのときの重い気持ちを繰り返したくなくてビスチェは床に落とす。ノーブラで構わない。
素肌の上にキャミソールとブラウスを着た時点で、織絵が冷静でないことは彰にも察せられた。彼は慌てて自分の服を身に着ける。
織絵は鈍い痛みによろめきながらウォークインクローゼットへ向かった。新婚旅行への期待から購入した、新品のスーツケースを奥から引っ張り出す。その後、忙しいから新婚旅行は行かないと、彰からにべもなく言われた。ひどく残念に思ったが買っておいてよかった。
しまったばかりの服をスーツケースに乱雑に詰め込む。
「……おい。もしかして出ていく気なのか?」
いつの間にかウォークインクローゼットに入ってきた彰が、硬い声を出した。織絵は返事をせず振り返ることもせず、手も止めない。
彰は背後を振り返って窓へ視線を向けた。ゲリラ豪雨は短時間的な大雨とはならず、いまだに継続している。
「今はやめておけ。せめて明日にしろ」
「……さっき、俺に不満があるなら出て行けばいいって、言ったじゃないですか」
「それは間違いないが、今は駄目だ」
その尊大な言い方が無性に腹立たしくて、織絵は眦を吊り上げて勢いよく振り向く。もう頭の中がグチャグチャで、どうしようもないほど彰にイライラした。
「うるさい処女厨ッ!」
「そっ、その言い方はやめろ! 俺は処女厨じゃない!」
「私が処女だって知って手のひら返したくせに!」
「それは君がものすごく痛そうにしてたからだ!」
「痛くなかったら、どうせヤるだけやって終わったんでしょうがっ!」
子どものケンカのような罵り合いが止まらなかった。
織絵にとって感情を爆発させるなど、十二歳の夏以来だ。十年以上もずっと人の顔色をうかがって生きてきたため、感情のコントロール方法が思い出せない。言い争えば言い争うほど、ますます興奮して自分を止めることができないでいる。
いつしか涙がボロボロと零れ、織絵と同じぐらいヒートアップしていた彰がハッとして口を閉ざす。
すまん、と気まずそうに呟く彼が妻へ足を踏み出した途端、織絵は涙が張る瞳で夫を睨みつけながら声を張り上げた。
「近寄らないで! もう私に触らないでぇっ!」
甲高い、絶叫に近い声に彰が硬直する。全身で拒絶を示す妻を凝視したまま動けない。
しかし数秒後、織絵に近づくと素早く抱き上げた。
「下ろしてっ、触らないで!」
「俺を嫌っても憎んでもいいから、出ていくのは明日だ」
「明日でいいなら今でもいいじゃない!」
彰はそれには答えず足早にウォークインクローゼットを出て、織絵をベッドに下ろそうとする。
「まだ痛いだろう。もう休んだ方がいい」
「……ここは嫌ッ!」
身を縮めて震える織絵の苦痛が混じる声に、息を呑んだ彰はすぐさま踵を返した。器用に肘でドアレバーを押して隣室へ向かう。
織絵をゲストルームの床に立たせたようとしたが、彼女は力が入らずに床に座り込んでしまった。
織絵の額が大きな手のひらで覆われる。
「君、熱が出てる」
「……え」
「だいぶ体が冷えてただろ。たぶんそれが原因だ」
ゆっくりと額から離れていく温かい手のひらを、織絵は自然と目で追った。
密かに憧れた形のいい男性の大きな手。自分に対して無味乾燥な彼の中で、ただ一つ恋焦がれたパーツ。
あの手に惹かれた己の純粋な想いが、興奮や嫌悪の情をなだめてくれた。ようやく昂っていた精神が落ち着いて、織絵は床でうなだれる。
「なんで、優しくするんですか……、十ヶ月も、私を、蔑ろにしたくせに……」
「すまん。言い訳のしようもない」
「謝ったら、なんでも許してもらえる環境にでもいたんですか……。身勝手だわ……あなたも、坂井の人たちも、私を利用することしか考えない……、みんな同じ穴の狢だわ……」
うつむいた顔からポロポロと涙が零れ落ちて、濡れたスカートの上で雫が跳ねる。
跪く彰が織絵の頭頂部を撫でようとしたが……ためらうように彼女のそばで静止する。宙でふらつく手のひらは、やがて拳を握りしめると床に下ろされた。