冷徹と噂されるライバル会社の御曹司・忍と結婚することになった結月。愛のない政略結婚だと割り切っていたのに、入籍初日に彼から優しく甘い口づけをされ思わずときめいてしまう。お互いを知る間もなく迎えた初夜で、結月の無自覚な行動が忍の隠された独占欲に火をつけて――無垢なカラダを激しく淫らに蕩かされ……新婚生活どうなってしまうの!?
『……結月? どうかしたのか?』
結月が息を呑んだのが聞こえたのか、電話の向こうで京也が困惑する様子が伝わってくる。
「結月、おいで」
電話口のすぐそばでそう言い、忍が結月の頰に音を立ててキスをする。さらにスマートフォンを取り上げ、強制的に通話を切った。
京也に聞こえるようにわざとそうしたように思えて鼓動が加速していく。
「初夜を迎える夫婦のところに電話をかけてくるとは、上條京也もいい度胸してるな」
「ごめんなさい」
「なんで結月が謝る」
耳元で囁く声に不満が滲んでいた。
「電話に出たのは私ですから」
京也が悪者にされたら申し訳ない。彼は妹同然の結月が心配なだけ。
急いで京也を擁護したら、背後にいる忍からため息が漏れ聞こえた。
「結月は……」
なにかを言いかけた忍が、そこで言葉を止める。唇を引き結んだ。
「忍さん?」
「いや、なんでもない」
結月の髪に顔をうずめるようにして首を横に振る。抱きしめる腕の力が強まった。
(もしかして、京也さんと話していたからヤキモチを焼いてくれたの……?)
一瞬そんな考えが過ったのは、そうだったらいいのにという結月の願望が見せる幻影だろう。頭の片隅に常にある〝政略結婚〟という言葉は、結月の希望をことごとくなぎ倒していく。
忍は結月を振り向かせ、唐突に唇を塞いだ。
表面を擦り合せるだけのキスはものの数秒。忍は結月の顎に指を添えて唇を開かせるや否や、舌を挿入させてきた。
歯列をぐるりと舐められ、くすぐったさが今にも気持ちいいものに変わりそうになる。その波に素直に乗ってもいいものなのか迷い、忍のパジャマをぎゅっと摑んだら、その手を彼に取られた。手のひらを指先でくすぐられ、指の股をなぞられる。どことなく官能的な動きに煽られ、唇の端から吐息が漏れた。
「んぁ……ふ……」
奥に引っ込めていた舌はあっという間に捕まり、激しく絡み合う。
いつになく強引で性急なキスが結月の呼吸を弾ませ、体温を上昇させていく。体の奥がじんと痺れ、立っているのもやっと。膝から力が抜けて崩れ落ちる寸前、忍に抱き上げられた。
「結月、ベッドへ行こう」
これからなにが行われるのかわかっているため、体中に緊張が走る。ドキドキというよりはバクバク。心臓は異常な速度で鼓動を刻みはじめていく。そのまま寝室に連れられ、真新しいベッドの上にそっと下ろされた。
――いよいよこれから。
そう思ったら急に怖くなった。覚悟はできていたはずなのに、未経験の不安が一気に噴出する。押し倒された結月は、胸の上で両手を合わせてぎゅっと握りしめた。
でも、どうにもならない心細さは自分でなんとかしなければならない。ここで夫を拒むのは妻のすることではないから。
忍はがっちりと握り合わせていた手を解き、結月の顔の両脇で自分の指と絡めた。
「結月」
頼りなく彷徨わせていた視線を捕獲された。忍の眼差しに見たこともないような熱を感じて胸が疼く。
ここに愛はない。その熱視線は結月に向けられたものではなく、これからする行為に対するものだとわかり切なくなる。でも今は、その事実に目を瞑ってしまおう。ごく普通の夫婦のように愛し愛されていると思い込み、ふたりのはじめての夜を全うしたい。
両手をぎゅっと握り返した瞬間、忍の唇が落ちてきた。すでに熱を持っていた結月の唇は、たやすく彼にその場所を明け渡す。半開きにしていた隙間からぬらりとした彼の舌が侵入し、思うままに口腔内を荒らしはじめた。
「……ふっ……ぁ……っん」
鼻で呼吸するたびに甘ったるい吐息が漏れ、静かな空気に溶けていく。
頰の裏から上顎、下顎と余すところなく這い回る舌は、まるでべつの生き物のよう。舌を激しく絡め合ったかと思えば、彼の唇がじゅるじゅると音を立てて吸い上げる。
官能的な水音が結月を耳から犯し、頭がぼんやりと霞んでいく。キスだけで息が上がり、酸素を求めて結月の胸は上下した。
恍惚としたキスがやみ、彼の唇が頰や顎を伝い首筋へ移動していく。ところどころ軽く吸いついてはチュッチュッと音を立てる唇に神経を逸らされているうちに、パジャマのボタンを外されているのに気づいた。
(――ま、待って!)
脱がなければならないのは頭でわかっていても心は裏腹。咄嗟に忍の手を摑んだが、やんわりと外され、片手で頭の上にひとまとめにされてしまった。
お風呂上りのためノーブラ。パジャマのボタンを外して前を開いたら、あとはカップつきのキャミソール一枚だ。
「し、忍さん……っ」
心許なくて思わず名前を呼んだら、忍はもう一度結月の唇を塞いだ。つい先ほどまでの荒々しさはなく、結月をあやすように優しく擦り合わせる。
「大丈夫だ」
結月の不安が伝わったのだろう。忍は吐息交じりにそう囁きながら、キャミソールの中に手を忍び込ませた。
軽く舌を絡ませてキスをしながら、指先が素肌を滑る。わずか先にあるやわらかな丘を目指すかと思いきや、その直前でウエストラインへ戻っていく。
忍のあの美しい手に触れられているのだと思うだけで心拍は上昇し、呼吸は浅くなるいっぽう。
そんなことを繰り返されているうちに、もどかしさが募っていく。なにをどうしてほしいのかわからないまま、体の奥で熱が溜まっていくのを感じていた。
大きな円を描くように動いていた手が、いよいよ膨らみに到達しそっと揉み上げる。
「ぁっ……」
小さな声がキスの合間に零れ落ちた。嬌声といかずとも、そこに隠された熱は明らか。後を引くような吐息は期待に満ちているようにも聞こえた。
形が変わるほどに強く揉んだかと思えば、膨らみをやわらかく包み込む。そうされているうちに、その中心に神経が集まっていく。
とても歯痒くて、じれったい。
無意識に胸を突き出すようにしたそのとき、指先が尖端をかすめた。
「――やっ」
思わず背筋がのけぞりキスが解ける。はじめての刺激に肌が震え、全身が火照っていく。
結月の反応に気を良くしたのか、忍が指の腹で突起を転がす。たちまち芯を持ちはじめ、さらに硬くしこっていくのが自分でもわかる。
忍は焦らすために胸に触れなかったのではなく、おそらく結月の準備ができるのを待っていたのだろう。
「これ、気持ちいい?」
忍に聞かれ、吐息を漏らしながら従順に頷く。
「結月は素直でかわいいな。すごくいい顔してる」
いったいどんな顔をしているのか自分では想像もつかないが、忍の〝かわいい〟が結月の体にさらに火をつける。尖端をくにくにといたぶられ、出したことのない甘い声が結月の唇から零れた。
「あぁんっ」
その声に自分で驚いて、急いで口を覆う。
「なに、どうした」
「……恥ずかしい」
なんて声を出してしまったのか。
「かわいい声なんだから恥ずかしがる必要はない」
「いやらしいって……思いませんか?」
それだけが心配だ。未経験だとはっきり伝えてはいないが、きっと忍は気づいているはず。経験もないくせに触られて気持ちがいいなんて、はしたないと思われないだろうか。
「俺の腕の中でいやらしくなるのは大歓迎」
忍は口元に笑みを浮かべたかと思ったら、結月のキャミソールを一気に捲り上げた。
「キャッ」
反射的に両手で胸を覆ったが、忍にあっさり外される。彼の前に胸をさらけ出してしまい、とてつもなく恥ずかしい。代わりに手で顔を隠す以外になかった。
「綺麗なんだから隠すな」
お世辞だとわかっているが、そう言われると余計に悩ましい。
「ほら、かわいい顔も見せて」
顔を覆っていた手もどかされた。
間近で見つめる忍の瞳が優しくて、それでいて艶めいていて、胸がトクンと高鳴る。
「……忍さん」
自分でも驚くほど甘えた声で呼んでしまった。
そう呼んだ途端、胸の奥から愛しい想いがいきなり込み上げてきて戸惑う。チリチリと焼けつくような、それでいて切なくなるような複雑な想いだった。
この感情の名前を結月は知っている。
(私、忍さんのこと……好き)
突如として自覚させられた。
瞬きをする間に結婚が決まり、気持ちのない状態からスタートしたふたりだが、度重なる忍の優しさに触れ、真摯に仕事をする姿を見て、結月の中で少しずつ恋心が育っていたのかもしれない。
忍が一瞬だけ困惑したような表情を浮かべたのは、結月の気持ちを感じ取ったからなのか。政略結婚に愛は必要ないのに、と。
「……参ったな」
そのひと言に忍のすべてが集約されている気がした。忍を困らせるつもりはなかったのに。胸がヒリヒリと痛い。
「今夜の俺はどうもダメだ」
なにがどうダメなのか。
「結月、優しくするつもりだけど、加減ができなかったらごめん」
「大丈夫です」
優しくても、加減ができなくても、今の結月にはどちらの忍も特別だ。
忍は結月の唇にチュッと音を立ててキスを落とし、そのまま胸元に顔をうずめる。両方の胸を下から持ち上げ、突起に舌を這わせた。
「ぁんっ……!」
肉厚でぬるりとした感触は指先とは全く違ううえ熱い。そのまま舌で転がされ、背筋に電流が走ったようになる。
左右交互に舐られ、空いているときには指の腹で執拗に転がされた。
「ああっ、んん……忍さ……」
いつの間にかパジャマの上着もキャミソールも脱がされ、上半身は裸。触られているのは胸だけなのに、全身が熱くてたまらない。体の中心がじんじん痺れてもどかしさが募っていく。
それを発散したくて足でシーツを引っ掻くようにするが、そうしたところで体は焦れるいっぽうだ。
「つらくなってきたか?」
胸元から顔を上げた彼に潤んだ目で〝うん〟と訴えると、忍はかすかに笑みを浮かべて体を起こした。
このつらさを解放する術があるのなら、早くそうしてほしい。
忍の手が結月のパジャマのズボンにかかり、一気に足首から引き抜く。ショーツ一枚になってしまったが、今さらそれを恥ずかしいと思わない自分が不思議だった。それよりも体の奥で疼く、正体不明の熱をどうにかしてほしい。
「今、楽にしてやるから」
忍は結月の足の付け根に手を伸ばした。
「やっ、待って」
これまで誰にも晒したことのない秘めた場所のため、さすがに羞恥が顔を出す。咄嗟に股の部分を手で隠したが、そんなものは抵抗にもならない。
「待ってって、このままじゃつらいだろう」
忍はやんわりと結月の手をどけ、ショーツの上から割れ目をそっとなぞった。
「やーっ!」
これまでにない快感が結月の体を貫き、腰が弾む。楽になるどころか、かえってじくじくしてくるのはなぜ。
忍はショーツをずらし、脇から指を滑り込ませた。
「あっ、ダメ……!」
ぬるりとした感触を覚え、顔がカーッと熱くなる。経験はなくてもセックスがどういうものかは知っているし、忍の触れた箇所がどんな場所なのかもわかっている。
恥ずかしさから体をよじって逃げようとしたが、所詮は無駄な抵抗。割れ目に沿って指が動き、腰がぴくんと跳ねる。
「い、いやっ、待って、恥ずかしいっ」
「恥ずかしがらなくて大丈夫」
「でもっ」
「素直に感じて」