目覚めたら愛読小説のヒロインである深雪(しんせつ)になっていた深雪(みゆき)。しかも、このまま王様に嫁入り!? 菱(りょう)国の王である廉威(れんせい)との政略結婚ということは理解したけど、すぐに世継ぎ作りなんてムリムリ! なのに、廉威は後宮を整理し后を深雪だけにしてしまった。原作にはなかったような廉威の甘い言葉と溺愛の中、ついに婚儀を終えて初夜を迎えることになり――!?
「どうせ脱ぐのだから、簡単でいいだろう」
廉威は前をはだけたまま、深雪を抱き上げて布団の上を滑った。深雪は需を脱がされて、薄物一枚の身体に、異性の肉体を感じて狼狽える。同じ人間とは思えない、なんて硬い身体なのだろう。そしてツルツルするほどなめらかな絹の布団の上とはいえ、深雪を引き上げた力の強さに驚いた。こんなに圧倒的な力の差がある相手に対して、よくも言い返したりしていたものだ。そもそも立場上、歯向かえもしないのだが。
ふと頬に手の感触を覚え、深雪は目を上げた。室内に控えめに点された明かりが、透かし彫りを通してさらにおぼろげに廉威を映し出す。その顔は柔らかく微笑んでいた。
「深雪……」
わ……名前で呼ばれた……!
自分の本当の名前ではないと思いながらも、深雪を呼んでいると伝わってくるからなのか、たったそれだけのことなのに、胸が騒いだ。こういうのをときめきというのだろうか。
図らずも陶然としていると、廉威の顔が近づいて唇が触れた。
初めてじゃないし、狼狽えるな、私……。ついでに気絶するのもナシだから。
そう念じて身を固くしていた深雪だったが、舌が忍び込んでくればさすがに慌てる。思わず自分の舌を引っ込めたのに、廉威は追いかけてきてやすやすと搦めとってしまう。
「……ん、……んっ……」
昨夜と違って横たわっていたので、いい具合に力が抜けていたのか、気づいたときには心地よくなっていて、それに愕然とした。キスってこんなに気持ちがいいものなのかとか、どうして自分は感じているのかとか。
深雪の反応が変わったのに気づいてか、廉威はゆっくりとくちづけを解く。
「深雪の唇は甘い……」
照れるそぶりもなくそんなセリフを呟く廉威に、深雪はうっとりするとはいかず、我に返って照れてしまう。まあ第三者視点なら美男美女で画的にも文句なく、映画のように見惚れる光景なのかもしれないが、なにしろ中身が深雪で、しかも当事者なので。
「ひゃっ……」
「ここも甘いのか?」
首筋を舌でなぞられ身じろいだ深雪は、薄絹越しに胸を揉まれて焦った。薄物の下には、ホルターネック風の前だけのキャミソールのような下着をつけていたのだが、その紐はすでに解かれていたらしく、まったくブラジャーの役目を果たしていなかった。指はすぐに乳頭を探り当て、引っ掻くように刺激する。
「や、ちょっと……」
待ったをかけようと思ったのに、ちりちりした疼きが押し寄せて、そこが痛いほど硬くなるのを感じては、自分に裏切られたような衝撃を受ける。
そんな……そんなことって……いや、条件反射だから、きっと!
「味わわせろ」
そう言うなり、廉威は薄物の合わせを開き、下着の布も取り去るとむしゃぶりついてきた。それまでのゆったりした動きに替わって、激しいと言っていい愛撫に、深雪は翻弄される。乳頭に吸いつかれ強く吸われて、奥歯が疼くような不可思議な感覚に襲われた。反対の乳房も揉みしだかれ、指先で捏ねられる先端が痛いくらいなのに、そこに奇妙な快感がある。
初めてなのに、どうして? まさか深雪が経験者ってことはないよね?
混乱するあまり、そんなことまで考えてしまう。この世界では、他国の妃になろうという公主が、純潔でないなんてあり得ない。
深雪の身体を滑り下りた手が、太腿の間に潜り込んできた。ここまでの間に薄物の裾はまくれ上がってしまっていて、廉威は難なく深雪の秘所に指を這わせる。
「あっ……」
秘唇をなぞられ、解けたそこがぬるりと湿っているのを感じて、深雪はぎょっとした。それ以上に、甘美な刺激を受けて当惑する。廉威の指が小さな尖りを弄んでいるのだ。
「あ、ああ……」
仰け反って快感を訴える深雪の頬に、廉威は褒美のようなキスをすると、身体を下方に移動した。脚を開かれるのを感じても、与えられた快感の強さとその事実に呆然として、抗うことも思いつかない。
敏感になったそこに吐息を感じたかと思うと、次の瞬間には息を呑む。花蕾を舌で弄られているのだと気づき、とんでもないことをしているのではないかと焦ったけれど、快楽が大きすぎて悦びを表すこと以外できない。
すごい……エッチってこんなに気持ちいいの?
幸か不幸か性欲に乏しく、というか創作物を堪能しては脳内妄想で満足する人生を送ってきたので、深雪は自慰の経験もなかった。自分の身体がこんなにも呆気なく快感を得ているのが衝撃だ。
しかもそれは刻一刻と高まって、どこかへ上りつめようとしている。もしかしたら絶頂というものを味わってしまうのではないか。
花蕾を吸われながら舌で擽られ、深雪は身体を大きく波打たせた。跳ねる指先まで痺れたようになって、何度もしゃくり上げる。
廉威が身を起こしたようだが、心臓が激しく高鳴って、あられもなく投げ出した下肢を取りつくろうこともできない。
「可愛いな。どうしてやろう――」
そんな囁きを耳にしながら、着衣を脱ぎ落としていく廉威を見上げた深雪はどきりとした。最初は異性の裸体を目の当たりにした動揺かと思ったのだが、廉威の表情にもっと鼓動が高鳴った。
男らしいタイプのイケメンなのは承知だったけれど、そこに今はなんというのか――色気のようなものを感じる。薄暗いからか瞳孔の大きさも違うようで、濡れたようにきらめいていた。視線が合うと、ぎゅっと心臓を掴まれたような気がして、我知らず声が洩れた。
それを合図のように廉威は深雪の腰を抱き、濡れ綻んだ場所に熱く硬い塊を押しつけてきた。正直なところとても受け入れられるとは思えない感覚だったけれど、後には引けない。というか、完遂しなくては意味がない。
「……うっ……」
「だいじょうぶだ。力を抜け」
そう言うけど、そっちはぐいぐい来てるじゃないの。私、初めてなんですけど!
なにか言い返してやろうと口を開きかけたとき、ぐっと身体を開かれた。
「んっ、あっ……」
反射的に廉威にしがみついた深雪は、さらに下肢を引き寄せられて、深々と廉威のものを受け入れたのに気づいた。結果的にはビビっていただけで、それがなければ意外とスムーズな結合だったようだ。
廉威が満足げに息をつく。
「深雪の身体は心地いいな……おまえは――」
おまえと呼ばれたのは初めてで、深雪は思わず目を上げた。名実ともに夫婦になったから、これまでとは呼び方も変わったのだろうか。
「よくはないか?」
「……いっぱいいっぱいです、いろんな意味で。あっ、動かないで……」
耐えられないものではないけれど、鈍い痛みがある。初めてならこんなものだろう。むしろ想像していたよりつらくなかった。
「なるほど。では、そろそろ先に進むぞ」
「えっ、あ……」
平気ですと言ったつもりはないのだが、続けなくては終わらないので、深雪もできるだけダメージを負わないように、未知の行為なりに努力した――。
「……あの――」
どれくらい時間が経ったのか、はじめは深雪の中を探るように動いていた廉威が、いつしか浅い抜き差しをしていた。その間も、深雪の身体中にキスをして、胸にも手が離れるときがないくらい愛撫を続けていた。
深雪の緊張や羞恥も解けて、そうなると廉威が施すあれこれが次第に気持ちよくなってくる。いや、これは明らかな快感だ。
ことに先ほどから、廉威のもので擦られる中が疼く。なにか変化が起こりそうなのに、それを焦らされているようで、焦りにも似た心地だった。
ずっと深雪を見下ろしている廉威が、わずかに首を傾げた。
「なんだ?」
「……まだ、ですか?」
とたんに廉威は肩を震わせ、その振動が伝わって中のものの存在を鮮やかに感じた深雪は狼狽えた。
「あ、やっ……」
「まだ、だな」
「えっ? そんな――」
「いや、もう少しか」
そこから廉威の動きが激しくなった。大きく引いたかと思うと、根元まで突き入れてくる。しがみつく深雪を包むように抱き締めて、動きに合わせて揺さぶる。
単調な動きの繰り返しのはずなのに、そこから湧き出てくる快感のなんと凄まじいことだろう。このままではきっと――。
いっちゃう……。
それも先ほどの花蕾を刺激されたときよりも深い悦びが、もうすぐそこまで来ている気がする。初めてなのにそれでいいのか、はしたない、という思いが脳裏を過りはしたけれど、廉威が止めてくれない限りはどうしようもない。
「深雪……愛しい……」
耳に吹き込まれた囁きが、堰を切った。身体の奥からせり上がってくるようなうねりに攫われ、深雪は腰を跳ね上げながら、廉威を強く食い締めた。身体で感じる相手の脈動に、さらに悦びに震える。
低く呻いた廉威が深雪に体重を預けてきたとき、彼もまた達したのだと理解した。目標を達成した充足感からか、深雪は疲労を感じて重い腕を廉威の背中に回す。わずかに汗が浮いた温かな身体が、なんだかとても好ましい。
いや、これは……たぶん揃って夫婦のつとめを果たしたという、そういう気持ちだから。
「満足できたようでなによりだ」
気づけば廉威がこちらを向いていた。どことなく自慢げな顔に見えて、今しがたの絶頂が少し恥ずかしくなってくる。
「べつに……主上がことをなしてくだされば、それでよかったのです」
自分たちの場合、夫婦の歩み寄り以上に重要視されているのは子作りだ。
「それは違うだろう」
しかし廉威は即座に否定した。
「交わる以上は、ともに悦びを分かち合いたい。少なくとも俺はそう思っている」
……え? えっ……。
深雪の頭から子作りという使命が離れない以上に、廉威もまたそれを目的としているのだと、当たり前のように思っていた。しかしはっきりと否定され、その上お互いに行為を楽しむべきと言われ、深雪は目から鱗が落ちる気がした。
しかしそうと知ると、たしかに一連の流れは、深雪が慣れていないことを考慮しても、ずいぶんと時間をかけられていた。深雪の身体が目覚めるのを、辛抱強く待っていたのだろうか。
もっと自分本位なエッチをするタイプかと思ってたのに……全然違った。
最中は無我夢中だったけれど、深雪の反応を見ながら愛撫を加えていたようにも思われ、そのときの自分を思い出して恥ずかしくなりながらも、廉威の言葉は事実だと思った。自分だけでなく、深雪のことも思いやってくれている。そしておそらくそういう行為が、悦びにも繋がるのだろう。
この人とエッチするの、嫌じゃない――っていうか、好きかも……。
廉威が深雪の首筋にくちづけながら、再びゆっくりと動き出す。達してからも繋がったままだったのだが、本当に吐精したのかと思うくらい、廉威のものは逞しく滾っている。
「えっ? ちょっと待ってください! もう終わったんじゃ――」
「回数が決まっているものではないだろう。もっと深雪が欲しい……」
後半は甘く囁かれたが、予想外の展開に深雪は慌てた。
「朝議があるって――」
「ああ。だから言い合っている時間が惜しい。その分、もっと触れ合いたい」