「そんなの惚れるなってほうが無理だろう」
新米弁護士の椎香は、救命救急センターのリスクマネジメント担当になったが、医長・武坂と仕事のやり方について対立。しかし患者と病院スタッフを守りたい互いの気持ちは同じで、段々と認め合うように…!? 多数の患者が運び込まれた台風の夜を一緒に戦いぬいた二人はついに結ばれて…。「もう、余計なこと考えられないだろ」情熱的な溺愛は深まり――。
「なあ、舌出して」
「え、あ……」
院内の武坂先生とは違う。今の彼は、誘惑顔で椎香を煽ってくる。あるいは、それすらも無意識なのだろうか。
――逆らえなく、なる。
椎香は伏し目がちに、おずおずと舌を出す。それを凱世の右手の人差し指と親指が、やんわりつかんだ。
恋愛経験がないわけではない。つきあった相手とは、当然体の関係だってあった。
それなのに。
――舌に、こんなふうに触れられるなんて、変な感じがする。
風呂上がりの彼の指は、無味無臭だ。それなのに、触れられているとどこか甘さを覚えるのは、脳の錯覚なのかもしれない。
彼は優しく舌を撫でる。深く安心させながら、どこかくすぐるように愛撫するその仕草は、これからもっと甘く、とろけていく予感を感じさせた。
「氷月さんさ、こんな簡単に舌なんてさわらせていいの? 舌は、いわば体の外に露出した内臓なんだよ」
そう言われても、舌を出したままでは言い返すこともできない。
凱世が少し意地悪そうに、しかし低く甘い声で続ける。
「外から見える場所の中では、最も敏感な急所のひとつだ。唾液腺も、味蕾も、全部むきだしで、ほんとうは、無防備にさわらせたりすべきじゃない」
――だったら、なんでさわるんですか……?
椎香の唾液で、彼の指が濡れていた。ぬる、とろりと親指が舌先を撫でる。
「もしも俺が、ものすごく悪い男だったらどうするつもり?」
なのに、指先の愛撫はひどく優しくて、安心と、甘い背徳感を与えてくるのだ。
「ん、ぅ」
「ははっ、これじゃ返事できないな」
手を離すと、彼は自分の指をぺろりと舐めた。
「一応、もう一度だけ確認する」
彼は前置きしてから、「後悔しないか」と尋ねてきた。ぽつりと落とされた問いに、椎香は困ったように笑う。
「わたし、こう見えて後悔しないことのほうが少ないです」
「ずいぶん面倒くさい性格だな」
「自分でもそう思います」
「で、今日は俺を選んだってことか」
「そういうことです」
その答えを聞いた瞬間、凱世の手が、そっと椎香の腰を引き寄せた。
「だったら、遠慮しない」
キスの瞬間、胸の奥にしまい込んでいた言葉たちが、静かにほどけていくのを感じる。
彼の手の温度に、ただ委ねてしまいたい自分がいた。台風の夜のざわめきとは別の、穏やかな鼓動だけが耳の奥に響いた。
「……あったかい。わたしたち、今、ここで、生きてるんですね」
「ああ、そうだな」
体を彼にあずけるかたちで、椎香はTシャツ越しの体温に吐息を漏らす。
すると、腰にまわされていた手が、自然と胸元まで這い上がってきた。布越しに、すりすりと指腹が感じやすい部分を探ってくる。
――くすぐったい……。
かり、と爪が乳首をかすめた。
声が出そうになるのを、すんでのところでのみ込む。息が熱くなってきていた。
「こういうこと、よくあるのか?」
「……まさか」
恋人ではない相手に肌を許したことなんて、一度もない。
「ふーん?」
乳首を見つけた指先は、とんとん、と先端を指でノックしてくる。体が反応するのをこらえられず、椎香はかすかに身を捩った。
それでもまだ、声は出さない。自分から誘っておいて、今になって彼の慣れた指先が恨めしくなった。こんなふうにたやすく感じてしまう椎香を、凱世はどんな目で見ているのだろう。
「あとくされのないセックスなんて、氷月さんに望まれるとは思ってなかった」
きゅっ、と彼の指が乳首の根元を強くつまむ。
「んっ……!」
「……やっと、声出したな。もっと聞きたい。そのためのセックスなんだろ?」
「い、じわる……」
「そう。あんたはそういう俺を選んだ」
細身の体が、彼の膝の上に抱き上げられた。子どものように、脚の間に座らされ、背中を凱世の胸にあずける。
彼は右手で胸をあやし、左手で椎香のスーツのパンツを脱がせてしまう。下着一枚になった下半身が、ひどく心もとない。同時に、期待に体が熱くなっていく。
「ほんとうは、ひどくしてやろうかと思った」
言いながら、凱世の左手が内腿を撫でる。さわ、と触れるか触れないかの指先が、もどかしさを加速させた。
「どうして……?」
「ほかの男とも、こうやって楽しんでいるのかと思ったら、な?」
薄い布越しに、彼は椎香の脚の間をくいっと指で押してくる。それだけで、柔肉がすでにぬかるんでいるのを知られてしまった。
「してません。ほかの人、とは……」
「だから、優しくしてる。氷月さんには、昨晩はショックだったんだろ。だから、快楽で忘れたい。そういう誘惑だって、今はわかってるよ」
ほんとうは、自分でも理由なんてわからない。
彼の言うとおりなのかもしれないし、ただ凱世に興味があったのかもしれない。だけど、ほかの誰かに同じ誘いの言葉を告げるかと尋ねられたら、間違いなくノーだ。
――どうして、武坂先生だったんだろう。
「また考えごとしてる。なあ、何も考えたくないから俺を誘ったんだよな?」
「……そう、かもしれないです」
「だったら、考えなくていい」
ぐにゅ、ぐに、と下着ごと彼の指があわいに割り込んできた。
「っあ、あ……」
「気持ちいいことをしたいなら、余計なことは考えないのが大事だ。俺の指に集中してろよ」
親指が花芽をとらえ、人差し指と中指が蜜口をほじるように動く。背筋が反り返ると、いつの間にかボタンをはずされたブラウスの中に、凱世の右手が滑り込んだ。
「ひ、ぁ……っ!」
ブラの中に指が這う。布越しに刺激されて屹立した先端を、彼は軽く弾いた。
「そうそう。もっと頭ん中空っぽにしな。乳首撫でられて、こっちも――」
熟れた桃の皮を剥くように、彼はするりと椎香のショーツをはぎ取ってしまう。つま先に引っかかったそれが、快楽に震えるたびゆらゆらと揺れた。
体をベッドに横たえられるのと、膝を割られるのはほぼ同時。太腿の間に、凱世が顔を寄せる。
「え、あ、待って、そんなところ……っ」
熱い吐息が柔肉に触れ、次の瞬間には濡れた舌先が花芽を舐った。
「んっ、ぁあ、あっ……」
華奢な腰がひくつき、つま先が宙を掻く。
凱世の舌は、小刻みに感じやすい突起を舐めては、椎香の反応を見ながら動きを変える。
ときに強く弾き、ときに円周をなぞり、まだ素直になりきれない体を、じっくりと慣らしていくようだった。
「武坂せん、せ……っ、あ、あっ、そこ、やぁ……」
「嘘つき。気持ちいいんだろ?」
彼の言葉に、粘膜がひくりと反応する。すると蜜口に、じわりと潤いが増した。
凱世はそれを逃さず、舌でぬるりと蜜をすくい上げる。そのまま花芽にまぶして、ぬるぬると淫らな動きで椎香を責め立てるのだ。
体の奥が、ひりひりと疼きはじめる。甘さと羞恥の渦の中、未知の熱を感じて椎香は腰を揺らした。
もっと、と心が言う。
だめ、と唇が告げる。
「舐めるのは駄目か? だったら――」
形良い唇をすぼめて、彼は花芽の先端にキスをした。
「やぁぁッ、あ、あっ、だめ、気持ちよすぎて、だめぇ……!」
「やっと言ったな。だったら、もっとよくしてやるよ」
ちゅう、と水気を吸う音が生々しく響く。
唇で花芽を食み、彼は舌でちろちろと先端を愛撫する。
脱げかけのブラウスと、ブラを押し上げられてあらわになった胸が、快感にはしたなく揺れた。
腰が浮くのを止められない。それどころか、彼の与える快楽に自然と脚が開いてしまう。
ぴちゃ、じゅる、くちゅ……。
響く愛欲の音に、椎香は白い喉をこれ以上ないほど反らした。
――セックスの経験が、ないわけではない。
だが、それは快感を知っているという意味でもなかった。
たしかに恋人はいたし、体を重ねる夜もあった。そして、椎香はほんとうの意味での悦びを知らないままだった。
――こんなふうに、するなんて。
恥ずかしい部分を舐められるのも初めてならば、すでに濡れた体を持て余す経験もない。お行儀よく準備を整え、挿入をし、相手が果てるまで動き続ける。
椎香の知るセックスは、いつもどこか単調だった。
「氷月さんさあ、ベッドではいい子でいなくていい。どうせ、優等生のセックスしか知らないんだろ?」
「わ、たし……」
蜜で濡れた唇をてからせ、凱世が淫靡に笑まう。
その姿は、椎香の心臓を大きく跳ねさせ、彼にこれから抱かれるのだということを、まざまざと感じさせた。
「ここ、舐められるのも初めて? だったら、中まで舌入れられたこともない?」
「そ、そんなこと、あるわけない……っ」
「じゃあ、試してみるか」
返事をするより先に、濡れた舌がにちゅりと蜜口にめり込んでくる。
「っっ……ぁ、あ、ああっ!」
やわらかな粘膜が、厚い舌で押し広げられた。雄槍より細く、弾力性のある奇妙な感触だ。
甘く苦しい熱で、膣奥がひくついている。舌では届かない場所が、ねだるようにうねるのだ。
「中、だめ、舌はだめなの……っ」
彼の舌がいやらしく粘膜をかき混ぜるたび、椎香の腰が勝手にひくつく。凱世はそれを軽くいなして、ねっとり、じっくりと奥を探るように舌を動かした。
蜜口を舌で舐られると、透明な液体がとろとろとあふれ出す。
それを、凱世は時折すすって、ごくりと飲み干した。
――喉仏、が……。
これまでに何度か、彼の喉仏が上下するのを見た。
なぜかわからないが、そのたび、わずかに性的なものを感じていたように思う。自分にはない、喉の膨らみ。それが動くさまは、ひどく男性的だった。
「武坂先生、んっ、んぁ、あ、気持ち、い……っ」
自分の声とは思えないほど、媚びるような甘い嬌声。
椎香は、彼の肩に爪を立てて、何度も名前を呼んだ。そのたび、応えるかのごとく、凱世は腟内を舌先でえぐる。
中だけではなく、指腹が花芽を転がしていた。包皮を剥かれたそこは、どうしようもないほど敏感になっている。
中と外、同時に湧き上がる快感に、これ以上は耐えられなかった。
「ひぁあっ、イく、イッちゃう……っ」
むしゃぶりつく唇は、荒々しさと繊細な動きで椎香を果てへと追い詰める。無言のまま、指と舌の動きを速められ、甘い絶頂が椎香の全身を貫いた。
「ん、んっ……はぁ……ッ」
隘路が痙攣し、ちゅぽんと音を立てて凱世が舌を引き抜く。
ぱっくりと口を開けた秘部からは、あとからあとから、蜜が滴ってくる。
はあ、はあ、と肩で息をしている椎香を、彼が体を起こしてじっと見つめてきた。
「ちゃんとイけたな。もう、余計なこと考えられないだろ」
どうしてこんなときに、凱世は優しく微笑むのだろうか。
今まで見たことのないほど、彼は親密な笑みを見せている。
まだ動けない椎香をよそに、ベッドから降りた彼はTシャツを脱ぎ捨てた。書棚に置かれた小さな引き出しを開けると、避妊具を手に戻ってくる。
「舌入れた感じだと、氷月さんけっこう、狭そうだよな」
「せま……?」
わざと下卑たいい方をする彼に、椎香は顔を真っ赤に染めた。
「優等生の、おセックスばっかしてきたみたいな体」
わざと行為に丁寧語をつけて、凱世がくくっと笑う。
「ふ、普通です」
「そうか? やめてって言ったら、相手はやめてくれただろ。それから、連続で絶頂したこともなさそう」
「っっ……!」
過去を見てきたような口ぶりに、反論もできない。実際、そのとおりだ。
今まで絶頂をろくに知らなかった。
それは相手のせいではなく、椎香が感じすぎてしまうことを恐れて、達しそうになるたび「もうやめて」と口にしたからだ。
――ほんとうに、やめてほしかった?
自問すれど、答えは見つからない。
「本気で嫌がってるなら俺だってやめる。だけど、今のあんたはもっと気持ちよくなりたいって顔してるよ」