「愛している。俺の側にいてくれ」
魔術研究の助手として、イシュリナは横暴な婚約者に尽くしてきた。しかし他の令嬢からの資金援助に目が眩んだ彼に、婚約破棄されてしまう。途方に暮れる彼女がある日出会ったのは、魔物討伐の最前線に立つ辺境伯・ルガート。なんと彼の元で助手をしながら、領地で子どもたちに魔術を教えることになり…!? 「君は俺にとって、なくてはならない存在だ」傷ついたイシュリナは、ルガートの思いがけない優しさに惹かれていく。やがて彼の深い愛に、身体ごと甘く蕩かされ…!
返事をする声が震えてしまっている。
駄目だ、駄目だ。
これでは、まるで何か期待しているみたいではないか。
「俺は、君がここにいてくれて本当によかったと思っている……来年も、再来年も、その次の年も。どうか俺と共に祭りの日を過ごしてもらえないか」
たしかに来年も祭りを見られればいいと思ったけれど、辺境伯からそれを口にされるなんて、想像もしていなかった。
「あのそれって、長期契約ということでしょうか……?」
なのに、イシュリナの口から出てきたのは、そんな可愛くない言葉。辺境伯が、困ったように笑った。
「今の言葉では通じなかったか――イシュリナ嬢、俺は君を、あなたを愛している。どうか、この地で俺と共に暮らしてほしい」
イシュリナの手に置かれていたカップが激しく揺れる。あやうく中身を飛び散らせてしまうところだった。
「でも、私……」
「俺が嫌いか?」
問われて、首を横に振る。
嫌い? そんなことない。とっくの昔に、彼への気持ちは大きく育っている。
イシュリナを認めてくれて、居場所をくれた。もちろん家族には大切にされていたけれど、それとは違う温かさを彼からもらった。
もじもじとしていたら、顎に大きな手が添えられる。はっとしたけれど、その手を振り払って逃げようとは思わなかった。
「……あの、辺境伯様」
どうしよう、頬が熱い。
その熱が頭まで移動してきて、何も考えられなくなる。
「名前で呼んでくれ」
「名前……?」
もちろん、彼の名前は知っている。けれど、本当にイシュリナが呼んでしまってもいいのだろうか。
「ルガート、と」
「……ルガート様」
彼の名を呼ぶ声は、自分のものとは思えないほど蕩けるように甘い。それだけで、自分の気持ちが伝わってしまっているのではないかとドキドキする。
そっと、唇が触れ合わされる。宝物に触れるみたいにそっと。
そこから先は、頭がふわふわとしてしまっていた。
カップの中身はいつの間にか空になっていた。
辺境伯――ルガート――と手を繋ぎ、屋敷への道のりを歩く。屋敷に戻った時には、しんと静まり返っていた。
子供達はとっくの昔に夢の世界だろうし、使用人達も自分の部屋に戻ったか祭り見物に行っているかなのだろう。
「カップ、持ってきてしまいました」
ここまで戻って来てから、空のカップがまだ右手にあるのに気づく。苦笑すると、ルガートの手がそれを取り上げた。
「明日、まとめて返しに行ってもらおう。他にも、持って帰ってきた者もいるだろうしな」
ルガートの手は、ずっとイシュリナの手を握ったまま。
心臓はドキドキとして、頭はくらくらとして。
(……夢、ではないわよね……?)
何度も自分に問いかける。
ここでの生活が長くなるにつれ、彼へ向ける気持ちはだんだんと大きくなっていくのを自覚していた。
けれど、辺境伯という身分にある人が、イシュリナを本気で好きになるなんて考えてもいなくて……。
カップを奪われ、空になった方の手でそっと唇に触れてみる。
先ほど口づけられた。
触れ合わせるだけの優しいキス。
それでも、その感覚がまだそこに残っているような気がする。
「……イシュリナ」
呼び方が変わった、と思った時にはルガートの部屋の前だった。いつの間にか、イシュリナに与えられていた部屋の前を通り過ぎていたらしい。
今夜の自分はどうかしている。こんなにも考えがまとまらないのだから。
「俺と、結婚してほしい――この地で共に暮らし、領民を見守り、共に収穫を祝ってほしい」
「でも……私で、いいのですか……?」
彼の気持ちを疑っているとか、信じられないとか、そういうわけではないけれど、イシュリナの口から出てきた言葉は弱々しかった。
元婚約者からは、役立たず扱いだった。
イシュリナには雑用しかできないとも言われていた。
けれど、ここに来てからは、皆がイシュリナを大切にしてくれる。
ルガートを筆頭に、皆が。
「生涯を共にするなら、君がいい」
彼の言葉は、イシュリナの胸に染み入るようだった。
きっと、彼の求愛を断ったとしても、彼のイシュリナに対する態度は変わらないのだろう。
素直にそう思えた。
「……はい」
返事は小さなものになってしまったけれど、イシュリナは選んだ。
彼と共に、生きていくことを。
魔物の跋扈する地に面しているから、きっとこれから先大変なこともあるだろう。
だが、この地で暮らしている人々は恐れていない。
生き生きとしている。彼らの生活を守るのに、貢献できるのならばそれもいい。
「……んっ」
二度目のキスは、性急だった。
先ほどは宝物に触れるみたいにそっと口づけられたのに、今度は生を感じさせようとしているみたいに力強い。
カップを持ったままの手がイシュリナの背中に回されて、彼の方に引き寄せられた。
身体をぴたりと密着させれば、伝わってくるのは温かな体温と力強い鼓動。おずおずと持ち上がったイシュリナの手が、彼の背中に回される。
強く押し付けられたかと思えば、角度を変えてまた唇が合わされる。何度も、何度も繰り返し口づけられて、自然と唇が開いていた。
彼の手がイシュリナ越しにドアノブを回し、そのまま部屋へと導かれた。
くるりと向きを変えられ、背中を扉に押し付けられる。
カタリという小さな音がしたのは、きっとカップを扉の側のテーブルに置いたのだろう。
両手がイシュリナの耳や頬を滑って、首筋に触れる。彼の手が触れたところから、じんわりとした感覚が広がってくる。
「ルガート、様」
とぎれとぎれに彼の名を呼んだら、口づけが激しさを増した。
今度は触れ合わせるだけではない。唇の隙間から、熱い舌が口内へと侵入してきた。
歯列をなぞられたかと思えば、舌が口内すべてを探ろうとしているみたいに舐め上げていく。
舌先で上顎をくすぐられて、イシュリナは身体を小さく震わせた。
「ん……っ、ふ……」
思わずもらした声は、鼻にかかって甘ったるくて、かあっと身体中が熱くなる。
下肢の奥から、じわじわと疼きが湧き上がってきた。
そんなイシュリナを見たルガートが目を細めるのを、ぼんやりとした視界で認識する。
呼吸すらままならなくて、頭がぼんやりとしてきた。
足からかくんと力が抜けて、そのまま床に崩れ落ちそうになったが、それより早く彼の腕が身体を支えてくれる。そのままぐっと抱き上げられた。
「大丈夫だ。俺に掴まっていろ」
彼の広い肩に必死でしがみつけば、彼は軽々とイシュリナを抱え上げたまま部屋を横切っていく。男性は、こんなにも力が強いのだと初めて認識させられた。
思わず、彼の肩に縋りつく手に力がこもる。
そっと下ろされたのは、ベッドの上。
まるで壊れ物みたいに、ルガートはイシュリナを扱った。
気が付いた時には、横たえられ、背中をシーツに押し付けられている。見上げた先にいるのは、イシュリナに覆いかぶさっている彼の顔。
「嫌か? 今ならまだ、やめてやれるが」
なんてことを言うのだろう。別に、流されたわけじゃない。
イシュリナも、彼と触れ合いたいと願っている。
いいえ、と言葉にするかわりに、首を横に振った。これ以上の言葉はいらない。
彼の目に、欲望の色が浮かんでいるのにも気づいている。
「あの……あまりじっと見ないでください」
まじまじと真正面から視線を合わせるのは恥ずかしかった。こんな時だから、なおさらかもしれない。
頬が熱くなっているから、きっと真っ赤になってしまっているのだろう。
「わかった」
その返事と共に与えられたのは、額へのキス。
ほっとして目を閉じると、そのキスは額から目尻のあたりに口づけ、そして頬へと移動していった。不意にその唇が鎖骨のあたりに押しあてられる。
「んぅ」
思わず上げてしまった声に慌てて手で口を塞げば、低い笑い声が聞こえてきた。
今まで聞いたことがないような、艶を帯びた笑い。
「可愛らしい反応だ」
「そんなこと……言わないでください」
自分でもおかしいほどに、その声は弱々しかった。
一瞬離された唇は、なおもイシュリナの身体をたどっていく。首筋から肩、そして鎖骨をなぞ
るように身体の中心へと。
「は、ふぅ……」
どうしよう。もどかしい。
どうして、こんなにももどかしく感じてしまうのだろう。
襟ぐりからのぞく柔らかなふくらみ。その柔らかさを確認しているように、唇が触れては、離れる。
身を捩って逃げようとしたら、大きな手が脇腹へと伸びてきた。指先がイシュリナの反応を確かめるように這い回り始める。
「ルガート様……ん、あっ」
何か言おうとすれば、すぐに甘い声になってしまう。
愛撫に身を任せているうちに、ベストのボタンが外され、続いてブラウスのボタンも上から順に外されてしまった。
下着が捲り上げられ、乳房が露わになる。思わず手で覆い隠そうとしたけれど、彼の方が早かった。両手をまとめて頭上で束ねられ、身体を隠すこともできなくなる。
「なぜ、隠す? こんなにも美しいのに」
褒められているのはわかっても、真正面から見つめられれば羞恥を覚えずにはいられない。
自由な方のルガートの手が、柔らかく乳房を揺らす。
それだけでぞくぞくっとしてしまって、抵抗する気持ちは、あっけなく消え失せた。
いや、それどころではなくなってしまった。
指先で頂を摘まれたかと思えば、親指と人差し指を使って擦り合わされる。彼の指は巧みで的確で、腰まで響くような快感に翻弄される。
さらには硬くなって敏感になってしまった先端を口に含まれ、舌先で転がすようにされたら、嬌声を響かせずにはいられなかった。
「あ……、や、あぁっ」
「嫌ではないだろう――本当に嫌なら……」
と耳元でささやかれ、そのまま耳たぶを舐め上げられて背筋に甘い痺れが走った。返事のかわりに唇から漏れるのは甘ったるい吐息。
その間にも彼の手は休むことなく動き続けていて、声を抑えようと必死に唇を噛み締めた。
だが、そんなのは無駄な抵抗。
「声を聞かせてくれ」
そんな言葉と同時に愛撫されたら、自分のものとは思えないような嬌声が出てしまう。
せめて快感を逃そうと首を激しく振っても、むしろルガートを煽る材料にしかならないようだった。
「や、あん、あ、あぁっ!」
くちゅりという音を立てて、胸の頂が吸い上げられ、舌で転がされ、抑えきれない声を上げてしまう。
いつの間にかもじもじと腿を擦り合わせていた。身体の中心が、じくじくと疼いている。
この疼きをどうしたらいいのかもわからなかった。
きゅっとつま先を丸めた瞬間、スカートの中に手がもぐり込んでくる。
擦り合わせていた腿の間に、その手はすんなりと入り込んだ。
「えっ……あっ、あのっ」
「問題ない。落ち着け」
そこは秘めておくべき場所なのに。せめてもと彼の手を挟む腿に力を込めているけれど、そんなの抵抗にすらならない。
ちゅっと頬に口づけられ、動揺したその隙に、膝が開かれ、その間にルガートが割り込んできた。こういう場合、どうするものなのだろう。
上半身にまとっていたものは乱されていて、スカートは半分捲り上げられている。自分がどうしようもなくはしたない格好になってしまったことを否応なしに自覚されられた。
「駄目、無理……」
いつの間にか解放されていた両手で顔を覆ってしまうと、ルガートの手は遠慮なく動き始めた。脚の間、秘めておくべき場所を指の先で擦り上げられる。
その瞬間、びくんと腰が跳ね上がった。
そこは自分でもわかるくらいぬるぬるとして、羞恥のあまり涙目になってしまう。
ぬかるみに薄布を指で埋め込むようにしながら指を這わされれば、足の先から甘い痺れが腰のあたりまで這い上がってくる。
「ルガート様……あっ、ん、駄目っ、駄目、なの……!」
「何が駄目なんだ?」
答えさせるつもりなどないように、彼の手は止まってくれない。
指を動かされる度にくちゅり、くちゅりという水音が、耳を打つ。
どうにか我慢しようとしても、溢れて零れ出す蜜が量を増していくのが自分でもわかってしまっていた。
なのに、物足りない。薄い布一枚越しの愛撫では物足りないと思ってしまう。
もっとしっかりと触れてほしいとさえ望んでしまうなんて、おかしいと思うのに止められなかった。
ルガートの手を掴んで抵抗しようとしても、力が入らない。
その間も彼の指先は、じれったいくらいゆっくりと上下を繰り返している。
「ここが気持ちいいのだろう?」
問われて否定しようとすればするほど、快楽を感じ取ってしまう。
薄い布が敏感な場所を摩擦するその刺激に悶えてしまう。
もっとちゃんと触れてほしい。直に――だって、身体は正直なのだ。イシュリナの腰を器用に持ち上げたかと思ったら、ルガートはするりと下着を剥ぎ取ってしまった。
「ひっ……あっ、あぁっ!」
濡れた花弁に直接触れられ、イシュリナは上体を弓なりにした。
指を前後に動かされると蜜液が溢れ出し、それが淫猥な音となってさらに興奮を誘われる。
あまりの快感に目の前がチカチカし、腰の奥が激しく収斂して、身体全体が切なくなる。
さらに同じ場所を何度も擦られ、その度に強い愉悦に見舞われるせいで、思考は快感一色に染め上げられていた。
「ルガート様……あ……んぁ……!」
手を伸ばし、ルガートにしがみつく。肌に触れるシャツの感覚にも煽られる欲望。
いつもよりずっと近い位置にある体温は、火傷しそうなほどに熱く感じられた。
髪を振り乱して喘ぐと、そっと額に口づけられる。それすらも、今のイシュリナには過ぎた快感だった。
抵抗できない――できるはずがない。
こうしている間もルガートの右手の中指はずっと淫芽に触れていた。
ただ円を描くようにゆっくり撫で続けられ、そこから甘い快感がじゅわじゅわと身体中に広がって、頭の中まで支配しようとしてくる。
「ルガート様……わ、私、も、う……!」
身体の奥から押し寄せてくる歓喜。
イシュリナは泣きながら訴えた。このままどこか、遠くまで飛ばされてしまうような気がして怖い。
内腿がぶるぶるとし始め、その震えは腰にも伝わっていく。
溢れる蜜をまぶすように、弱い個所を撫で回されて、許容量を超えた悦楽が一気に弾けた。
「あ、あああっ!」
頭が真っ白になる。全身がびくびくと痙攣し、次の瞬間には弛緩した。