「君が逃げれば逃げるほど、欲しくなる」
両親亡きあと、借金取りに追われる壱華のもとに、ある日突然、薔薇の花束を手に「結婚しよう」と現れた男。凡庸な彼女を「最愛の人」とのたまうのは、日本屈指の大企業社長・灘だった。彼との出会いを思い出せない壱華だが、強引に押しきられ結婚することに! 大豪邸での生活に戸惑う彼女は、灘の甘く包み込む愛に、しだいに心を蕩かされていき・・・・・・。
「忘れてしまえ。別の男の温もりなんて、今すぐに」
甘い震えが、全身を駆け抜けていくみたいだった。
「壱華は俺の妻だ。俺だけのものだ。そうだろう?」
忘れるも何も、すでに覚えていない。ハグは一瞬だったし、あれは単なる挨拶だ。
しかし灘は壱華の手に頬を擦り寄せながら、懇願するように言う。
「まばたきひとつ、俺以外の人間には与えなくていい」
「っ……」
「本音を言えるなら、二十四時間、一瞬も欠かさず俺だけを見ていてほしい」
ああ、違う、と壱華は実感する。
他の誰にも、こんなに胸を揺さぶられることはない。
灘だからだ。一心に注がれる愛情が泣きたくなるくらいに嬉しいのも、触れられたところから熱くなるのも、彼のために何かしたいと思うのも。
可愛いと言われることに、あんなに心が躍るのも。
きっと、一生、灘だけだ。
「ん、あっ」
揺れるベッドの上、壱華は無我夢中で広い背中にしがみつく。
陽はまだ高く、照明など点けなくても客室は明るすぎるほどで、壁も天井もカーテンも真っ白だから、視界がスパークしているのかと思う。
「あ……っあ、灘……灘、さんっ」
部屋に戻ったあと、堰を切ったように口づけられ、ベッドルームへ引き摺り込まれ、組み伏せられた。脱がされた服は、無惨にも枕もとでくしゃくしゃになっている。
けれど気にする余裕はなかった。全身撫で回され、溶けそうなほど両胸を愛撫され、あっという間に繋げられ……。
前回のような痛みを覚悟したものの、痛みどころかほとんど引っ掛かりもなく、すんなり灘のものが収まってしまったことに、壱華自身、驚くと同時に胸が震えた。
灘を受け入れ、灘を感じるため、全身が作り替えられていくようで。
「壱華……」
呼ばれながら最奥をゆっくり突かれると、びくびくと膣道が締まる。
「壱華、可愛い」
囁きながら与えられるキスがあまりにも快くて、それ以上、我慢できなかった。内側がぎゅっと縮み、灘のものに縋って震える。直後、地面を失ったような浮遊感――そして一気に弾け飛ぶ。
「んぅ……!」
唇を塞がれた状態では、ん、ん、と灘の口の中で喘ぐしかなかった。
抗えず跳ねる腰を、灘はすかさず捕まえる。腕を回され、ぐいっと引っ張り上げられ、気づいたときには身体の下に灘がいた。
「あ……」
こんなに明るいところで、こんな格好。
一瞬焦ったが、咄嗟には何もできなかった。弾けたばかりで、快感の余韻に、まだ内壁がひくついていたからだ。
「ん、ヤ……ぁ」
腰が悩ましくくねっている。恥ずかしい。のに、止められない。
(一番奥、持ち上げられてるみたいで……気持ちいいの、続いちゃう……っ)
せめて灘の目を塞ごうと、震える手を伸ばしたが、あっさり両方とも捕まえられた。それぞれ左右に退かされれば、あろうことか灘の目の前に乳房がゆさりとぶら下がる。
「あ」
慌てて背中を反らせようとしたときには、灘の舌が左胸の先を捉えていた。逃がさないとばかりに、そこをじゅうっと音を立てて吸われる。
「あ、っあ、あ、待っ……わたし、そんなつもりじゃ……っぁ」
「壱華にそのつもりがなくても、俺はその気になる。他の誰でもない、壱華だから」
「ッあ、息、吹きかけるのは……っ」
「壱華以外、欲しくない。壱華でなければ――こんなふうに興奮したりしない」
グッと下から突き上げられると、下腹部に甘いものをぶちまけられたようだった。
「ア……ぁ、あっ」
都合がいいから、じゃない。灘の目に映る壱華は、地味でもなんでもない。この世でもっとも欲しいと思える、唯一の性的対象なのだ。
(わたしにだから、こんなふうになる……)
きゅっ、と襞を引き締めると、内側から押し返される。そうだよ、と言われているようで、鼓動が速くなる。嬉しい――嬉しくて、弾け飛びそう。
さらなる官能の予感に、は、と吐息を零せば、右胸にかぶりつかれた。
「ひァっ」
灘は容赦なかった。クチュクチュと小刻みにしゃぶられ、舌の先でつつき回され、転がされ、じっくり吸われたかと思えば、あっさり離され……。
もっとも壱華を悩ませたのは、彼の前歯だ。
甘噛みまではいかない。歯の先を軽く先端にあてられ、弾かれるだけだ。が、何度も何度も、しつこいくらいに同じようにされていると、内側の痙攣が蘇ってくる。
「……あ……ぁ」
いつの間にか壱華は、腰をゆらゆらと揺らしていた。
左右の手を灘に捕まえられた状態で、両胸を無防備に差し出したまま。
灘の下腹部に濡れた割れ目を押し付け、前後に擦る。一度そうしたらとても快くて、止められなくなってしまった。
「ん……ぅ」
恍惚と、左右にも体を動かしてみる。これも、いい。
自然といやらしく腰を使っていることに、壱華は気づかない。
「いけないものを目覚めさせた気分だな」
ぼそっと言って、灘は捕まえていた壱華の両手に自分の指を絡ませた。様子を見るように、下から腰を揺らす。徐々に壱華の動きを遮り、雄の昂りで胎内を混ぜ始める。
「っふ、ァ!」
思いもしなかった部分を次々に擦られ、壱華は焦る。
「ア、っンぁ、あっ、あ、これ……っ」
「キツいのか?」
「ッちが……っ、あ、あぅ、この間とちがうところ、擦れて……」
危うく弾けそうになりながら、首を振って涙目で訴える。
跨ったまま弾けたら、どうなってしまうだろう。いや、振り落とされるに違いない。だって、きっと暴れてしまう。気持ち良すぎて、我を忘れて乱れてしまう――。
「ヤぁ、あっン、下ろし……っ、おろして」
だが、灘の勢いは衰えなかった。
「いけないものが目覚めたのは、俺のほうか」
左右それぞれ、祈るように指を絡ませた手を、持ち上げられる。下からゆさゆさと揺さぶられ、壱華はその手にしがみつくしかない。
すると灘は壱華の手の甲を使い、壱華の胸の先端をするすると擦った。
「ヤ……!」
振り解こうとしたが、させてもらえなかった。自分の手で自分の胸を刺激させられるという、予想外の事態に頭がついていかない。
「尖っているだろう。壱華が、俺に応えて硬くしたんだ」
「あ、ア、いやぁ……ア、気持ちよくなっちゃう、からっ、わたし、ここでっ」
「……ここじゃだめなのか?」
「っ、落ちそうで、怖い……っ」
「安心しろ。絶対に落としたりしない」
「ほ、ほんと……?」
涙声の問いかけに、灘が力強くうなずいたときだ。
「んァっ、きちゃう、大きいの、くる……っう、あ!」
瞬間、明るい視界が余計に明るくなる。
びくっと肩を跳ね上げたあとには、すさまじい痙攣が待っていた。
下腹部がひくひくと、際立って波を打つ。誰から見ても、今、快感を得ているとわかるほどの反応に、灘は息を呑んで見入る。
「壱華……っく、綺麗だ……」
「あ、あ……あ」
腰が跳ねすぎていることはわかっていたが、制御できなかった。がくがくと身体が震え、危うく内側のものが抜け落ちそうになる――すかさず、灘に腰を掴まれる。
「ッ……大丈夫、離さない」
粘着質な音を伴い、奥までそれを挿し戻される。その瞬間だった。
何かが、小さく噴き出す。接続部のあたりから、ぱっ、と灘の下腹へと降り注ぐ。
(なに、いまの……)
痙攣が収まるにつれ、ぼうっとする頭で、見間違いかしらと思う。
ゆるりと、手を伸ばした。灘の下腹に触れ、そこが濡れているとわかって、けれどどうしたらいいのかわからない。なんとなく、そのまま指先を手前に滑らせる。
辿り着いたのは、接続部だ。
とろりとぬめって、気の所為か、ほかの場所より温かい。
「あ……」
うっとりと、壱華は周辺を探った。
張り詰め切った付け根。避妊具のふち。それらを見事に咥え込む、己の開口部。腫れた芽を持つ割れ目に、灘のものを内包した腹部……。
「いっしょ、ですね……」
ひとつになっている。今、同じ感覚を共有しているのが、灘で嬉しい。
自分の腹部をさすりながら微笑みかけると、直後、後ろに押し倒された。
「……いちか……っ」
ふうふうと肩で息をする灘は、今までになく興奮しきって見える。
そんなことも喜ばしく思えて、両脚を灘の胴に絡ませたら、激しい出入りが始まった。二度も弾けたばかりで、内側は溶け落ちそうなほど過敏になっていたけれど、感じすぎて怖いくらいでも、かまわなかった。
「これ以上……年甲斐もなくさせないでくれ」
「ア、っあ、あ――」
「……手放せなくなる……」