平凡なOL佑唯は古武術師範である祖父の弟子・澄人に護衛をされることに。佑唯の部屋が誰かに荒らされたと知った澄人は彼の部屋での同居を強引に決めてしまう。「では、あなたを抱いてもよろしいですか」クールでイケメン、腕も立つ彼に宝物のように守られながら、熱く迫られ拒めない佑唯だが、澄人の秘密の正体にまつわる陰謀にまきこまれて……!?
「では、あなたさえよければ」
「はい」
「抱いてもよろしいですか」
――……え?
このあとの予定の話から、いきなり話題が飛んだ。
頭が真っ白になり、ボッと顔から火が出そうになった。ついでに動揺で目が泳いでしまう。
「すっ、澄人さん、それは……」
返す言葉に困って口をパクパクしていると、澄人さんがコホン、と小さく咳払いをした。
さすがに突然すぎる自覚はあるようだ。
「いや?」
優しい声音で聞き返されると、小さく胸が跳ねた。
「いや……なわけないです」
私は咄嗟に、ハンドルを握っていない方の澄人さんの手に自分の手を重ねた。
「ちょっとびっくりしただけです……その、私も同じ気持ちだったので」
「佑唯さん」
すぐ、言わなきゃよかったと思った。でも、なぜだか今言わないといけないような気がしたから。自分の気持ちをちゃんと伝えるべきだと。
「でも、事実なので……私……あなたに抱かれたいんです」
はっきり気持ちを伝えたら、澄人さんの目が大きく見開かれた。
全てを打ち明けて、本当はものすごく恥ずかしい。だけど、澄人さんは超真顔のまま、私と繋がっている手に力を籠めた。
「ホテルに向かいます」
彼のその一言のあと、私達はしばらく無言になった。そのまま、気がついたら彼の車が大きなシティホテルのエントランスに横付けされていた。
そこは名前だけは知っている高級ホテルだった。かなり前、友人とスイーツビュッフェを食べに来たことがあるけど、泊まったことはない。
いきなりここ? と面食らっている間に澄人さんが車を降り、鍵をホテルのスタッフに預け、ホテルの中へと進んでいく。
「佑唯さんはここでお待ちください」
フロントの近くにあるソファーに座るよう指示されたので、大人しくそこに座って澄人さんが来るのを待った。ラグジュアリーな雰囲気のホテルロビーには、国籍も様々な老若男女がチェックインの手続きをしていたり、ソファーにゆったり座って寛いでいる。
こんな高級ホテルに来るとは思っていなかったので、自分の格好が浮いているのではないか。そのことばかり考えていると、手続きを済ませた澄人さんが戻ってきた。
「行きましょう」
手を差し伸べられて、なにも考えず手を取った。そのままホテルのスタッフの先導で彼に連れられ到着したのは、かなり上のフロアだった。
エレベーターを降りた瞬間、ふかふかのカーペットに嫌な予感がした。
「あの……澄人さん? 部屋を取ったって……もしかして……」
「スイートです。でも、最上級ではないですよ? たまたま空いていたデラックススイートです」
「たまたまって……!」
――普通、たまたま空いてるからってスイートを選ばないと思うんだけど……!!
やっぱりどこか一般的な人と考え方が違うんだけど……
困惑していると、スタッフがドアを開け中へどうぞ、と笑顔で誘導される。
家族旅行でホテルに泊まったときとは全く違う世界が視界に広がり、驚きで声が出ない。
初めてのスイートルームはとにかく広くて、調度品のどれもが上質そうに見えた。
どうやら澄人さんはこの部屋を何度か利用したことがあるらしく、スタッフにここまでで大丈夫ですよ。いつもありがとう、と声をかけていた。ていうか、スタッフもどうやら澄人さんのことを知っているみたいだった。
――あの……どんだけ顔が広いの?
混乱しつつ部屋の奥まで進み、カーテンが掛かっていない窓の外を見る。その途端、眼下に広がる夜景があまりにも美しすぎて、つい言葉を失ってしまう。
――わあ、綺麗……
こんな場所から夜景を眺めるなんてほとんど機会がない。だからだろうか、状況を忘れ見入ってしまった。
「すごいですね……!」
窓にくっつきそうなほど近づいて、周囲を見回す。そのときガラスにジャケットを脱いでいる澄人さんの姿が映っていた。
ジャケットを一人がけのソファーに引っかけ、ついでに慣れた仕草でネクタイを外す。その動作がすごくかっこよく見えて、ドキドキしてしまった。
――やばい……急に緊張してきた……
彼を意識しまくって体を硬くする私の首に、するりと澄人さんの腕が絡みついてくる。
「景色に興味があるのですか?」
「え、ええ……なかなか見る機会もありませんし……」
「確かに。でも、私は景色よりもあなたに興味がありますけどね」
しれっとそんなことを言う澄人さんに、胸のドキドキは止まらない。むしろ大きくなっている。
「……すみ……」
名前は、最後まで言わせてもらえなかった。
そっと顎に添えられた彼の手が、私の顔を彼に寄せる。そのまま吸い寄せられるように顔を近づけると、静かに唇が重ねられた。
やわらかい澄人さんの唇が私の唇を優しく食み、離れては押しつける、を繰り返した。
「……っ、す……っ……」
言葉は、口に出すとすぐに彼の口によって呑み込まれる。いつの間にか後頭部と腰に回った彼の手に周囲を撫でられつつ、私は一歩、二歩と後ずさる。
優しかったキスは徐々に激しくなり、気付けば唇の間から舌が差し込まれていた。彼の肉厚な舌が口腔を舐め舌に絡められると、私も同じように舌を絡めた。
というか、キスもこの前澄人さんとしたくらいしか経験がないので、はっきりいってものすごくテンパった。テンパりすぎて途中からなにがなんだか分からなくなってきて、澄人さんのシャツを掴んでどうにか応戦した。
酸素を求めて顔を背けようとしても、澄人さんは見逃してくれない。すぐに追いかけてきて、また塞がれて……を繰り返しているうちに、頭がぼうっとしてくる。
――やば……キスだけでもう……どうにかなってしまいそう……
肩で息をしていると、ようやく澄人さんの唇が離れていった。
「すみません、つい夢中になってしまって……」
澄人さんは微笑み、私の頬を手の甲でするりと撫でた。
「……私、初心者なので……お手柔らかにお願いしたいんですが……」
「そのつもりなんですが、どうも加減が分からなくなってしまって。佑唯さん、こっちへ」
澄人さんが私の腰を抱きながら歩き出す。その先に見えたのは、大きなダブルベッドが置かれた寝室だった。
さすがにベッドを前にすると緊張感が半端なく増す。そのせいで体が一瞬強ばったのが伝わったのか、澄人さんが足を止め私の顔を覗き込んでくる。
「佑唯さん、私は無理強いしません。今ならまだ引き返せま……」
「嫌じゃないです……! 私……っ」
私は止めないで、という気持ちを込めて澄人さんに抱きついた。
「あなたと一つになりたいんです。身も心もあなたのものになりたい……」
言葉だけじゃなく、彼のものになったという事実が欲しい。
その一心で彼にしがみついた。ここまできたら、もう必死だと思われても仕方がない。実際、そのとおりだから。
「……そんなもの」
澄人さんの呟きに顔を上げた。
「そんなもの無くたって、ずっと私はあなたのものですから。でも、確固たるものが欲しいという気持ちは私も同じです。だから、今日はあなたを抱くつもりで会いにいきました」
再び彼の顔が迫ってきて、激しいキスをされた。そのまま彼の体重が私にかかり、後ろによろけつつ後ずさると、ちょうどベッドの端に足がぶつかり勢い余ってベッドに倒れ込んだ。
スプリングが効いたベッドに横たわった私達は、お互いの体を抱きしめ合いながら何度もキスを繰り返す。その間、彼の手が服の中に入り、私の乳房をブラジャーごと愛撫し始めていた。
「あ……」
彼が手を動かすごとにブラジャーと胸の先端が擦れ、小さな快感に体を捩らせた。くすぐったいような、もどかしいような感覚に、だんだん呼吸が乱れていく。
「あっ……、ん……っ」
「佑唯さん」
ぎゅっと目を瞑っていると、耳のすぐ横で名を呼ばれる。
「今だけは佑唯、と呼んでもいいですか?」
言ってすぐ耳をかぷっと甘噛みされ、反射的に肩が大きく揺れ「あっ!」と声が出てしまった。
「そ、そんなの……今だけじゃなくて、ずっとがいいです」
正直な気持ちを伝えたら、澄人さんが至近距離で視線を合わせてくる。
「佑唯」
「!]
至近距離で名前を呼ばれる威力は半端なかった。
途端に胸の鼓動が大きくなり、目の前にいる人が愛おしくてたまらなくなる。
――好き……、好き……!!
「澄人さん、好きです……」
彼の首に腕を回し、自分から彼の唇に自分のそれを重ねにいく。触れた瞬間、すぐに彼の舌が隙間から差し込まれ、激しく口腔を蹂躙された。
唾液が絡み合う音が頭の中で響く。そのせいか自分が今していることが、すごくいやらしく思えてくる。でも、止めたくない。
キスをしながら、澄人さんの手が背中に回る。素早くブラのホックを外され胸の締め付けがなくなったとほぼ同時に、上半身を覆っていた服が胸の上にたくし上げられた。
「あ……」
あまり大きくはないけど形は悪くない。と自負している乳房が、ふるりと彼の前にまろび出た。その乳房に澄人さんがじっと視線を落とす。無言なので、なんだかとても居たたまれない。
「あの……す、澄人さん……?」
ドキドキしながら彼の言葉を待つ。澄人さんは口元に手を当て、なぜか私から目を逸らした。
「すみません……あまりにも綺麗で……言葉が飛んでしまった」
澄人さんは私にお世辞なんか言わない。だから余計その言葉が沁みる。
私は彼の手を掴むと、自分の乳房の上に置いた。
「触ってください。私、あなたにならなにをされてもいいです。あなたの手でめちゃくちゃにしてほしい……です」
「あなたって人は……」
澄人さんの顔が近づき、首筋に強く唇を押しつけられた。
「そんなこと言ったら、もう抑えが効かなくなりますよ」
「い……いいです。抑えの効かない澄人さんを見てみたいです」
「……では……」
澄人さんは上体を起こすと、上半身に身につけていたシャツを脱ぎ、インナーも脱ぎ捨て半裸になった。
初めて見る澄人さんの半裸は、以前石内さんが言っていたことを裏付けるように筋肉がすごい。細いのにしっかり腹筋が割れて、細マッチョという言葉がぴったりの体だ。
事前に聞いてはいたものの、実際この目で見るのはまた違う衝撃だった。
「す、す……」
「す……なんです?」
ベッドに両手を縫い止められ見下ろされると、澄人さんだと分かっていても緊張してしまう。
「……好き、です……」
「私もです。いや……私はもう、好きを超えていると思いますよ。もう、あなたなしではいられない体なので」
耳元で「愛してる」と囁かれ、ドッ! と大きく心臓が跳ねた。その瞬間から、多分澄人さんはもう遠慮することを止めたのだと思う。
深く口づけながら同時に胸を愛撫する。最初は掌でゆっくりと円を描いていた彼の手は、徐々に動きが荒くなっていき、気がついたら愛撫が先端に集中する。
二本の指で摘まみ、擦り合わせると鋭い刺激が私を襲った。それに息を吐き出しながら耐えていると、キスを止めた澄人さんが体をずらし、胸元に口を寄せた。
「んっ……」
巧みな舌使いで、澄人さんが硬く尖った胸の先を嬲る。全体を使って舐め転がしたり、口に含み飴のようにしゃぶったりと、絶え間なく快感を与えてくる。
「や、あ……っ! だめ、それ……」
「……どこがダメ? 舐められるよりも指で弄った方が好みですか」
紳士的な物言いだけど、やっていることは全然紳士じゃない。両胸を掴み、その先端を嬲る澄人さんの目は、まるで獲物を狙う肉食獣そのものだ。
普段の澄人さんとのギャップがすごくて、とてもじゃないが直視できない。
「……ダメ、じゃない……けど、恥ずかしいです……」
つい手で顔を覆うと、澄人さんの手がそれを阻む。
「可愛い顔は隠さないで、見せて」
胸元で口元を緩ませる澄人さんに、激しくドキドキする。
今、自分がこんなに素敵な男性とこういうことをしているという事実が、さらに輪をかけて胸を熱くさせる。
これまで自分は男性と縁のない人生だった。好きかな、と思う人はそれなりにいたけど、道場育ちのせいかどうしても男性に強さを求めてしまうところがあって、結局どの恋も成就することはなかった。
こんなんじゃいつまで経っても恋なんかできない。
自分の中で勝手にそう思い込んでしまって、恋よりも勉強、恋よりも仕事を……と、恋はいつも二の次だった。だけど、そんな私の人生でついに見つけた理想の男性。
それが澄人さんだ。
「……澄人、さんっ……好き……」
胸への愛撫に感じながら彼の名を呼んだ。それに応えるように、彼は胸元から顔を上げると、また私の唇にキスをくれる。
「ん、う……っ」
最初にしたキスとは明らかに違う、荒々しいキスに翻弄される。その間も胸の先を二本の指で摘ままれたり、指の腹で転がされたりと快感は止めどない。
――や、ばい……私、おかしくなってきちゃう……
ショーツに包まれている秘部の奥がもどかしくてたまらない。太ももを擦り合わせても、どうやってもそれを逃がすことができず、ショーツがじわじわ湿り気を帯びていく。
しきりに股間を気にしている私に気がついたのか、唇を離した澄人さんの手が股間に延びる。
「……ここ? 苦しいですか」
するっとショーツの中に手が入り、ひゅっと喉が鳴った。自分以外触ったことがない場所を、あろうことか好きな人に触られている。この状況に恥ずかしさは頂点に達した。
「すっ、澄人さん! ま、待って……」
「だめ。もう待てないから。……ああ、こんなに……」
割れ目を少しなぞっただけで濡れているのがバレてしまった。それが恥ずかしくて、顔を手で覆う。
「感じてくれて嬉しいです。じゃあ、もうこれ脱がしますね」