就職活動が上手くいっていなかった七海は、暑さにけぶる夜、なぜか亡き母を想っているはずの巽に抱かれていた。ヤクザで傲慢で自分勝手な男とわかっているのに、巽に焦がれる恋情を消すことができない。こんな関係は終わりにしたい――。そう思うのに、触れられると期待に疼くカラダは濡れていく。爛れた数日を過ごし、七海はある場所へ連れ出されて……!?
ゆらりと身体を起こし近づいてくる姿は、まるで捕食前の獣のようだ。悠然とした姿に、身体が竦んだ。
「あ……」
逃げ出したのは、本能からだ。
身を翻すも、脇を通り過ぎようとしたところで巽に捕まった。
「きゃ……っ」
ダイニングテーブルに俯せで身体を押しつけられ、部屋着のワンピースをめくった手が秘部に触れた。媚襞をなぞり、具合を確かめている指に、びくりと身体が震える。
「な――ん、で……っ」
「さっきしたばかりだから、まだ十分濡れてるな」
ぐちゅり、と音を立てて指が蜜穴に入ってきた。
「ふ……っ、ぃ……あぁ!」
二本に増えた指に声が上ずる。
今の会話のどこに巽をその気にさせる要素があったというのだろう。
膝で足を割り開かれると、下着の中からじゅぶじゅぶと蜜の音がしていた。
諦める覚悟をした直後に、もう決心を鈍らせてくる巽が憎い。
(どうして……っ)
なぜ、離れさせてくれないのだろう。
顔を顰めると、巽が男性美溢れる美貌に悪辣な笑みを浮かべた。
「あれくらいで俺の気がすんだとでも思ってたのか?」
くつくつと笑いながら、舌なめずりをする。
あぁ、またいたぶられるのか。
「もっと尻、突き出せ」
七海は嫌だと首を横に振った。秘部に残る異物感が消えないうちは嫌だ。
(こんなこと、覚えたくない)
巽を刻み込まれれば、ますます離れていけなくなる。
「七海、ここに俺のを突っ込まれて、ぐちゃぐちゃになるまでかき混ぜられるの、気持ちよかっただろ?」
なんて卑猥な誘い文句だろう。
だが、快楽を覚えた身体は、快感を思い出してぶるりと震えた。
もう一度、巽の熱が欲しい。
よぎった欲望を、七海は頭を振って追い払う。
違う、そんなこと思ってない。
肉欲と理性がせめぎ合うのをあざ笑うかのように、咥え込んだ指が的確に七海のいい場所を捉える。巽はすでに七海の身体を知り尽くしてしまったのだろうか。どこを攻められれば理性をなくすのか、何をすれば快感に蕩けるか、きっと七海よりもわかっているに違いない。
「ひ――っ、ぃ……あぁ」
堕ちてこいと言わんばかりに腹の内側から擦られる。少し強めの刺激に、目の奥がちかちかした。
「それ……だめっ」
「イイ、だ」
囁く低い声に鼓膜をも刺激され、ぞくぞくっと甘い痺れが腰骨へと走った。右手で秘部を弄る腕を掴み、左手でテーブルにしがみつきながらどうにかして巽を引き剥がそうともがくも、強すぎる快感に力が入らない。
「……ふ……ぅ、ん……」
「ここは素直でいい子じゃないか」
揶揄する声は、捕まえた獲物をいたぶる獣のように残酷に響いた。
(私の……ことからかってるんだ)
快感と悲しみがない交ぜになった表情で、巽を睨んだ。
雄の色香を纏わせた巽が、口元に薄ら笑いを浮かべる。その目に興奮の色が灯った。
「それでいい。七海に貞淑な振りなんて似合わないんだよ」
喜悦を含んだ言葉が、七海を貶める。
七海がどんな思いで彼と過ごしているのか、巽は何も知ろうとしない。
傍若無人で、傲慢で、なのに時々優しくて。
――なんて憎々しくて、切ないのだろう。
これが恋慕だというのなら、七海はもういらない。
側にいるだけで安心するような、平穏と安らぎに満ちた恋がいい。
労りの欠片も見せない人なら、嫌いになれたのだ。母の恋人でありながら、大事にしていた店を取り上げたひどい男として憎めただろう。
ぼろぼろになった七海を世話さえしなければ、彼に心を寄せることはなかった。
母と巽と三人で暮らした時間は彼方に追いやり、苦痛しかない現実を嘆いていれば、きっと巽を嫌いになれていたに違いない。
巽がファスナーを下ろし、取り出した欲望の先端で蜜穴を撫でた。
「ふ……ぅ……」
「入れてほしそうだ」
ぬち、ぬちと蜜を絡める音がする。
鈴口が隠れる程度に蜜口に埋まると、秘部が待ちわびていたかのように欲望に吸いついた。巽は少し埋めては抜き、また先端だけを挿入する。濡れた音を立てながら浅い場所を繰り返し弄られるむず痒さに、腰が勝手に揺れた。下着を着けていない乳房がワンピースの生地に擦れて痛い。
「は……ぁ、ん、ん……っ」
間断なく押し寄せる波のような快感に、抵抗する力が奪われていく。弱々しく巽のシャツの裾を掴むのがやっとだった。
心は望んでいないのに、身体は巽を求めている。
「巽さ……ん」
拒絶と願望がせめぎ合っていて、苦しい。
奥が切なくて、寂しいのだ。
(も……いや)
劣情なんかに負けたくない。けれど、快感を吸った身体は、情けないほど我慢が利かなくなっていた。
「ね……、ねぇ……っ」
肩越しに彼を睨みながらも、縋るような声が出た。
巽は双眸に肉欲の光を宿して、七海を見つめている。
「はぁ――あ……あぁっ」
ずぶずぶと入ってきた圧倒的な質量に、七海は顎を反らして喘いだ。
「待――ぁ……んンッ」
懇願も虚しく、怒張した欲望は最奥まで満たす。内臓を押し上げられる圧迫感に、七海は恍惚と目を潤ませながら、すぎる快感に唇を噛んで耐えた。
さっそく中がうねる。蜜壁が欲望を扱き出した。
(あ……あぁ、気持ちい……い)
「躾がなってないな」
腰を揺らされた振動に、秘部がきゅっと締まった。
「や……ぁっ」
「やだ、じゃないだろ。大きくて太いのでもっと突いて、って言うんだよ」
恥ずかしいのに、巽は「言え」と強要してくる。
片足を持ち上げられ、肩に担がれるといっそう繋がりが深くなった。突き上げられる場所が微妙に変わり、またそれが鮮烈な快感を生む。
「ひ――っ」
「無理やり犯されてる気分はどうだ?」
「さ……い、……てい」
嘘だ。本当は理性が焼き切れるほど気持ちよかった。でも、そんなこと口が裂けても言いたくない。
断続的に揺さぶられ、それだけを言うのがやっとだった。
なのに、巽はますますその目の炎を獰猛にさせていく。
ぐち、ぐちと内壁を長いストロークでかき回される行為がたまらなく快感だった。
「やぁ……あっ」
「甘ったるい声で啼きやがって。……こんなので悦んでんじゃねーぞ」
ずるずると亀頭が抜けるほど腰を引き、蜜穴付近の浅いところを擦られる。
「ひ――ぃ、い……っ」
皮膚の内側を走る甘い疼きに震え上がれば、狙い澄ましたように一息で最奥まで満たされた。
「い――ッ、あぁ!!」
信じられない歓喜に、目の前が一瞬白む。ぐりぐりと亀頭の先端で奥を擦られ、七海は両手で顔を覆いながら悲鳴を上げた。
「やめ……それ……あぁ――っ!!」
奥に響く鈍い振動にのたうち回る。内臓を押し上げられているのがわかる。触れてはいけない部分まで触られているような感覚は鮮烈で、ただただ七海を戸惑わせた。
怖いのに、気持ちいいのだ。
「ココが気持ちいいか」
「あ……あぁ――、だめ……そこ……や」
押されるたびに、何かがせり上がってくる。自ずと秘部に力が籠もり、募ってくる逼迫感に焦った。
「だめ……、――……ちゃう」
「聞こえないな」
「漏れ……ちゃう、からッ!」
首を振りながら、必死で我慢した。こんなところで粗相をするわけにはいかない。
なのに、巽は悪辣な笑みを浮かべた。
腰を手で持ち固定すると、狙い定めた場所を執拗に攻め立ててきたのだ。
「ひ――ッ、や……っ、やぁっ!! 巽……さ、んっ!」
ぎゅうっと締めつければ、ますます喜悦の色を浮かべる。
「そうだ。もっと扱け。締めつけろ」
「ん――ぁあっ!!」
やめてもらいたい一心で、夢中で秘部に意識を集中させる。巽のものを鮮明に感じ取るほど、身体の中に歓喜が溢れてきた。膨れ上がる快感に全身の細胞がざわめく。血が沸騰するほど熱い。緊張感と悦楽が入り交じり、玉のような汗が噴き出してきた。
「イきたいか?」
「は……ぁっ、あ……あっ、……ぃ……んっ!」
早くやめてと、そればかりを願う。
(でないと、もう――ッ)
「ひ……ぐぅ、ん……ぁっ、あぁっ」
ずぼずぼと出入りを繰り返す屹立のことしか考えられない。
わずかに腰を持ち上げることで、今よりもっと強く巽を感じることができた。だが、それは諸刃の刃。
「い――ぁ、あッ!!」
角度がわずかに変わったせいで、逼迫感が格段に上がってしまったのだ。自分の首を絞めたことに気づいたところで、巽はそれを歓迎するだけ。中で欲望をグラインドさせ、七海の快感を最大限まで高めた。
「あ――っ、ああぁ……、出る……漏れ……ちゃ、ぅ――っ」
「イくって言え、出したいんだろ」
「イく……イく――イク、い――っああぁ――……っ!!」
限界だった。
透明な飛沫がほとばしり、内股を伝ったそれが足下に水たまりを作っていく。全身が強ばり、そして、脱力感に弛緩した。だらりと四肢を投げ出しテーブルに突っ伏す。
「まだ終わってねぇぞ」
「――ひ……」
地獄の続きを促され、七海は顔を引き攣らせた。
「も……無理。許し……て」
弱々しい力で巽を押しやり、そのまま床に転がった。力が入らない四肢を動かし夢中で床を這う。
少しでも巽から離れたかった。
「どこへ行くつもりだ、あぁ?」
くつくつと笑いながら、巽があとをついてくる。
「やめ……」
四つん這いになり、手足を動かした。だが、ベランダに続く窓に行く手を阻まれてしまう。
行き場を失った七海を巽が腕を掴んで引き上げた。
「ひ……ぐ、ぅ……ン、ンン!」
片足を持ち上げられ、後ろから巽の怒張したものが突き上げてくる。ぬちゃ、ぬちゃ……と、七海の中から溢れた蜜が巽のものにかき混ぜられて、白く泡立っていた。
「七海、前見てみろ」
顎を取られ、無理やり前を向かされた。
七海が押しつけられているのは、ベランダに面した窓硝子だ。八階とはいえ、人に見られないという確証はない。
目の前は雑居ビルがある。
ブラインドは下げられているが、いつあれが開くかと思うと気が気ではなかった。
窓硝子には、快感に蕩けたいやらしい顔の七海と、雄の色香を発する巽が映っている。三白眼は愉悦を滲ませてた。
(これが……私――?)
「これ……嫌ぁ、あ……あっ」
「嫌? どの口が言ってる」
「い――っ!」
強く腰を穿たれ、最奥をぐりぐりと先端で擦られる。目の前で銀色の光がちかちかと瞬いた。
「そこ……だ、めぇっ」
「嘘つけ」
「違……、……ぃあっ、あぁ――っ」
すると、向かいの窓がかすかに動いた気がした。
見られる――っ!
恐怖心に身体が竦む。秘部が窄まり、巽のものを強く締めつけた。
「いいぞ」
巽はさらに厭らしく腰を使ってくる。
「ひ……ぁ、あっ、やぁ――。巽さ……、見られ……ちゃ、うッ!!」
「見せてやれ」
「やぁ、あ――っ!」
嫌だと首を振って抗うも、七海を追い詰める行為に容赦はなかった。
ブラインドが三分の一ほど開く。
「しっかり扱け」
「いぁ……あっ、だめ……ぇっ!」
身体に渦巻いていた快感が一気に弾けた。
「イくときは何て言うんだったよ」
「イ…ってる、から、まだ――ひぃっ!」
全身が性感帯みたいになっているのに、巽はまだ律動を送ってくる。亀頭のくびれでごりごりと粘膜を擦られる凄絶な刺激に、七海は歯を食いしばりながら、顔を仰け反らせた。
蠕動する内壁から伝わる間断のない悦楽が、痛いくらい気持ちいい。
(こんなの――駄目)