元組長の娘でカフェ店員の沙奈は店でチンピラから助けてくれた、とある組の若頭が幼なじみの律哉だと気づく。誘拐の危機も救ってくれた彼は、別名を名乗り真実は明かしてくれない。「今だけでいい。この時間を俺にくれ」強引に迫られ身も心も溶かされ溺愛される沙奈だったが、彼は沙奈の周辺への警戒を解かない。どうやら沙奈には狙われる理由が…!?
「じゃ、私そろそろ帰りますね」
ゆっくりと言い、後ろ髪引かれる思いで踵を返す。
彼の怪我には本当にハラハラしたけれど、この二日間、恋人気分を味わえて幸せだった。一度離れれば、また元通りカフェの店員と客に戻ってしまうだろう。実際、それだけの関係だ。
しかし、沙奈がドアに向かって一歩踏み出した時――
「行くな」
そう聞こえた直後、背中が大きな腕に包み込まれた。
頬に触れるあたたかな肌。ざらりとしたひげの感触。パウダーオレンジのニットの腹部には、後ろから太い腕が回されている。
(……え? ええっ)
抱きしめられたことに気づいた途端、心臓が壊れそうなほど震えた。いったい何が起きたのだろう。半分パニックになり、直前に何を話したのかも思い出せない。
逃れようとして身じろぎしたところ、身体を締めつける力がより強くなる。
「いてて……手加減しろよ」
「ごめんなさい」
力を抜くとすぐさまくるりと後ろを向かされた。遥か高みから見下ろす律哉の小鼻が広がっている。
「あ、あの」
「喋るな」
そう言うや否や、律哉はいきなり沙奈の唇を奪った。
あたたかく、柔らかな唇が沙奈の唇の上をゆるゆるとうごめく。時折、ちゅっ、と吸い立てたり、舌先で唇をなぞったりしながら。
目が回るほどの甘い口づけに、自然と吐息が洩れた。沙奈の頭は耳の脇から差し入れられた大きな手でしっかりと支えられている。髪をくしゃくしゃにかき回され、唇も同様にこね回されて。
ドッキン、ドッキン、と胸が激しく鼓動を刻んでいた。キスの仕方なんてもちろん知らない。幼い頃と同じように、ただ律哉の真似をしてついていくだけだ。
強引に上を向かされ、つい口を開けてしまった。すぐにぬるりと舌が滑り込んできて、思わず目を白黒させる。
「ふ、んっ……」
肉厚の舌が、沙奈の口内で生き物のようにうごめいた。初めて味わう濃厚なキスの感覚に、律哉の胸にしがみつく。絡め取られた舌が器用に弄ばれ、吸われ、くちゅくちゅと優しく捏ねられる。身体からすっかり力が抜け、立っているのもやっとだ。
「待っ、て……私……っ」
「口を利くなって」
薄く笑う吐息が唇にかかり、背中を震えが這いあがる。低く甘い声だ。彼がこんなに色っぽい声を出すなんて、今の今まで想像したこともなかった。
背中にあった律哉の手が、腰、脇腹、臀部と撫で回す。太腿の後ろの際どい場所に指が触れた瞬間、沙奈はびくりと身体を揺らした。
「や……そんなところ……!」
「柔らかいな。直接触りたい」
「えっ、ちょ――」
彼の真意が掴めないまま、沙奈はいきなりベッドに押し倒された。そこへ律哉が上から覆いかぶさってきて、いよいよ心臓が壊れんばかりに騒ぎ始める。
沙奈の首筋に顔をうずめた律哉の、興奮したような吐息が掛かった。ニットの裾からあたたかな手が忍び込んでくる。スカートにたくし込んであるキャミソールが引っ張り出され、ざらついた指が素肌に触れた。
「ひ……」
ぞくりと腰が震え、無意識のうちに全身を固くする。下腹部に何か硬いものが当たっている。これはまさか、彼の漲った男性の象徴なのでは……?
「ちょ、お願い、待って!」
相手が怪我人なのを忘れて、律哉の二の腕をバンバンと叩く。彼は不満げに唇を歪めてむくりと顔を上げた。
「ムードゼロかよ」
「だって、私どうしたらいいかわからなくて」
律哉の喉仏が上下する。
「まさか……はじめてなのか?」
こくりと頷く。
「もしかして、キスしたことも?」
「この前あなたにされたのが初めてで……」
すると、律哉の顔が奇妙に歪んだ。今にも笑い出しそうなのに、泣きそうにも見える複雑な表情だ。ついには顔を伏せてしまう。
「私、男の人と付き合ったことがなくて。やっぱり変ですかね」
ごまかし半分に、へへっと不器用に笑ってみせた。
おそらくは経験豊富な彼に、処女であることを知られるのがちょっと恥ずかしい。年頃を迎えたあたりから、律哉以外にこういったことをする相手はいないと思って生きてきたのだ。
「おかしくない……」
「え?」
「何もおかしくなんかない」
「んぁっ」
低く呟いた律哉にいきなりきつく抱きしめられ、変な声が出てしまう。
「あんまり力を入れたら傷にさわるから……!」
「薬をのんだから大丈夫だ」
沙奈の髪に口をつけているのか、彼の声はくぐもって聞こえる。
「そんなに早く効くわけないでしょう」
「もう黙ってろよ」
不満を述べた直後、律哉は沙奈の唇を素早く捕らえた。
強く押しつけられた唇が、激しく沙奈の唇の上を這いまわる。息が荒い。突然のことに驚いて逃れようとするも、顔を両手でしっかりと押さえつけられており、なすすべもない。
「ん……っ……う」
獰猛なまでの荒々しさに、すぐに息も絶え絶えになった。すっかり戦意を失った頃にようやく頬から手が離れたものの、今度は両手を頭の上でシーツに縫い留められてしまう。
彼の動きは、とても大怪我している人のそれとは思えなかった。いくら痛み止めをのんだとはいえ、昨晩は意識すら怪しかったのだ。こんなにすぐに動けるようになるなんて、ちょっと信じられない。
はじめは激しかった口づけは、すぐに優しく、艶めかしいものに変わった。互いの唾液でしっとりと濡れた唇がそっとついばまれる。唇でなぞられる。まるで、大切な宝物でも扱うかのように。
(私、興奮してる)
甘ったるい口づけに翻弄されながらも、鼓動が耳の奥でドキン、ドキンと騒いでいるのがわかった。太腿に硬くなったものがぐいぐいと押しつけられている。自分の脚のあいだも、熱が籠っているように感じるのは気のせいではないのだろう。
沙奈は律哉のうなじに手を回した。そして、唇の内側の粘膜を撫でる舌を、自ら唇を開いて迎え入れる。
肉厚の彼の舌が獰猛に口内をまさぐった。淫らな音を立てながら、逃げる舌を追い、吸い立て、舌で舌を愛撫する。
長い口づけから解放された時、沙奈は喘いでいた。律哉も同じだ。荒い息遣いを隠そうともせず、熱の籠った瞳で沙奈をじっと見つめる。
「お前が狙われていると前に言ったこと、覚えてるか?」
唐突な質問だ。戸惑いつつもこくりと頷く。
「もしかして、また誰かが私を誘拐でもしようとしてるんですか?」
「いや……おそらく狙いは金だろうが、命の危険がないわけじゃない。でも安心しろ。お前のことは俺が全力で守る。いつも、どんな奴からも。だから――」
沙奈の額に、彼の額がコツンとくっつけられた。
「今だけでいい。この時間を俺にくれ」
(りっくん……!)
沙奈は大きく目を見開き、律哉の燃えるような双眸を見つめた。
熱の籠った眼差し。真摯な言葉。声のトーン。日もとっくに落ちた室内は薄暗いものの、彼が思い詰めた表情をしているのがわかる。
沙奈は律哉の目を見てしっかりと頷いた。するとその直後、熱い唇に自身の唇が捕らえられ、息をのむ。
強く押しつけられた唇が沙奈の唇を舐り、優しく吸い立てた。首をくねらせ、何度も角度を変えながら、先ほどより淫らに、情熱的に。
閉じた歯列を突き破った舌が、するりと口内に滑り込んでくる。
荒々しい吐息とともに唾液が流れ込む。おずおずと差し出した舌はすぐに絡め取られ、しごかれ、痛いほど吸い上げられて……
熱に浮かされたような彼のキスは、うまいとは言えないのかもしれない。それでも、夢中に求めてくる不器用さがかえって嬉しい。
沙奈の唇をひとしきり味わったあと、律哉の唇が頬を滑った。それから首筋、喉へと這い、耳の下に潜り込む。沙奈は、ひゃ、と小さく悲鳴を上げて首をすくめた。
「くすぐったい」
「感じやすいのか」
「わからな……あんっ」
律哉がくすくすと笑いながら、執拗に唇を首筋に這わす。翻弄されているうちに、いつの間にかブラジャーのホックが外された。バストが自由になった安堵感もつかの間、すぐにブラジャーがニットとともに首から引き抜かれる。
続いてスカート、ストッキングまで脱がされ、あっという間にサイドが紐になったショーツ一枚になった。
沙奈は頬を熱くして両手で身体を隠した。恥ずかしくて彼の顔なんてとても見られない。こんな姿、母親みたいな存在である幸代にも見せたことがないのに。
「きれいだ」
その声におずおずと視線を上げると、上から覆いかぶさるようにした律哉が、眩しそうに目を細めて見下ろしている。彼の熱い眼差しは、たわわな乳房に注がれ、腹部をかすめ、ショーツへと向かう。それから、また乳房に上がり、最後に沙奈の目を捉えた。
「ほ、本当に?」
熱の籠った切れ長の双眸に問いかける。
「ああ。……すごくきれいだよ」
かすれ声とともに腰をするりと撫でられ、沙奈は唇を噛んだ。年頃を迎えてからというもの、この大きな胸のせいで嫌な目に遭うこともあった。でも、彼がそう言ってくれるなら好きになれる。
律哉はジャージの上を脱いでベッドの下に放り投げ、続いて下半身に穿いているものにも手を掛けた。
「きゃっ」
沙奈は咄嗟に両手で顔を覆った。勢いよくまろび出た彼の昂ぶりが、窓から差し込む共用廊下の明かりに、硬くそそり立っているのが見えたからだ。
(あれが私の中に入るっていうの? 嘘でしょ?)
ちらりと目にした律哉のものは――いや、初めて見る男性のそれは、やけに禍々しい形をしていた。それに想像していたよりもずっと大きい。
恐るおそる指のあいだから覗き見れば、彼が呻きながらショーツとトレパンを下ろしているところだ。痛むのだろうか。肝心なところは彼の頭の陰になっていて見えない。
怖気づくあまり、律哉が覆いかぶさってきた時は小さく悲鳴を上げてしまった。彼はTシャツを着たままだ。一糸まとわぬ太腿にあたたかなものが触れた途端、びくりとしてしまう。
「んっ」
小鳥のさえずりみたいな口づけが首筋に落ちた。ウエストのくびれを撫でられたら、くすぐったくてじっとしていられない。その手が腹部を優しく滑り、また腰を撫で、じわじわとバストに向かう。
沙奈の乳房は大きな手のひらで優しく押し包まれた。ふやふやと散々揉みしだかれた挙句に、きゅ、と頂を摘ままれる。
「はァん……ッ」
甘く痺れるような感覚が素肌を駆け抜けた。おかしな声が出たことにびっくりして、手の甲を口に宛がう。律哉は胸の谷間に顔をうずめ、その両脇で乳房を揉みしだき、繰り返し頂を弄んでいる。
脚のあいだがむずむずして、身体の奥から何かが溢れてくるような感じがした。胸の先端を弄られるたび、身体のあちこちがびくりと跳ねてしまう。
「や……だめ、そこ……変な感じ」
「気持ちいいんじゃないのか?」
「よく……わかんない」
「じゃあここは?」
乳房を包んでいた一方の手が離れて、ショーツの中に滑り込む。
「ああんっ」
誰にも触れられたことのない場所がそっと撫でられた途端、雷にでも打たれたかのような衝撃が走った。じんじんと焼けつくような強い刺激。身体がびくびくと震えてしまい、律哉の腕を掴む。
「ひゃ、あっ、だめ」
「すげぇ濡れてる」
「そんなとこ、いじっちゃだめぇ」
「だめじゃないだろ?」
小さな子を嗜めるように言って、彼は執拗に沙奈の秘所を苛む。不埒な手を引きはがそうと必死になるが、大人になった律哉の腕は太く逞しく、沙奈の力ではびくともしない。
自分からは見えないところで、彼の指が執拗にうごめいた。上から下へ。下から上へ。ぬかるんだ谷間を撫でる指が敏感になった花芽に触れるたび、びくん、びくんと脚が跳ねる。
「んあっ……おかしくなっちゃう」
沙奈は彼の腕を掴み、いやいやをした。
「こういう時はおかしくなっていいんだ」
「無理……怖いもん」
「怖くなんかない。俺がいるだろう?」
吐息まじりの声で、律哉が気遣うような上目遣いで囁く。
その無防備な表情に沙奈の胸はキュッとなった。今の彼は幼い頃の律哉と同じ顔だ。面倒見がよくて、いつだって優しくて頼りになる、ちょっと年上のお兄さん。
何度か尋ねようとしては失敗していたけれど、彼ははじめから幼なじみの沙奈だとわかっていたに違いない。ふたりだけの時にだけ見せる彼の優しさから、なんとなくそう感じる。
おずおずと頷くと、彼はすぐさま沙奈の胸の頂を口に含んだ。
「ん、んっ……」
そのなんともいえない奇妙な感覚が、ほんの数秒後には心地いい感覚に変わる。
下腹部では、潤んだ蜜口を撫で回すスピードが徐々に増していた。くちくちという淫らな音。芯を持った花芽が円を描くように優しく苛まれ、身体の奥から得も言われぬ快感が湧き起こる。
「あ……はぁン……ん……っ」
気がつけば、甘い喘ぎが滔々と零れていた。律哉と一緒に気持ちよくなりたいという思いが、羞恥心を遥かにしのぐ。
「気持ちいい?」
律哉が尋ねてくる。こくこくと頷いて目を開ければ、視界に飛び込んできた彼の表情にどきんと胸が鳴る。
普段は鷹のように鋭い目がすっかりとろけ、成熟した男の色気を芬々と放っていた。唇は微笑むように緩められ、声は真綿みたいに優しい。
「今、もっと気持ちよくするから」
彼はそう言うなり足元へ這っていき、いきなり沙奈の膝を両手で割った。脚を閉じる間もなく律哉が沙奈の下腹部に顔を近づける。ショーツのクロッチがずらされ、ちろ、と何かが秘所に触れた。
「ひゃあんっ……!」
瞬間、強烈な官能の刺激に襲われ、全身がぶるぶる震えた。何が起きているのかさっぱりわからない。とにかく律哉をそこから引っぺがそうとするが、まったく力が入らないのだ。
そこではじめて脚のあいだを見下ろして驚愕した。恐ろしいことに、律哉は指でずらしたクロッチの中に舌を伸ばしている。
「きゃあ! ちょっ、何してるの!?」
「何って、舐めてるんだよ」
喋りながらも、ちろちろと舌先でくすぐる。
「ふわっ……だっ、だめ、汚いから……!」
「汚くなんかない」
「昨日だってシャワー浴びてないのに……!」
律哉が顔を上げ、唇と秘所のあいだに透明な橋が架かった。
「それは俺も同じだ。むしろありがたいと思ってたんだけど」
「は?」
男性経験がない沙奈には、その感覚はまったくわからない。経験があったとしてもわかるかどうかは微妙だ。
「いい匂いだ」
「も……やだぁ」