「俺を煽るのが上手いんだな。もう……次は手加減しない」
老舗百貨店の令嬢・真由は、思い出溢れる洋館と家族を守るために、大財閥の御曹司・航聖との政略結婚を承諾する。真由を懐かしげに見つめ溺愛する航聖に戸惑う一方で、花火見物の夜、彼の元カノに会い嫉妬してしまう。航聖は、そんな真由の誤解を甘いキスで蕩かし「本物の奥さんにしたい」と囁き、激しく熱い悦楽を初心な身体に刻み付けて……。
ふわふわと身体が浮く感覚に意識が覚醒する。
――あれ? 私……。
そっと柔らかなマットに身体を横たえられた感触で急に我に返った。
「起きたのか」
目を開けると、目の前に航聖の端整な顔があった。どうやら彼を待つ間にうたた寝してしまい、ベッドまで運んで貰ったらしい。
「あの私、寝ちゃって……」
「ずっと忙しかったからな。疲れてるんだろう」
真由の頭にはまだバスタオルが巻かれたままだ。
起き上がってバスタオルと解くとはらりと落ちる濡れ髪が顔に掛かり、手ぐしでいい加減に整える。
するとドライヤーを持った航聖が、真由の傍らに腰を掛けた。
「ちゃんと乾かして。じゃないと風邪をひく」
言いながらドライヤーの温風を当てて、航聖が真由の髪を乾かしてくれる。
何と、これはいったいどういう状況だろうか。
「あ、あの……じ、自分で……」
「いいから、じっとしてて。髪が細いからすぐに乾くんだな」
「す、すみません……」
温風と共に髪をくしゃくしゃと撫でる航聖の長い指が、力を加減しているのが分かる。
強くなりすぎないように、真由が痛くないように。
そう気遣う航聖の優しさを肌で感じ、真由はたまらなくなる。
――何か泣きそう。どうして……。
真由に対する航聖の優しさは、実家の家族の優しさに似ている。
気づかれないように、負担にならないように、それでいてその人のためなら自分はどうなっても構わない。
だから真由もみんなを大切にするし、真由だってみんなの幸せのためになら、どんなことも厭(いと)わない。
真由にとって近しい人だけに感じる特別な何かを、何故だか航聖には同じように感じるのだ。それはあの朝、薔薇が咲き乱れる庭園で出会った時から、ずっと続いている不思議な感覚だった。
航聖はふんわりと乾いた真由の髪を長い指で梳(す)き、片側へ流して整える。そして最後に、露になった胸元に光るネックレスを、そっと指先で撫でた。
「眠る時にも着けてるの?」
「だって、お守りだから。嬉しい時も悲しい時もいつも……」
自分のことを彼にもっと分かって貰いたい。そう思って顔を上げる真由に、彼の唇がそっと降りてくるのが見えた。
ルームライトだけが灯された薔薇のベッドに押し倒され、真由を組み敷いた航聖の唇がそっと真由のそれに重ねられた。
啄(ついば)むように、唇の表面をなぞるキス。
まるで赤ちゃんをあやすようなキスを繰り返しながら、航聖の手が真由の頬から首筋、肩先を優しく撫で、解きほぐしていく。
「キス、初めてだった?」
わずかに唇を離した合い間にそう囁かれ、真由は微かに頷く。
すると航聖の形のいい唇が、弧を引くように引き上げられた。
「それじゃ、もっと気持ちいいキスをしよう」
航聖は薄く笑いながら、親指でゆるゆると真由の唇を撫でる。繰り返すキスで敏感になった真由の唇がその刺激でうっすらと開いてしまうと、わずかな隙を狙って抜け目ない舌が真由の内側に滑り込んだ。
反射的に逃れようとしてみても、真由の舌は簡単に捉えられて無残に貪られる。柔らかな粘膜がこすれ合い、濡れた音が耳に響いた。
互いの舌を絡め合う淫らなキスは、とても気持ちがいい。
「んっ……ふぁ……」
我慢できずに甘い息が漏れ、そんな自分の声がたまらなく恥ずかしい。
淫らに乱れていく自分に耐えられなくなり、真由は思わず航聖から離れようと首を振ったが、逆に航聖の大きな両手で頬を包み込まれてしまった。
逃げようとした罰でも与えるように、さらにぐっと押しつけられた航聖の舌が真由の腔内の奥まで差し込まれ、深く濃く味わうように舌を吸い上げられる。
「ふっ……んっ……」
得心するまで味わい尽くし、やがてちゅ、と音をさせて唇から離れた航聖の唇は、今度は真由の頬から首筋にかけてゆっくり移動を始めた。
いつの間にか夜着の胸元がはだけ、下着を着けていない肌が晒されている。
ハッとなって思わず手で隠したが、それも航聖の手によって強引に外されてしまった。
「可愛い胸だね。ちゃんと感じてる」
「えっ……」
「ちゃんと、固くなってる」
「そんな……あっ……」
真由が抗議の言葉を口にしようとした瞬間、真由の胸の尖りが彼の口に含まれる。
ぬるりとした生温かな感触に、我慢できずにまた甘い声が漏れてしまう。
仔猫のようにか弱く高いそれはまるで航聖を誘っているようで、真由が細い声をあげればあげるほど、彼の舌の動きが激しさを増した。
「やぁっ……んっ……」
「これが好き? それじゃ、もっとだ」
航聖は上目遣いで真由を見上げると、目を伏せてまた先端に顔を寄せる。
舌や唇で胸の尖りを甘く攻めながら、もう片方は指で摘んだり押し潰したりと巧みに真由を高めていく。
経験したことのない強い快感が肌を粟立たせ、身体の芯からとろりとした甘い蜜が溢れて真由はたまらない気分で両方の膝を擦り合わせた。
すると、すっと肌を滑り降りた長い指が、真由のレースのショーツを引っかけて器用に脱がせてしまう。
そして航聖は胸への刺激を止めぬまま、真由の足を自分の足に絡めて拘束した。
「可愛いね。声、もっと聞かせて」
航聖の唇が肌を吸いながらわき腹、お臍(へそ)、そしてさらに下へと移動する。
丹念に味わうように航聖はゆっくり時間をかけて足の間へとたどり着くと、真由の足を割って折りたたみ、両手で腿を掴んでぐっと押し上げた。
真由の秘めた部分が、航聖の顔の前にむき出しになる。
自分自身すら知らない部分を暴かれ、激しい羞恥が真由を襲った。
「やっ……待っ……」
真由の小さな悲鳴を無視し、航聖はその部分に顔を埋めた。小さな突起を柔らかな舌で舐め上げ、唇でちゅっと吸い上げる。
「やぁっ……」
こんなことをするなんて信じられない。真由は彼の蛮行にバタバタと手足を動かそうとしたが、男の強い力で押さえつけられてはどうすることもできない。
それに、初めて与えられる敏感な部分への刺激が全身に震えるような快感をもたらし、真由のささやかな抗議の気持ちは一瞬で吹き飛ばされてしまう。
心臓は早鐘のように鼓動を刻み、喉の奥からはひっきりなしに甘い声が漏れる。
もうこのまま死んでしまうのではと、真由は本気で思った。
「や、やめ……」
いくら懇願しても、航聖は止めてはくれない。
それどころかさらに激しく、快感の源となる芯を唇に含み、淫らな水音を立てて味わっている。
朦朧(もうろう)とする意識の中、うっすらと目を開けて足元に視線を向けると、自分の足の間に顔を埋める航聖の黒髪が目に入った。
その淫靡な光景が、さらに羞恥と快感を煽(あお)る。
「やぁっ……」
「嫌? こんなに濡らしてるのに? 真由の身体はとても素直だ。こんなに感じて……僕の奥さんは本当に可愛いね」
航聖は顔を上げると、真由の蜜で濡れた唇を手の甲で拭った。
神秘的な黒い瞳は危うい欲情に濡れ、本当に欲しいものはこんなものではないのだと言わんばかりに、挑発的に煌めいている。
初めて見る紳士的な夫の、男の顔。
普段の彼からは想像もできないほどに、魅惑的で美しい。
「真由、今日は最後まではしない。それに、君が嫌がることや痛いこともしない。だから僕を信じて」
航聖はそう告げると、さっきまで唇で触れていた部分の下にある亀裂に、そっと指を這わせた。
「あっ、やっ……」
反射的に腰を引くと、隣に横たわった航聖に腕枕をされ、身体全体で抱え込まれてしまった。
逃げ道を封じ込まれ、身体の中に入ってくる異物の感覚に真由は細い悲鳴を上げる。
誰の侵入も許したことのない、真由でさえ触れたことのない狭い隘路(あいろ)に、航聖の節だった長い指がじわじわと押し入ってくる。
「やっ……ぁ、あっ、やぁ……っ」
身体の内側から内臓を押し上げられるような感覚に、真由は無意識に身体を強張らせた。
航聖は慎重に指を真由の中に差し入れながら、胸の先端に舌を巻きつかせる。
硬くなった舌先で扱(しご)くように胸の尖りを刺激されると、新たに生まれる快感がジワリと身体の芯から広がっていく。
「狭いな。やっぱり、もっとたっぷり慣らさないとダメだね」
航聖は愛おしげにそう言うと、もう何度目か分からない口づけを落とした。柔らかで熱い舌が真由のそれに絡まり、強く拘束してはすすり上げ、粘膜を犯していく。
――気持ちがいい。
柔らかな舌を絡め合うキスは気持ちがいい。それに、キスをしている間もずっと真由の中を行き来している航聖の指は、いつの間にか細い繋ぎ目の中で淫らな水音をさせている。
さっきは異物を受け入れずに押し返すばかりだった真由の中は、いつの間にか指の与える刺激に応えるよう、しっとりと蜜を垂らしている。
航聖は指の抽送(ちゅうそう)を続けながら、ちゅっと湿った音をさせて真由から唇を離した。
「中も……濡れてきたね。ほら、こんなに」
航聖はようやく動きを止めた指をゆっくり引き抜くと、真由の目の前に晒して見せる。
暖色のルームライトが照らす彼の指は、淫らに濡れてぬらぬらと光っていた。
恥ずかしさのあまり思わず目を逸らすと、航聖は薄く笑いながら真由の火照った額に唇を落とす。
「可愛いね、真由は」
そう言って航聖は、また優しくキスを落とす。けれど次の瞬間には、真由の中にまた航聖の指が埋め込まれた。
さっきより質量が増したそれは、航聖の中指と人差し指だ。二本の指は真由の中を探るように動き、彼女のわずかな反応で弱い部分を探し当てていく。
感じていたはずの痛みがえも言われぬ快感に移り変わり、真由の口から漏れていた苦しげな声は、いつの間にか甘く濡れた嬌声へ変化していく。
「あ、んっ、あっ、あ、あっ」
硬く張りつめた胸の先端を唇と舌で弄(いじ)られながら、航聖の指が真由を追い立てていく。まだ成熟していない敏感な部分を、じわじわと擦り上げられていく。
「あっ、んっ、あっ、んんっ、あンっ、やぁっ……」
経験したことのない快感に翻弄されながら、真由は喉の奥からひっきりなしに甘い声を上げていた。
普段の自分からは想像もできない、淫らな女の声だ。
――嫌、こんな声、恥ずかしい……。
真由は目に涙を溜めながら、手の甲で唇を押さえて声を押し殺した。
けれど航聖はそれすら官能の合図と受け取ったのか、ますます指の動きを激しくさせる。
くちゅくちゅと淫らな水音が寝室に響き、足の付け根から蜜が滴(したた)り落ち、シーツを濡らしているのが分かった。
痺れるような快感が中から広がり、自然に背中が反り返る。得体の知れない何かが自分を覆い尽くし、どこか知らない場所へ連れ去られてしまうような恐怖が真由を襲う。
耐えきれず、真由は必死に手を伸ばし航聖に縋りついた。
「イヤ……もっ、いやぁ……」
泣きながら彼に抱きつき、いやいやをするように彼の胸に顔を擦りつける。何も考えられない。まるで自分の身体が、自分のものではないようにすら思える。
真由の涙に気づき、航聖の手が止まった。そして真由を腕枕で抱き寄せると、長い腕でぎゅっと抱きしめる。